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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ、薬草園へ行こう!
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46.美味しい薬草、反作用の薬草

皆様、この展開を予想された方もいるかもしれませんが…


【リアンカ、薬草園に行く】展開スタート!


「勇者の兄さーん」

 

 サルファの、情けない声。

 勇者様は固く強張った顔で、頑なにサルファの姿を視界に入れないようにしています。

「勇者の兄さんってば!」

「頼む、呼びかけないでくれ。他国のお家問題に介入するのは、立場的に拙いんだ。

干渉は厳禁。そのくらいは分るだろう?」

「家の問題にまで巻き込まないって☆ たださ、協力してもらえたらな~って」

「国際問題に発展するかもしれないから、駄目!」

「ケチ!」

「常識でものを考えてくれ、頼むから!」

 サルファは朝も早くから、勇者様を巻き込む気満々ですね。

 目が猛禽類の如く、爛々と勇者様を狙っています。

 わあ、こいつ引き摺りこむ気だ!

「何を協力させる気か知らないけれど、駄目な物は駄目!」

 きっぱりと突っ撥ねる勇者様。

 いつも何だかんだで譲ってくれる勇者様ですが、一応NOと言える人だったんですね。

 つーんと顔を逸らす仕草には違和感があります。

 思えば、私は勇者様からサルファほど冷たい態度を取られたことがありませんからねー。

 勇者様、本当にかなり寛大だから。

 でもそんな寛大な勇者様でも譲れません、と。

 王子様としての職業意識は高いようなので、当然でしょうけれど。

 その職責に抵触する問題には結構辛口なのかもしれません。

 それでもなんだかんだ、私やせっちゃんには甘い気がします。

 まあ、女子供に優しいのは好青年の必須条件みたいなものですよね?

 サルファは女でも子供でもないので、適用外でも当然でしょう。


 頼む頼むと土下座のサルファ。

 拒む拒むと知らぬ顔の勇者様。

 まだサルファが何を頼むとも内容を口にしていないのに、この攻防戦。

 そんな遣り取りに業を煮やしたのでしょうか。

「も~…勇者の兄さんってば融通利かないし。仕方ないかなー?」

 サルファが、何時の間にか入手していたらしい切り札を切ってきました。

 …といっても、具体的にどんな札なのかはまだ不明です。

 サルファは顔をあげると、勇者様にこう言ったのです。


「勇者の兄さーん。兄さんのお友達の…あの面白召喚士の兄さん。

彼の今後は俺次第だって言ったら、どうするー?」


 あれ、なんでしょうね。

 今って脅迫している場面ですか?

 でもサルファの口調が何時ものように軽くって。

 まるで卵白だけで作ったお菓子みたいに軽くって。

 緊迫感、ゼロ。


「なに………!?」


 だけど勇者様にとっては聞き捨てならない話なのでしょう。

 勇者様って結構、お友達思い。

 勇者様は緊張感を漲らせ、猜疑心たっぷり。

 緊迫した顔で、逸らし続けていた視線をついにサルファに注ぎます。

 勇者様! そこで露骨に反応しちゃったら相手の思う壺ですよ!

 踊らされちゃう! サルファ如きに踊らされちゃうから!

