表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ、薬草園へ行こう!
50/182

49.過激な薬草、刺激的な薬草

戦いまで入りきりませんでした…

勇者様の活躍は、また次回w

「それで、勝負方法はなんだ!?」


 真っ向からスピノザさんに問われて、正直私は困りました。

 ノリと勢い、大事。

 だけどどうしようかな。

 今更、実は何も考えていないとは言い難い雰囲気。

 さて、どうしましょう。

 どうやって彼を煙に巻きつつ、私にとって有利な勝負へと持ち込みましょうか…

 私には暫し、思案の時間が必要なようでした。

 まあ、結局はノリと勢い任せに決断するんでしょうけれど。



 貴重な実験体(ゆうしゃさま)の存在を賭けて、戦うことになった私とスピノザさん。

 でも私、戦闘能力ないから戦えないんだよね☆

 さあ、最初から勝負条件が破綻しています……!

「どうする、勇者様?」

「いや、そこで俺に振るのか!?」

 いきなり話を振ったら、勇者様も混乱(パニック)に陥りました。

 そんな私達の額にこす…っと、まぁちゃんの軽い手刀一発。

「落ち着け、お前ら」

 呆れたような眼が、心に痛いよ!

 ひょいっと肩を竦めて、むぅちゃんも「やれやれ」みたいな顔をしています。

 でも、むぅちゃん。

 貴方にだけは呆れられたくない。

 この薬草園の状況を見るに、既に何かやらかしてるっぽい貴方にだけは…!

 

 私の眼差しに込められた「不服!」という言葉に気付いたのでしょう。

 実質無計画な私に知恵を授けてくれたのは、むうちゃんでした。


「要は薬師同士の決闘だよね…だったら、薬の知識と技術の優劣を競うしかないんじゃない?

深く考えず、ガツンとかませば?」

 

 目から鱗が落ちたような心地でした。

 目の前が、ぱあっと明るくなった気分。

 背後から「薬師がガツンとかましてどうする!?」という声が聞こえた気もします。

 しかし今は明るくなった目の前が重要なので後ろは振り返りません。

 そんな私とは裏腹に、勇者様が頭を抱えています。

 …が、いつものことなので黙殺しました。


 そう、競うのは薬師としての腕と知識。

 私と彼は魔境育ちと人間の国育ち。

 その知識の根幹を成すものも、作る薬の系統も異なりますが。

 それでも、薬なんて言ってしまえば効けば良いんです!

 その効き目の善し悪しに、優劣の差があります。

 …ただ、知識の基礎的な部分で常識が異なりますからね。

 薬師としての知識面で勝負はできそうにありませんが。

 でも、実践は得意です。

 それを競うというのなら、それこそ私の望むところ!

 私は意気揚揚、スピノザさんを上から目線に見下します。


「勝負方法は?」

「傷病人の診療・処方十本勝負でどうですか!」

「のった!」


 …と、提案しておいてなんですが。

 薬師として、患者の治療に勝負事を持ち込むのはちょっと抵抗があるんですよね…

 これが気心の知れた友人知人なら、問題もないんですけど。


 なので。


 見も知らぬ、罪のない傷病人ではなく。



 身内を巻き込むことにしました。



 そうと決めれば提案です。

 もとい、言い包めます。

 過剰包装もビックリの言葉によるラッピングを見せて差し上げる!

「無関係な相手を、この勝負に巻き込むのは気が進みません。相手が治療を求めるか弱き傷病人となればなおさら、 薬 師(・ ・) としての本分に反すると思いませんか?」

 

 瞬間。

 私の強調した『薬師の本分』という言葉に。

 スピノザさんがぴくりと反応するのが分かりました。


 …ちょろい。


 思わずにやりと笑ってしまいます。

 ああ、スピノザさんったら私よりもずっと年上っぽいのに!

 こんなに分かりやすくって良いんでしょうか、この人!


 研究への情熱が見えたし。

 何となく、専門研究職としても薬師としても、たっかい誇りを後生大事に抱え込んでいる気配がしたんですよね。

 自負することは大事です。

 でも過剰な誇りは、いざという時には邪魔になる。

 身軽でいることの利点を忘れたこの大人に、一矢報いてやりましょう!


