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3 呆然
別視点
いつも通り
さっき通り、なにも変わりなく跳んだはずだった。
「桜っ!?
ちょ、太一! 桜はどうしたの!?」
転移してすぐ周囲を確認してみれば、間違いなく移動予定だった城にほど近い貴族街の、あまり人通りの多くない路地裏にいることに安堵して……右手にあるはずだった温もりが消えていることに気付いたと同時に倉橋先輩の焦ったような声が聞こえる。
呆然と右を向いても誰もいなくて、左を見れば焦ったような顔をした倉橋先輩、後ろに首をひねれば眉毛を下げながら「えっ、えっ……まさか……?」とキョロキョロ周囲を見渡す佐藤の顔。
右手のひらを眺めてみてももちろん冴木さんがいた形跡なんて何もなくて。
慌てて元いた場所に戻ってもそこには何もない倉橋先輩の部屋が広がるだけで
もう見失いたくない、と思ったあの人は
出会った時と同じようにするりと手のひらから消えていった。
次回予告『もふむにぬる〜ん』




