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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
降り立ったのは天使か悪魔か
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7.おふろタイム1

さてさて、リクエストにもあった定番のお風呂ネタをやろうかと…

………思ったんですが、明後日の方向へ迷走しそうな予感がします。

 案内された勇者様のお部屋は、とんでもなく豪華でした。

 わあ、新鮮!

 魔王城のお部屋は調度から内装から、重厚ながらも「闇!」って感じで。

 それに比べて此方の離宮は、勇者様の趣味か明るい雰囲気。

 同じお城でもここまで違うのかと、何度目かの感想を抱きます。

 特に勇者様のお部屋は青と白を基調に纏められていて、まさに「王子」という感じです。

 勇者様の金髪碧眼に似合う色を、本人も周囲も分かっているんでしょうねー。

 外見も内面も、女性に対する恐怖症さえ除けば物語に出てきそうな完璧王道王子様ですしね。

 ええ、女性恐怖症さえ除けば。

 この欠点一つで、勇者様は凄まじいヘタレと化しておりますが。

 でも恐怖症なんて、外見には出ませんからねー。

 青と白で纏められ、金色が差し色に使われた部屋の中。

 勇者様は本当に、物語か吟遊詩人の歌からでも出てきたかの様でした。


 しかし部屋に案内されても、私達は落ち着いた時間を直ぐには得られず。

 理由:旅の埃。


「お風呂に入って下さい」


 勇者様の離宮を管理するという凄腕サディアスさんに、にっこり微笑まれてしまいました。

 おっと、これはこれは…。

 勇者様の部下なのに、王子様相手にそんな強気で良いんでしょうか!

 でも勇者様は苦笑するばかりで許しておいでで。

 勇者様も、かなり気さくな方ですしね。

 それに身内にお優しいことは、私にだって分かります。 

 一見気安く見えても、これはこの主従なりの関係性なのでしょう。

 勇者様の寛大さが、ある程度の意見を許しているのでしょうね。

 結果、埃まみれのままで綺麗に保たれた離宮を右往左往することを、サディアス青年に意見され。

 私達は身繕いを要求されることになりました。



「ああ、サディアス」

「殿下、いかが致しましたか」

「先程、父上の侍従に帰還を報告する為、謁見の申し入れをした。用意を頼む」

「抜かりなく、衣装の準備は整っております。後は旅の垢を落とした殿下に着て頂くばかりです」

「流石に仕事が速いな」

「驚かれなくても…殿下が帰還の挨拶に向かわれるのは、考えずともわかることです」

「そうか。侍従からも、身支度を調える時間は待って貰える様頼んでいたんだが…」

「殿下がお支度をするだけなので、さほどの時間は要しませんが。殿下は身支度もお早いですし」

「侍従は、一刻(約2時間)の後に呼び出しがかかるだろうと」

「………時間が余っても、無駄と言うことにはならないでしょう。荷物の整理でもしましょうか」

「そうだな………リアンカ達の世話を焼いていたら、直ぐに時間も過ぎるか」


「そう言えば、殿下」

「ん? なんだ」

「お連れの方々はいかがなさるのですか、謁見の方は」

「ああ、俺一人で行くが」

「…連れて行かれないのですか? 陛下や重臣の方々も、お会いしたいのでは」

「いや、正式な謁見に連れて行くのは勇気が…」

「はい?」

「彼等は此方の作法も何も知らないし、いきなり格式張った場に連れ出すのも大変だろう。

それに今日は、旅で疲れているだろうし。今夜は何の予定も入れず、ゆっくり休むつもりだ」

「それでは、陛下にはなんと? きっと面通しを望まれていますよ?」

「父上には明日の昼餐に予定を取って頂けると思う。私的空間なら、多分まだマシだ」

「マシ?」

「…あまり深く気にしない方が良い」

「はあ。ああ、それと」

「今度はなに?」

「今夜は殿下の帰還を祝して夜会をどうかと提案が上がっていましたが」

「それはまた、いきなりすぎるだろう! 今夜は旅の疲れを理由に断ってくれ…」

「明日は逃げられませんよ?」

「どうしてそんな、いきなりの夜会が成立するんだ!?」

「殿下の帰還が決まった時点で、今か今かと待ちかまえた方々が何時でも可能な様に準備を…」

「滅べ、無駄な行動力!」

「殿下………!?」

「はっ…!」

「殿下、口が悪しくおなりですよ……………無用な口の働きは、宮廷では危険だとお忘れですか」

「悪い。今まで誰にも言動を咎められないのびのびした環境にいたから…」

「悪い癖を拾ってこられたんですね。城にお戻り頂いたのなら、気を引き締めて頂かねば」

「本当に、悪い。気をつける」


 …等という会話が繰り広げられる、その横で。

 私達はしゅんと項垂れる勇者様を慰めることもせず。


 遊んでいました。


「きゃあ…!」

「うふふー! リャン姉様、見つけましたの!」

「見つかっちゃった! さあ、まだ見つかってないのは誰?」

「ロロとあに様が未だですの!」

「わあ、手強いのが残ったわねぇ…天井裏はもう見た?」

「まだですのー。リャン姉様、一緒に見てほしいですの」

「梯子もってこーい!」


 私達は、勇者様のお部屋探険がてら堂々と(かく)れん()に興じていました。

 ちなみにせっちゃんとリリフ&ロロイの提案です。

 ふふふ…三人ともまだまだ子供なんだから!

 そう言いつつ、私も全力で楽しんでいます。

 だって私も未だ未成年(コドモ)だもん!

 大人げなんて、全然ないもーん!


