表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
降り立ったのは天使か悪魔か
3/182

2.竜に乗って

それでは、ここから本編どうぞ!


 空を、いく。

 棚引く雲を、追いぬいて。

 細波(さざなみ)みたいな、不思議な光景。

 眼下に広がる、大地。

 森、川、山、湖、草原。

 砂漠も超えて、見上げるような巨峰を眼下に通り過ぎて。

 生き物の姿を確認するのも難しくて。

 そんな中を、空を。

 竜の翼が切り裂き、搔き分け、先へと進む力に変える。


 私達は今、竜の背に乗って。

 そうして青の空を、切り裂きながら進みます。

 空を飛ぶ大きな背中は、私達を乗せてなおしっかりと逞しく。

 頼りがいのある背に、感慨深いものを感じます。

 だって初めて魔境を出たんですよ、私?

 これで何も思わないほど、どうやら私も鈍感じゃなかったようで。

 初めて見る景色に、初めて吸う空気に。

 濃密な魔力がそこにあることが当然だった、魔境。

 魔法の使えない私でもしっかりと感じ取っていた、魔力。

 それが一切感じられない、この希薄な空気…!!

 いっそ感動すら覚えるほど、すっきり新鮮。

 あの纏わりつく魔力を今まで意識したことはありませんでしたが…

 私、今まで凄い空気吸って生きてたんだなぁと。

 そんな感慨で胸がいっぱいです。

 …と、いったようなことを口にしたら、勇者様になんだか嫌な顔をされました。

「あれが、あの濃過ぎる大気は普通じゃないからな…?」

「でも今まで全然意識してませんでした。

これはもう、一度外に出たからこそわかるようになったようなもので」

「うん、その主張は理解できる。でもあれは、絶対に普通じゃないからな……?」

「でも、それが魔境なんですよ。勇者様」

「そしてリアンカは魔境育ち、か………」

 勇者様、遠い目。

 遠い目をすることが多いけど、勇者様って遠視ですかー?

 違いますね、はい。

 分かっていて言いました。

「………こんなんで、故国に彼らを連れて行って大丈夫なんだろうか…」

 勇者様の溜息は、今日も深々と驚きの重さでした。

 測定できる装置があったら、三kgくらい弾き出しそう。

 そんなことを思って、私は感心しきりという奴でした。



 私達は、竜の背の上。

 私はロロイに、せっちゃんはリリフに。

 そして勇者様とまぁちゃんは駄竜(ナシェレット)の背の上に。

 空の旅は快適だけど、空気抵抗で体力の消耗が激しい激しい。

 見かねたまぁちゃんが魔法で風の壁を作り、補助してくれなかったらただの人間として私も倒れなきゃいけないところでした。←まだ余裕ありそう

 ちなみに勇者様(自称:人間)は自力で耐えておられます。

 …やっぱり、あの人って人間やめてるんじゃ。

「こら、リアンカ。誰が化物だって?」

「そこまでは言ってませんよー………って、ついにとうとうモノローグにまでツッコミを!?」

 戦慄しました。

 本気で、戦慄しました。

 勇者様…とうとう、そんな高みまで………

「………リアンカ、顔に全部出てたからな?」

「え?」

「悪戯を考えている時とか、気を張っている時はそうでもないけど…

リアンカ、君、素の状態の時は結構考えてることが顔に出るよ?」

「ええ!?」

 うそ、本当ですか!?

 驚きです。

 慌ててまぁちゃんの顔をグリッと見ると………目を逸らされました。

 本当なんだ…。

 十七年間生きてきて、初めて知りました……。

「表情が顔に出やすい、か…どこを鍛えれば改善できるんだろう」

「無理に直さなくても、そのままで結構可愛いと思うんだが…そのままでいいんじゃないか?」

「当事者じゃないからそんなことが言えるんですよ、勇者様。私の思惑筒抜けとか、周りが可哀想じゃないですか!」

「………物騒なことを考えている時は、驚くほど表情に出ないから大丈夫じゃないか?

お陰でいつも、俺だって何かされた後で吃驚させられているし。」

「あ、それなら…」

「それならいいのか! 気にしないのか!?」

「当たり障りのないことなら筒抜けでもそこまで困りませんよ。基本的に、私ってば正直者ですから」

「困った方向でな!! 正直じゃなくて良いようなところばっかりな!」

「それ以外でも正直だと思いますけど…」

「確かに君は素直で正直だけど、時には隠すことも覚えような!? 特に本音とか黒い思考とか!」

 勇者様の嘆きようは、今日も通常運転でした。




 そんな感じの五日間をゆっくりまったりのんびり、過ごして。

 そしてとうとう、見えてきたのです。


 そう、勇者様の故郷。

 人間達の盟主国と言われる、西の大国が…!