「…確かに、薬師として(・・・・・)薬を必要とする者を無碍に扱うのは本意ではないな。

ふん…言われるまでもなく、当たり前のことだが」


 そして私の提案を、さも自分の意見のように言う(笑)

 ふふ…駄目な大人がここにいます。

 研究者としては立派でも、大人として人間としては駄目な気配が凄まじくしますよ。

 この駄目人間(笑)

 さっきまで乗り気だったのは何処の誰ですか(笑)!

 ここで吹き出そうものなら、折角の挑発が台無しなので、笑いませんけどね!

 でも微妙に腹筋痛い! 笑いそう!

 サルファの陰に隠れて吹き出してる、むぅちゃんが羨ましい!

 だけどここが正念場。

 ここを乗り切ったら、私は勝ったも同然です。

 私は表情筋と腹筋を全力で引き締めながら、さも尤もらしく言いました。


「そもそも、私達の目的は勇者様の担当薬師を競り合うこと、ここは良いですよね?」

「ああ、そこで薬師としての技量を競う…そういう趣旨だろう」

「理解が早くて助かります。ですが技量を試すにも、無関係な人を巻き込むのは薬師としての職責に反します。ですよね?」

「ああ、確かにな」


 まんまと私に乗せられたスピノザさん。

 目論見通り、薬師として(・・・・・)他人は巻き込めないという思考に見事はまってくれています。

 言質も取れたことだし、さあ畳みかけるよー。


「そこで、さっき言った十本勝負を九本勝負へと変更することを提案します」

「それで何が変わる。無関係の者を巻き込まないと、決めたばかりだろう!」

「変わりますよ。私と貴方、双方から被験者を四名ずつ出すんです」

「………なに?」

「だから、無関係じゃなければ良いんですよ。双方から公平に同人数の患者を量s……出して、その治療を競うんです」


「リアンカ…今、量産って言いかけなかったか?」

「気のせいです」

「だけど患者を出すって…前提として、病か怪我を負っている必要があるんじゃ……」

「あ、勇者様、今夜の食事には気をつけてくださいね?

毒味も効かない素敵なプレゼントが混ざっているかもしれませんよ。無味無臭の」

「何を混入する気だ!?」

 白々しかろうと何だろうと、言った者勝ちです。

 私は勇者様の口を両手で塞ぎながら、にっこりと笑います。

 笑顔を向けられたスピノザさんは、どう返してくれるかな…?


「二、三ばかり質問がある」

「はいどうぞ?」

「互いから患者を出すとして、それは本当に公平と言えるのか?」

 

 あ、患者を出すことには異論ないんですね、この人。

 やっぱりマッドな外見に偽りはないようです。

 私はますます笑みを深めながら、胡散臭く見えないように一割の誠実さを混ぜ込みます。


「確かに、公平かどうか不安はあるかもしれません。でも、互いから均等な数を出すんですよ? その人の個人的な薬の合う合わないを知っていたとしても、それぞれ数は均等。有利不利は変わらないでしょう」

「……理解した。では次の質問だ」

「はいはい?」

 この人、納得したとは言わなかったけど大丈夫ですかね?

 まあ、不服を言っても煙に巻くだけですけど。

 さてさて、次の質問は…?」

「先程、君は九本勝負と言ったな。だが我々が双方から出す患者の数は公平に、四。

  では残りの一とは? 」


「勇者様ですよ」


 さらり、言いました。


 

「ちょっと待てぇぇえええええっ!!」



 勇者様が私の手を外して、何かを言っています。

 ですが私は再び勇者様の口を両手で塞ぎにかかりました。

 だって至近距離で叫ばれたら、話が進まないんですもの。

 私相手に手荒な事が出来ないと知っているからこそ、全力で口封じにかかりました。


「私達の真の目的は勇者様ですよ? その勇者様により相応しい薬を競うのは外せない要点だと思います」

「ふん…確かに、一理はある。だが君は既に半年、殿下を診てきたのだろう。それこそ私に不利ではないか!」

「何を仰るウサギさん! 勇者様は特殊な体質を抱えた、滅多にいない貴重なお人ですよ? その方を診ようと言うんです。勿論、卓越した洞察力と薬師としての技能諸々が必要でしょう! なればこそ、ですよ」

