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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
降り立ったのは天使か悪魔か
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6.勇者様の宮

 竜はどうしますか、と問われました。

 恐る恐ると、竜に近寄りたくなさそうな兵士さん達。

 でも王子様の騎獣です。

 放っておくことなど、兵士さん達の職務上許されないことでしょう。

 だけどそもそもお城の厩舎は馬…大きくても、それを一回りか二回り大きい程度の獣用。

 人間に扱える範囲の獣を想定して、お城の獣舎は作られているそうですから。

 当然、竜なんて入りません。

 リリフやロロイなら辛うじて入らなくはないかもしれませんが…。

「その、馬や犬が怯えてしまうので、言いづらいのですが…」

 置き場がないと、言いたいのでしょう。

 でもそれは、無用の心配です。

 本人…本竜達もそう思って、でしょう。

 自分の扱いを悟ってぶすっとしているナシェレットさんは、そっぽを向いていますが。

 せっちゃんの頭を甘噛みして遊んでいたロロイが、首をあげました。

「心配には及ばないさ」

「ひぃっ しゃべった!?」

「…この辺、亜竜しかいないのか」

 自分の一挙一動に怯える兵士に、ロロイはちょっと困り顔。

 …というか、せっちゃん。

 いつの間になんて遊びを………

 危険はないと分かっていても、頭を食われる美少女って凄い図ですよ。

 私の隣、引き攣った顔の勇者様が呟きます。

「シュールだ…」

「さっきまで、尻尾ぶらんこで遊んでいたはずなんですがねー…」

 どこいった、平和な昼下がり。

 のんびりまったりしていたはずの、この時間。

 気付かぬうちに、あっという間に猟奇的な午後と化していました。

 わあ、兵士さん達の顔も盛大に引きつってる…!

 まぁちゃん、見てないで止めようよ。

 せっちゃんの髪の毛、唾液でべたべたじゃない!


 その後、ロロイとリリフは一瞬で人の子供に似た姿に転じ。

 見物していた群衆の度肝を抜いて、腰を抜かせました。

 ナシェレットさんの方は、まあ、相変わらずの扱いです。

 勇者様のお持ちの、例の壺に封じ込まれましたよ。通常運転ですね。

 壺の口にお札をぺたぺたと貼りながら、勇者様が遠い眼をしています。

 最早、この程度のことでは驚かなくなっている勇者様。

「俺は…随分と遠くまで行ってしまったんだなぁ」

「まだ極めてはいないから大丈夫ですよ☆」

「いや、そもそも馴染みたくなかったんだけどな…」

「失った基準、失くしたあの頃は取り戻せませんよ?」

「はぁ……どうしてこうなったのかな」

 それは勇者様が魔境に来た時点で、(あらかじ)め定められていいたのでは。

 思ったけれど、言いはしませんでした。

 でも言われずとも自分で分かっていたのでしょう。

 達観したような苦笑いを浮かべて、勇者様はぽんぽんと私の頭を撫でてくれました。



 私達は、あれです。

 予期せぬ客人ということで。

 でも勇者様の奥にレベルの王城だと、突発的なお客様の二百や三百は軽いそうで。

 それは凄いなと、素直に思いましたけど。

 でも私達のお部屋は、客間用の離宮とは別に用意されることになりました。

 主に勇者様の安心と、自衛の為。

 そして私達の身の安全の為に。

 あと、国が滅んだりしないように?


 まぁちゃんもせっちゃんも、大層な美貌です。

 それに惑わされて馬鹿をやらかす愚か者がいないとは言えません。

 それに超大物の勇者様が連れてきたということで、余計な注目を浴びるでしょう。

 それも内二人は年頃の女の子。

 あの(・・)勇者様が女性を連れてきたというだけで、どう見られるのかは予想できるというもの。

 まぁちゃんなら、自力でいかようにも露払いができるでしょう。

 でも私やせっちゃんが何かの拍子一人にでもなろうものなら…わかりませんね?

 せっちゃんは人間が個人でどうこうできるような女の子じゃありません。物理的な意味で。

 でも、凄い世間知らずの箱入り。おまけに天然。

 実力ではどうにもできなくても、もしかしたら言葉巧みに騙されるかもという懸念は拭えません。

 私の方はただの人間だし、それこそ力づくが通用してしまいます。

 …かなり、不本意ですけど!

 もしもの時には報復の用意がありますけど、私は人間ですから。

 万が一ということが、どうしたって起こり得る訳です。


 変な因縁つけられてちょっかいを掛けられることを、誰より恐れているのは勇者様でしょう。

 まあ、私やせっちゃんにもしものことがあれば、ナチュラルに国が滅びますからね。

 場合によっては周辺諸国も巻き添えです。

 それ以外にも、私達…というか、まぁちゃんとせっちゃんの素情の件があります。

 余程のことがあろうと、二人が魔族だなんてばれることはないと思いますけれど。

 念には念をと、勇者様が食い下がります。

 あと、女難の災禍が怖いのでできれば傍にいた方が安心だとか。

 勇者様自身の自衛は、もうライフワークだそうですけど。

 女の執念は何をやらかすかわからなくて怖いと、悲惨な実体験に裏打ちされた必死なお声。

 私達に女性の怨念が向かうかもしれないと、案じておられます。


「だから、傍にいてくれた方が安心できる。宮を分けては、いざという時に助けにもいけない」


 まぁちゃんがいるから大丈夫とも、今回は言えません。

 どんな隙を突かれるかわからないということもあります。

 男女ということで部屋を分けると、まぁちゃんとも部屋が離れてしまいますし。

 いえ、このレベルのお城ではお客様は一人一部屋が普通とのこと。

 それでは、ますます助けが間に合わないかもしれない。

 だから勇者様は私達の部屋に口を挟んで、案内しようとする侍従を食い止めました。


「彼らは俺の大事な客であり、親しい友人だ。友人だからこそ、俺の宮で面倒を見る」


 そう言って、問答無用で私達を勇者様は連れ出しました。

 勇者様のお住まいであるという、王城内の離宮の方まで。

 そこは一人で住むにも十分すぎる程に広く、十人二十人のお客は大丈夫とのことで。

 案内された先は、確かに言われた通りの広さを誇っておりました。


「「「「殿下、おかえりなさいませ」」」」

 