「わあー、新しい遊び場ですのー?」

 せっちゃんの無邪気な一言に、多大な不安が押し寄せたのか。

 勇者様が、なんか死にそうな顔をした。


 眼下に広がる、町並みは遥か。

 こんなに大きな民家の群れ、初めて見たかも…!

 遙々とこんな範囲を、自然物を取り除いた人工物で覆う労力。

 人間のコツコツ頑張るところは凄いって、前に先代魔王さんが言っていたのを思い出します。

 確かに、凄いかも…これが都会というやつですか。

 そんな勢いで続く赤いレンガや白いタイルに覆われた光景の先。

 遠い先に、真っ白く優美なお城が見えました。


 日光を弾く白い城壁。

 絶対に染みが目立ちますよ、手入れ大変そう。

 瑠璃みたいに青い屋根瓦。

 というか、瑠璃の粉が塗してありますね。贅沢な。

 金色に輝く彫刻細工。

 民衆からの搾取の証ですね、わかります。

 豊富に配置される統一された兵。

 どう考えても維持費、人件費だけでえらいことになりそうです。


「おお、あれが人間のお城…この国の権威と見栄の結晶ですか」

「敢えて穿った物の見方をしているのはわざとだろうか…」

「労働者階級に喧嘩売ってるんですか?」

「君、村娘だけど労働者とは違うだろう…! ハテノ村は、どこにも納税していないんだから!」

「当り前ですよ。うちの村はどこの国にも属していませんし」


 強いて言うなら、うちの村で徴収されているのは村民会費くらいです。

 それも管理しているのは私の父(村長)なので、私、勝ち組ですね!


 私は頭を抱える勇者様も放っておいて、再び城に見入ります。

 人間の盟主国、王の居城というだけあってかなりのものですから。

 凄い、この見応え…!

 魔王(まぁちゃん)(のおうち)には劣るけど!


 あっちは規模も何も人間に真似できるものじゃありませんからね。

 巨人族すら収容できるお城は、どうしたって人間サイズ前提のお城より大きくなって当然です。

 こっちのお城は真っ白だけど、魔王城は余すとこなく真っ黒で。

 凄くわかりやすく、対照的な様相を見せています。

 だからこそ、見応えを感じる訳ですが。


 前に見た、シェードラントのお城とは段違いです。

 なんか、シェードラントのお城が掘っ立て小屋に見えてきた…。

 周囲に広がる家々も商店も、踏み潰しそうに大きく見えます。

 巨人のお城とも呼ばれるそうです。

 本当に巨人が入るお城を見慣れた私としては、ちょっと笑える。

「勇者様、本当にお坊ちゃまだったんだ」

「その言い方、我儘坊主(ボン)みたいに聞こえるからやめてくれないか…? 悪意は隠せ、悪意は」

「正直な感想ですよ?」

「絶対に良い意味じゃないだろう!?」

「悪い意味でもありませんよ。たぶん」

「多分がつくあたりで、その言葉を信じるとでも…?」

「信じる者は救います」

「救われる、じゃなくて『救います』…?」

「ええ、主に私から」

「信じなかったら何されるんだ!?」

「それは信じなかった時のお楽しみです」

「楽しみにするやつがいるか!? 本当にナニをする気なんだ…!」


 言葉の応酬の果てに、やっぱり勇者様は頭を抱えて。

 見慣れた姿は、顔が美形すぎるけど普通の青年に見えるのに。

 どうやら目の前にいるこの方は、本当に桁外れのお金持ちみたいです。

 いや、まあ魔境では関係ないことですが。

 でもここは人間の国だし、大いに関係ありましょう。

「しかし楽しみですねー。勇者様の王子様姿とか、想像できませんけどきっと凄いんでしょうね」

「…そんなに期待されるようなことじゃないけどな」

 そう言って、勇者様はふと私に厳しい顔をむけます。

 いえいえ、真剣に楽しみですよ。

 勇者様は長旅の果てにハテノ村まで来た人ですから。

 自然、その服装は王子という肩書きにしては質素で堅実。

 剣士といわれたら納得だけど、王子と言うには質実剛健すぎますから。

 だから、絶対に眼福モノの王子様ルックは結構楽しみです。

 見慣れない姿って、目に楽しいですよね?

 勇者様のちゃんとした格好なんて見たこと無いので、無駄に想像が掻き立てられます。


 お城がいよいよ近づいて。

 勇者様は真面目で、どこか張りつめた顔。

 そして、言うのです。

「いいか、皆。重ねて言うが、ここは魔境じゃない。魔境じゃないからな」

 それは、この旅が始まってから…いえ、始まる前から勇者様が度々私達に言い含めていた内容で。

「ここは人間の国なんだから、魔境の常識で動かれると困る」

 そうは言っても、勇者様。

 完全完璧たる魔境育ちの私やせっちゃんに、魔境という箱から出たことのなかった私達に、人間の国の常識非常識がわかるとでも…?

