3 異変
電子マネーを使って駅に入って電子版を見ればあと1分ほどでくるらしい。ちょうど良かったみたい。
休日の少し早めの時間だからか、それともたまにある間隔の短い電車なのか、ホームには人はあまりいなかった。
いつも使っているのと同じ、後ろから2両目に乗るために後ろの方までてくてくと移動する。
この最寄駅は前に近いところに改札があるから後ろの方は更に人が来ないので列すらなくポツンと1人で待つことになる。
立ち止まって数秒もしないうちにアナウンスがあり電車が来たので乗り込めば、後ろの方の車両だからか朝早いからか中には男の子が2人座っているだけだった。
1人は大学生くらいのだろうか。片耳に黒いシンプルなピアスをして、無造作ヘアーというやつだろうか……オシャレにセットされた少し長めの黒髪をした今時の男子って感じの私服の男の子。落ち着いた雰囲気のイケメンだ。
いくつか間隔をあけて座っているのは近くの男子校の制服である紺のブレザーに赤いネクタイをきっちりと着た少し幼い顔立ちをした、男の子だ。こっちは無造作ヘアーというか、ふわふわの無造作になっちゃってるヘアーという感じの栗色の髪の毛をしている。うん、きっとなっちゃったヘアーだと思う。
椅子に座りながら失礼にならない程度に観察をしていると電車が動きだしすぐに興味は流れる景色や広告に移っていく。
ガタンガタンと電車に揺られていると数分もせずに次の駅のアナウンスが眠くなるような男性の間延びした声で流れてくる。
最寄駅と次の駅間はあまり長くないので正直歩いていける距離にある。近いからか乗車金額も変わらないので歩く利点が全くないのでもちろんわざわざ歩くことはしないが。けど本当に、乗車金額が変わるならば次の駅から乗ってもいいかなと思えるくらいには近い。
扉が開いて乗ってきたのは赤縁メガネにメガネストラップのおしゃれチェーンをつけたアシンメトリーなショートヘアーの女の子。黒毛を所々赤メッシュに染めていたり、白いプリントTシャツに黒いカーディガンと黒いズボンを履いていて、全体的にバンドとか好きそうな感じのイメージだなぁと思った。
きっと普段からじろじろ見られてるんだろうなぁと思っちゃうくらいには目立つ子だ。
他に人は乗ってこないみたいで扉が静かにしまる。
次の駅までは少し遠いので隣の車両から誰かが来ない限りは5分くらいはこのメンバーのままだろう。
もちろん近くに座ったわけでもないし知り合いでもない。電車の中が静かだからと息がつまるとか沈黙が辛いとかいうわけじゃないから特に何かあるわけでもないのだけど。
各々本を読んだり、スマホ弄ってたりヘッドホンで音楽を聴いたりと好き勝手に時間を潰している。ちなみに私はなんとなくぼんやりと広告を眺めていた。
トンネルに入ったのか広告の下にある窓から見える景色が暗くなったのが視界に入る。
ってトンネル? あれ、さっきの駅からこの駅の間にトンネルなんてないよね?
んんん? 一駅いつの間にか通り越してたのかなぁ?
斜め前にある車内の電子板を見て確認しようとすれば真っ黒で何も表示がない。故障かと思って反対にある自分の席側を覗き込んでみても真っ黒。
不思議に思い少し離れた扉のものも見に行くとどちら側も真っ黒。
キョロキョロと挙動不審だったのか私の動きが気になったらしく先ほど乗ってきた女の子がこちらを不思議そうに見ていたのでへらっと笑って電子板を指差しながら話しかける。
「これ、消えちゃってるなぁと思ったんです。
あと外が暗いからいつの間にかトンネルのある所まで来てたんだなと思って。
そんなに電車に乗ってる気がしなかったのでアレ? って思っただけなんですけど、すいません挙動不審な動きしてましたよね。」
そう言うとつけていたままでもちゃんと聞こえていたようでヘッドホンを外しながらチラリと電子版を見る女の子。
「あれ、本当ですね、消えてる。ってトンネル? あ、本当だ外暗いですね。いつのまにトンネルにきたのか……私も気付かなかったです。」
よく聞こえてたなと思ったけれどそういえば音が漏れてなかったや。見た目と印象と違って常識ある子なんだなぁ。これがギャップ萌えってやつか。
「は? トンネル? 俺次で降りるつもりだったしこの席でドア開いたら流石に気付くと思うんですけど……トンネルって当分なかったですよね?
貴女が入ってきてからそんな時間たってないと思うんですけど。」
私服の男の子が女の子と私を見ながら会話に参加してきた。
たしかに赤メッシュちゃん(仮)が入ってきてから体感的にはそんなにたっていない。トンネルは5駅くらい先にはあった気がするけどそこまで行く前に私も一度乗り換えの予定だった。
その頃にはなんとなく皆『あれ?』って雰囲気になっていて会話に入ってきてない制服の男の子もキョロキョロしていて、次に声をあげたのはその子だった。
「うぇぇ……? あの、あれっ……」
顔を青ざめさせて指をさす男の子の指先を全員が視線で追う。それは前方の車両、があった場所。反対側を振り返ってみても、一番後ろの車両があったはずの場所……。前方後方の車両に繋がるドアについていた小さな窓から見える景色は……座っている車両から見える窓の外と同じで暗闇が広がっていた。
前にも後ろにも、車両なんてどこにもなくって。
不可解な現象が起こっていることだけは皆なんとなく理解した。
次回予告
『逆ハーでしたか。』