2 一人
佑太郎くんはあまり持っていくものが無いようで、中身入りの洋服タンス(太一くんと同じでっかいやつ)に書き物机とか筆記用具とほとんど持っていくものはないみたいで、まだ入るからと男女で分けることにして太一くんの収納の方に入れることにした。
佑太郎くんの部屋から観月ちゃんの部屋に移動してまとめてあった小物類を入れたあとも怒涛の勢いであれもこれもと詰め込むことになった。
皆と同じくタンスなどの家具類や洋服は当たり前で(観月ちゃんの部屋は男の子と同じタンス)、ほかの誰も持って行かなかった天蓋付きベッドや、私には思いもつかなかったアイテムであるバスタブ、石鹸やらシャンプーに香油(これは私も持って来れば良かったと思った)、絶対に観月ちゃんはいらないだろう豪華な花瓶にシャンデリア(太一くんに魔法で取らせてた)など。
重くて持ち上げられないものなんかは私が移動して取りに行かなきてゃ行けなかったからお城の一室というひろーい部屋の中をあっちへこっちへ行ったり来たりしたからちょっと疲れた……。
最終的に観月ちゃんの部屋は夜逃げをしますといったような見た目なほど。見事にすっからかん。まさかの絨毯すら持ってくって……。この部屋掃除してる女官の人たちでもきっとこんな状態見たことないと思うよこれ。
ちなみにこんなに色々持って行ってるけど本当にいるのかって聞いたら「いらなくても持ってく。これでも足りないくらいだけど勝手に呼び出された慰謝料。」だそうです。すごい……。
あ、ちなみに観月ちゃんの部屋が終わってから全員分の部屋に置いてあった石鹸とかシャンプーとかも取りに行ったよ。
「よし、じゃあ今度こそいいか? とりあえず一回王宮の外の人が居なそうな場所に転移するから。」
太一くんに手のひらを上向きで出されて手を重ねる。反対側の左腕(服の上)に観月ちゃん、背中のローブ越しに佑太郎くんが触れる。
ってあれ? 触れるのって素肌じゃなくてもいいの? もしかしてこの部屋に来る時とかもそうしてた?
疑問を言葉にする前に転移が始まりキラキラとした光の中で一瞬の浮遊感を感じた直後、今までの転移時に感じたことのない左下に引っ張られる感覚。
それを認識して何事かと驚きに目を開けば視界に入るのは真っ暗で葉のこすれる音とざわざわと何かの声が聞こえるだけの、ほぼ静寂を纏った空気で……どう見ても王都の中心にある王宮の外ではなく森の中。
そしてさっきまで感じていたはずの右手の温もりはなくなっていた。
「えっ……えっ?」
キョロキョロと周囲を伺っても周りが木に囲まれているのが分かるだけで太一くんたちはいない。
「なにこれぇ……また1人……? やだもう……また泣きそうだよぉ……」
真っ暗な場所に1人で放り出されるとかいじめ以外の何者でもないからね……。
ここはどこさぁ……なんでぼっちなのさぁ……ううぅ……暗くて怖いよぉ……。
こういう時って後ろも上も横も何か(幽霊的なものが)いそうで怖くて見れないけど、とりあえず背中が壁にくっ付いていれば後ろから襲われることはないなと思うから壁がほしい。
ずりずりと後ろを見ないで壁を求めて下がると何かを踏んづけたと認識する前に後ろに体が傾いて、えっと思う間も無く地面に頭をぶつけて視界は暗転した。