初ハグ
「うわー!」感激ー。
「思ったよりずっと立派な建物だね」
「あれ?真司さんも初めて」
「初めてではないけど、昔と雰囲気が違う感じだなあ・・」
「そうなんだ」
「7才までだったからね、こっちにいたのは。だから記憶違いかも知れないけど・・」
「20年以上たつんだね・・」
「大っきなお家だね」
「さあ、早くいってみよう駿くん!」
「うん」
そして私たちはロビーに向かった。
「ようこそお出でくださいました」
「お世話になります」
私と駿くんがソファーに腰掛けていると、受付を済ませてくれた真司さんが私達を手招きで呼んでいる。どうやら係りのひとが部屋に案内してくれるらしい。
私達はその女性のあとをついて行き、途中大浴場の場所や、朝食のバイキングの部屋などの案内をされながら、尚も建物の奥に進んで行く。
「ねえ、真司さん、どこまで連れて行かれるのかな?」
「何でもこの建物の続きに、離れの部屋があるらしいんだ」
「離れの?」
「うん」
そして・・あっ!建物を出ちゃったわ。遠くで、かすかにさざ波の音が聞こえる。
さらに緩やかな坂を上りきったところで、女性の足が止まった。
「こちらでございます」
「はあ・・」
女性が部屋の鍵をあけ、私達は部屋のなかに・・。その瞬間、私はブッ飛んだ!!
「広っ!」
瞬間的に私の頭に浮かんだのは『いったいいくらするの?この部屋は』だ。仕方ないよね。庶民なんだから。
「うわ!広ーい」
駿くんは窓際まで猛ダッシュ!あー、私も思わず駆け出したい気分!
「こら、駿」
「・・・」良かった、駆け出さないで。
「うわー、理沙お姉さん、見て見て!海だよ」
「ホント!?」
私は早足で駿くんのもとへ。
「ほら!」
「わー!素敵」これぞコバルトブルーの海ね。
「只今オーナーが参りますので、少々お待ちください」
「オーナーですか?」
「はい。龍崎様がお見えになったら、知らせるように言われてましたので」
「そうですか」
すると
「失礼します」
「オーナーが見えました」
「・・真司くんか?」
「あっ!おじさん」
「久しぶりだね。随分と立派になった!」
「いえ」
「私もだいぶ歳をとっただろう」
「いや、全然変わってないですよ!」
「そうかい・・あちらは奥様と息子さん?」
「はい!そうです。ね、駿くん」・・私は大声でそうこたえた。
「ん?」・・不思議がる駿くん。
「理沙さん!」・・困る真司さん。
たまにはいいじゃないの。リップサービスよ!
「ぼくは何歳なの?」
「6才です。もうすぐ7才」
「そう」
「この度はお世話になります」
「うん。淳から電話があってね。真司くんが宿を探してるって・・」
「ええ」
「たまたまこの部屋がキャンセルになって・・」
「そうでしたか。それにしても、我々には立派過ぎる部屋です」
「そうだ、ちょっといいかな・・」
「はい」
「駿くん、ベランダに出てみようか!?」
「うん」
私と駿くんは席を外した。
そして
「じゃあごゆっくり!」
「はい!ありがとうございます」
「あの方が幼馴染みのお父さん?」
「ああ、昔とちっとも変わってないな」
「そう、真司さんのことも覚えてたみたいね」
「うん」
「で、何の話だったの?聞いていい・・」
「部屋代のことなんだけど」早速きたか。
「相当するわよねこの部屋」
「それが・・一泊、一人五千円、三人で一万五千円でいいそうだ」
「えっ!そんなに安く」
「僕もそれじゃあ安すぎますって言ったんだけどね。キャンセル料をもらってるから、うちは損はしないって」
「なるほど・・それにしても・・だよね」
そして、私は発見してしまった!そう、露天風呂を・・。キャー!火照る頬、高鳴る鼓動・・。
「よし、辺りを散策しようか」
「えっ?あっ、そうですね」
ひとりで舞い上がってたわ。
「スパイダーマン?」
「忍者かあ、それは明日だ駿。ここからだとちょっと距離があるからな」
「天気もいいし、海岸に出てみましょうか?!」
「うん」
「女夫岩が見えるところまで歩いてみるかい」と真司さん。
「はい!」
私達は歩いて海岸に向かった。
「風が気持ちいーい!先生の生まれ育ったのはこの辺りなんですか?」
「うん」
「いいところですね!」
「この辺りの海岸は海水浴場で、夏には大勢の人で賑わうんだ」
「まだちょっと早かったですね!」
しばらく行くと・・
「はらあそこ!」
「ん?・・あっ!」
「どうしたのお姉さん?」
「駿くん見えるかな?あそこの海の中に岩がふたつ並んでるのが」
「ん?・・見えないよ」
「よし、お姉さんが肩車してあげる」
「えっ?お姉さんが」
「うん」
「理沙さん、肩車なら僕が・・」
「大丈夫、任せて!」私は姿勢を低くした。
「よいしょっと」そして駿くんは、私の肩に乗り・・。
「よーし、駿くん、しっかり掴まってよ!」
「うん」
「せーの・・うっ・・あーあ・・」
私は、あっという間にバランスを崩してしまった。
「うぇー・・」あせる駿くん。
「おっとと!危ない危ない」
と、真司さんが慌てて支えてくれた・・。
「ふうー、お姉さん、おどかさないでよ!」
「ん?」・・私。
「ん?」・・真司さん。
「あー、見えた見えた!」
「あれ?」・・私。
「・・・?」・・真司さん。
「パパ、理沙お姉さん、どうしたの?」
抱き合ってるの!!
