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32.変☆身

 まぁちゃんにうっかり乗せられた妖精さん。

 鼠耳の癖に語尾が「にゃー」な妖精さん。

 彼女のお陰で衣装の算段がつきました。


 これで自分に合わない衣装を着るという事態は避けられそうです。

 ついでに、せっちゃんも便乗することになりました。

「姉様とおそろーい☆です、のっ!」

 嬉しそうにはしゃいでいます。

 興奮からか、きゅっと両の拳を胸の前で握りしめ。

 両足が、ドレスの裾に絡まることなく、ぴょんぴょんと飛び跳ねる。

 その度に床に届くほど長いさらさら艶々した黒髪が、まるで夜の海のようにさざめきます。

 そんなに喜んでくれると、好かれているなぁと嬉しくなりますが。

 せっちゃん…何もお揃いのデザインにするって決まった訳じゃないんだけど。

 しかし勘違いを訂正することもできず、私達は微笑ましく見守るのみです。

 後でがっかりされたら、ちょっとやだなぁ。


 当初、せっちゃんには持参の衣装を、と言っていました。

 でも異を唱えたものが一人。

 意外や意外、サルファです。

「単調な格好は、すぐに目新しさを失くしちゃうんだよ?

バリエーションをつけるとか、メリハリって必要じゃん?」

 要は、あれです。

 私が持参の衣装を着ないのと同じ理由。

 つまり、取って置きはここぞという時に!

 初のお目見えとなる今日この日、私が周囲の流行に合わせた衣装を着るのなら、せっちゃんも本気の勝負は次回に持ち越したら、というサルファの提案。

 言われてみれば、せっちゃんのドレスは本人にとっても良く似合いますし、こちらでは珍しいタイプの衣装らしいですけれど。

 でも、全ての持参衣装は基本となる型が同じタイプのドレスばかりで。

 最初の一回二回は確かに目新しく、斬新に見えて目立つと思います。

 でも毎回同じような型の衣装ばかりだと見る側も慣れますし、チャレンジャーはコネと財力に物を言わせて似せた衣装を用意してくるかもしれません。

 まあ、似た感じの衣装を着て、美少女ぶりも神々しいせっちゃんに太刀打ちできると思うのかどうかは謎ですが。

 下手に似たタイプのドレスを着たら、比較されちゃうよ?


 サルファが私達にも納得のできる主張をしたことも意外なら、それが採用されたことも意外です。普段なら。

 でも今回、言っていることも尤もだということで、主張を認めることにしました。

 幸い、妖精という便利なイキモノを捕獲した今、その都合のよさを前に衣装がないことも問題なしです。

 準備に慌てることもないでしょう。

 妖精さえ、ちょっと頑張ってくれたら。



 笑顔の魔王陛下を前に、妖精の冷汗は滝の様。

 足下に水溜りができそうな勢いですね。

 体積の何割分の水分が放出されているんでしょう……脱水症状の懸念をするのはサディアスさん。

 しかし不思議生物が何ℓの汗を放出したら、脱水症状なんてまるでまともな生き物みたいな不調を訴える事態になるのでしょう。

 私にはよくわからないので、気にしない方向で。

 もしも不調を訴えたら、その時に対応することとしましょう。

 

「そ、それでは魔法をかけるにゃ」


 そう言って妖精がちっちゃい手をちまっと動かして、狭い懐から取り出した物は、正真正銘のマジカル☆ステッキ。

 昨日、まぁちゃんが取り出した「ある意味マジもん」のステッキとは違う、正統派のマジカル☆ステッキです。

 ただし、爪楊枝サイズ。

 まあ、妖精のサイズがサイズですからね。全長十二cm。

 銀色の小さなほっそい杖には、ごてごてと小さく細いリボンが巻き付き、てっぺんに星が煌いています。☆です。

 中心にはやっぱりちまっとした石が嵌めこまれていて、妖精が振り回す度に色を変えて明滅します。

 …動力源、なんだろ。


「着ている服をベースに魔法を使うにゃー。だから後腐れのない服を使うにゃ」


 それはつまり、一度魔法をかけると元に戻らないということでしょうか。

 疑惑に目を眇めながら、私達は後腐れのない服と言われて迷わずお城から借りた服を手に取りました。

 返す気、ゼロです。

 さーて、大変身かなぁと思った時。


 その時、何故かサルファが待ったをかけました。

 おいおい、今度は何なの?