「なに? 遠まわしに言うのは止めて、はっきり言ったらどうだ」

「特殊な事情を抱えた勇者様のお体を診ようと言うんです。だったらたかが半年そこらの有利性くらい、覆すくらいの実力を見せてほしいものです。勇者様だってそれをお望みですよ、きっと。だってそのくらいもできないような三流薬師(・・・・)に、勇者様のお体を診る資格なんてあるでしょうか! いいえ、ありません(反語)!」


「言ったな貴様ぁあ!!」


 あ、ちょろ。

 本気でちょろいですね、この人。

 こんな安い挑発でキレてどうするんですか、いい大人。


「私の実力を知らず、よくもそこまで言えたものだ!

格の違いというものをじっくりと見せつけ、わからせてやろう!!」

「それこそ望むところです! 受けて立ちましょう!」

 

 よっし、引っかかった。

 むぅちゃんが止めない時点で、私の有利性は確実です。

 まあ、色々と不安要素はありますけどね。

 此方の人間は魔力に対する耐性や、何やが低いらしいですし。

 それに応じて、薬の種類も魔境とは異なるようですが。

 私の作る薬とは体質の合わないこと確実な、スピノザさんの用意する人達。

 でも私の仲間達は確実に、魔境の薬じゃないと合いません。

 加えて勇者様は、人間の国育ちとしては例外的な体質です。

 うん、薬の耐性つけすぎですよ。

 彼に魔族用の薬が合うことは確認済み。

 つまり、勇者様が九人目として加わることで、私の勝ちは決まったも同然です。

 それを知りもしない、魔境の事情を存じないだろうスピノザさん。

 そんな彼を前に素知らぬ顔で、しれっとむぅちゃんが口を挟みます。

「それじゃ、両者から一目置かれている立場として、僕が勝負の判定役ね。異論でもある?」

「ないな」

「うん、ないよ。よろしくむぅちゃん」

「うん、よろしく」

 気負うところの全くないところで審判を申し出てきた、むぅちゃん。

 だけど付き合いの長い私には分かります。

 あの目、奥の光。

 完全に面白がっている顔です。

 スピノザさんの知らぬままに、決して公平とは言えない(確実に私寄り)の人が審判に収まってしまいました。

 これからスピノザさんを襲うだろう憂き目を思い、私の口元はにやりと吊りあがります。

「………リアンカ、その笑顔黒いから」

「ふふ…大目に見てくださいよ、今は」

 勇者様が、深い深い溜息をそっと静かに吐きました。




 勢い任せに、ノリ任せ。

 私達は互いの出方を窺うように相手を気にしながら、競い合うように足を緩めず。

 肩で風切りぐいぐいと進んでいきます。 

 足は、もはや小走り。

 私は向かう先がどこかなんて知りません。

 細かい勝負方法を詰めている際に、当然の如く出た言葉が、

「互いの技量を競うというのに、既に完成された手持ちの薬を使うのは公平性に欠ける」

 という言葉でした。

 つまり、こういうことですよね。

 既に完成した状態の薬が、確かに本人の作ったものとは限らないということです。

 薬師として、試しの場に他人の作った薬を持ち出すなど言語道断ですが。

 私はそんなことを平然とする人品卑しい輩じゃないつもりですが。

 互いのことを知らない今、そんなこと相手にわかる訳もなく。

 そして私も、スピノザさんがそういうことをしないと断言できません。

 ならばいっそと、使う薬は完全にその場その場で作ることを互いに課しまして。

 薬師としての基礎に違いがあることも踏まえて、材料の持参と調達は認められました。

 この国で果たして望むモノが得られるかは謎ですが。

 いざという時はむぅちゃんに材料を借りるか、まぁちゃんに獲って(・・・)きてもらいましょう。

 一応設備はこの薬草園付属の診療所を使うことに決定です。

 関係各所への通達はしていません。

 ですが、いざという時はスピノザさんの権限で強引に捻じ込むとのこと。

 わぁお権力、頼もしい!


 勝負方法を聞いてスピノザさんが一目散。

 だったら私もそっちに行くのみ!

 果たして読みは当たり、私達の足が向かっているのは王宮薬師達の診療所。

 だったのですが……そんなことも、私は知らないまま。

 私はただただ突き進む様に。

 スピノザさんと火花を散らし、駆け抜けるだけなのです!