「お、お客様…! そのへんで、そのへんでぇ!」

 流石に人様の部屋なんで破壊しない様に気をつけながらも、天井板を引っぺがし始めた私達。

 私達の接客を任された侍従の人は、涙目になっていました。


 それを平然と放置している勇者様の精神に、鋼へと続く成長の一端がちらりちらりと垣間見え。

 私達の方をチラチラ見て気にしながらも、サディアスさんの顔が青くなっていきます。

 でもサディアス青年は勇者様が何も言わないので、自分から注意することもできず。

 主へと訴えかける様な視線をぶつけるけれど、勇者様は「何か問題が?」と首を傾げ、傾げ。

 勇者様、私達に自分でも気づかないうちに物凄く慣れていますからね…。

 この程度のはしゃぎようじゃ、もう問題にも思わないのでしょう。

 多分、調度品を破壊しない限りは好きにさせてくれるものと思います。

 以前の勇者様なら、室内ドタバタには必ず一言二言注意をしてきたでしょうけれど。

 私達の悪ノリ、悪巫山戯。

 それを身を以て体験した勇者様は、ある程度平和的な遊びは放置しがちです。

 自分の主が少なからず手遅れな方向へ変化したのを感じ取ったのか、青年が冷や汗たらり。

 

 ふふふ…変わったモノは、戻らない。

 勇者様が失ったモノも、戻らない。

 本人の自覚が薄くても、変化は着実に積み重なっている様でした。


 

 さて、私達が遊んでいる間に勇者様とサディアス青年の話し合いは纏まったようです。

 途中、私達の話題も出ていたようですが…。

 この国のことは何も分かりませんからね。

 でもこの国の人間である勇者様は、私達のことをよく分かっています。

 そして勇者様は、私達に対して優しい。

 だからきっと、私達の予定であっても勇者様に当面はお任せしていて問題ないでしょう。

 私達の許容量とか沸点とかを考えて、大丈夫な範囲で調整してくれるでしょうから。

 これも一種の信頼です。

 決して、仕事を押しつけている訳じゃありません。

 だって、こっちのこと本当に分からない。

 こんな状態で予定を振られても、内実が分からないので大丈夫かどうか判断できませんから。

 滞在中に、少しはこっちのことが分かる様になれば良いんですけど…

 その辺は、後で合流するだろうむぅちゃんにも意見を聞いてみましょう。

 既に先行して此方に滞在していたむぅちゃんなら、ある程度の情報は集めているでしょうから。

 ………薬草園や調剤法に夢中になって、寝食を忘れる様な状態になっていなければ。


 わ、とっても不安!

 やっぱり私達が頼りにできるのは、当面は勇者様だけのようです。

 頼りにするだけなのも悪いので、何かお返しができないかなぁ。

 ちなみに、勇者様に恩義を感じて大人しくするというつもりはありません。ええ、毛頭。


 しかし遊んでいる内に、私達は更に埃まみれ。

 流石に、マズイですかね。


「………リアンカ?」

「あ、あはは…勇者様、何?」

「此処は、誰の部屋?」

「勇者様だねぇ」

「埃まみれの体で、汚そうとしているのは?」

「私とせっちゃんとまぁちゃんと、あとロロイとリリフ、かな?」

「……………」

「……………」


「風呂」


「Yes,sir.」


 一言で命令が来ました。

 笑顔で問答無用と暗に語っています。

 ええ、流石にヤバイと思っていましたから。

 私は素直に敬礼を返し、一も二もなく指示に従うことにしました。

 そのまま勇者様の部屋に用意された浴室で、全身磨く決意を固めました、が。


 ………が、ここで問題が大発生です。


 環境と風習がかなり違うから、こちらのお城方式の入浴方法がわからない。

 いや、バスタブの使い方くらいは分かりますよ?

 でも水の処理法とか、石鹸や薬液の使い方とか。

 こっちは色々と魔境とは違う小道具を使う様なので、使用方法が謎です。

 こんなに違って、勇者様はよく我が家の風呂を一発で使えたモノですね…。

 ああ、でも勇者様は自力旅の後だったので、移ろいゆく風習を我が身で経験していたのかも。

 しかし私達は裏技も裏技、竜の背に乗ってこんにちは、でしたから。

 いきなり大陸の東端から西端にやって来て、ガラリと違う文化にもこんにちは、ですよ。


「勇者様、これ、一人で入れない…」

「最初から、一人での入浴前提じゃないんだが…」

「と、仰いますと?」

「此処は城だぞ? 使用人に磨いて貰うことが常識だ」

「あー………、成る程」


 ああ、ソレで…。

 道理で無駄な小道具が多いと思ったよ…。

 自分で使うんじゃなくて、他人に使ってもらう用の様式なんですね。

 言われてみれば、まぁちゃんのお城も入浴は他人のお世話になっていますが。

 一応、私も年頃になってから誰かに入れてもらったことはありませんよ…。

 お風呂は一人ではいるモノ、それが我が家の常識です。

 まぁちゃんも面倒がって一人で入浴しているそうです。

 でもせっちゃんは侍女に入れて貰うのが普通。

 髪の毛も凄く長いですからね。

 アレは自分で手入れできる長さじゃない。

 

 さて、ここで更なる問題が発生しました。


 Q.勇者様の離宮に出入りできる使用人の男女比率は?

 A.男100%


 この離宮には、女性の使用人がいない…!

 そして勇者様の身の安全を図る為、女性は使用人でも基本立ち入り禁止!


 ………え、これ、どうするの? 

 



まぁちゃんが怖い笑顔を浮かべながらも、言いました。


「次に続く。勇者てめぇ、どうするつもりだ?」

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