 訝しむ私達を置き去りに、サルファは妖精に詰め寄りました。


「待った妖精ちゃん! あんた、今の流行とかちゃんと把握してる!?」

「にゃ!? なんで男にそんなことで詰め寄られているんだにゃー!?」


 流行を気にしたのは女性でも紳士でもなく、軽薄な軽業師(サルファ)でした。

 

 なんで私の周囲にはこうも、服飾関係に口を出したがる野郎が多いのでしょうか…?

 私やせっちゃんが無頓着すぎるという事実を棚上げし、首を傾げてしまいました。

 しかしサルファに、魔境に置いてきたヨシュアンさんやサイさんみたいな手腕が期待できるのでしょうか…?

 ただの女好きという認識なんですけど、あいつってそこまで女性の身嗜みやお洒落に造詣あるんですか?


「前の夜会用ドレスの主流はね、この国だとスカート部分の膨らみが以前はバルーンみたいな形で、無節操により膨らんでりゃ良いって考え方だったよ。でも今は違うんだな~。そこらへんに拘りと工夫、全体的なバランスを見て大きさよりも重視されるのは別の部分に移りつつある。その辺、わかってる~? 大きけりゃ良いって発想だったら、それもう時代遅れのふっる~い考えってやつだから――」

「にゃ、にゃ、にゃ…!? なんで私、今、男にスカート部分のこだわりを流行的観点から語られているのにゃ!?」

「胸元の開きもねー、開き過ぎは下品扱い受けてた前と違ってぇ、今は大胆に開いた上でギリギリのヤッバい部分を重ねレースで隠すって手法が取り入れられててー。あれ、いいよなぁー。うっすら肌が透けてるっていうか、ホントぎりぎり☆ あの大胆さ、すっごいドギマギするー。初心な野郎だと目のやり場に困って大変そーだけど。まあ、そこでガン見する奴は不躾な奴って烙印押されて軽蔑されるけど!」

「にゃー! にゃー! こいつ、もう訳わからんにゃあ!! っつーか、女の服を見過ぎだにゃー!!」

「踊ること前提で、全体的に軽やかな動きを出す小道具として今はうす~いレースの飾り布がマジ今の流行ー。翻る様子がひらっひらしてて目に楽しーぜ★ 他に飾りの小道具で主流なのは――」

「にゃー! にゃー! 一気に言われて頭が破裂しそうだにゃあ!!」

「それで――」

「にゃー!? もう止めろだにゃー!」


 ――OK. 全然心配いりませんでした。

 何故かこいつ、めちゃくちゃ詳しそうです。

 やはり女性に興味津々だと、その身を飾る小道具にも詳しくなるのでしょうか。

 こいつとサイさんとヨシュアンさんに女性の服について語らせたら、なんだか凄いことになりそうです。

 それぞれ、こだわりは違いそうですけどね。

 

【それぞれのこだわり傾向】

  画伯:男目線のマニアック。

  サイ:服飾業界関係者目線。

  サルファ:自分の好みと流行。

  

