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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ、薬草園へ行こう!
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47.不味い薬草、駄目な薬草

 やって来ました、薬草園!

 用のない者は立ち入らない、王宮隅のひっそりとした一角!

 傍目にはこんもりと生い茂る森のようなそこ。

 でも木々の周囲には貴重な薬草の盗難防止に柵が張り巡らされ、うっすら木々の向こうでは人々の働く畑が見えました。

 薬草の世話の為だけにいる庭師が、木々の選定をして。

 切り落とされた枝を、薬師見習いと思しきエプロン姿の少年少女が掻き集めています。

 魔境にあるモノとは若干違いますが、独特の匂いからあれが薬木の一種と知れます。

 傷をつけると、特殊な樹液が染み出してくるんですよねー。あれ。

 掻き集めた枝を手押し車に乗せて、一番背の高い少年がどこかに運んで行きます。

 多分、薬師達の工房か何かに運ぶのでしょう。


 入れ替わり立ち替わり、忙しそうに働く人々。

 草の強いにおいと、濡れた土のにおい。

 ああ、畑だなぁ。

 ふと、ハテノ村にある私達の畑が気にかかりました。

 お世話はめぇちゃんと、薬師見習いの子達がしてくれているはずですけど…

 まだ、このお城に到着してから三日目。

 勇者様やまぁちゃんと遊んだり、目新しいことに感心したり、楽しくて。

 他のことでは特にこんな気持にもならなかったんですけど…。

 薬草園の畑を見て、ふと村が恋しくなって。

 こんなことで郷愁を感じる自分に、職業病だなぁと苦笑が零れ落ちました。

 そんな私の様子を見て、自分にも覚えがあったのでしょう。

 むぅちゃんがひょいっと肩をすくめて、自分もと同意を示すようにひっそり笑いました。



 さてさて、特に王様から侵入許可をもらった訳じゃありませんが。

 私達には伝家の宝刀、もとい勇者様という生きた通行手形があります。

 将来的に国の未来を担う勇者様が、誰に阻まれるというのでしょう。

 この城内で侵入を阻まれる場所はご両親の寝室だけとのこと。

 それ以外はどこでも行き放題だという勇者様に、

「地下牢とか拷問部屋も?」

 聞いてみたら、速攻で強い言葉が返されました。

「行けるけど、連れていかないから」

「いや、別に行きたいとも思いませんけど」

「それでも、気になったのが一瞬だけでも。絶対に、連れていかないから。

あんなところは女性の行くところじゃない」

 ………一見華々しくて、後ろ暗いところなんてない勇者様の祖国。

 それでも人間の盟主国と呼ばれるここには、どうやらそれなりに暗部があるようです。

 どんな人がそこにいるの、と興味半分に聞いても答えてくれません。

 多分、この国を探ろうとして捕まった間者とかがいるんじゃないかな……だって拷問の必要があるってことは、情報を聞き出さないといけないんですよね?

 勇者様が存在を否定しない以上、王城(ここ)には確実にそれがあるのです。

 下手に紛れこんだら、戦闘能力のない私なんてぷちっとやられそう。

 そして怒り狂ったまぁちゃんが、この城を焦土に変える…と。

 私がここで死んだら、漏れなくお城丸ごと道連れにする羽目になりそうです。

 それを知らない人から無用なちょっかいを受けないよう、勇者様という御威光はちゃんと利用した方がよさそうですね。

 うん、侵入者と間違われないよう絶対に勇者様にくっついてよっと。


 ですがそんな決意は、薬草園に入って三秒で消えうせました。


 だって気になる!

 あれとかこれとか、ものすっごく気になるよ!

