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28.勇者様は王子様

勇者様のままん登場♪

 私達の間で忘れ得ぬ存在となった、『おうさま(ヘルバルトさん)』。

 思いっきり物議を醸させてくれた大臣さんは、優雅に一礼。

 そんな! 駄目ですよ!

 そんな超個性的な『おうさま(ビジュアル)』の人が、頭なんて下げちゃ!

 何故かさせてはいけない人に頭を下げさせてしまったような、そんな錯覚。

 立場的に大臣らしいおっさんが王様や王子様に頭を下げるのなんて当然でしょうに。

 本当に何故か、凄まじい禁忌を犯したような気分になります。

 そこらへん、勇者様も割り切れていないのか微妙そうなお顔。

「何故だろうな……他の大臣達と同じ態度の筈なのに。

だけどヘルバルトに礼を取られると居た堪れなさが凄いんだ」

 そんな状態で、よく十九年も。

 私なら、さっさとあの大臣に身形を改めさせてますけどね。

 容姿や服装に口を挟めないと、この人の良い王子様は言います。

 でも、よく見たら背後の方で他の大臣さんが笑いを堪えています。

 ……ああ、面白いから放っておいた人も何人かいそうですね。これ。

 面白そうなので、私も余計な口は挟むまいとお口にチャックしました。


 今日は内輪の昼餐会だと聞いていました。

 大臣さん達がいるから、ちょっと身構えました。

 でも、勇者様のお言葉に偽りはなかったようです。

 お昼ご飯を一緒にするのは、私達と王様・王妃様だけ。

 他の大臣さん達は勇者様とちょっと挨拶をすると、国王様に礼をしてから去っていきます。

 それぞれがそれぞれに、忙しそうに書類を抱えて。

 でもその顔は、何故だかちょっと満足そう。


 式典直前の期間ですから、今は丁度バタバタしているのでしょう。

 それなのになんで、重臣さん達は仲良く揃って国王様についてきたのでしょうか。

 先導を役目としているという、ヘルバルトさんはともかくとして。


 何でも事前まで、近くの部屋で重要な話し合いをしていたとか。

 その流れで、麗しき勇者様の元気な姿を見物に来ていただけのようです。

 皆さんが十九年間、死なないように大切に育ててきた王子様。

 王子様の癖に、放っておくと死ぬ目に遭っている心配すぎる王子様。

 そんな彼が帰ってきたのは、思えばまだ昨日のこと。

 帰って来てから、一日しか経っていません。

 そして勇者様が皆さんの前に姿を現したのは謁見の時だけ。

 挨拶をしたい人も話をしたい人もいたでしょう。

 でも勇者様は、私達が心配だったようで。

 謁見が終わるなり、引きとめたそうな人々の存在をぶっ千切って猛ダッシュ。

 かつてない慌しさで離宮に戻っちゃったそうです。

 他人に害される恐れが何重の意味でもある勇者様。

 彼の離宮は、王宮内で不可侵とされていると知ったのは後のことです。

 何者であろうと、許可なき者の侵入は許されないと。

 陰でこっそり『殿下の岩戸』と呼ばれていることを勇者様本人は知らないとか。

 結果として、話を積もらせたかった人達は、勇者様との接触を諦めた。

 それでも元気そうな顔だけはじっくり見たいという、親心に似た何かが発揮されたようです。

 皆さん、ただの臣下とは言え、勇者様の誕生と成長を見守ってきた人達です。

 お国の後継の元気な姿は、彼らにとって気にかかるところだったのでしょう。

「勇者様、愛されてるねー」

「時々、愛が重いけどな…」

「そんなこと言ったら、罰が当たるよ?」

「………彼らの今一番の懸念が、俺の結婚と後継ぎ問題だとしても?

純粋な心配から、無用な世話を焼こうとしてきても?」

 わあ、それって見合いを世話しようとする親戚の世話焼きおばさん×何人分?

「………勇者様どんまい☆」

 笑って誤魔化しておこうっと!

 勇者様って、本当に苦労性だよね。


 そんな重臣さん達に、私やせっちゃんが意味ありげに見られているような気がしました。

 うん、気のせいということにしましょう。

 考えたら勇者様が可哀想になる結末しか思い当りません。

 私は気付かないふりで他人の視線を黙殺しました。




 さてさて、ようやっとお昼ごはんですね!

 さっき笑いすぎたせいでお腹が空きました!

 そう言ったら、勇者様が疲れた笑いを浮かべたけれど、気にしない。

 今の私は、豪華なお昼ごはんにだけ関心があります。

 でも、ここで待てがきました。

 怨めしい…

「そんな恨めし気に見ないでくれ、リアンカ」

 勇者様が困っています。

 でも今、私のお腹も困っています。

 あ、溜息つかれた。

「リアンカ、まだ俺の父と挨拶もしていないだろう?」

「あ」

 本気で忘れていました。


 堅苦しくすることはないとの、国王様の寛大なお言葉。

 私達は対等な立場ではありませんけれど、それに近い扱いをと、国王様が言ってくれます。

 息子の友達に偉ぶっても格好悪いだけだろうと。

 その言葉には、お子さんとは違って余裕が感じられます。

 勇者様にはない茶目っ気も、多分に含んでいそうで。

 生真面目な勇者様のお父様にしては、話の分かりそうな方ですね。


 私達は内輪の席で使われるという円卓に案内されまして。

 それぞれが席に着いてからの挨拶及び自己紹介の運びとなりました。

 勇者様のお父様が、「食べながら話そう」と言ってくれたからです。

 まあ、『昼餐会』なので、話ながら食べること前提の席ですしね。

 勇者様のお父様は、息子のお友達に寛大なところを見せたいようです。


 さてさて、席に着くなりご挨拶。

 陣頭を切ったのは私でした。

 それはもう、勇者様が口を挟む隙を与えずに畳みかけますよ!


