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29.昼餐会

前回に引き続き、お昼ご飯中。



4/22 内容に一部書き足ししました。

 勇者様のご両親は思った以上に大らかで。

 …勇者様の両親として苦労してきたのでしょうか。

 勇者様が気兼ねなく女性と会話しているという事実だけで物凄く感動されてしまいました。

 その結果として、普段以上に大らかになっているみたいでしたが。

 何しろ「勇者様と仲良くしている」というだけで大感謝されるという状況です。

 全然細かくないようなことでも、今の国王様達は構わない心境のようで。

 勇者様が卓に額を打ちつけるような、細かいことは全部目をつむってくださいました。

 もしかしたら、喜びが大きくて本当に見えなくなっているだけかもしれませんけれど。

 女性なのに気の置けない友情を築いていることで、安心もしたらしく。

 そして無駄な期待もしたらしく。


 会話の方向性は、飛び跳ねるように話題を変えて。

 勇者様の神経を締め付け、苦しめます。


 途中でご両親が勇者様に、


「それで、どちらがライオットの本命なのかしら?」

「ふふふ…選び難くとも、二股は最低だぞ。ライオット」


 …というような発言をして、盛大に勇者様を動揺させました。

 ご飯中のマナーも頭から吹っ飛ぶ勢いで動揺していました。


 何しろ勇者様、丁度口に含んだところだったワインを盛大に口から噴きましたからね。


 対面席に座っていたロロイのピンチ!

 でも水流を操ることに長けたロロイが、咄嗟に使った技は見事でした。

「チッ」

 舌打ち一つで、向かってくるワインを空中に留め、赤い水球を作り上げていましたから。

 少年少女を竜と紹介されても半分信じていなかったらしいご両親。

 しかしこんな凄技を見て、それでロロイが竜だと納得したようでした。

 更にロロイとリリフの腕…その肘から先を見て、驚いていましたけれど。

 ああ、そうそう。

「これ、本当に本物なのかしら…」

 王妃様は気になったのか、ロロイの鱗をぺりっと剥がそうと。

 何たる挑戦者(チャレンジャー)

 それに勇者様が慌てて止めるという事態にも発展しました。

 女性の細腕ぐらいで、簡単に剥げる鱗でもないんですけどね。

 それを知っている私達は平然としていました。

 むしろ、挑戦した王妃様の爪の方が折れる危機を迎えています。

 間一髪だったことを、ご両親は知らずに済んで良かったねというところでしょうか。

 竜の屈強な鱗を前に、女性の指が敵うはずなどないのですから。


 その一連のドタバタでご両親の邪推をかわせたと思いこんでいた勇者様。

 しかし甘かったらしく。

 ご両親は一向に直前の話題を忘れることなく、執拗に勇者様に問い詰めます。

 曰く、私とせっちゃんのどちらかが恋人なのではないかと。

「父上も母上も、客人の前でしょう! 一体なんの期待をしているんですか!」

 常識的に考えて、もう少し時と場所を考えろと勇者様が身を乗り出して訴えます。

 何にしても、当の本人達を前にする会話じゃないという点には賛成です。

 有り得ない事態ですが、これで本当に勇者様が二股でもしていたら………

 ……あっという間に修羅場の発生ですよね!

 だけどご両親は、こちらも悲痛に眉を寄せた顔で勇者様に訴えかけてきました。

 勇者様一人(私達は味方しない)に対し、ご両親二人の攻撃です。

「期待もするというものだ、ライオット。お前は今までずっと女性を遠ざけてきただろう」

「そうよ、折角、貴方をお父様によく似た素敵な金髪の好青年に産んであげたというのに」

「そうだ、母に似て美しい目をした若者に育ったというに……

十四の年には修道院で暮らしたいなどと言い出す始末」

「そんな貴方が、こんな可愛らしいお嬢さん達ときゃっきゃうふふとこんなに仲良く…」

「母上、母上、きゃっきゃうふふは絶対に違います! そんな言葉が漂うようなじゃれ合いをしていたのなら、それは確実に俺ではなくてリアンカと姫の二人だけです!」

「我らが息子も隅に置けぬ。まあ、愛らしいとは言っても妃には敵わぬが…」

「ま、陛下ったら! 恥ずかしくなってしまいますわ!