 勇者様に仕える、使用人達が列をなしてお辞儀してきます。

 離宮の入り口まで出てきて出迎えてくれたのは、見事に男・男・男…と全員野郎です。

 あれ、普通は女の使用人さんもいるものじゃ…

「………」

 勇者様が、私の疑惑の視線を笑って誤魔化します。

 私の方も、勇者様の顔を見てすぐに察してしまいました。

 そうですよね…身の安全を取るなら、傍に女性は置いておけませんよね……。

 徹底的に女性の排除された離宮の中。

 これから暫く、この離宮に出入りする女性は私とせっちゃん、そしてリリフだけ。

 …それ、大丈夫なのかな?

 首を傾げる私に、勇者様の貼り付けたような笑みが深まります。

 額には、冷や汗がたらり。

 ふいっと目を逸らして、使用人の筆頭にいた青年に声をかけます。

「サディアス、客だ。五人分の部屋を用意してもらえないか」

「お客様ですか?」

 伏していた顔を上げて、青年は主の背後にいる私達を確認。

 次いで、目が限界まで見開かれました。

 視線の先は、言うまでもなく私とせっちゃん。

「で、殿下…! お客様ですか!?」

「言いたいことはわかる。だけど彼女達は大丈夫、俺の大事な友人だ。だから心配しないでいい」

 …この、深刻そうなお顔と声。

 この主従、というか勇者様…本当に今まで、どんな目に遭遇してきたんでしょう。

 まあ、聞きませんけど! 聞きませんけどね!

「……もしや、お妃候補で…」

「変な邪推はよせ」

 聞き取れないくらい小さな声で、サディアス青年が何事か呟いていましたが。

 それがはっきりとした声となる前に、勇者様が何故かサディアス青年を殴りました。

 何故でしょう? 首を傾げて見ていたらふいっと目を逸らされました。

 私は我ながら、きっと怪訝な顔をしていました。

 そんな私の様子から目を背けながら、勇者様が私達にサディアス青年のことを紹介します。

「皆、彼はサディアス。アディオンの弟で、俺の宮を取り仕切ってもらっている。

何か困ったことや不明なことがあったら遠慮はいらない。気安く聞いてやってくれ」

「はい!」

 そう言った瞬間、しゅびっと私が手を挙げた。

「り、リアンカ…何か不明な点が?」

 勇者様、今一瞬、肩がびくっとしましたね?

 見逃さなかった私は、それでも笑顔で断行します。

「むぅちゃん達もこっちに泊っているの?」

「あ、なんだ…ムー達のことか」

 それ以外の何だと思ったのか、後でじっくり追求してみましょう。

 笑顔の下でそんなことを考えながら、私は答えをお待ちします。

 答えをくれたのは、サディアス青年でした。

「ムルグセスト様、サルファ様でしたら確かに此方でお世話させていただいております。

今は留守になさっていますが、お呼びいたしましょうか」

「いえ、いるのが確認できたのなら十分です。後で落ち合いますよ」

 私はそう言って引き下がり、勇者様は私の疑問が一応の解決を迎えたのを感じてか、今度はサディアス青年に私達の紹介を続けました。

「サディアス、彼らは俺が魔境で世話になっている大事な友人だ。

彼らの部屋は俺の部屋の近くに用意してくれ。扱いには特に注意し、呉々も丁重に扱ってほしい」

「承知いたしました」

 勇者様のお顔は、自分の言った通りにサディアス青年が振舞うことを疑っていない顔で。

 それだけで、主従の信頼が窺い知れます。

「ところで殿下。兄の姿が見えないようですが…兄は、どちらに?」

 勇者様の笑顔が、びしっと凍り付きました。

 さあ、答えにくい質問が来ましたよー!

「アディオン、アディオンか…」

 言い難そうに視線を(うつむ)ける勇者様。

 それに何やら最悪な想像をしたのか、顔を青ざめるサディアス青年。

 多分、サディアス青年の予想は外れだよ(笑)

 意を決して、勇者様が理由を言ったから。

「その、乗員オーバーで置いてきた…」

「じょ、乗員おぉばぁ…」

 そんな理由で魔境に置き去りにされた忠義の人、アディオンさん。

 常識の通用しない魔境で、彼は今どうしているのか…。



 ~その頃、魔境~

「どうしてアスパラガスに足が生えてるんですかー!?」

 走って逃げて行くアスパラを前に、アディオンが顔を引きつらせて叫んでいた。



 行きは私と勇者様、まぁちゃんやせっちゃんだけだったけれど。

 帰りはむぅちゃんとサルファがいます。

 あの二人を乗せて帰ることを考えると、アディオンさんを連れてくることはできず。

 スペース的に、ちょっと余裕がないかなーってことで。

 別に、連れてくるだけ連れてきて、帰りは置いていくっていうのなら話は別です。

 でもアディオンさんは、今後も勇者様の側近くで仕えたいとご希望でして。

 魔境にとって返すつもりでは、帰りが許容量越えてしまいますから。

 だから仕方ないと、私達は笑顔で手を振りアディオンさんを置いてきました。

 ドンマイ、アディオンさん!

 



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