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デート

色々あった一週間が過ぎ、今日は日曜日だ。何もないより、色々あった方がいいじゃないか!なんて人もいるかもしれないけど、静かに時が過ぎるのもまた素敵なことよ・・。

今日は予定がなんにも入っていない。この春のうらやかな陽射しの中、ぶらぶらと散歩に出てみるのもいいかなあ。

歯を磨き、顔を洗って、軽めのお化粧。今日はブルージーンズで決めてみるか!


でもやっぱりひとりぼっちは退屈である。そして、私は思いきって電話をした。

「はい、龍崎です」

「おはようございます、寿です」

「どうしました?朝早くから。もしかして歯痛ですか」

「違います。あの駿くんいますか?」

「もちろんいますけど」

「いいですか?」

「何がです?」

「駿くんをデートに誘っても・・」

「駿を・・ですか」

「はい」

「ちょっと待ってください」


「駿、駿!理沙お姉さんから電話だよ。お姉さんとデートしませんかだって。電話繋がってるぞ・・」

そんなやり取りが電話の向こうの世界で。


「もしもし、理沙お姉さん」

「おはよう駿くん。あのさ、お姉さんとどこかお出掛けしない?」

「うん、いいよ」


やがて駿くんを乗せたBMW が私のマンションに到着。

「おまたせー!お姉さん」

「いらっしゃーい!」

「あの・・僕はどうしたら・・」

「先生はお家へお帰りください!」

「お帰りください!!」

「はーいだ。じゃあ寿さん、駿をお願いします」

「はい」

そしてBMW は角を曲がった。

ちょっといじけてたかな先生。


「さあ駿くん、どこに行こうか!?」

「どうしようかな・・」

「スカイツリーはどう?」

「だったら東京タワーがいい!」

「東京タワーか、いいわね!」

「お姉さん、行ったことある?」

「近くまではあるけど、タワーに上ったことはないなあ」

「じゃあ決まりだね!」

こうして私と駿くんの初めてのデートは始まった。


板橋区役所前駅から都営三田線に乗り込み、御成門駅を目指した。

「お姉さん、席空いてるよ」

「うん」

「よいしょっと!」

「今日はリュックに何が入ってるの?」

「今日は、ハンカチとジュースだよ。お姉さんの分もあるからあとであげるね」

「ホント!ありがとう」


♪巣鴨

「あっ!巣鴨だ」

「先週の日曜はここからJR に乗り換えたんだよね」

「巣鴨はね、幸ばあの家があるよ」

「ふーん」

「あと・・とげぬき地蔵さんがいるんだって!」

「幸ばあが教えてくれたの」

「うん」

巣鴨かあ・・昔はおばあちゃんの原宿なんて言ってたけど、今もお年寄りが多いのかしらね。


「そうだ駿くん、ガムあるよ」

「シュガーレス?」

「もちろん!」

「じゃあ食べる」

「はい」

「ありがとう」


「地下鉄って土の中にあるんでしょ」

「うん」

「なんで土の中なの?」

地下鉄だから・・こんなの答えになってないな。

「土の上は他の電車や車がいっぱい走ってるでしょ。だからもう地下鉄が走る場所が無いんだよ」

「ふーん」


♪水道橋

「水道橋」

「パパのクリニックがあるところね」

「うん」

「駿くんも大きくなったら歯医者さんになるの?」

「わかんない!」

「何かなりたいものがあるの?」

「ぼく、新幹線の運転手になりたいんだ!」

「そっかあ、素敵な夢だね!」

「パパには内緒ね」

「・・・」パパには内緒かあ・・。

「わかった理沙お姉さん?」

「うん、誰にも言わないわよ」

「あのね、新幹線てすごく速く走るんだよ。300キロだよ!」

「そんなに速いんだ!」

「ぼく一度だけ乗ったことあるんだ」

「それで新幹線が好きになったのね。新幹線でどこに行ったの?」

「ん・・忘れちゃった。でもパパとママと一緒だったよ。どこだったっけなあ・・」

「もしかしてママが生まれた家とか・・」

「あっそうだ!広島だ!」


♪神保町

「神保町」

「うん、ルミお姉さんがいつも利用してるわ」

そこから乗ってきたのはベビーカーを押したお母さん。色の配色からあれは女の子だわ。お母さんは多分、私より若いだろう。

「赤ちゃんだね!」

「うん」

「ほら、こっち見てるよ!」

駿くんはちょこっと手を振ってみせた。それに反応してくれたのは、赤ちゃんではなくお母さん。

お母さんは、ニコッと駿くんに笑顔を返してくれた。

自然に私とも目が合い、軽く会釈を返した。

あのお母さんから見れば、わたしたちは完璧な親子ね!


♪御成門

「御成門だ!」

「さあ着いたよ!」

ベビーカーに乗った赤ちゃんと若いお母さんは、まだこの先も電車に乗るらしい。

駿くんはそれに手を振り、わたしも笑顔をつくり、バイバイを伝えた。


「東京タワーは何番出口だったかな?」

案内板を見るとA 1とある。

「こっちだね!駿くん行くよ」

「うん」


エスカレータを降り表に出る。広がる青空!なんという解放感だろう。

「ううーっ!」私は思わす背伸びをする。

「ううーっ!」負けじと駿くんも私の真似を。


「お姉さん行くよ!」

駿くんは跳ねるような格好で私の前を歩いている。

「駿くん、待ってよー」

「あっ!」

「見えたね!東京タワー」

5分ほど歩いて、私達は東京タワーに到着。

見上げると大迫力の東京タワーが青空を突き刺している!

