7 先輩
「かっ……んざき……たか、き……って……。」
震える声と少し青ざめた顔を驚きに染めたままノートのような古ぼけた本を見つめる太一くんは明らかに私よりも驚いている。
その驚きの表情を見てとあることに思い至った。
「知ってる人……なの?」
口をギュッと引き結んで首を縦にふる。
「俺にバスケの楽しさを教えてくれた近所に住んでた先輩……だ。
有名な人だから多分佐藤も知ってる、と思う……。」
そのノートはやっぱり日記だったらしくて禁書扱いになっていなくて持ち出しが普通に出来たから中はあまり読まないでみんなで読むことにした。
とりあえず太一くんが預かって明日の夜読もうと決め、もう一冊持ち出すことにした禁忌魔法の本も持って書庫を出る。
禁忌魔法の本は禁書だったので持ち出せるように持ち出し防止の魔法を解除してから書庫を出て、侵入したことがばれないように結界を作動してから部屋に送ってもらって別れた。
次の日の夜、いつも通り私の部屋にみんな集まってもらってから日記を取り出す。
「えっ!?」
机のうえに置いたノートの表紙を見るとやっぱり佑太郎くんはわかったらしくて驚いていたが何故か観月ちゃんまで青ざめていた。
「貴……兄……?」
「観月ちゃんも知っているの?」
「う、うん……親戚のお兄さんで小さいころからよく遊んでもらって……たんだけど……プロバスケットボールプレイヤーで……プロ2年目に失踪したんだ……」
じゃあやっぱり太一くんの言う通りこの世界に来てた日本人で間違いないんだ……しかもみんな知り合い……。
「やっぱり神崎貴樹ってあの神崎貴樹さんのことなんですね……」
「……なんていうかさ、3人はやっぱり繋がりがあるんだね……。
佑太郎くんと太一くんは同じ高校に通ってて、太一くんと観月ちゃんも同じ大学。
昔ここにいたっぽい神崎貴樹さん……と観月ちゃんが親戚で、太一くんは直接の知り合いで、佑太郎くんはバスケっていう繋がりがある。
私だけなんも繋がりがないんだよね。
私、本当に巻き込まれたんだなぁ……。」
「桜……」
ちょっと疎外感を感じて思ったことをそのままこぼすと空気が微妙になって慌てて否定する。
「あっ、ち、違うの! ちょっと疎外感というか、私だけ違うのが仲間はずれみたいで寂しかっただけで巻き込みやがって的な気持ちは全くないよ!?
悪いのは召喚した人たちだし、招かれてようが皆だって来たくなかったことは分かってるから!
戦うことも、傷の回復もしてあげられないし、よく分からない謎の職業だし……私だけ違うのがはっきりすると本当役立たずだなぁって思っただけだから!?」
何が違うのか分からない謎の弁解をすると一番予想外な人が食いついてきた。
「そっ!「そんなことない!」……おぅ……あたしのセリフ……」
まさかの観月ちゃんでなく、佑太郎くんでもなくて太一くんが否定してくれる。
意外でちょっと驚いたと同時にくすぐったい気持ちになる。
太一くんがそういう反応をしてくれるとは思っていなかった。
「冴木さんが役立たずなんてことはない。
この日記だって冴木さんが見つけてくれなければ俺は全く気づかなかったから貴樹さんがここにきていたってこともわからなかった。
それに冴木さんがいなかったら勉強してるけどそんなに進んでない俺じゃあ本から得ることができる情報はいまだにほとんどないんだよ。
つまり、いまの時点で一番役に立ってるのは冴木さんなんだよ。」
そんな風に思ってくれてるとは思わなくてちょっと涙腺が刺激される。
「……ねぇ佑太郎、あの2人見つめ合っちゃっていい雰囲気出してるんだけど、いつの間にそんな関係になったの?」
「……書庫とか、結構2人で行ってましたし……僕たちがいない間になってたんでしょうねぇ……」
「ちっ、ちがうよ!?」
ヒソヒソ聞こえる声に慌てて大声で否定すると楽しそうに笑いだした。太一くんまで。
か、からかわれたっ……。
けどさっきの微妙な空気も、泣きそうな……ちょっとだけ甘くて恥ずかしくなりそうな雰囲気よりも今の方が、いいか。
思わずほっこりしてはにかんだ笑顔をみせる私を太一くんが微笑ましい顔で見ているとは全く気づかなかった。
次回予告『パッツン可愛いよパッツン。』