 何となく、画伯とサルファが意気投合しそうな気がしました。



 一通りサルファが勇者様の故郷における「最近の女性のドレスに関する流行」を伝授し終わった頃、妖精さんは襤褸(ぼろ)雑巾のようになり果てていました。

 目が据わっています。


「も、もう、なんでもどんと来いにゃー!!」


 そして吹っ切れていました。

 物凄くヤケクソ気味です。

 逆に語りつくしたサルファは、全身ですっきりしたと言っています。

 図にして表わす為に費やされた何枚もの紙。

 説明の為に描かれた図は、いつしか最近の流行を追ったドレスのデザイン画へと変貌を遂げていました。

 その中でもこれが似合いそうと、私とせっちゃん以外の皆々様が手に手にデザイン画を取り上げます。

 彼らはそれぞれの意見を出し合い、最終的にこれという二枚を選び出しました。

 私とせっちゃんの衣装を、みんなが勝手に決めてくれて楽だと思うべきなのか、意見を聞けと憤慨すべきなのか………

 まあ、「どれがいいと思う?」と聞いてくれた勇者様に、「善し悪しがわからないから、どれでもいい」と返したのは私なのですが。

 余所の国の衣装って、なんだか基準が良く分かりません。


 最終選考を通った衣装図を手に、まぁちゃんがどっか直したいところあるかと聞いてきます。

 せっちゃんと二人、デザイン画を覗き込んで…


「………姉様とおそろいが良いですのー」


 しょんぼり、せっちゃんが肩を落としました。

 落ち込んでしまった妹姫に、まぁちゃんが苦笑。

 ぽんぽん、と。

 優しくせっちゃんの頭を撫で叩きます。

「お揃いはまた今度な」

「本当? 絶対、絶対、お約束ですのー!」

 せっちゃんは、たった一言で活力を取り戻しました。


 身体つきも配色も顔の系統も、タイプの違う私とせっちゃん。

 お揃いするのは、別に構いません。

 だけど私とせっちゃんって、似合う服の系統も全然違うんですよねー。

 多分今後も、舞踏会やら式典でおそろいの衣装を纏うことはないでしょう。

 でも可哀想だから、そのことは口を噤んで内緒にしました。



 そして、私達の衣装は妖精の力によりパッと一瞬で早着替え。


「アブラカタブラ 変幻自在!」

「呪文の世界観が違っ!?」


 妖精の呪文に勇者様が何やらもの言いたげにしていましたが、概ね問題もなく。

 私達は、一瞬にして華やかなドレスを身に纏っていました。


 ちなみにドレスの材質から配色まで、口を出したのはサルファです。

 こいつ、化粧にまで口出ししてきましたよ。

「リアンカちゃんは睫毛までしっかり色付いてっし、眼元の印象も強ぇもん。だからアイシャドーは………」

「ちょっとちょっと、あんた一体どこでこんな技能覚えてきたのよ」

「ん? やっだリアンカちゃん。俺、芸人だよ? 流行やら情報やらに疎くちゃやってらんねぇって☆」

「それだけで済ませちゃいけない気がする…」

「強いて()ーなら、旅芸人一座にいた頃、一座の姐さんの身支度お手伝いとかしてたし? 女の子達とおしゃべりしてたら自然と覚えたって☆」

「………サルファ、女の子とお話して、そんな化粧や衣装なんて裏舞台の話されてたってことは……恋愛対象外に見られてたんじゃないの?」

「油断してたら手厳しい一言がっ! でもそんなところが素敵だリアンカちゃん!」

「あんた被虐趣味(マゾ)なんでしょ」

「ばっさり一言で切り捨てられた! 違うって! なんで断定されてんの、俺!?」

 嘆くサルファは、いつも通り無視して流してやりました。



 女の子の衣装で、リリフにもドレスを着せようとしました。

 しかし、本人からまさかの拒否!

「戦闘能力を誇りとする竜の身として、動きを阻害される服装は断固として拒否いたします」

 きっぱりと言い切られました…。

「え、じゃあ何着るの?」

「一応、こういったものを持ってきています」

 そう言って提示されたのは、人に化けた真竜が畏まった場所で着る伝統衣装。

 本性は全裸の竜ですが、一応は正装という部類に該当するのでしょうか。

「私達は同じ衣装の着回しでも、正装は男女全て同一の型だと言い訳します。

だから、パターンがどうの同じ衣装が何のと言われようが今後ずっとこれで押し通します」

 きっぱりと言い切って、リリフは譲りません。

 まあ、本人がそのつもりなら否やはありませんけれど…。

 装いで差を比べる人間とは、考え方が違うと言い切る気のようです。

 リリフは結構頑固だから、言い出すと聞かないのは目に見えています。

 それにロロイも、同様の理由で滞在期間中は同じ衣装を公の装いにすると言っています。

 二人とも、本音は面倒なだけと見た。

 彼らが動きにくい服装を嫌がるというのも、実際に本当のことではあるんですけど。


 子竜コンビは戦闘種族であることを主張するような、半分鎧の組み合わされたような衣装。

 はっきり言って、無骨です。

 でも真っ白で薄手の衣が合わされ、竜の属性に合わせた装飾がされていて鮮やかです。

 凝っていることは凝っているんですよね。

 これで良いと子竜が言い張るのなら、確かにこれで良いのでしょう。

 まぁちゃん的にも、この二人は舐められようと何とかなると判断されました。

 二人とも、障害を自力で跳ね除けるだけの力がありますから。

 問題なしということになり、衣装面はクリア!


 では、他の面子はどうなんでしょう?


