主人公陥落大作戦〜in浦島~
はちゃめちゃな世界観ですが、サクッと読める短編なので、個性豊かな悪役たちが織り成す奇想天外なストーリーを、気楽に楽しんで頂けると幸いです!
小説、エッセイ、神話、文献資料、そして童話。
数千冊もの様々な本が立ち並ぶとある図書館
そこでは夜な夜な、童話の悪役たちが物語から飛び出し、会議を開く。
その内容とは題して
『〜主人公陥落大作戦〜』
今宵も人気が消え、静寂と暗闇に溶けた図書館に、一灯の明かりが灯り出す。
「浦島竜宮とかまじパネェ」
「それな~」
「な~」
今時ギャルの口調で偉そうにふんぞり返るマセガキ達は、浦島太郎悪役代表『亀にいたずらした奴ら』である。
亀を助けて竜宮城へと旅立った浦島太郎を見事に逆恨みのお手本のように恨み、更に現代でグレるという典型的なバカ3人組だ。
いじめっ子らしく3人とも木の棒を持ち、
リーダー格の一郎、デブの二郎、やせ細った三郎 と、どこにでもよくいるthe スリーマンセル。
おまけに三人揃っていい感じの性根の腐った目つきをしている。
最初は結構いきがるが、最終的には
「お前ら覚えてろよ!」 とか言って逃げていきそうな顔である。
彼らは 三バカトリオ、略して三バカとひとまとめに呼ばれることが多い。 と言うかそれしかない。
「はいそこの三バカ私語は慎むように」
三バカに図太い金棒を向け、テキパキとつっこむ赤い怪物。
それはもちろんこの人。いや、この鬼。
桃太郎悪役代表『赤鬼』である
その頑強な肉体、そして図太い金棒から【悪役界のレジェンド】と騒がれ、更には<鬼に金棒>といった無敵を表すことわざが作られているにも関わらず、桃太郎とそのお供に簡単にやられるという大失態を犯し、表舞台から姿を消した過去の英雄だ。
毒を吐く痛烈なツッコミは健在である
周りからはオニさんと呼ばれ、どうやらこの会議では司会進行役を担当しているようだ。
「おいがめじい、寝てんじゃねぇ。それともついに天に召されたか?」
赤鬼が次にツッコミをいれたのは、先ほどから俯いたまま黙りこくるじいさんだ。確かに歳からしてそのままご臨終していてもおかしくはないだろう。
この爺さんは、花咲かじいさん悪役代表『意地悪爺さん』である。
この爺さんは、悪役界の意地悪の金字塔を打ち立てた人物としても知られ、がめつさで彼の右に出る者はいない。
そのがめつさのあまり犬を殺したことから、最も嫌われる悪役としても名高い。
周りからはがめつい爺さん、がめじいと呼ばれ、その名の通り金のことしか頭にない。
「ん?金か?」
「ちげぇよくたばれじじい」
……こんな具合に。
「ウガッ」
その隣でクマがフリップを掲げている。
──我輩は魚が欲しい
「知らねぇよ、てかお前一人称我輩なのかよ気持ちわりぃな」
すかさず赤鬼がつっこんだそのクマは、そう──
金太郎悪役代表『クマ』である。
……と言うかこいつは悪役なのだろうか。
いや、唯一主人公との和解に成功したという点では、仲直り、仲介のスペシャリスト、正に悪役界の坂本龍馬と言えよう。
かくして今会議のメンバーが出揃った。本日の議題はこの悪役達で話し合われるようだ。
「それでは会議を始める。本日の議題は──」
赤鬼は一息ついて仕切り直し、金棒で三バカを差してその先を促した。
「パネェ浦島より先に亀助けて~俺らがテンアゲで竜宮いっちゃう作戦っつーか~」
「それな〜」
「な~」
癖の強い口調だが大体やりたいことはわかる。
するとがめじいが何やら指で輪っかを作って言う
「金で浦島を買収、なんてどうじゃ?」
「天に召されろくそじじい」
即効却下。
続いてクマがフリップを掲げた。
「ウガッ」
──魚でつる
「お前じゃねぇんだよ」
秒で却下。
赤鬼が深く溜息をつき、金棒を肩へ担いだ。
「いいか三バカ、物語上亀に関わるのはお前らが先だ。このチャンスを生かせ」
「で〜どうすんだよ~」
「それな〜」
「な~」
チャラつく三バカに金棒を突きつけ、不敵な笑みを浮かべた赤鬼が言い放つ。
「俺に、策がある」
かくして作戦が固まった赤鬼達は、浦島太郎の物語内へと飛び込んでいった。
ザァ~
太陽の元で煌びやかにぎらつく砂浜に、ささやかな波が打ち付ける。
ここは正に、浦島太郎と三バカの因縁の場所である。
海辺には、その争いの火種となる亀が既に姿は現していた。
