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60.虎視眈々

いつもよりも約2000字前後と少し短めですが。

キリが良いので、いったん此処で切ります☆

 勇者様の里帰り四日目。

 お忍びでの城下町見学を前に、私達は朝ごはん。

 その席の最中、私は獲物を定めた猛禽のように狙っていました。


 勇者様の変装を、台無しにする機会を。


 勇者様の衣装は、どこぞの学校の制服とのこと。

 それって、簡単お手軽ぽんとすぐに入手できるものじゃないと思うんですよね。

 だったら手っ取り早く、衣装を駄目にしちゃえ☆

 そんな天啓が、私を優しく唆します。

 でも、見落としてるものは無い?

 本当に台無しにするだけで万事うまくいく?

 

 直ぐ側、シズリスさんも勇者様と同じ服を着ています。

 でもシズリスさんと勇者様は体格が違うから、同じ服はシェアできない。

 だからシズリスさんの衣装を代わりに差し出すという展開は避けられるはず。

 無駄に有能なサディアスさんが、他に新しい衣装を持ってくるかもしれないけれど…

 そのあたりを踏まえ、後顧の憂いをどう断とう?


 ちょっと思い悩みもしましたが、結局は脳内GOサイン。

 悩む時間が勿体無いので、手っ取り早くやってしまおうと思いました。

 それで更に追加で違う服が出てきたとしても、その時はその時。

 出てくる順に、次々とお終いに導いてしまえば良いことだと思い切りました。

 

 私は本当に、今日を楽しみにしていたんです。

 目的を達するためなら、手段は選びません。

 私は勇者様に望む服を着てもらうため、鬼にもなりましょう………!

 

 断固とした決意を固めちゃってる私に、勇者様は悪寒でも感じたような顔で。

 ふるっと肩を震わせ、ついで不思議そうにきょろきょろと視線を巡らせていました。


 …相変わらず、大変勘がよろしいようで。

 これは、下手すると悟られそうですね。

 時機を計り、失敗しないように身を引き締めないと…


 ちなみに私の狙いは昼食の席に堂々と鎮座するトマトソース風味のスープです。

 鶏がらの出汁がよく効いてるね☆


 後はこれで大惨事を引き起こすタイミングですけど………


 勇者様がどれだけ気を張っているのか、試しに小さなちょっかい。

 あえて今事を起こすことで、本命の攻撃を隠すため。

 物は試し、上手くいけば儲けもの。

 さり気無く、隣に座る勇者様にかかるよう、角度調整した上で………


「リアンカ、どうした?」

 

 にぃーっこり。


「いえ? なんでもありませんよ?」

「そう?」

「ええ、本当に」


 ………かけようとしたら、その瞬間。

 勇者様に腕を取られて止められました。

 駄目だ、読まれています。

 こうなると、生半可な隙じゃ目的を達せられません…!


 だけど、飛び切り素敵な機会。

 勇者様の注意を逸らしてくれる機会が、いつか必ず来るはずです!


 

 それは、折りよく向こうからやってきてくれました(笑)





「あにうえーっ!!」


 扉、バーン!


 いきなりの大音声と勢いの付いたドアがけたたましく壁にぶつかり、跳ね返る音。

「ぶふぉぁ!?」

 丁度お茶を口に含んだところだったサルファが、勇者様の隣で盛大に吹き出しました。

 びっくりしたんだね、サルファ。

 だけど勇者様は、アンタの吹き出しっぷりにより驚いたみたいですよ。よくやった。

 正面から叩きつけられるような二つの音。

 ドアと「あにうえー」に気をとられ、次いで隣のサルファに驚き首を巡らせて。

 波状攻撃の如き連鎖反応で襲ってきた驚きに、勇者様の注意は完全に逸れています。


 やった、この瞬間を待ってました。

 

 今です、とばかりに。

「あーれ~…手が滑った!」

 棒読みだろうと何だろうと、そういう形さえ整っていれば、言い逃れには充分。

 手が滑ったとか言いながらも、明らかに故意に。

 私は手の届くところに置いてあったスープ鍋を両手で鷲掴み。

 それからバケツの水で小火を消す時のような勢いで。


「どこからどう見てもわざと以外の何物でもないだろーっ!?」


 勇者様の全身に向けて、たっぷり残っていた中身をぶっ掛けました。


 勇者様は、絶叫虚しく。

 来ると知覚してながらも、朝食のテーブルのこと。

 深く椅子に座っていたため、咄嗟に避けることも敵わず。

 更に言えば、盛大に飛散しながら襲い来る液体状の攻撃ですから。

 降り注ぐ赤い豪雨を、ナイフとフォークで防ぎきることも出来ずに。

 そしてお行儀が良い故に、有効な手も取れない。

 盾になりそうなお皿から食物を払い落として使うことも躊躇い、できずにいる内に。


「し、しまったーっ!!」


 哀れ、勇者様は香辛料の香る液体で赤く染め上げられてしまいました。

 食事時だからとケープを脱いでいたのが、運の尽き。

 ケープ一枚で防げたら、まだ誤魔化しようがありました。

 しかし結構油分の強い液体でしたから。

 全身に浴びて、狙い通りに大惨事。

 ベストとスラックスは、色合い的にはそこまで目立ちませんが…

 スープで薄められているとはいえ、それでも油分が命取り。

 ああ、上等な布だったのが更に幸い。

 ぎとつく液体にやられ、ノリのパリッと利いていた衣服は駄目になってしまったのでした。

 目的達成、やったね☆



 一瞬にして余裕の源・完璧な変装を駄目にされ。

 勇者様は愕然とした顔で、暫し硬直しているのでした。




勇者様の余裕は、一話限りの宿命でありました☆

たった一話で木っ端微塵!

やっぱり勇者様にはこんな展開が似合います(酷)

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