 むぅちゃんはきっぱり堂々言いました。

「外聞なんてどうでもいいし、ここはもう借り物で」

「あ、俺も借り物でいーや。女の子の目に楽しい衣装さえ見られれば、後はどーでも?」

 サルファまで、あっさりと。

 でもこの二人はもう、何週間もこの国にいて名前も顔も知れています。

 私達と違い、男の子ですから。

 それに勇者様の名代を勤めたコンビに、あえて因縁をつける相手もいないでしょう。

 二人は素直に借り物衣装を使うことにして、サディアスさんに用意を頼んでいました。

 各種階級に合わせた貸衣装が用意されている王宮は、とっても準備がいいと思います。

 ただし、むぅちゃんに「合うサイズがあるのか…」と心配はしていたみたいですけど。


 勇者様はそもそもこの国の王子様で、ここは離宮。

 急遽サイズ直しが必要になりましたが、手直しならそんなに時間もかかりません。

 近くの衣裳部屋を暴けば、腐るほど死蔵された衣装があります。

 わざわざ探すまでもなく、既にサディアスさんが用意しているし。

 そんな至れり尽くせり状態を見て、まぁちゃんが気軽に言いました。

「勇者ー、服貸してくれねーか?」

「…無理だ」

 あれ?

 てっきり、まぁちゃんの服は勇者様が貸してくれると、思ったんですが…

 人の好い勇者様なら、ここは貸すところですよ?

 でも、何故でしょう。

 勇者様が、拒絶しました。

 まぁちゃんが「えー」と不平を漏らしています。

 でもそれ以上に、勇者様が困り顔です。

 

 勇者様の弁護をしたのは、サディアスさんでした。


「お客様、この国の伝統をご存じないのならお分かりにならないかもしれません」

「あん? 何が?」

「この国の貴族階級は、正装もまた階級分けがきっちりとなされているのです」


 どういうことでしょうか?

 詳しく話を聞いてみると、勇者様が拒絶した理由が知れました。

 

 この国の貴族階級は、装飾の質や宝石の大きさといったものとは別のところで、きっちりと衣服に身分を表す規定があるのだといいます。

 それは、正装に施される刺繍です。

 私的な衣装や、非公式な場所での衣装は自由だそうです。

 または、私的・個人的に開催された舞踏会や夜会の衣装も自由だと。

 ですが、ここは王宮で舞踏会の名目は王子の帰還。

 思い切り、正式で公な場所。

 男性の衣服は、階級によって刺繍の意匠と量が決まっているそうです。

 高位の貴族ほど刺繍は複雑に、華麗に、そして衣装の面積が広がっていく。

 最高位に近い勇者様の正装は、ほとんど全面近くに刺繍が施されているそうで。

 それを誰かが借用して着る、その状態で正式な場所に出て行くことは許されない行為です。

 勇者様とほぼ同列の装いが出来るのは、勇者様の近しい身内…例えば、兄弟だけ。

 まぁちゃんが着ていったら兄弟……国王様の隠し子疑惑が発生してしまうとのこと。

 ああ、そりゃ確かに貸し出せませんね。

 じゃあまぁちゃんは、何を着るの?


「仕方ねぇなー………いっそのこと、本式の完全フル正装で参加してやんよ!」

「完全フル正装!? それは、あの、いつもの略式よりずっと正式ということか!?」

「当たり前だろ?」

「や、止めてくれ! 止めて、本当! 大事になる! 意味ありげに仰々しすぎて大事になるから!」

 

 むしろ、神々しくて目が潰れるかも(笑)

 まぁちゃんの正式な正装は、私もずっと見ていません。

 本人がそんな仰々しい服装をする必要性を感じていませんからね。

 でも、即位の時の肖像画があります。

 それを、勇者様も前に見たことがあって………


 勇者様の本格的になりふり構わぬ必死の懇願が披露されました。

 その功績により、まぁちゃんの正式な格好は阻止!

 危うく大騒動になる危機は、こんなところで阻まれたわけです。


「ちっ………あれこれ面倒だな。いっそのこと、アレでいくか…?」


 まぁちゃんの、不吉な呟きを後に残して。




 

 さて、衣装の話は片付きました。

 でももう一つ案件が残っていたことを、覚えてもいました。

 

 エスコートの組み合わせという、案件が。


 うん、どう組み分けたものでしょうか。





 せっちゃんの黒髪は、満天の星空を映し込んだ夜の湖みたいなイメージ。

 瞳は銀の月です。

 逆にまぁちゃんは白銀の髪に黒い瞳なので、目力が目立つ目立つ。



 次回、エスコートの相手決めが行われます。

 リアンカ、せっちゃん、まぁちゃんに勇者様。

 はてさて、この四人のお相手は…(笑)


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