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大好きよ

ふうー、終わったあ!


私は二人の女性に挟まれて、保護者席で駿くんの勇姿を見守った。もっとも二人の体から発せられるピリピリビームのおかげで、私はずっと緊張しっぱなし。片方が拍手をすれば、片方はそれ以上の音で拍手をする。片方がハンカチで涙をぬぐえば、片方も負けじと涙をぬぐう。本当に涙なんか出てるのかしらね?!

そして今、そんな状況からやっと脱出できる。


「さあ駿、幸ばあと帰りましょう。そうだ、アイスクリームでも食べようか」

「アイスクリーム・・」

「それでは私はこれで。駿、またね」

「うん、バイバイ!」

「では私もこれで・・」

「お姉さん、パパのところに戻るの?」

「うん、午後からはお仕事があるからね」

「じゃあぼくも行く!」

「駿、幸ばあと帰らないの」

「うん、理沙お姉さんとパパのところへ行くよ!」


そんなふうに駿くんに言われたらもう帰るしかないわよね。幸子さんはその場から渋々と立ち去った。ちょっと後が怖いけどね。


「よし駿くん行こうか!パパに入学式が終わったこと報告しないとね」

「うん!」


「駿くん、お腹すいたね」

「うん、ペコペコ」

「ファミレスでご飯食べましょ」

「はーい」

「おっ、いい返事ね!」

「入学式の時もこのくらい大きな声で返事したよ」

「うん、そうだったわね」

ごめん駿くん、私そのとき、それどころじゃなくて・・聞いてないの。


「駿くん何にする?お好きなものをどうぞ」

「何がいいかなあ・・」

「色々あって迷っちゃうね」

結局駿くんはハンバーグ、私はパスタを注文した。


そして二人は地下鉄に乗り、水道橋駅で下車した。

あっ!このまま駿くんとクリニックに行ったら、さすがに怪しまれるよね。どうしよう・・。

「理沙お姉さん、どうかしたの?」

「うんん、何でもない」

龍崎先生に連絡するか。

「駿くん、パパにここまでお迎えに来てもらおう」

「うん」

「電話するね!ちょっと待っててよ」

しかし、先生の携帯にいくら電話しても通じない。忙しいのかな・・。仕方ない、クリニックに電話して呼び出してもらうか。

私だって名乗ると、やっぱまずいよね。

「はい、○○クリニックでございます」電話に出たのは瑞希ちゃんだ。

「すみません、龍崎先生いらっしゃいますか!?」

私はハンカチで口もとを軽くおさえ、声のトーンを変えた。

「寿さん、声の調子まで悪いんですね!」

「えっ!」私名乗ってないのに。

「龍崎先生なら今診療中ですけど、ことづけがあるなら伝えますよ」

「あの、瑞希ちゃん」

「何ですか?」

「何でわかっちゃったの?私って」

「何でって、ディスプレーに出てますよ。コトプキって」


「あっ!龍崎先生、寿さんからお電話です」

スマホからそんな瑞希ちゃんの声が聞こえた。そして

「もしもし、龍崎です」

「お疲れさまです。寿です」

「あの、駿くんなんですけど・・」

「ああ、お迎えですよね。今どこですか?」

「水道橋駅を出たところです」

「わかりました。すぐに行きます」

って今さら龍崎先生に来てもらっても遅いよね。もう私だってバレてるし。


そして数分後

「あっパパだ!パパー」

「駿」

「パパ、入学式終わったよ」

「ああ、どうだった?」

「楽しかったよ」

「寿さん、ありがとうございました」

「いえ」

「なんか、相当疲れてるって感じですけど」

「はい!疲れてます」

あなたの義母さんと、元奥様の間で!