 絶対にわかりません。

 何がおかしいのか、駄目なのか。

 わかるはずないじゃないですか。

「これは…暗にやれという前振りでしょうか」

「絶対に違うから!!」

 ぽつりと言ったら、即座に耳聡く否定されてしまいました。


 そうする間にも竜達は確実に距離を詰め、今となってはお城の上空で緩く旋回。

 これからお城の練兵場にでも着地しようかと、姿勢を整え始める訳ですが。


「………え゛?」


 勇者様の、現実認識を拒むような声。

 私達はおお、と感心の声。


 見下ろす眼下、予想していなかったことが始まります。

 狙いをつけて……どーんっ!

 ……城壁の上、城の上部、方々から。

 私達は…私達を乗せた竜達が、王城を防衛する兵達に、狙われていました。

 

 魔導大砲で。


 いや、人間さん達の魔導大砲とか、そんな大した物じゃないんですけどね。

 魔力も弱く魔法技術も乏しい人間さん達の技術力じゃ、驚異に感じようもありません。

 魔境出身の私達としては、そう感じる訳ですが。

 こんなちゃちい代物で真竜がどうにかなるとも思えませんし、案の定びくともしません。

 だけど人間さん達は必死に真竜を打ち落とそうとてんやわんやで。

 それを上空、竜の背から呆然と見下ろす勇者様。

「勇者様、実はお国で嫌われてるんですか?」

「お命、狙われちゃうレベルで、ですのー?」

「せっちゃん、人間さん達にはきっと複雑な事情があるんだよ…暗雲渦巻く陰謀とか」

「言いがかりだ! そんなこと、間違ってもないからな!?」

「じゃあ、勇者様が気づかないで、実は疎まれていただけ?」

「止めてくれ! 嫌な想像で心臓がキリキリするから…!!」

 実は自分、嫌われていたんじゃ…そんな疑惑で、勇者様が顔を真っ青にしていて。

 だけど嘆きの声は、大砲に掻き消されて地上まで届かない。

「真竜共はともかく、衝撃と勢いが危険だな…」

 チラリと、まぁちゃんが私を見ました。

 きっと、ただの人間の身である私を案じて、です。

 狙撃され始めた段階で、ロロイが私を庇って他の真竜達より上空に距離を取ってくれています。

 それでも爆風や衝撃に煽られ、転落しないとも限らないので。

 呆れた目で地上を見下ろしながら、それでも忌々しそうに舌打ちをして。

 まぁちゃんが指先を一閃…

「待て、まぁ殿! 地上の兵士や設備に何をするつもりだ!?」

 しようとして、勇者様に止められました。

「ちっ…勘付いたか」

「いや、この展開で分からないはず無いだろう。まぁ殿の今までの言動を鑑みるに」

 日頃の行いって奴ですね、それじゃ仕方ない。

 勇者様に懇願されて、まぁちゃんも渋々。

 本当に渋々ながら、方針を変えてくれたみたいで。

「まあ、余所の城を大破させても意味無いか」

「本当に何をする気だったんだ!?」

 止めて良かった…! そう勇者様が叫ぶのを後目に、まぁちゃんは今度は指パッチン。 


 それだけで、終わりました。


 地上には手を出せない。

 だから、まぁちゃんは障壁を張った様でした。

 目には見えない。

 だから、魔力も大して持たない人間さん達は気づかない。

 不可視の壁によって、大砲の威力も衝撃も、爆風の欠片さえも遮られ。

 私達には全くもって被害が届かない訳ですが。

 地上ではそんなこと分からないので、滑稽にも効果のない大砲を盛んに操っています。


 これ、本当に何事でしょうね?

 この熱烈歓迎ぶりで、本当に勇者様は疎まれていないというのでしょうか…


 訝しげな視線が殺到すると、考え込んでしまう勇者様。

 やがて、何かに気づいた様にハッと顔を上げました。

 

 再び大砲を撃とうとする兵達の頭上。

 勇者様の茫然とした声が聞こえた。


「………そういえば、竜で行くと通告するのを…」

「忘れてたんだな?」


 勇者様はまぁちゃんの念押しにこっくりと頷いて。

 青い顔で、どうしようと焦っているようでした。


 いや、どうしようもないでしょう、それ。

 責任持って、御自分で何とかして下さいね? 勇者様?




ちなみにまぁちゃんは、ナシェレットさんの背ではなく、


 頭 に座っています。


駄竜が何か怪しいことをしようモノなら、頭蓋骨陥没させるつもりです。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