表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ、薬草園へ行こう!
54/182

53.しょっぱい薬草、癒し系の薬草

延々、治療の際のあれこれ。

ナシェレットさんと勇者様の治療中。

 スピノザさんが言いました。


「ふん…もはや勝負など、どうでもよくなってきたな!」

「同感です」


 こっくり頷く私。

 そんな私の反応に、盛大に転ぶ勇者様。スライディングも上手いね!

 予想通り…みたいな、したり顔で頷くまぁちゃんとロロイ。

 

 ええ、何と言いましょうか。

 予想以上に面白い体をしていたナシェレットさんのお陰でしょうね(笑)

 奴の身体を二人弄り倒す、初めての共同作業(爆笑)

 その時間を得たことで、私とスピノザさんは共感を得まして。

 ナシェレットさんの鱗を調べているうちに、格段に親しくなっていました。

 そう、もう勝負などどうでも良くなるくらいに。


「本末転倒過ぎる…!」


 勇者様が何やら地面に伏せて嘆いていました。

 …が、割と良く見る光景です。

 ですので、ちゃちゃっと黙殺してあげました。

 

 探究心ばかりが先に立ち、ナシェレットさんの全身の治療は割とおざなり。

 一番酷い額の傷を後に回して、全身の裂傷に薬を擦り込んでいきます。

 それもうんと染みる奴。

 勿論、薬はその場で作りましたよ。

 手持ちの材料が足りないので、むぅちゃんに都合してもらったりしながら調合します。

 その手元を興味深そうな顔で、スピノザさんが覗きこみ。

 気付いたら、お薬談義をしながら一緒にお薬を作っていました。

「リアンカ嬢の見識は、中々に興味深いな!」

「ふっ……それほどでもあるでしょう?」

「ああ。今まで思ってもみなかった発想の宝庫だ! 今度、是非とも一緒に共同開発してみないか? 珍しい素材が手に入ったことだしな」

「それ、ナシェレットさんの血肉ですか?」


 ちゃっかりさりげなく、スピノザさんは竜の生き血を採取していました。

 あれ、取扱には厳重注意が必要なんですけど…

 まあ、どう扱うかはスピノザさんの自由でしょうし。

 ちなみにナシェレットさんから許可を得ようという発想は最初から無いようです。

 それに探究心の前に、彼は人の制止を聞きそうにありません。

 なので放置です、放置。

 ちょっとは親しくなりましたけど、喧嘩覚悟で止めてあげるほどじゃありませんし。

 困った事態になっても、自業自得。

 でも多分、スピノザさんは自分がどんなことになろうと、研究さえできるのなら困らないんだろうなぁと思いました。


「それは水虫の薬の研究素材にする。丁度、私的なパトロンから開発依頼が来ていてな」

「あれ、お城勤めが私的にパトロンなんて持っていて良いんですか?」

「駄目に決まっているだろう」

「真顔で言い切りましたよ、この人!」

「ただ私のパトロンは城の重鎮でな。その辺り、お目零しをいただいている」

「黒い大人の世界! ………ちなみに、何方のことですか?」

「名前は忘れたな。だが確か、異名が『おうさま』だ」

「パトロンの名前を忘れちゃってますよ、この人!

というか、水虫の薬を依頼したの、あの人ですか!」

 ふと我に返ってみれば、和気藹藹。

 ちゃちゃっと手元を動かしながらも、一緒に口も動いていまして。

 色々聞いちゃいけないような、そんな話もたくさん。

 うっすら城の暗部の香りがするような話まで雑談に混ぜ込みながら。

 灰色路線まっしぐらな話をしている内に、手元では薬が完成していました。

 リアンカちゃん特製、きーずーぐーすーりー!

「スピノザさんなら、この薬になんて名前を付けますか?」

「む? そうだな、キズキエ~ルZ…など、どうだろうか」

「ダサっ! でもそのダサさが逆になんかツボです」

 そうして私達は、キズキエ~ルZを竜の全身に塗布することにしたのです。


 出来上がった薬を塗って、包帯を巻けば大体は完成。

 全身ぐるぐる包帯竜。

 取り敢えず竜の皮膚を貫けるような針などないので、縫合はしません。

 そもそも、竜の回復力なら縫合は必要ありません。

 ――本来なら。


 サルファの功績が、凄いんです。


「サルファ…一体、どうやったの?」

「てへ☆」


 全身が大体終わって、じっくり腰を据えて額の傷を診ようとしたんですが。

 そこで私は吃驚しました。


 ナシェレットさんの額の傷が、全然塞がらないんですよ!


 何となく軽く診察したあたりから、この傷は残りそうだなぁと思ったんです。

 だけど皮膚が塞がらない上に、傷口も乾かない。

 血が、だらだら。

 お陰で危なくて、うっかり触ることもできません。

 私はお仕事中には手袋をつけているので、問題ありませんけど。


 ナシェレットさんの額の傷は、一生モノになりそうな気がします。

 一応、今後の経過次第でいくらか薄くなっていくと思うんですけどね。

 それでも完全に消えるとは、言いきれません。

 まあ、ナシェレットさんは男だし。

 勲章、勲章!

 そう言って、誤魔化しておきました。

 傷口が乾かないと治療ができないので、乾かす為の薬や止血の薬を調合。

 その間にもできることはないかと、圧迫止血をスピノザさんが提案。

 でも、竜を相手に圧迫止血は加減が難しい。

 私達人間の手では竜皮が強すぎて力が足りません。

 だからといって、竜にやらせると加減を間違えて逆にざっくりいっちゃいそう。

 どうしようかなと思ったら、まぁちゃんが手伝ってくれました。

 …と思ったら、違いました。


 手伝うふりして、駄竜を嬲りに来ただけだったようです。


 圧迫止血するふりして、ぎりぎりとアイアンクローは止めてあげて。

 傷口が乾かないどころか、血が噴くから。

「危なくて近くにいられないじゃないですか!」

「あ、わりぃ」

 ん? ナシェレットさんの心配?

