8 日記 - 1
「それじゃあそろそろ、貴兄の本を開こうか。」
誰ともなしに喉を鳴らす。
パラリとひらくとやはり日記らしくて日付がついていた。
そこに書いてあるのは神崎貴樹さんの戸惑いと、まさかの胸の内だった。
『20○○年6月18日
ーダリア歴853年7月9日
どうやら異世界に勇者召喚とやらをされたらしい。
召喚直後はなんかのドッキリかと一瞬疑ったが説明され目の前で魔法を使われたら信じるしかなくなった。
ノートをもらったので出来る限りの出来事を書いていこうと思う。(羊皮紙ってやつらしく書きづらいが)
召喚された時の特典とやらでこちらの世界の文字の読み書きも出来るようだが、この世界の人間に見せるつもりもないので日本語でいいだろう。
今日は一週間後に試合を控えた最後の休みだったから、軽く走り込みだけをしようと思って散歩がてらいつもと同じ近所を走りに出かけたはずだった。
この時はまさかもう試合をすることができないとは思わなかった。
最後のバスケの試合が冬のあの負け試合か……。
朝からドラマに出てきそうな河川敷を走っていたが時間が早かったからか人はまばらだった。
人が近くにいないタイミングを狙ったのか偶然なのか、踏み出した足元がいきなり泥のように柔らかくなってバランスを崩したと思ったら次の瞬間には暗闇の中に囚われて意識を失った。
ふと目を覚ませば周りを白い神官服のようなものを着た人や王女だと名乗る女性に囲まれていた。
話を聞くとどうやら魔王退治をしてほしい、とかなんとか。
王女や神官たちの貼り付けたような笑顔が胡散臭い。
昔から人の感情が読める方だったが、この人たちは分かりやすい方で王女がこれで大丈夫かこの国と思った。
何やら鑑定具とかいうやつに手を乗せるとゲームのステータス画面みたいなものが出てきた。
何やら本当に勇者とかいうやつらしい。
画面に表示される言語は日本語じゃなかったが、何故か読むことが出来た。
そういえば俺はあんまりやらないけど観月はRPGのゲームが好きでよくやってたなぁ。
そのくせ下手くそで進められなくて半泣きでやってくれってもってきたか。
おかげで自分からやったわけじゃないのにそこそこの量のゲームをやった気がする。
一年くらい会ってなかったけど……もう一生会えないのかな……。
返還の書とかいうのがあれば帰れるとか言ってたがそれすらも嘘くさい。
俺の持っているものは電波の入らないスマホと中身の使えない財布、それと観月の写真だけか。』
「「「「……」」」」
『召喚されてから3日
風呂に入りたすぎて水道設備の大切さを懇々と語った。
なんで王城なのに風呂がないんだ。古代ローマを見習えよ。
うろ覚えの知識だったがポンプを作れたから少しは水運びが楽になったはずだ。
ありがとうKOKIO。
敏腕DASHは俺の異世界生活に役立っている。
観月に合わせて見ていただけだったが、一生役立てないと思ってた知識も役立つもんだなぁ。』
『召喚されてから8日
どうやら鑑定具で調べた時に表示された鑑定というスキルで自分のステータスの詳細が見えるらしい。
偶然表示されたが、この世界の人間は使えないスキルらしく知識もなかったようだから内緒にしている。
読み書きや何を言ってるかが分かるのも言語全翻訳というスキルのおかげのようだ。
あとは勇者のイメージとは離れた『隠密』というスキルがあって、これが便利だった。
姿も気配も消して行動出来るようだ。
いつか使う必要が出てくる気がする。
逃げる時か、情報収集か。
今はまだこの世界の常識を普通に仕入れたいから現状維持だな。
家族や知り合いは元気だろうか。
いつでも会える距離にいた時は気づかなかったが、観月に会いたい。
前に会った時は前髪を伸ばしていたなぁ。
個人的には昔やってたぱっつんが可愛かったと思うから最後にもう一度見たかったなぁ。
男はぱっつん嫌いっていうやつが多いが観月のは可愛いと思う。』
次回予告『てれれれってってってっー。勇者 は 偽名 を 手に入れた。』
モンテクリスト伯は3ページくらい読んで満足しました。
いや違うんです、大まかな内容ウィキペディアで見ちゃったし、最後どうなるかも聞いちゃったから見る気が……。