 それも何だか癪なので、勇者様の袖を引いて引き留めようとしましたが……


 一歩、遅く。


「どういう意味か知りたい? 勇者のにーさん」

「ああ、聞かせてもらおうじゃないか」

「それじゃ、一緒にオーリィ……オーレリアスちょんの屋敷に行ってみよーか☆」

「連れて行って、どうなるって言うんだ」

「ふふん♪ 一緒に行ってみたらわかるって☆」

「………」


 ………あーあ。

 勇者様、完全に乗せられちゃった…。

 相手がサルファだから、そういう油断もあったんだと思います。

 利権とか政治とか難しいことに関わろうとしない、サルファ。

 こいつ相手に足下を掬われることは、多分ないでしょう。

 そういうことを企む輩だったら、魔境になんて来て…押し付けられていない筈です。

 何としても立身出世!なんて言うような輩だったら、 伸し上がる為に実家の権力(ちから)を存分に利用し使いこなしていたことでしょう。

 それをしないサルファ。

 むしろ家を飛び出し、実家をあてにしないサルファ。

 きっと、私達も魔境での付き合いからちょっとは気を許しているんです。

 それがなんだか………うん、むかつく。

 何より一番むかつくのは、今のサルファの目。

 勇者様を見上げる、ニヤッとした顔です。

 こいつ………確実に、私達の反応や考えを計算した上で脅迫に持ち出してきましたね。

 そこまで形振り構わないのかと溜息をつくべきか。

 それともこの期に及んで利用する気かと怒気を漲らせるべきか。

 いっそ眼潰しでも…


「って、ちょっと!? リアンカちゃん、目が怖い目が怖い!」

「ちっ…気取られましたか」

「リアンカちゃん黒いよ! もーちょっと隠して隠して!」

「私、今週はオープン週間なんですよ」

「そんな黒い顔おおっぴらに晒さなくても!」


 誰かが騒ぎ始めれば、それですっかりいつも通り。

 元通り(・・・)の私達です。

 なんだかそれでうやむやになってしまいましたが………


 どうやら今日明日にでも、オーレリアスさん宅の訪問が予定されそうです。

 それも、サルファのせいで?

 そう思うと、なんだか少し面倒臭くなりました。


 でもちょっとだけ、楽しみなんですよね。

 だってあの、哺乳類限定なんて妙な縛りを持つ召喚士の家です。

 一昨日だって、大量の毛玉を召喚してくれました。

 主ににゃんにゃんわんわんと、せっちゃんが大喜びした生き物が。

 ………もふもふ、けだもの天国。

 どうやら、大型の獣も若干いるようですし。


「ちょっと、楽しみかも。お友達ができると良いね、カリカ」

「ぐるるぅ?」

 

 きょとんとまん丸の目で見上げてくるカリカ。

 頭を少し強めに撫でてやれば、擽ったそうに額を擦りつけてきます。

 まるで、もっととせがまれているみたい。

 ………オーレリアスさんが何をやったのかは、不明ですが。

 昨日の午前中~夕方近くまで、預けただけなんですけどね?

 だけだと、いうのに…何故か、警戒心で一杯だったカリカの態度が軟化しました。

 召喚されて、まだ一日。

 なのに今では人の手のぬくもりを嫌がらない。

 こんな短期間で人馴れさせてしまった、あのアニマルマスターの手腕が恐ろしい。

 人懐こく進化したカリカは、私に特段用事があるわけじゃないと察したのでしょう。

 ふいっと気紛れにそっぽを向くと、カリカ用の餌皿にもう一度顔を突っ込み直します。

 そのまま私のことなどもう気にもせず、がつがつと餌に夢中。

 餌と言っても、まだミルクですけれどね。

 私はつれないカリカの背中を撫でながら、それをまったり眺めます。

 オーレリアスさんの家でカリカがどんな反応をするかと楽しみで。

 毛の流れに逆らうように逆撫でしていたら、柔らかな幼獣の毛が逆立ち状態。

 カリカが迷惑そうに「みゃあう」と子猫みたいな声で鳴きました。




 その後、伺いを立てた結果。

 主君に当たる勇者様の要請です。

 向こうも迅速に対応しようとしたのでしょう。

 オーレリアスさんからの了承を頂き、予定を調整し。

 彼のけもけも天国へのお宅訪問は、今日の午後と合いなったのでした。

 ………こんなに突然の突撃訪問が許されちゃうなんて。

 無理が通るあたり、本当に勇者様の人望って凄いんだな、と思いました。



 さて、お宅訪問の時間は決まりました。

 しかし田舎育ちで朝が早いので、私達にはまだ時間があります。

 ざっと、あと四時間くらい。

 出かけるにも中途半端で、何かをするにも短いような長いような。

 その空いた時間をどうするか、提案が飛ぶ中。

 遠慮がちな声が、私達に呼びかけました。


「あのさ、薬草園行ってみない?」


 むぅちゃん…!

 君のその提案を、待ってました………っ!!

 その提案に、私の票は全部捧げちゃう!


