春の日
アールノア伯爵家の一人娘、ユリシアは父であるロヴランに呼ばれ彼の私室に来ていた。
何か用があって呼んだはずのお父様が中々口を開こうとしない。
「お父様、私に何か用があったのでは?」
「うむ…そうなのだが」
煮えきらない態度だ。いつもは当主らしく堂
々としてらっしゃるのにどうしたのだろう?
「私に話し辛いことなのですか?」
「いや、黙っていても仕方がない事だ、落ち着いて聞いて欲しい」
「はあ」
他の家と比べた事はないが、私とお父様は家族仲がいい方で、その日あった些細な出来事や友人の話などよく会話はするほうだ。
だからこうして改まって話すということは中々に重要な話なのだろう。
そう思いながらもさして緊張もしていなかったが、お父様の発言に、感情をあまり表に出ないと言われる私も流石に驚きを隠せなかった。
「ユリシア、お前も今年で15歳になる、もう結婚をしてもいい歳だ」
「え?」
「相手はもう決めてある、デュークリス公爵家の一人息子であるマルセル殿だ」
結婚。ケッコン。私が?マルセル様と?
「マルセル殿はとても優秀だ。彼と結婚すれば何も心配事無く生活を送れるだろう」
マルセル・デュークリス様。この大国アルドラにおいてその名を知らない者はいないだろう。
国一番の力を持つと言われているデュークリス家次期当主で、幼い頃から優秀さを周りに知らしめ、容姿に関しても賞賛する声が絶えない。
というか何故私とマルセル様が婚約する事になったのだろう?私はマルセル様と会話どころか会った事すら無かったはずだ。
私は社交界が得意ではなく、参加しない事も多かったし、マルセル様もそうした集まりが苦手なのか殆ど出席する事がなく、たとえ参加しても顔を見せるだけですぐに下がってしまうのだと聞いている。
そんな事を考えていると私の考えを読んだかの様にお父様は説明を始めた。
「私とロベール...いやデュークリス公爵は爵位こそ違えどつき合いの長い友人でな、マルセル殿の婚約者探しが上手くいっていないと愚痴を零していたから冗談で私の娘はどうだと聞いてみたらあいつは思ったより乗り気でな、そこから驚くほど早く婚約が決まったのだ」
そう語るお父様はどこか誇らしげだ。
それにしても冗談とは、この方は一人娘を何だと思っているのか、確かにマルセル様は婚約者として最高の相手なのでしょうが。
「どうしたユリシア、マルセル殿に何か不満でもあるのか?」
「いえ、その様な事はありません」
別に不満はない。今迄誰かを好きになった事などないし、恋愛結婚を夢見ていた訳でもない。人によっては生まれたときから婚約者が決まっている事もあるし、ふた回り近く歳の離れた方と結婚する人だっている。
そう考えれば確か今年18歳になる筈のマルセル様は歳も近いし噂を聞く限り結婚して損のある方ではないのでしょう。
そうどこか他人事のように冷めた頭で考える。
「では近々顔合わせの場を設けることにする」
「分かりました」
事務的に返事をし、一礼してお父様の私室を出る。
自分の部屋へ戻る足取りはどこかいつもより重たい気がした。
小説を書くのは初めてなので読みにくいところがあるかと思いますが、よろしくお願いします。