あんな美しいお嬢さんを前に、私のような年増でも愛らしいと言ってくださいますの…?」

「妃は昔と変わらず、いや、常に今この瞬間こそ誰よりも愛らしいさ。

我が目に妃以上に愛らしいものなど映らぬよ」

「陛下…」

「妃…」


「「「「「「…………………」」」」」」


 わあ、なにこれ三文芝居?

 いきなり目の前で始まった茶番じみたナニか…惚気に、私達は動きを止めました。

 これで、どんなリアクションを取れと。


 さっきまで勇者様の恋人問題に口を突っ込んでいたはずなのに。

 なのに何故か気付いてみれば、国王夫妻のいちゃいちゃ劇場が始まっています!

 いえ、会話の端々がちょいちょい惚気交じりだったけれど!

 でも逃げられない食事の席で堂々と惚気るのはどうなんですか?

 他人の惚気なんて、見ていてもどう反応したものか…

 ここは冷やかした方がいいんですか?

 食事に集中して無視してもいいんですか?

 というか、人前でこう堂々と惚気る国王夫婦ってどうなんですか?

 周囲の人間は逃げられない分、精神に負荷がかかりそう!

 本人達が美男美女のカップルなので、見苦しさは半減してますけれど!


「………勇者様、鬱陶しくも痛いご両親をお持ちのようで」

「すまない。本当にこんな両親ですまない」

 慙愧の念に耐えないという顔で、勇者様が右手で自分の口を覆い、嘆いています。


 心底どうでもいい他人の惚気。

 それを前に、私もまぁちゃんも微妙な顔です。

 せっちゃんはマイペースに鴨肉を褒め称えています。

 どう反応したら良いかと勇者様に目を向けると、案の定頭を抱えていました。

 私達の同情の視線に苦く笑って、勇者様がご両親に抗議の声をあびせかけます。

「父上、母上! 客の前で惚気は止めてください! 絶対にお願いします…

……って、前からお願いしているでしょう!? 人を出汁に惚気るのは心象悪いですよ!?」

 ああ、これ、日常茶飯事なんですか……

 勇者様の普段からの御苦労ぶりが垣間見え、偲ばれてなりません。

 勇者様……身内にも、敵がいたんだね。


 その後、勇者様が言葉を尽くして両親に訴えかけること十数分。

 ご両親の追及に、そんなんじゃないと返しながら勇者様は必死に抗弁します。

 説得の甲斐あってか、表面上はご両親に納得してもらえるまで扱ぎ付けました。

 ですがお母様が此方を意味ありげに見ておいでです。

 …あの様子を見るに、心から納得してもらえたかは疑問ですね。

 むしろ、勇者様が必死になればなるほど、何やら目を輝かせているような。

 うっかり、母君様の呟きが耳に届きました。


「恋のキューピッド☆って良いわよねぇ………」


 その言葉があまりに不吉だったので、私は空耳ということにしました。

 知らないって恐ろしすぎるので、後でこっそり勇者様にだけ教えてあげましょう。

 お母様が何か画策してそうだよって!

 …私やせっちゃんも、他人事じゃなさそうですけどね。

 逆にせっちゃんは他人の思惑に踊らされる心配が驚くほど感じられない気がします。

 それでも、心配だし。

 精々、私がせっちゃんの身辺にまで気を配ることにしましょう。

 

 しかし母君様は、私とせっちゃんのどちらを本命だと思っているのでしょうか……


 それを特定するつもりもないまま、両者それぞれと息子の縁結びを子煩悩で心配性な母親が企んでいることなど、私は微塵も知りません。

 まさかそんな不誠実で無茶なことを、後先考えずに王妃様がするなんて…!