「駿くん、そこに立って」

「ここ?」

「うん!はいVサイン」

私は駿くんの勇姿をしっかりと写真に納めた。

「ん?」私は一瞬、左の奥歯に違和感をおぼえた。

「お姉さん、どうかした?」

「うんん、さあ上ってみようか!」

「うん」


地上150メートルの大展望台。エレベータに乗ると、あっという間に到着。

「わあー高ーい!」

「ホントね!」

子供は基本的に高いところが好きだ!本能なのかな?

大人になるとその怖さを知り、高いところは嫌いという人が増えてくる。しかし私は違う!高いところが超大好きなのだ。大人として成長してないのかもね?


「駿くんは高いところ好き?」

「うん」

「私も大好きなんだ」

駿くんは、外の眺めに大興奮。東京タワー、来て良かったね!


「痛っ!」

「またさっきのところがズキンときた」

我慢、我慢。


「あっ!駿くん見て、メダルを売ってるよ」

「メダル?」

「東京タワーに上った記念のメダルだって。好きな文字も入れられるみたい」

「わあーカッコいい!」

「ひとつ記念に買おうか!」

「うん!」

「文字は駿くんの名前にしようね」

「お姉さんの名前は?」

「私はいいよ」

「一緒に書こうよ!お姉さんも」

「わかったわ・・じゃあ・・」


『2016 4 17 SHUN and RISA』


「はい出来上がり!」

「やったあ!それでなんて書いたの?」

「2016年4月17日 駿と理沙」

なんかこれだと、恋人同士みたいだね!まっ今日はそれでいいか。駿くんと私のデートだもんね!


階段でひとつ下りると、足下にガラス張りの窓がある。

「駿くん、おそこに立つ勇気ある?」

「ん?」

「ほら、ココココ!」

私は先回りして駿くんを誘った。

「うわっ!」

さすがの駿くんもちょっと怖いかな?

「よっと!ほら、乗っかっても平気だよ」

「うん」

「はい」私は左手を出した。

駿くんは私の手をしっかりと握り、そーっとガラスの上に!

「・・・」顔が強ばってるぞ。

「どんな感想?」

「お・も・し・ろ・い」声が小さいよ。


ジーンズで良かった。スカートだったら下から丸見えだもんね!まあ、こんなとこから覗く人もいないけど。

そして私たちはは、先生の為のお土産をゲットして展望台を下りてきた。


「ん?水族館があるみたいね」

「お魚の?」

「東京タワーに水族館があるなんて知らなかったな」

「お魚みてもいい!?」

「うん、せっかくだから入ろうか」

熱帯魚や金魚それには虫類まで!結構充実した水族館だね!


奥歯の痛みもいつのまにか気にならなくなっていた。


外に出るとまたもや最高の解放感!


「お腹すいたね駿くん」

「ご飯を食べたいところなんだけど」

「なに?」

「あそこ見て!」

「ん?」

「あれ食べたくない!?私はご飯を食べる前に、あれを食べることを提案します!」

「あれってソフトクリーム!」

「正解!」

「さあ急げー」


レストランでご飯を食べて、ああーお腹いっぱい!

こりゃあ少し歩かないといけないな。

私と駿くんは芝公園をゆっくりと散策!

出くわすのは若いカップルばかり。まあ、こっちも彼氏の若さなら負けないけどね!


「これが有名な増上寺よ!大っきいね」

「誰がつくったの?」

えっ、誰だっけ?

「徳川家康・・かな?」

「ふーん」

駿くん、間違ってたらごめん!

大きなホテルに高い建物の数々。ここは東京のど真ん中なんだね。


私たちは日比谷通りを進んでいた。

駿くんにもらったポカリのペットボトルも空に。

春風の気持ちよさに、私達は御成門を過ぎて内幸町まで。

山や緑や小川が無いのはちょっと寂しいけど、ビルに囲まれた散歩もたまにはありなのかな。


板橋区役所前まで戻ると、先生に電話をかけ、駿くんを迎えに来てもらうことに。


やがていつものBMW が到着。

「お待たせ。寿さん、今日はありがとうございました」

「お姉さん、ありがとう!」

「いいえ、こっちこそ楽しかったよ!」

とその時、忘れてた歯痛がまたやってきた。

「うーっ」私は思わず左の頬をおさえた。

「寿さん、どうしました?」

「ちょっと歯痛で・・」

「明日まで我慢できそうですか?」

「痛み止もあるしそれは大丈夫です」

「明日診察しましょう」

「はい」

「お姉さん大丈夫?」

「うん、平気よ」

「痛みがひどいようなら電話くださいね」

「はい」

「じゃあお大事に!」

「理沙お姉さん、バイバイ!」

「バイバイ」


我慢できないほどの痛みではない。いつの間にか忘れてしまうほどの痛み。大丈夫よね。


夜になっても歯痛がひどくなることはなかった。


すると、ブーブー・・スマホが鳴った。

あっ、龍崎先生。

「もしもし」

「龍崎です、歯痛のほうはどう?」

「大丈夫です。今は全然痛みません」

「良かった!心配で・・」

「すみませんわざわざ」

「いえ、でも明日ちゃんとみせてくださいよ、歯!」

「わかりました」

「じゃあ、お休みなさい」

「お休みなさい」


夜はちょっとだけ冷えるかな。厚手の布団だけしっかり体にかけて、私は眠りについた。



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