1 召喚 - 2
「アナタ様が勇者様だったんですね!」
鑑定具の上に観月ちゃんが手を乗せると空中にゲーム画面の簡易ステータスみたいなものが現れて神官長さんがキラキラした目をして観月ちゃんの手を握ろうとしたけれど素気無く振り払われてる。神官長さんちょっとしょんぼりしてるよ観月ちゃん。
【名前】ミツキ・クラハシ
【レベル】1
【職業】勇者
【スキル】鑑定* 光属性魔法* 火属性魔法
横から覗いてみれば確かに勇者の文字。
すごいな、男の子2人もいるのに勇者は観月ちゃんなんだ。っていっても勇者が1人とは限らないか。
ていうかマークついてるのなんだろう?
「この鑑定と光魔法についてるマークはなんですか?」
「それは固有魔法ですね。
限られた人間にしか与えられないスキルになります。
特に光属性魔法は選ばれし勇者のみが使える魔法と言われておりますのでミツキ様のみに発言しているかと思われます。」
なるほどねぇー、観月ちゃんが勇者だから使える魔法なんだ。
鑑定とかは便利そうだから羨ましいね。神官長に聞いてうんうんと納得していると視線を感じて見てみると、観月ちゃんに見つめられていた。
「……桜この表示されてるの読めるの?」
……うん? ……そういえば知らない文字だけど読めるね。
「うん、読めるけど……もしかして、読めない?」
「あたしは読めない。太一と佑太郎は?」
2人も読めないらしく首を横に振っているのでどうやら私だけ読めるらしい。なんでだろう?
「えーっと……サクラ様? だけこちらの文字が読めるのですか?
異世界召喚はみなさん固有のスキルが絶対にありますから、文字を読む固有スキルがあるのかもしれませんね。」
「なるほどねぇ……で、これはなんて書いてあるの?」
どうやらみんなは読めないようなので自動的に翻訳係になっちゃったみたいで鑑定具の横が定位置になっちゃった。
スキルを教えてあげると火と光の魔法を使えることに喜んでたのでよかった。魔法ってやっぱり憧れるよね。
ふーんと言いながら興味があるのかないのか、鑑定具に手を伸ばす太一くん。眺めていると観月ちゃんと同じようにステータス表示がでる。
【名前】タイチ・モチヅキ
【レベル】1
【職業】魔術師
【スキル】鑑定* 空間魔法* 火属性魔法 水属性魔法 風属性魔法 地属性魔法 雷属性魔法 闇属性魔法 収納
「な、なんとっ! 属性が光以外全部ですかっ!?
空間魔法なんて本当に存在していたのですね……初めて見ました……。通常は多くても2種類~3種類なのですがこれはっ……」
どうやら太一くんは魔法使いらしいです。属性もいっぱいあってすごいらしい。観月ちゃんと比べてみると確かに多いよね。
空間魔法ってのは転移的な感じなのかな?
読んであげると皆驚いてたけど、観月ちゃんは魔法の数が多くてセコイって言ってた。魔法使いもかっこいいけど勇者様とかもカッコいいと思うよ。
「ほら、次は佑太郎ね。」
観月ちゃんにグイグイ押されて鑑定具の前まで行く佑太郎くん。
恐る恐るといった感じでソッと手を添えるとこれまたステータス画面が出てくる。
勇者、魔術師、ってきたし……次なんだろう……皆違うのかな? あとあるのだと騎士……とかかなぁ?
【名前】ユウタロウ・サトウ
【レベル】1
【職業】治癒術師
【スキル】鑑定* 治癒
あ、そうか、黒魔法ときたら白魔法があったよね。納得なっとk……
「ち、治癒術師っ!?」
「ふぇぃっ!?」
驚きのあまり思わず叫んじゃいましたと言わんばかりの神官長の様子にこちらも驚いて肩が跳ねる。
そんな私の様子を見て「ブハッ」とか笑ってるけどさ、太一くん。君さっきまでの無表情どこいったのさ、ホントに。
「ち、治癒術師なんてこの国には今いないのですよ! 他国にも1人いれば良い方で……!
な、なんというか……さすがというかなんというか……伝承通り素晴らしいのですね、異世界の勇者様たちは!」
なにやら大興奮の神官長によると、薬師が主流で治癒術師なんてものは滅多にいないらしい。
お隣の国にはいるらしいんだけど、それも国が囲っちゃってるからこの国の人たちは治癒術を見たことすらないらしい。薬師は勉強すればなろうと思えば誰でもなれるけど治癒魔法は才能がないとなれないからとても貴重な人材らしい。
分かってない様子の皆に読んであげると納得してた。
佑太郎くんは「太一先輩の前に見たかった……僕地味ですね……」って言ってたけど神官長は君の方がキラキラした目で見てたよ。あれは獲物を見つけた目だったよ。
そして神官長だけじゃなく生きた屍と化した周りの人たちまでこちらを期待した眼差しで見るのはやめていただきたい。
確かにね、この流れはそうなるよね。召喚されたのは4人いて、3人目まですごいもんね。
でもやめて、すごいプレッシャー!
例えばさ! 私が魔術師だったとしてさ! 属性が1つ欠けてるだけでもさ! 白けるよね!?
ウワアアア
嫌々とかおずおずとか、そんな感じの単語がしっくりくるであろう空気を身体に纏わせながら一歩進んで鑑定具の前にいく。
うん、翻訳係としてずっと近くにいたからね……一歩踏み出すだけで良い距離なんだよね……むしろ踏み出さなくても届くぐらいっ! うぅぅ、回れ右して帰りたい! 帰る場所ここにないけど!
目を瞑りながらそーっと手を乗せる。
誰かの息を呑む音が聞こえる、とかいって皆は読めないから神官長のだと思うけど。って、なに、そんなにすごかったの?
期待と不安の混ざった気持ちでそろっと目を開けるとそこには思いもよらない事が書いてあった。
【名前】サクラ・サエキ
【レベル】1
【職業】保育士
【スキル】鑑定* 亜空間
思わず項垂れて崩れ落ちても仕方ないことだと思います。
読むことが出来ないみんなの頭にはハテナがいっぱい浮かんでいたことだろう。
例え太一くんよりへぼい魔術師だったとしても……その方がよかったよ……。なんだ、保育士って……。
後になって太一くんに「本当に人ってああやって崩れ落ちるんだなって感心した。」って言われましたよ、えぇ。
オチ要員。
自分で書きながら、「保育士って……ぷふっ(笑)」って思いました。
自分が桜の立場だったらテンションだだ下がりです。
や、そもそも転生は憧れだけで終わらせたいですが……。
次回予告
「お前だけ仲間はずれなっ!」です。
※誰にもそんなこと言われないですよ?