 自分の息子が女性に拒絶されるはずがないとか、思っているんでしょうか。

 どれだけ息子さんの出来に自信があるんですか………!?

 いえ、息子さんは確かに立派で心も体も誠実善良な優良物件ですけど!

 でも誠実だからこそ、不誠実な母の企みを知ったら、勇者様がどれだけ苦悩するか(笑)

 見物できないのが残念です…。


 お昼ご飯の席で勇者様が抗弁に疲れ、ご両親が目を妖しく光らせる。

 それは更に増えた滅亡の予感に、勇者様が絶望して未来を諦めかける三時間前のことでした。


 

 勇者様が必死になっている間に、メインの肉料理がやって来ました。

 仔牛肉うまー。

 柔らかくっていくらでも食べられそう。

 せっちゃんも必死ではみはみ口を動かしています。

 ただし、ロロとリリは歯ごたえが足りない…みたいな顔をしていました。

「もうちょっと骨ごと欲しいな…」

「そうね、あのバリバリする食感は気持ちいいし」

「あの、歯茎にくすぐったい感じが良いんだよな」

 ………野趣溢れる竜の普段の食生活って、どうなってるんでしょうね…?

 仔牛一頭平然と丸呑みとかしていそうです。

 私はほのぼのと、微笑ましい気持ちで子竜達のご飯風景を眺めます。

 勇者様のご両親の不穏な眼差しはとっとと忘れましょう。

「ロロ、お肉ばかり食べちゃ駄目よ。リリも、ちゃんとお野菜食べちゃいなさい」

「はいはい…」

「はい、リャン姉さん」

 どうも偏りがちな食べ方を注意すると、素直に子竜達は手つかずの野菜や果物に手を伸ばします。普段から肉ばっかり食べてるっぽいですね。

 でも子竜達のお世話も結構楽しいです。

「ロロ、ナイフとフォークはへし折らないようにねー?」

「いつの話だよ。もうそんなことする筈ないだろ」

 かつての失敗を持ち出して、子竜達をからかい倒しました。


 そんな私達を見ながら、ふと国王様が一言。


「ハテノ村と言えば、確か……………」


 何故か私達を見ながら、重い沈黙。

 な、なんですか?

言いたいことがあるなら言ってみたら良いと思います!

 

 だけど国王様は、黙して語らない。

 

 本当に一体、何が言いたいって言うんですか…!?


 

 国王様の、その言いたいことを察したのは勇者様でした。

 流石、親子。

 お父さんの発想を、息子さんは理解しているようです。

 勇者様は気まずそうに、少々困った顔をしながら…


「父上、ハテノ村は噂とは全く違いますからね…?」


 噂とな。

 噂。


 魔境の真っ只中で暮らしていると、全く実感なんて湧きませんが。

 私達の村は特殊な立地条件のために、世界的に有名だと聞きます。

 世界七大不思議に数えられているそうですから、余程のことです。

 そして、噂。

 その言葉に、引っかかるのは何故でしょう?

 外側の人達から見た、ハテノ村の勝手なイメージ。

 それがどういったものか……


 確か、勇者様から耳にした覚えがあります。


 ――『この村は『魔族の力による支配下に置かれ、奴隷とされた人間達が虐げられながら暮らす、悲惨な場所』だと………』


 ……………うん、事実と全く異なります。

 噂って怖いね!

 誰だ、そんな噂流した奴!

 まぁちゃんがシメちゃうぞ☆


 そして国王様は、今更ながらにそんな噂の中心地で暮らしている息子や、そこで生きている私達のことが心配になったか疑わしくなったか、そんなところですか?

 

 それが事実と異なるただの噂であること。

 本当はそんな不安なことなどなく、平和な村であること。

 それこそが異常だが、深く気にしてはいけないこと。

 その辺りの事情を言い含めるのに、昼餐会の残り時間全てを私達は費やすことになったのでした。





リアンカ

「うふふー。勇者様のご両親ってすっごく鬱陶しいね!」

勇者様

「本当に、あの二人はあの惚気さえなければ…」


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