赤鬼達は近くの岩陰へと隠れ、その亀の様子を伺っている。
「いいか、さっき話した手筈通り行くぞ」
赤鬼が金棒を担いで指揮を執る。作戦とはこうだ
まず、赤鬼とクマが亀をこっぴどくいじめ倒す。そこへ三バカが偶然を装いやって来て、亀を助ける。がめじいは周りを見張り、もし途中で浦島が来たら足止め。
こうして浦島に関与させることなくケリをつける作戦なのだ。
「なんじゃ、ドヤ顔決め込んだ割には普通じゃな」
「うるせぇくそじじいしばくぞ」
なんだかんだで、作戦スタートッ
初めに飛び出したのは、特攻隊長の赤鬼とクマ
「おうこらカメ公」
「うがうがッ」
──おうコラ
その声に亀が気づく。
しかし何を間違ったのか、昭和のヤンキースタイルでがに股になり、どこから持ってきたのかサングラスをかけて亀に絡まうとする赤鬼とクマ
…………胡散臭すぎる。
そのカオスすぎる状況に、亀はびびるを通り過ぎて困惑している。
……まあ百歩譲って新手のいじめっ子だとして良しとしよう。
続いては三バカが偶然を装ってやってくる。
「亀いじめパネェ、超だせぇし」
「それな~」
「な~」
ここまでは良かったのだが、
ここからよりリアリティを追求しようとしたのか、赤鬼とクマが要らんアドリブをぶっ込んだ。
「おう何やこらくそがき」
「うががっ」
──くそがきコラ
何故か執拗に絡む。
ただでさえ鬼とクマというかなりやばい見た目であるのに、完全に亀を置き去りにして物凄い剣幕で三バカに絡むその光景は、どこからどう見ても恐喝にしか見えない。
「なにあれちょっとやばくない?」
「新手の人攫いかしら」
通り行く人々のひそひそ話により、赤鬼とクマは亀を置き去りにしていたことに気づく。
そして三バカと小声で打ち合わせを始めた。
「お前ら迫力まじパネェし」
「それな~」
「な〜」
「仕方ねぇだろ、加減とかわかんねぇし」
「ウガッ」
──魚食いたい
「……そういや、がめじいどこいった」
言われてみれば、さっきから浦島の足止め役であるがめじいの姿が見えない
するとその赤鬼達の前から声が聞こえた。
「こらこら君たち、亀をいじめてはいかんではないか」
がめじいである。赤鬼達はぽかんと、当たり前のように作戦をぶち壊すその姿を見つめる。
何やってんだこのクソジジイ
と言った目つきで。
「全く最近の若い輩は」
わざとらしくそう呟きながら、何事もないかのように亀の元へと歩み寄る。
「ほれ、亀。はよ竜宮城へ連れていくんじゃ」
亀は目の前で繰り広げられている茶番劇に、ただただ困惑している。
赤鬼達はようやくはっと我に帰り、亀の元へと駆け寄った。
「じじいてめぇ抜け駆けしようったってそうは行かねぇぞ!竜宮城へは俺が行く!」
「何を言っとるんじゃ、年功序列という言葉を知らんのか」
「うるせぇ既に玉手箱開けたような顔しやがって!」
「ウガッ」
──我輩に魚をくれ!
「お前らまじパネェ、どう考えたって俺らっしょ」
「それな〜」
「な〜」
亀を取り囲んでいがみ合う悪役たちの元へ、声がかけられる。
「何をやってるんだ君たち」
その声の方向へ、悪役たちが一斉に振り返った。
その瞬間、悪役たちの心の声が揃う
──やっちまったぁあああああああああ
それは最も危惧していた人物、そう、浦島太郎の登場である
「やめないか、亀が可哀想だろう」
悪役たちがただ呆然と立ち尽くしていると、亀がその渦中から抜け出し、浦島太郎の元へと歩み寄った
「助けて頂きありがとうございます。お詫びに竜宮城へご案内しましょう。さあ私の背中へ乗って下さい」
このくそ亀俺らのことは散々むしりやがったくせに、浦島ん時はめちゃくちゃ展開早ぇじゃねぇかぁあああああああ
赤鬼は心の中で叫ぶ。
するとその時、遠くからサイレンの音が響き、こちらへ徐々に近づいてくる。
ウーーーーーー
そして浜辺の前でその音の発信源が止まり、そこから降りてきた者達がこちらへ向かってくる。
「はい、ちょっと署まで来てもらおうか」
そういうなり、ガチャリッ
赤鬼とクマが手錠をかけられ、連行される。
浦島は亀の背中へ乗っかり、竜宮城へと向かっていった。
正に天国(竜宮城)と地獄(警察署)へと向かっていく者達を、がめじいと三バカは白目で見つめている。
「……もう帰るっしょ」
「それな」
「な」
「そうじゃな」
悪役たちの『主人公陥落大作戦』は、まだまだ続く