4 脱却
あれからそれぞれ自分のできることをやって二ヶ月がたった。
服も用意してもらってこの世界のものを着ている。
今日の服装はフリルのついた白のブラウスに紺色のリボン、そして同色の裾に白い糸で豪奢な刺繍が施されたハイウエストのロングスカートとヒールのついたパンプス。
ヒールが辛いけどドレスじゃなくて本当に良かった……いやまぁ本当はドレスが用意されたんだけど……流石に普段着にドレスは無理! と思って庶民服を用意してもらった。
でも特別製のオーダーメイドだから生地が良かったりして庶民感が薄いので『庶民服(風)であって庶民と同じ』とは言えないですねってメイドさんたちに言われた。
きっとお高いんだろうなぁ。
しかも色んなデザインで何着も作ってもらってある。
ファンタジー世界なのでコスプレみたいなものもデザインしてもらっちゃったので半分くらいは来辛い。
面白半分でやることじゃなかったと反省してる。
やっぱり予想通り観月ちゃんはほぼ常に訓練場に入り浸っている。
と、いっても基礎的なことを覚えたらほとんどの人と練習にすらならないらしくて騎士団長さんなど限られた人としか戦えないらしく普段は素振りとか筋トレをしてるらしい。
全体的に筋肉がついたといって腹筋を見せて触らせてもらったときは感動してしまった。
そんななので観月ちゃんは男物の服装を着ている。
黒いシャツに黒のジャケットと赤いパンツ、黒い編み上げブーツと、腰には太いベルトみたいな剣をさげるホルダーをつけている。
指先の出る革手袋をして、どこからどうみても戦う麗人だけど……赤いメガネだけが現代風なのでコスプレ感がすごい。
伊達だと思ってたんだけど度入りらしい。
普段からパンツスタイルだったらしいので楽で良いって言ってたけど……せっかく美人なんだから女の子らしい服装もして欲しいなと思ってる。
太一くんは魔法使いって感じの黒に近い紺色のローブを着ていて中はシンプルに青い刺繍の入った白いカットソーにデニムのジーンズを履いている。
なんと自分だけ元のズボンを履いているとかいうセコい仕様。
最初はなんかフリルのついたシャツとか渡されたから拒否ってそのまま自分の服を着ているらしい。
日本のものを着ると目立つからと否定されたらしいけれど、裾を引きずるか引きずらないかギリギリの長さのローブを特注して中が見えないように羽織り「これなら文句ないだろ。」と無理やり納得させたとか。
カットソーは着心地のよいのを何枚も揃えたとか。
私には全部同じカットソーに見えるものが何枚も用意されていて、白だけじゃなくて種類増やせばいいのにと思ってしまった……。
初めの頃は城に勤めている魔術師の人たちから魔法を使うための訓練を受けていた。
魔力の流れを把握するとかいうところから始まった訓練らしいんだけど、魔力を把握したらアッサリと誰よりも使えるようになったらしく今は自由にしている。
把握するまでは何日もかかったみたいだけどね。
他の魔術師の人たちと違ってテレビやアニメ漫画などで鍛えられた現代日本人は詠唱すら必要ないらしい。
『詠唱はあくまで頭の中でこうなれっていうイメージを補助するためのものであって必須なわけではない。
この世界の魔術師は魔法=詠唱っていう固定概念に囚われてしまっていて詠唱なしでは魔法をイメージして具現化することができない』とかなんとかゴニョゴニョ……。
太一くんの説明は難しかったです。
とりあえず他の人は無理だけど太一くんは詠唱しないで魔法が使えるってことは分かった。
はい、一言でまとめてもらいましたよ。えぇえぇ、ため息つかれましたとも。
そんな感じで教わる必要もなくなった太一くんは私が本を読んでる横でまったりと絵本を読んで字の練習をしていることが多いんだよね。
読書用の専用スペースがあるのでそこでならお茶を飲んで良いのでそこで2人して本を読んでまったり。
私は普通に読むことが出来たんだけど、魔道具のときもしやと思っていたけれどどうやら他の3人はは文字が読めないらしい。
私の持ってる『言語全翻訳』のスキルがこちらの文字などを勉強せず理解するためのチートスキルだという結論に達しました。
やったー。
太一くんがこれ持ってたら私まじでいらない子だったね!
ちなみに数学とかは得意だけど歴史や英語なんかの覚える系は苦手らしくて、『なんで今更新しい言語覚えなきゃ……』ってブツブツ言ってた。
深い緑のローブに太一くんと違ってちょっと高そうな印象の白いシャツ(フリルなし)とキャメルの七分丈ズボンとサスペンダーに、焦げ茶のショートブーツという姿の佑太郎くんは怪我人の手当てで訓練場にほぼずっといる。
ちなみに最初恥ずかしそうにフリル服を着ていたけど太一くんが着ていないのに気付いて衝撃を受けたような顔をしていた。
頑張ってあっちがいいと訴えてようやくフリルなしをもらっていた。
ある程度の怪我ならほんの少しの魔力ですぐに治るために怪我が付き物な騎士団の人たちにとても感謝されているみたいで、嬉しそうにしている。
なにやら勇者観月様が模擬戦を行うと怪我人が量産されるらしいんだよね。
どうやら佑太郎が疲れた顔してるときは勇者観月様の模擬戦無双があった時らしい。
そして私はというと唯一出来ることである書庫に篭ってこの国や他の国の歴史を調べたり、召喚や勇者に関する本などを読んだり、メイドさんたちと交流を深めて市井のことや今の世界事情からただの噂話まで、情報収集をしています。
ちなみに情報提供のお礼に勇者様御一行の情報をほんの少しだけ教えてあげるよ。
観月ちゃんは甘いものが好きみたいだよ、とかその程度の情報だけどね。
ちなみに佑太郎くんが地味に人気が高くて太一くんが一番低い。
佑太郎くんはワンコみたいだけど太一くん狼みたいだもんね。かっこいいけど近寄りがたい。
書庫の本を粗方読み終わったので奥にある『指定立ち入り禁止区域』に入る許可を観月ちゃんと太一くんが無理矢理もぎ取った。
勇者様御一行パワーすごいわぁー。
禁止区域は二層構造になっているけれど許可がもらえたのは一層目だけだった。
二層目は王族や上層部の限られた人間しか入ることが出来ないとかなんとか。
一層目は通常の書庫より古語を使った本が多かった。
古語や他の国の言語の本も読めたので翻訳スキル結構役立つようです。
ちなみに何故かそれが何語かどうかってのも分かるんだよねぇ……不思議すぎる翻訳スキル……。
太一くんも一緒に行ったけれど古語はミミズが這った文字って言ってた。
他国の文字は象形文字かよっていってたりツッコミまくってた。
象形文字の方がわかりやすそう。
ちなみに今いるクレヴァンス国はアディシア語といって信仰してる宗教の神様が使ったと言われる言語でアラビア文字みたいな文字だった。
昔はちょっと厨二っぽくてくすぐられる文字だったなぁ、アラビア文字って。
さて、一層目の本は全部読めたけど特に今更得ても得する知識はなかったなぁ。
ってことはあっちかねぇ~。
「4 (役立たずからの)脱却」
次回予告
「最終的には悪巧み」




