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春風

「ヒーヒーふー、ヒーヒーふー・・」

そう、今私は分娩室の台の上。予定日より一日遅い2月4日の午後。

そして、その時はやって来た!

「うぎゃー、うぎゃー」

可愛い女の子の誕生である。


そこに真司さんと駿くんが飛び込んできた。

「理沙さん」

「理沙ママ」

「可愛い女の子よ!」


そして退院の日。

「お世話になりました」

「お大事に」

「お世話になりました」

「駿お兄ちゃん。赤ちゃん可愛がってあげてね!」

「うん」


そして駿の妹の名前は春風(はるか)と決まった。

初節句、お宮参り、お食い初めとすくすくと育ってくれた春風。駿もどんどんとお兄ちゃんらしくなって!

そして明日はもう1才の誕生日だ。

「駿、お買い物行くわよ!」

「うん。僕がベビーカー押してくね」

「うん、お願い」

家から5分も歩くと、大きなスーパーがある。大抵のものはここで手にはいる。ただ、あまり物が安くないんだよねー。

私は産休も明け、今は午前中だけのシフトにしてもらっている。その分、皆には迷惑をかけてるけど。


「マー、マー」

「春風、今日はお兄ちゃんがベビーカー押してくれるって!」

「マー、マー」

「マー、マーって、ママって言ってるの?」

「うん。そうらしいわ」

春風は立ち上がり、歩くのは早かったけど、まだおしゃべりは全然だ。しかし、これも個人差があることで、今のところ心配はいらないという。

「僕のことも早く呼んでくれないかなあ・・」

「心配しなくても、そのうちいっぱい呼んでくれるわよ!」

「うん」


そしてスーパーに到着。

「駿、まだ大丈夫?」

「うん、平気!」

「明日は春風のお誕生だから、ケーキの材料を買わないとね」

「僕は・・」

「ん?どうしたの駿」

「うんん、何でもない。早くケーキの材料買おう」

「・・うん」

私は、そんな駿のしぐさが少し気になった。


「ヨシッと、あとはお夕飯のお買い物ね!駿は今日何が食べたい?」

「ん・・ラーメン!」

「ラーメンかあ・・よし、今日はラーメン&チャーハンでいこう!」

「イエーイ!」

「うひゃゃ!」

「見て!春風も笑ってる」

「うん、ホント!」


そして

「ただいあま」

「あっ!パパだ。春風パパ帰ってきたよ」

「ぱー、ぱー」

「お帰りー!」

「ただいま」

「お帰りなさい」

「はいこれ!頼まれたもの」それは春風のオムツ。

「ありがとう。ごめんね、疲れてるのに」

「このくらい平気さ!それにあそこの店の方が安いからな」

「うん」

「それから、駿にはこれだ!」

「あっ!鬼のお面だ」

嬉しそうな駿。

「豆も買ってきた!鬼は外やるか」

「うん!」

そういえば、今日行ったスーパーにも、節分の鬼のお面が置いてあったっけ・・。

あっ!このことだったの駿・・?あなたが言いかけてやめたのは。


「鬼はー外」

「福はー内!」

「おにゃー、おにゃー」

「はははっ!春風も真似してる」

「そうみたいだな」


そして、豆を歳の歳の数だけ食べて・・。

私は明日の料理の下ごしらえ。リビングでは「キャーキャー」はしゃぐ声が聞こえる。


「真司さん、春風の歯磨きお願い!駿もしっかり磨いてね」

「はーい」

春風にも、もう上下4本ずつ歯が生えている。


「あーああ!」駿の大きなあくび。

「駿、そろそろ寝なさい」

「うん・・ぐーっぐーっ」

返事をしながら、駿は真司さんの膝の上で眠ってしまった。


「眠っちゃったな」

「今日はベビーカーをずっと押してくれてたからね。疲れちゃったかな」

「そうなのか!駿もお兄ちゃんだな」

「うん。それと、今日ちょっと気になることがあって・・」

「どんなこと?」

「今日はケーキの材料を買いに行ったんだけど、その時駿がね『僕は・・』って何か言いかけてやめたのよ」

「うん」

「その時はあまり気にしなかったんだけど、さっき真司さんが鬼のお面を買ってきてくれたでしょ」

「駿は、鬼のお面が欲しかったって!?」

「うん。それを私と春風に遠慮して、言い出せなかったんじゃないかって」

「うん」

「最近の駿、そんなことが結構あるような気がして・・」

「駿なりに気をつかってるのかな?」

「でも、それが駿のストレスにならないといいんだけど」

「そうだな。明日、それとなく駿に話してみるよ」

「うん、お願い」


2月4日、春の訪れとともに、春風の1才の誕生日の朝。

「おめでとう春風」

「お誕生日おめでとう、春風」

「まんまんっ、まんまんっ」

「ん?なんだって春風」

「多分・・ありがとう・・かな」

「ホントかい?!理沙さん」

「ん・・ちょっと向こうでオムツ換えてくるね!」


「そうだ駿、昨日理沙ママとお買い物に行ったときなんだけど」

「ん?」

「駿、理沙ママに何か買ってほしかったものがあったんじゃないのか?」

「買ってほしかったもの?」

「例えば鬼のお面とか・・」

「・・う、うん」

「でも言わなかったんだろう」

「うん」

「何で言わなかったんだ?」

「ん・・なんか、悪い気がしてさ」

「悪い気かあ・・そういうのパパにも経験あるけど、それはきっと、駿がどんどん成長している証拠だ!」

「成長?」

「ほら、ちっちゃい頃はさ、あれが欲しいこれが欲しいって、何でもおねだりしてたろう。でも、大人はそんなことはしない。遠慮ってことを覚えるから。つまり駿もちょっとずつ大人に近づいてるだな」

「おとな?」

「でも駿、理沙ママは、駿に何でも話してもらいたいんだよ!あれが欲しいとかこれが欲しいとか」

「でも、僕もう赤ちゃんじゃないよ!」

「うん。だから理沙ママはちゃんとその返事を返してくれるさ。ダメなときはダメって!」

「うん・・」

「遠慮するのはもっと大きくなってからでいいさ!」

「ちゃんとお話した方が理沙ママは喜ぶってこと?」

「うん!」

「わかった!」

「よし」

私は、そんな二人の会話をこっそりと聞いていた。春風と一緒に。

そして、オムツが新しくなった春風は、駿兄ちゃんのところへ駆け出した。その時だ

「にーに、にーに」

「ん?」

「駿、春風が呼んでるぞ!にーにって」

「にーに、にーに」

「あっ!ホントだー!」

「駿兄ちゃん、やったな!」

「うん!」


「行ってきまーす!」

「いってらっしゃい!」

「春風、行ってくるからね!」

「にーに、にーに」

「へへぇ!・・じゃあーねー!」

こうして駿は、はりきって学校に向かった。けど・・

「真司さん、これ!」

「あっ!ランドセル」

「駿ったら」

「あいつ、相当舞い上がってるな!」

「みたいね!」


「おい!駿・・」

真司さんは、ランドセルをもって飛び出して行った。

そういえば駿、歯も磨いてないんじゃないの!

うふふっ。

「春風、春風のお兄ちゃん、いいお兄ちゃんだね」

「うん」

「・・・?」





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