スパイダーマン
「先生、今日先生が治療した患者さん、綺麗でしたね!」
「そう・・だったかな」
「確か24才でした!先生鼻の下が伸びきってました。私みてました」
「そんなことはないと思うけどなあ。患者にいちいちそんなこと思ってたら仕事にならないよ」
「それはそうですけど・・」
「あっ先生、今日は駅前で降ろしてもらっていいですか」
「どこか寄っていくの?」
「ちょっと本屋さんに」
「そう。じゃあ本屋の前で止めようか」
「はい」
そして私は、本屋の前でBMW を降りた。
「ありがとうございました」
「じゃあまた明日」
本屋に入ると目的のコーナーに一直線!そこは旅行&観光。
あったあった!
三重観光スポット10選、三重観光モデルコース・・などなど。
中でも私の瞳を釘付けにしたものは、三重人気ホテル&旅館・・キャー!!落ち着け理沙。でも、三重まで行って、日帰りってことないよね?てことで、私がゲットしたのは 三重人気ホテル&旅館。
うわー!素敵なホテル。それに大きな露天のお風呂。わあー美味しそうな料理・・松阪牛!どれもこれも私の心を踊らせるものばかり・・。
私はそうかせんべいをバリバリ食べながら、気持ちはすでに伊勢のリゾート!
私はそのガイドブックを鞄に忍ばせ、ベッドに入った。
翌朝
地下鉄がいつもよりすいている。そっか!今日は土曜日だったっけ。
「おはようございまーす」
「あっ!理沙お姉さん」
「駿くん!?」
「今日学校お休みだから、パパに言って連れてきてもらったんだ」
「ああ、今日土曜日だもんね」
「うん」
私は休憩時間に、昨日鞄に忍ばせたガイドブックを取り出した。
志摩地中海村・・なんてロマンチックなの!
夫婦岩・・やっぱり大きい岩が男性で、小さい方が女性よね!?
忍者村&遊園地・・ここは駿くんが喜びそうだな!
コンコン
「理沙お姉さーん、入っていい?」
「駿くんね!いいわよ」
「お邪魔しまーす。お姉さん、それ何の本?」
「なんだと思う駿くん?」
「ん?・・何かなあ・・」
「これはね、旅行の本よ」
「旅行?」
「車とかバスとか電車で、遠くへお出掛けするの!」
「わかった!遠足だ」
「そうだね。ねーねー駿くん、これ見て!」
「ん?・・・」
「忍者よ!ほらハットリくんとか・・」
「・・・」
「ハットリくんがどうしたって?」
「ああ、ルミ!」・・いつのまに。
「理沙、何よそれ?」
「これは・・別に・・」
「遠足の本だよ!ね、理沙お姉さん」・・駿くんシーッ!
「遠足の本?」
「だからなんでもないってば!」
「怪しい!?ちょっと見せて」
「あっ」奪われた。
「 三重人気ホテル&旅館 ・・理沙、旅行でも行くの?」
「ほら、もうすぐゴールデンウイークでしょ」
「誰と?」
「ん・・一人旅もいいかなあって」
「ふーん、一人旅ね」
「うん」
「でも、何で三重なの?」
「何でって・・まだ行ったことないし、いいところだなあって・・」
「理沙、何か企んでるでしょ!?」
「そんなことないよ」
「いいわ、仕事終わったらつきあってよ!」・・そうきたか。
帰りの私のいないBMW では。
「パパ、今日理沙お姉さんが、遠足の本見てたんだ」
「えっ?」
「ハットリくんとか遊園地の」
「ハットリくん?」
「理沙お姉さんが言ってたよ」
「忍者のハットリくん?」
「うん。パパ、忍者って何?」
「大昔の日本にいた忍だ!壁をよじ登ったり、塀を越えたり、屋根を走り抜けたりするのが得意な人たちだ」
「わかった!スパイダーマンだ!!」
「うん、まさしくスパイダーマンだ」
「ぼくも会ってみたいな、スパイダーマン」
「でも、どこに行くつもりなのかなお姉さん?」
「えーとね・・あっ、三重だ!ルミお姉さんが言ってた」
「三重だって!?・・」
そして私とルミは居酒屋に。
「乾杯!!」
「今日さあ、龍崎先生ったら、若い女性の患者に鼻の下伸ばしてたのよ。男性って皆そうなのかしらね」
「・・・」
「そう言えば、千穂ちゃんも今日は飲み会だって言ってたな」
「・・・」
「彼氏とかしらね?」
「・・・」
「ちょっとルミ、なに黙ってるのよ!」
「・・じゃあ、本題に入りましょうか!」
「本題に?」
「そう」
「何よ本題って・・」
「理沙、三重には誰と行くのかな?それに、何で三重なのかな?」
「だからそれは・・」
「それは?」
「龍崎先生の生まれ故郷なのよ!三重が」
「やっと白状したか。で、一緒に行くの?」
「まだ言ってない」
「まだ!・・じゃあ理沙、あなたひとりで勝手に盛り上がってるってわけ」
「まあ、今のところはね・・それで、ルミの方はどうなの彼氏と?」
「順調よ。今度彼のご両親に挨拶に行くの!」
「えっ!素晴らしくスピーディーね」
「今の私たちに大切なのはスピードよ!」
「それって私も入ってるの?」
「もちろんよ!三十路なんだから」
「あっそっかあ!ルミ、来月誕生日だ」
「だからその前にね」
「でも私はまだ半年以上あるし・・」
「あっという間じゃない!」
「確かに、それは言えてるけど」
ルミの言う通り!最近時間のたつのが凄く早く感じる。一週間なんてあっという間。どこかで聞いたことあるけど、時の流れは車のスピードと同じ。20才のひとは時速20キロで、30才のひとは時速30キロで時間が過ぎていくのだとか!私もちょっと急がないとな。
板橋区役所前を降りると、龍崎先生から電話が掛かってきた。
私は地下鉄の階段を上りながらスマホのボタンを押した。
「はい、寿です」
「龍崎です」
「どうしました?先生」
「ちょっと気になることがあって」
「なんですか?」
「寿さん、三重に旅行に行くって本当なの?駿に聞いたんだけど」
「私、本気って言ったでしょ!」
「・・・」返事がない。
「先生、先生!」
「本気って、本気で本気だったの!?」
「ん?」なんか日本語が変ですけど。
「じゃあ、今度貸してもらえるかな!あの本」
「 三重人気ホテル&旅館ですか? 」
「えっ!寿さん、そんなタイトルの本だったの?」
「あっ!いえ、あの・・深い意味はないんですけど」
「そうかなあ?十分深そうだけど・・」
「ん・・じゃあ月曜日持っていきますね!」
「もしもし、理沙お姉さん」
「駿くん、まだ起きてたの?」
「今寝るところだよ!」
「そう」
「お姉さん、忍者わかったよ」
「わかった?」
「忍者ってスパイダーマンのことでしょ!パパから聞いたんだ」
「そうなんだ」
「ぼくも会いたいなあスパイダーマン」
「会えるわよ!駿くんも一緒に旅行に行くんだから」
「ホント?」
「ホントよ!」
「やったー!!」
「駿くん、パパに代わってくれるかな」
「うん、お休み理沙お姉さん」
「お休み」
「もしもし、なんだか駿がおおはしゃぎなんだけど!」
「駿くんだけじゃないですよ。私もおおはしゃぎです!」
「えっ?」
「スパイダーマンです!」
「寿さん・・」
先生は32才だから、時速32キロだよね。だから先生も急がないとダメですよ!