 その後に従うように。

 私達の後を追って走りながら、勇者様が苦悩に頭を抱えておりました。


「………ああぁぁ…なんで、あんなに血の気が多いんだ。あの二人」

「完全に頭に血がのぼってんなぁ、リアンカの奴」

「まぁ殿……のほほんと、言わないでくれ」

「だって俺、リアンカのこと信頼してるし。こと薬に関して、あいつが後れを取るかっての。だって魔王にも効くような薬を開発する奴だぞ!?」

「……………どうしよう。大惨事の予感が!」

「失礼な奴だよなー…この王子様は」

「それ以外にないだろう!? 今までの数々を人間の国で再現されたら堪らない…! 哀れな犠牲者が、四人も出るかもしれないんだ。ムーだって、魔境の薬はこっちじゃ効き過ぎるって言っていたじゃないか」

「そんなこともあったかなぁ…」

「ムー!? 前言を覆すのか!?」

「いや、全力全開のリアンカを見る方が楽しそうだし、助言するのも惜しくない?

絶対、放置していた方が面白いよ」

「ハテノ村には愉快犯しかいないのか!?

その場合、被害に遭うのは確実にこの国の罪もない一般人なんだが!」

「頑張れ、王子様」

「頑張って、王子様」

「丸投げされた!?」

 愕然とした顔の勇者様に、更に追い打ちの如く皆から追撃がかかります。

「王子様がんばって~ですのー」

「私と主様は一緒にその辺で時間潰してますから」

「俺は………リャン姉についてかなきゃ、かな」

「じゃ、俺は可愛い薬師のおねーさんと遊んでよーっと。

怪我の応急処置に関する彼是(アレコレ)でも聞いて来るから☆」

 勝負の行方を面白がるむぅちゃんと、まぁちゃん。

 勝負の為と犠牲にされそうにない女の子達は薄情にも戦線離脱!

 暇潰ししているから終わったら呼ぶよう言い置いて、三々五々に散っていきます。

 だけど、便乗して散ろうとしたサルファだけ。

「待て、お前はこっちに来い!」

 勇者様に捕獲されていました。

「ええええ…! なんで!?」

「就業中の薬師にちょっかい掛けるのは見過ごせない。うちの城でナンパするんじゃない!」

「ナンパするとは限らないじゃ~ん! もしかしたら違うことしてるかもしれないっしょ?

もしかしたらホントに怪我の手当に関して質問するだけかもしれないじゃん!」

「お前が信用できるなら、俺はとっくにナシェレットを大空に解き放っている!」

「俺の信用ってそこまで失墜してんの!?」

「元より、信用など な い !!」

「断言されちゃった!」



 そうして、薬師対決の場は移り…


「紹介しよう! 私が勝負の駒として提供するのは此奴らだ」

 声高らかに、スピノザさんが指示したのは四人の男女。

 診療所につくなり何処からかスピノザさんが引っぱり出してきた人達です。

 それぞれ揃いの白衣を着ていますが、何かの制服代わりなんでしょうか?

 スピノザさんや彼らの白衣には、特徴的な文様が刺繍されています。

 亜麻色の髪を片側に寄せて束ねた、背の高い男の人。

 栗色の髪を後ろに流した、兵士並に体格の良い男の人。

 無造作に短くされて、跳ねまくった灰色の髪をした男の人。

 それから染めているらしい桃色髪の、小柄で華奢な女の人。

 いきなり駒呼ばわりされた四人は、揃って抗議の声を上げます。

「主任!? いきなり飛び込んできて何言ってんですか!?」

「駒ってなんです、駒って」

「仕事サボって消えたと思ったら、まーたムー殿追いかけまわしてたんですか…」

「それより仕事してくれませんかね……試薬の実験結果、主任がレポートを纏めるって言っていたじゃないですか」

「ええい、今はそのような時ではない。もっと重要な案件があるのだ!」

 どうやら彼らは、スピノザさんが主任を務める新薬開発を試みる研究班の方々のようです。

 スピノザさんみたいな単純な人でも、その下に着くとなると苦労が多いのでしょうか。

 彼らは一様にうんざりしたような顔。

 でも大丈夫!