 結果。

 私の強い意志により、今日の午前中は薬草園見学(乱入)に決定いたしました。

 待ってろ薬草!

 珍しい素材!

 そして人間の国独自の調薬法!!


 私のテンションは、鰻登りでした。





 勇者様のお国の、薬草園。

 このお城の中にある、薬草園。

 それはお国で管理している研究用の薬草園と、お城の中で王城直属の薬師達が管理する王家の為の薬草園、それとお城で務める人達用の薬草園とがあるそうです。

 それぞれに研究用や実用の為、薬師や研究者、庭師など様々な人が関わっているとか。

 当然ですが使用する人達が多岐にわたる為、管理は細かく行われているとか。

 ペンペン草一つ持ち出すにも管理用の帳簿に記入が必要とのこと。

 むぅちゃんの説明に、私困惑。

 それ明らかに雑草だよね? 雑草抜くのにも許可がいるの?

 いるそうです。

 薬草園を管理、整備している薬師&庭師の方々が植物の選別を行っているそうですが、それでも人間は間違うものだそうで。

 雑草と間違って処分されることのないようそうなったとか。

 何でも昔、貴重な薬草を雑草と間違えて引っこ抜いた馬鹿がいたそうです。

 なんという愚行でしょう!

 以来、雑草扱いを受けている草と似た薬草が間違いで処分された時、誰の仕業なのかと処分された草がどうなったのか特定しやすくする為に、雑草の処分も許可制になったそうです。

 そのお陰で犯人も特定しやすくなり、発覚した際には賠償させられるそーな。

 そのこともあって、一般人は近寄ろうともしません。

 まあ、立ち入るにも許可がいるので、素人は絶対に入り込めないそうですけれど。


 厳重な管理がされているだけあると、既に通いづめのむぅちゃんが楽しそうに言います。

「人間の国々の盟主国であるという肩書は伊達じゃないね」

「むぅちゃん、明らかにそこにしか利点を見出してないよね」

「他は正直、どうでもいい」

 正直者のむぅちゃんの目は、研究意欲でギラギラと燃えていました。

 人間の国と魔境では、生育環境の違いで同じ薬草でも薬効に違いが出るものも多いとか。

 それを聞いただけでも、私だって楽しみで仕方ありません。

 今ある環境を保全しつつ、間違っても魔境の驚異に染めて異常を出さないようにと、むぅちゃんに強い調子で言われました。

「せっかく魔境との楽しめる違いを、潰しちゃ勿体ない」

「それは同感。存分に堪能しないと、せっかくの経験が勿体無いもの」

「効き目の強弱だけじゃなくって、真逆の作用をもたらす薬草もあったし…本当に、環境の違いって大きいんだね。実感した」

「それはとっても興味深いね!」

「魔境に持って帰ったら、向こうに染まって違いがなくなっちゃうし……人間の国のどこか片隅にでも、専用の薬草園作れないかなぁ。魔境から遠ければ遠いだけ、魔境とは別物の効果が出るかと思うと…」

 むぅちゃんがうっとりと、マッドな笑みを浮かべています。

 多分、私も話を聞きながら同種の笑みを浮かべていたのでしょう。


 私のかつての実験(ヤンチャ)に巻き込まれたことのある、まぁちゃんや子竜達。

 それからどうも野生の勘で嫌な予感を察知したらしい、勇者様。

 移動を始めた頃よりも、若干気持ち距離を取って。

 遠巻きにしながら、彼らは私に青い顔を向けていました。


 平然としているのはせっちゃんとサルファだけ。

 せっちゃんは首を傾げてまぁちゃんの袖を引いています。

 しかし答えられないまぁちゃん。

 

 サルファは何かしら、予測できるものがあるのでしょう。

 微妙な笑みで私を見つめ、距離を詰めようとはしません。

 それでも勇者様ほど過剰反応をしないのは、逃げきる自信でもあるのでしょうか。

 

 彼らはこれから待ち受ける薬草園で何が起こるのかと。

 戦々恐々したり。

 のほほんと花を楽しみにしたり。

 まったりと読めない笑みを浮かべて、肩を竦めていたりしました。




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