 出入りを制限する門を、勇者様を先頭に押し出しながら潜り抜け。

 勇者様が代表として細かい緒注意や手続きを受けている中。

 私は走りだしそうなほど、うずうず。

 実際に足は小走りで。


「「落ち着け」」


 駆け出そうとしたその瞬間。


 私の行動を予測していたらしい勇者様とまぁちゃんに捕まりました。


 勇者様、凄い反応速度ですね…。

 私の左腕を掴んだまぁちゃんと、同時に私の右腕を掴んでいました。

 管理手続き用の帳面に署名しながら、私の行動に注意を払っていたのでしょう。

 私が走りだしそうになった途端、一瞬で駆けつけましたよ、この人!


「勇者様、反応早いですね」

「予測、できていたからな…」


 両腕を背の高いお兄さんに左右から持たれて、私は宙ぶらりん状態。

 離してーという自己主張で足をバタバタさせてみても、勇者様は苦笑するだけだし。

 まぁちゃんはまぁちゃんで、私の頭を撫でて誤魔化そうとしています。

「こんな連行される罪人みたいな恰好で見て回る気はありませんよ?」

「じゃあ落ち着こう。落ち着こう、な?」

「無闇やたらと走って行くんじゃねーよ。

どっかで何かやらかすんじゃねーかって冷や冷やすんだろーが」

「まぁちゃんに冷や冷やさせるなんて、私、大物ー」

「言っとくが、俺の冷や冷やした経験の九割はお前(リアンカ)とせっちゃん絡みだかんな?」

「やっぱり私、大物ですね」

「喜んでんじゃねーよ。このお転婆娘が」

「そうか……魔境じゃ、リアンカのあれこれは『お転婆』で済むレベルなのか…」

「勇者様ー? 私、そう言われるほど大したことしてないと思うんですけど」

「………そうか?」


「ええ、わたし(・・・)は」


 私自身は大人しいものですよね?

 魔境で私が勇者様相手にやらかしたことなんて、精々騒動のきっかけづくりか魔境の案内くらいだったと思いますし。

 うん、大したことは全然してませんね!

 きっぱりと主張する私に返ってきたのは、勇者様の物言いたげな沈黙のみでした。

 

 それから私は、保護者の魔王様と勇者様にいくつかの約束をさせられました。


 今日はあくまで見学として、行動を慎むこと。

 急に走りださないこと。

 無断で二人から離れないこと。

 勝手にサンプル採取をしないこと。

 逆に植物を増やしたりしないこと。

 何が反応するかわからないので、手持ちの薬を使わないこと。

 それから善良な一般人を驚かさないこと。


 約束多すぎです。

 内容の実に半数以上が、勇者様の懇願による約束なんですが。

 最後の「驚かさない~」に関しては、微妙に納得がいきません。

 勇者様ってば私のことをなんだと思っているんでしょうか。


「勇者様、私をなんだと思ってるんですか?」

「リアンカだと思っているよ?」 


 ………なんだか、聞きたい内容と若干ずれているような、そうでもないような。

 なんとも言えない気持ちのまま、私は諦めました。

 今日の勇者様は薬草園という場所柄、私に対して油断はしないつもりのようです。

 隙があれば、容赦なく突っついてやる気満々なんですけど。

 勇者様は、私から少しも目を離す気がないみたいです。

 用心深く、手まで握られています。

 ………最近、勇者様が遠慮なく私の手を取るようになってきた気がします。


 いえ、気がしますじゃなくて、事実そうですね。

 私相手に変な遠慮は命取りと思ったのか。

 それとも単に慣れて何とも思わなくなったのか。

 魔境に来たばかりの頃は、私と打ち解けつつも、どこか身に染みついた女性への警戒心が残っていた気がします。

 特に接触については、無意識に警戒していた勇者様が。

 今では、こうして普通に私と手を繋いできます。


 その理由は、ほぼ私の行動制限の為ですが。


 人間の国に来てからは、私から目を離せないとより強く思っているのでしょう。

 なんだかこの三日で、勇者様と手を繋ぐのが普通になってきた気がします。

 反対側の手も、まぁちゃんに握られていて。

 私は両手を自然な形で青年二人に封じられ、歩くことしかできません。

 えーと、私が植物に触れることすら警戒対象なんでしょうか?