 これから看過できない驚きいっぱいで、退屈する暇も与えないから! ←不吉な宣告。

「ふん…他にも手駒は何人かいるが、その中から比較的活きが良くて扱いやすい奴らを連れてきた。存分に試しても大丈夫な頑丈な奴らだということは保証してやろう」

「…なんでこの人、こんなに偉そうかなー」

「いや、それより私達のことを指して物凄く不穏なことを言っていませんか?」

 不安そうに互いの顔を見合わせる手駒(笑)の白衣四人衆。

 彼らもスピノザさんの下で、それなりに苦労していそうですね。

 しかしいくら抗議されても、聞く耳を持たないスピノザさんもかなり自由な生き様ですね。

「さて、それではそちらの被験者を紹介してもらおうか」

 鼻を鳴らして、さもつまらなさそうに。

 だけど目の奥に興味の光を滾らせて。

 隠しきれない期待を覗かせながら言うので、私もそれに応えようと思います。


 さあ、度肝を抜かれるがいい!


「そんじゃ、まずはサルファ」

「そんなこったろうと思ったけどね!」

 だから逃げようと思ったのに、と。

 最初の指名を受けたサルファは、己の扱いを予測していたのでしょう。

 彼は厳密には魔境育ちの人間じゃありませんけれど……

 この半年弱、すっかり魔境に適応しているところを見るに私の薬でも大丈夫でしょう。

 多分。うん、多分ね。

「それから、まぁちゃん」

「やっぱりか…」

 呆れた顔で、やれやれという仕草を見せてくれます。

 まぁちゃんは苦笑しながらも、嫌そうではないですね。

 ん? まぁちゃんを出すのは反則じゃないかって?

 そんなことはありませんとも、ええ(笑)

 まあ確実に、スピノザさんは苦労すると思いますけどね。

「次に……」

 ここは、ちょっと悩むところなんですよね。

 でも他に選択肢もありません。

「ロロイ」

「うん、予想してた」

 さっぱりと、潔いことですが。

 顔ぶれ的にそうなると思っていたと、ロロイは肩を竦めます。

 俎上の鯉の如く、好きにしてくれと健気な言葉。

 私は忠誠心高い竜の頭を撫でなで。

 うん、可愛い。

「それで最後の一人ですが…」

「待て」

「はい?」

 私の言葉を遮り、待てと言ったのは勇者様でした。

 何だか困惑で、その目がぐるぐるしています。

「どうしましたか?」

「ああ、最後の一人と言うけれど………誰を出す気だ?」

「そのことですか」

 現在、この場にいる人、いない人。

 せっちゃんとリリフは元より薬のお世話になるような事態に陥れる気がありません。

 二人らんららんらと楽しくお花でも見て回っていることでしょう。

 なので、この場に残っているのは野郎どもばかり。

 でも勇者様とむぅちゃんの運命はすでに決まっています。

 残りは、現在すでに指名したまぁちゃん、ロロイ、サルファ。

 その状況下で、他の誰を出すのかと。

 そう勇者様が仰せになる訳ですが。

 

 心配は御無用です。


 私はにっこりと、笑いました。

 我ながら、裏表の感じられない笑みだったと思います。

 慈愛すら感じられるような笑みじゃないかと自負しております。

 その笑顔のまま、私は言いました。


 誰を出すのかって?

 そんなの、一人しかいないじゃないですか。

 そう、私がわざと怪我させて実験体にしても心の痛まない…

 この場でいちばん、どうでもいい相手。

 私はその名を、はっきりそっと告げました。



「ナシェレットさんですが」



「……………ああ」


 そう言って頷く勇者様。

 でも、その間が物語っております。

 あいつの存在、忘れてたーって。

 

 そうして勇者様は荷物の中から小さな壷を取り出しました。

 奴を実験体にすること自体に、異論はなさそうですね。

 にやけた面の壷から、そうして彼が呼び出したのは…


「な、なんだと………!?」


 スピノザさんのかすれ、ひび割れた驚きの声。

 それに迎えられるように姿を現した、金色の鱗も輝かしい巨体。


 それは、見上げるほどの巨大な真竜(ドラゴン)ナシェレットさんでした。




駄・竜・降・臨…!

呼ばれて飛び出てじゃじゃじゃじゃーん♪

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