「ちょっとコーヒーでも飲んで行きますか」

「是非お願いします」私はぶっきらぼうにこたえた。

「はあ」

「駿、お姉さん、ご機嫌斜めなのか?」先生は小声で聞いている。

「んうん!」私は先生を咳払いの真似をして威嚇?した。


喫茶店に入って、私のご機嫌斜めの種明かしは、駿くんがしてくれた。

「えっ!幸子さんと恵子までが」

「ええ、そのようです!」

「それは申し訳ないことをしました。幸子さんにはちゃんと話したんですけどね。僕が行くから大丈夫だって」

「ママに会ったの久しぶりだったなあ」

「恵子が入学式に来るとはそれこそ意外でした!」

「親同士が別れても、親は子供のことを忘れられないんですよ!きっと」

「でも3人の中で理沙お姉さんがいちばんキレイだったよ!」

「あら駿くん、ありがとう!」

その言葉に疲れも和らぐわ。

ところで先生は?誰が一番ですか。


そして3人はクリニックに向かった。駿くんはパパの肩の上にまたがって!


「おはようございます。大分遅くなりましたが」

「寿さん、大丈夫なんですか?電話の声怖かったから」

「怖かった!?」

「あっ」瑞希ちゃん、それが本音ね。


「こんにちわ」

「あっ駿くん!今日は入学式だったんでしょう。そのブレザーカッコいい」

「へへえ」

「そういえば寿さんもいつもと感じが違うみたい。素敵なワンピース!なんか落ち着いた雰囲気で、入学式の保護者って感じ」

「どうしたんだ駿」そこに龍崎先生登場。

「龍崎先生、お帰りなさい。なんか3人で並ぶと本当の親子みたいですね」

「なにバカなこと言ってるのよ瑞希ちゃん」顔から火がでそうよ。


更衣室で着替えていると、ルミが入ってきた。

「あっ理沙、風邪大丈夫?」

「うん、病院で薬出してもらって飲んだから」

「そう」

「忙しかったでしょ?」

「うん、でも龍崎先生、自分で何でもやってくれちゃうから、佐々木さんも私も大助かりよ」

「そうなんだ。さすがだね!龍崎先生」

「駿くん入学式だったって」

「そうみたいね」

「先生は仕事だったし、誰が付き添ったのかな?」

「さあ・・」


午後の診療も終り、私とルミはクリニックを出た。

「じゃあまた明日ね」

「うん、お疲れー!」

その時私のスマホが震え出した。

あっ、龍崎先生だ。

「もしもし、寿です」

「僕です。寿さん仕事終わりましたか?」

「はい、今ルミと別れたところです」

「送りますよ。駅方面にゆっくり歩いていてください」

「はい」


プッ!

間もなくBMW は私に追い付いた。

「寿さん、今日は嫌な思いをさせてしまってすみませんでした」

「いえ、嫌な思いだなんて。でも、駿くんはママに会えて嬉しかったよね。わざわざ会いに来てくれたんだもの」

「・・・」

「駿、正直に言っていいんだよ!」

「嬉しかった・・でも・・」

「どうしたの?」

「ママはパパにいけないことをしたから・・」

「えっ?」

「駿、そんなこと誰から聞いたんだ」

「・・・」

「幸ばあ?」

「・・・」駿くんはこたえようとしない。

「いいか駿、ママだけが悪いんじゃない、パパもダメなところがいっぱいあった。お互い様なんだ」

「お互い様?」

「うん」


駿くん、まだ1年生になったばかりなのに、大人に色々気を使ってるのね。


「よし駿くん、これからは正直に生きるようにしよう!」

「正直に?」

「自分の思ったこと、考えてることを正直に言うのよ。お姉さんもそうするわ!」

「じゃあ聞いていい?」

「何を?」

「理沙お姉さんはパパの事が好きなの!?」

「えっ!」

「おい駿!」

「ねえ・・」

「大好きよ!」

「寿さん!」

「よかったねパパ!」


駿くんはまだ6才でしょ。自分に正直に進んで行っていいんだよ。大人に気を使うのは、駿くんが大人になってからでいい!私はそう思うな。

でも今日は、駿くんが私より一枚も二枚も上手だったね!だって私にパパが好きって言わせちゃうんだもん。



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