 ご期待に添えず申し訳ありませんが、全くしていません。

 私、敵対している方の身を案じるほど、お優しくないんです。


 そして私とスピノザさんは。

 初めて作った謎の痺れる液体をナシェレットさんの傷に万遍無く掛かるよう。

 それはそれは盛大に、ぶっかけました。


 染みたのでしょうか。

 染みたのでしょう。

 ナシェレットさんの筆舌に尽くし難い悲鳴は、長く耳に残ったのでした。


 一応言っておきますが、最終的にはちゃんと手当てしましたよ。

 それで患者の身を案じられない薬師失格な部分にはめを瞑ってください。

 まあ、ナシェレットさんに大目に見てもらおうなんて、微塵も思ってはいませんでしたが。

 全身の傷は額を除いて奇麗さっぱり消えました。

 額の傷は残念でもありませんが、やっぱり今後も残りそうです。

 そこのところは、薬師としての技量を問われているような気分になってしまい、思うに複雑。

 いつか再挑戦して、その時こそナシェレットさんの額の傷を抹消させて見せましょう!

 そんなやる気を出させてくれる、ナシェレットさんは何とも哀れな実験台でした。



 その次は勇者様の番。

 勇者様には駄竜相手ほど手荒になんて、とてもじゃないけど扱えません(笑)

 控えていて貰う間に、簡単な応急手当てはご自分で済まされたようで。

 血は綺麗に拭い取られ、裂傷は水で汚れを落とされた後。

 止血も正しく行われていて、どこかで指導を受けたことがあるのかも知れません。

 まあ、普通に戦闘指南役か誰かが教えたのでしょうけれど。

 そして打撲箇所はロロイが提供した氷で冷やされていました。


 勇者様のできる範囲で手を入れられるところは、きちんと入れられていて。

 だけど彼は、普通の薬が全く効かないから。

 後は私の薬待ち状態で、困った顔のまま待機していました。


「お待たせしました、勇者様!」

「できれば、いつもの薬でお願いしたいんだが…」

「それが一から調薬する決まりなので!」

「………そうか」

 

 あれ、勇者様ったら目が虚ろですよ?

 ご安心あれ!

 すぐに素敵な薬を調合してご覧にいれますから♪


「そうと決まれば、材料捕獲(・・)です!」

「待て」

 

 踵を返そうとしたら、身を翻すより早く勇者様に肩を掴まれました。

「材料調達(・・)じゃなくて、捕獲(・・)………?」

「はい、何か問題が?」

「何を捕まえてくる気だ、何を!」

「…聞きたいですか?」

「……………」


 黙り込んじゃった勇者様の疑問は、笑顔で封殺!

 私はててっとまぁちゃんの元へ駆けよります。

 腕によりをかけましょう!

 だって勇者様の為のお薬は、生半可な物じゃ駄目。

 おざなりでも適当でも駄目。

 特別なお薬は、特別な材料と特別な手順、特別な製法じゃないと!


 という訳で。


「まぁちゃん、ちょっと欲しいものがあるんだけど…」

「ん? なんだ?」

「えーとねー…鷲獅子(グリフォン)水精(ウンディーネ)と、首無し馬の……」

「何を呼び出す気だ、リアンカ!? というか、それは薬の原料なのか!?」 

「勇者様………悲しいことですが、世の中には知らないほうが良いことも多いんですよ?」

「その台詞を、何で今この時に選んだんだ!?」


 原料を魔王陛下(まぁちゃん)に呼び出してもらおうとしたんですけどね?

 何故か勇者様にいつになく強引な勢いで止められました。



 私の原材料調達案を激しく拒否した勇者様。

 仕方ありません。

 (たま)には植物性百%で調薬しますよ。たまには。


「それができるなら、初めっからそうしてくれ…」


 勇者様が何故かがっくり項垂れていましたが、傷でも痛むんでしょうか?

 よしよしとさらさら艶々な頭を撫でてみると、子猫の毛みたいで物凄く気持ち良い。

 勇者様の髪の毛って、凄く綺麗なんですよ。

 特別なお手入れをしている訳じゃないのに、この行き届いた感じはなんでしょう。

 平気で野宿とかして、本来であればビシバシに傷んでいてもおかしくないのに。

 勇者様の頭に触る度、そんな疑問に首を傾げます。

 手触りがあまりにも、良いから。

 ついつい、私は少しの時間を割いて勇者様の頭を撫で続けました。

「勇者様、元気だして?」

「元気を奪い取っている本人が言う台詞なのか…?」

「なんと、そうだったんですか?」

「自覚なしか、リアンカ!?」

 驚愕に目を見開いた勇者様は、ぱっと顔を跳ね上げて。

 その拍子に私の手は勇者様の頭から離れてしまいました。

 あの魅惑の手触り。

 少々惜しいと思ったのは、ほとんど無意識でした。

「勇者様、勇者様の髪の毛で子猫のぬいぐるみ作ったら、きっと凄く素敵になると思うよ?」

「藪から棒になんだ突然。髪の毛を狙われても、渡す気はないからな?」

 怪訝そうな顔でそういう勇者様。

 彼は、自分の髪がどれだけ美しいか知らないんでしょうか。

 所詮、男の人だからかな。

 勇者様は、ご自分の髪にはあまり頓着なさっていないようでした。




評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