もう先生!
「龍崎先生って生まれは千葉の船橋ですか?」
「いえ、生まれは三重です!」
「三重?」三重は確か紀伊半島の・・。
「小学校2年までですけどね。そのあとは関東近辺をいったり来たりで、こっちに来る前は船橋です」
「引っ越し好きなんですね!」
「引っ越し好きって・・まあ、そんなところですかね」
「お父様は今巣鴨なんですよね?」
「そうです。駿から聞いたんですか?」
「デートの時に」
「寿さん、生まれは?」
「私は深川です」
「江戸っ子ですね」・・その言われかた、あんまり好きじゃないんだよなあ!
「今度行ってみたいな!先生の生まれ故郷」
「でも、ほとんど知らないですよ。三重のいいところなんて・・」
「ああ、伊勢神宮とか鈴鹿サーキットとか・・今度サミットが開かれます」
「寿さん、時事ニュース見るんですか?」
「はい!大人ですから・・」
こんな話をしていると、あっという間に私のマンションに着いてしまう。
「先生、コーヒーでも飲んでいきませんか・・」なんて、今の私にはまだまだ言えない!
BMW を見送ると、私は急ぎ足で部屋に入った。
♪んんん~んんん・・・。
あっ、また夕飯を買うの忘れたか!
そんな私は、ポテトチップを口に運びながら、まったりと時間を過ごしていた。
すると
ブーブー・ブーブー、スマホが震えた。
ん?千穂ちゃん。
「もしもし」
「もしもし、寿さんてますか?」
「千穂ちゃん!どうしたの?」
「実は今、巣鴨にいるんですけど」
「巣鴨?」
「山崎さんと瑞希ちゃんも一緒に!ちょっと山崎さんに代わりますね」
「もしもし理沙」
「ルミ、あなた何やってるの?」
「何って、飲み会だよ!」
「巣鴨で?」
「うん。だから理沙も出ておいでよ」
「えー、今から」
「近いでしょ!」
「それはそうだけど・・」
そんなわけで、私は家を出てはるばる巣鴨に。
言われた駅前の店に入ると
「寿さーん!こっちこっち」
「お待たせ」
「遅いよ理沙」
「何にする理沙?」
「とりあえずビールかな」
来ていきなり日本酒はねえ・・。
「じゃあ、もう一度乾杯!」
「今さあ、龍崎先生の話題で盛り上がってたのよ!」
「ふーん」
「ふーんって理沙、あなたのこともよ」
「ルミ、まさか喋った?」
「えっ?!」
「喋ったわね!」
「ほんのさわりだけ・・」
「もう」・・ホントに口が軽いんだから。
「寿さん、私も千穂ちゃんも応援しますよ!」
「この3人、皆彼氏もちだからさ!横恋慕なんて気にしなくて大丈夫よ」
「ん?千穂ちゃんも彼氏いたんだ」
千穂ちゃん、この前彼氏と別れたって泣いてたじゃない!
「ええ」
「そういうことね」
「今日もさ、送ってもらったんでしょ!?龍崎先生に」
「一応ね」
「で、先生の気持ち確かめたの?」
「まだです」・・コーヒーブレイク誘えませんでした。
「もたもたしてると、佐々木さんとか栗山さんにとられちゃうよ!」
「それは無いでしょう!二人とも旦那さんいるじゃない」
「意外とそういうのが危険かもですよ」
「瑞希ちゃん!」意外と大胆ね!
その時私は、意外な人を目撃してしまった。幸子さんだ!しかも見知らぬ男性と親しげに話している。年齢は幸子さんとそうはかわらない、スーツ姿の男性。
「理沙、どうかした?」
「うんん」
もしやあの男性は龍崎先生のお父様?にしては若すぎる。
そして私の脳裏にはある言葉が浮かんでいた・・不倫!
「寿さん、さっきからどうしたんですか?深刻な顔して」
「ん・・ちょっと飲みすぎちゃったかな」
「何いってるのよ理沙、まだ来たばかりじゃない!」
「そうですよ」
とその時、幸子さんがこっちを向いた。そして、私の顔を見た瞬間、明らかにその表情が変わった。どうしよう?このまま知らん顔してていいのだろうか・・。
そんな私の考えを察してか、幸子さんの方から私の方へ歩み寄ってきたのだった。
「寿さん、ですよね」
「はい、こんばんわ」
「お友だちとお食事?」
「ええ、まあ」
「理沙、こちらのかたは・・?」
「龍崎先生のお母様」
「えー!」
「あの、あちらの男性は?まさか龍崎先生のお父様じゃないですよね」
「まさか!違うわよ。彼は学生の時の同級生。家が近所なのよ」
「そうですか・・」
「寿さん、まさか私が不倫してるなんて考えてない!?」
「そんなことはないです」
「そう」
「ええ」
席に戻った幸子さんは、そのあとすぐに男性と共に店を出ていってしまった。たしか龍崎先生が帰るまでは、駿君の面倒をみてたはずだから、ここに来てそんなに時間は経ってないはずだけど。
「ホントにただの同級生かしらね?」と瑞希ちゃん。
「ね理沙、どう思う?」
「ん・・・」
「怪しいですね!」
「うん!とっても怪しい」
そして次の日
「瑞希ちゃんも千穂ちゃんも、昨日のことは龍崎先生には内緒ね!」
「わかってます」
「ルミもよ!」
「はーい」
そこに龍崎先生登場。
「皆さんお揃いで何の相談ですか?」
「龍崎先生、おはようございます」
「おはようございます」
「昨夜の反省会です!」
「山崎さん、昨夜何かあったの?」
「ええ、女子会が・・そこで飲みすぎちゃいまして!」
「女子会ねー・・」
「龍崎先生も今度是非ご一緒に!」
「僕は女子じゃないけど」
「先生は特別ですよ。こんな独身美女4人に囲まれて・・」
「考えときます」
龍崎先生は私に軽く視線向け、その場を立ち去った。
今日の帰りも、私はBMW の指定席!
「昨夜はどこで女子会だったの?」
「えっ!・・ああ、えーと巣鴨です」
「巣鴨!?」
「はい」
「そういえば幸子さんも昨日、巣鴨で人に会う約束があるって、僕が帰るなり慌てて出ていったけど、まさか女子会に参加してたなんてことないよね」
「そんなことあるわけないじゃないですか!」
「いや、もちろん冗談だよ」
「もう」
「ゴメンゴメン」
「それより先生、いつにしますか?」
「なんの話だっけ?」
「三重の旅です!」
「本気で?」
「もちろん本気でです!」
「ん・・・」
先生が「ん・・・」って言ってる間に・・あーあ、着いちゃったじゃないですか!もう先生!