真司さんの腕は、私の体をぐっと引き寄せている。
思わぬ形での初ハグになってしまった。
「・・・」お願い、真司さん、ずっとこのままでいて!
「おっと、ごめんごめん」あっ、離れちゃったの。なあーんだ。
そして、肩車は真司さんにバトンタッチ。
「ん・・女夫岩かあ!?」
「あまりお気にめさないようだね」
「そんなことないですけど・・」
「あんなのどこにでもありそうだって?」
「そんなこともないですけど・・」
私としてはさっきのハグの方がぐっときてて・・!
ブルブルブルブル
「あっ!ヘリコプターだ。うわー・・」
上空には、2機のヘリコプターが轟音をたてて飛び去っていく。男の子はこっちの方が興奮するか・・!
「もう4時かあ。そろそろ戻りますか理沙さん」
「そうですね。温泉にまだ入ってないですもんね」
「ああ、大浴場かあ・・」
個室もありますよー!
「駿くん、貝殻を探しながら行こうか」
「うん」
「キレイなのが見つかるかな・・」
「あった!理沙お姉さん、ほら」
「ホントだ!おっきいね」
「もっと見つけるぞー・・」
ん?何か動いた。
「あっ!駿くん、こっちこっち」
「なに?」
「ほらここ」
「あっ!カニだ」
「わあ!こっちにも・・」
「駿くん、カニ捕まえられる?」
「出来るよ!・・よっと・・ほらお姉さん、見て」
「すごいね!駿くん」
「お姉さんも捕まえて!」
「私は見るだけでいいよ」
「ん?・・怖いの」
「別に怖くなんかないわよ!」
「理沙さん、無理しない無理しない!」
「はい、すみません・・」
駿くんは砂に穴をほり、捕まえたカニをそこに入れていく。しかし、カニは簡単にそこから這い上がってしまうのね。
「あー!駿くん、カニが逃げ出したよー」
「えっ?」
「うわ、もう一匹!」
そして駿くんが今指でつまんでるカニ、なんか特別大きくない!?私は恐怖さえ覚えちゃうよ。やっぱり女の子は貝殻ひろいが似合うよね!
「カニさん、バイバーイ」
そしてカニたちは、小さな波にさらわれていった。
部屋に戻った私達は、大浴場に向かう準備をしていた。潮風のせいか髪がべちょべちょだ!
「よーしっと、準備OK !」
「どんなお風呂かなあ?」
「大きいお風呂だよ!プールみたいに」
「そんなに大きいの!?」
「そうよー!」
「真司さん、行きますよ」
「うん」
浴衣とタオルを持ち、私達は部屋を出た。
「露天もあるんですよね!」
「そうらしいね」
「まさか・・混浴ってことはないでしょうね?」
「それは無いでしょう普通」
「そうですよねー」
でも真司さん、わかんないですよー。これ、歯科衛生士の勘です。
お風呂に到着。
「駿くんは男の子だから男湯だね!」
「うん!」
「お姉さんはこっちだね」
「うん」
「よし、入るぞ駿」
「お姉さんまたねー」
「先に出たら、そこの休憩室で」
「はい」
さあ私も入るぞー!