 そんな警戒されなくても、ぱくったり弄ったり悪戯したりしないのに。

 ――今日は。


 せっちゃんにも、私ほどじゃなくても警戒しているのでしょう。

 リリフとロロイがせっちゃんの白く小さく細い手を取り、並んで歩いています。

「お手々つないで、仲良しですの~!」

「仲良し、仲良し」

「うん。だから勝手に行動するのは止めて」

 子竜達は何かするにも突拍子のないせっちゃんを引きとめながら、それでもせっちゃんがとっても嬉しそうなので頬を緩めて仲良しの雰囲気。

 私の方はどうにも連行されている感が抜けないのに。

 同じ両手繋ぎをされているのに違えば違うものですねー…。


 年頃の少女二人は、両手を左右から握られて。

 そんな状況を目の当たりにしながら、歩く二人の野郎。

 自分達だけ完全自由のむぅちゃんとサルファが、ふと目を合わせて…

「俺らも手ぇ繋いじゃう?」

「気持ち悪い」

 ばっさりと切り捨てたむぅちゃんに、サルファはにやにや笑っています。

「んじゃ、肩組んじゃおっと☆」

「暑苦しいよ、存在が。死んで」

 賑やかな一団は、堂々と薬草園の敷地内に足を踏み入れていきました。



 さて、足を踏み入れたのは良いのですが…

 五mも行かない内に、足が止まりました。

 訂正します。

 進めなく、なりました…。

 原因は勇者様の人気と、それから…むぅちゃんです。

 こちらでも誰に憚り遠慮なく、自由に思ったまま行動していたらしいむぅちゃん。

 自分勝手に好き勝手に、やりたい放題していたっぽいむぅちゃん。

 結果、とても強い注目を薬草園全体から向けられています。

 

 その視線の内訳は、憧憬四割、警戒三割、畏怖(おそれ)三割…?


 ………何だか知らぬ間に、人々から恐れられてませんか、むぅちゃん。

「むぅちゃん、なにやった?」

「陛k………何も、まぁ兄さん。彼らに特に何かした覚えはないけど?」

「その割には、えらい歓迎だな」

「変な遠慮も感じるんだが…彼らには、ってことは彼ら以外には何かしたのか?」

「……………さあ?」

 ある意味むぅちゃん、大人気。

 何しろ薬草園に入ってすぐ、取り囲まれたのが今の現状ですから。

「何で皆、まんじりともしない顔で取り囲んでいるだけなのかな。何か行動すればいいのに」

 何か行動を起こすなり、囲いを解くなりしてもらわないと動けないんですけど。

 困り顔で首を傾げる私。

 勇者様も困惑顔で、まぁちゃんは眠そうな顔をしています。

 このままどうしようか、囲いを蹴破ろうか。

 困っていると、状況の変化もすぐにやって来ました。

 囲いの向こうから、変化は人の姿で接近してきます。

 傍でむぅちゃんが、少し面倒そうな顔をしました。

 誰なんだろう、あの人?


「ムー殿! なんですか、その人達は!?」

 

 やがて囲いを掻き分け、現れた人。

 挨拶もなしに駆け寄ってきたのは、白衣もよれよれの神経質そうな男の人。


 その人の名前は、スピノザ新薬研究主任。

 この薬草園にて、新たな薬の研究を行っている、研究畑所属の薬師さん。

 私がこの国で初めて出会う、『人間の』薬師さんでした。


 うん、全然薬師に見えない。


 


むぅちゃん………君はいったい、何をした…。




「ムー殿! 誰ですか、その人たちは!?」

 → あんたんとこの王子様だよ。

 そんなツッコミを入れるまでもない事実を、何故知らない!?

 登場第一声から非常識振りを発揮したスピノザさん。

 彼とむぅちゃんの関係は、一体…!?


 というところで、次回につづく(笑)

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