「それでは、改めましてこんにちは! お邪魔しています!

ハテノ村は村長の娘リアンカ・アルディーク17歳でっす★

勇者様(むすこさん)のツッコミにはお世話になってます♪」


 礼儀も作法もなんのその。

 思いっきりお友達のお父さん扱いでご挨拶。

 全力で身分無視の挨拶をした私に、勇者様が額を思いっきり卓に打ちつけました。

 わあ、勇者様ったらお父様の前なのにリアクション激しい!

 鈍い音を打ち鳴らした勇者様に、国王様が若干作動停止状態になりました。

 じっと息子さんを三秒ほど眺めてから、動きを取り戻します。

「………息子(あれ)はどうしたのか…?」

「ライオット、額は大丈夫ですか?」

 後から合流した王妃様が、心配そうに息子さんの額を案じます。

「「いつものことなので、ご案じ召されず!」」

 私とまぁちゃんは、声をそろえておりました。

 ええ、本当に心配なんて無用の長物ですから!

「勇者様は頑丈なんで、すぐ復活しますよ?」

 一応言い添えた私の言葉に、王妃様はとても微妙そうな顔をしておりました。


 ここで、少し王妃様のお姿に触れたいと思います。

 まあ、わかりきった事実から一つ。

 美女でした。

 紛れもなく、美女でした。

 優しそうにおっとりとした雰囲気の、聖母像を思わせる美女です。

 今は年相応に落ち着いていますが、若い頃はさぞや男心を惑わせたことでしょう。

 国王様と合わせて美男美女のカップルとか、目の保養が凄いです。

 若い頃はきっと二人セットで輝いていたでしょうね。

 世の男女の妬みという妬みを買っていそうな組み合わせ。

 …勇者様のあの美貌、その呪いじゃ、ないよね?

 

 勇者様のお母様は、勇者様と同じロイヤルブルーの瞳。

 髪の色は薄茶色です。

 勇者様はお父様の髪色と、お母様の瞳の色を受け継いだんですね。

 両親のいいとこどりです。

 美貌の方も、両親の良いところばかりをバランスよく受け継いでいます。

 その為でしょう、美貌は美貌なんですが…

 親子三人、とても良く似ているんですが……


 若さだけではない理由で、勇者様の美貌が群を抜いているんですけれど。

 

 美形親子の遺伝子の凄まじさに、その美貌的サラブレットぶりに。

 きっとそんな恩恵を望んでなんていなかっただろう勇者様。

 彼の御苦労を思って、ちょっと可哀想になりました。

 ご両親よりちょっと劣るくらいの美形だったら、人気はご両親に殺到したでしょうに。

 苦労性な勇者様の受難。

 それはこのご両親の間に生まれたことから端を発していそうな、遺伝子の良い仕事ぶりです。

 いえいえ、ちょっと良い働きしすぎでしょう、遺伝子さん。



 私が生命の神秘に思いを馳せている間に、勇者様は何とか復活したようです。

 流石、魔境で鍛えた復活力☆

 魔境にきた頃に比べると、格段に精神的回復力が増しています。

 おまけに尻拭い役まで板についてきたのか、こんなことまで。

「父上、母上。…魔境には、確固たる身分制度というものがありません。

だから彼女達が身分を弁えない失礼な態度を取っても、どうか大目に見ていただけませんか。

衆目があるところでの非礼は、どうにか俺がさせることのないように努力しますので」

 心底困っていますという顔で、必死のフォロー(笑)

 私達には必要性の感じられないフォローなので、きっと私達の為というだけでなく今後や周りの為という意味もあるのでしょう。

 身分という観点で言うと、私はいいとこ地方豪族の娘くらいの位置づけです。

 そんな人間が国王様に気安い態度を取れば…

 勇者様の胃が、破滅に近づきますね(笑)

 今後もあるだろう機会の為に、勇者様は今から必死です。

 内輪だから無礼講と言われたにも関わらず、実の両親相手に必死です。

 もしかしたら、実の親子でも王族は畏まって身を弁えるのが普通なのかもしれませんけれど。

「しかし勇者、『俺がさせません』とは大きく出たなー」

「まぁ殿……貴方達が幾らかでも俺の為について来てくれたという言葉が真実なら、公の場で慎むことくらいは譲歩してくれてもいいだろう…?」

「お前に俺らの行動が止められると、本当に思ってるのかね?」

「自由にしてくれて、構わないさ。その行動で真実、リアンカや姫が困らないとまぁ殿が思えるのなら。この国という、魔境とは何から何まで違う場で、まぁ殿一人がそれで良いと思えるのなら」

「………言うようになったねぇ、お前」

「それは、俺も色々賭けてるんだから。少しは」

 何しろ俺はまぁ殿の温情に縋るしかない立場だと、勇者様が澄まし顔で仰います。

 ………どうやら魔境に行って成長したのは、リアクションとツッコミと精神的回復力だけじゃなかったようです。

 他にも精神的に成長していたのかと、こんな場面になって再認識。

 ちょっと、吃驚しました。


 今後、(リアンカ)とせっちゃんの行動を制限されない為。

 その言葉でまぁちゃんが勇者様に陥落しました。

 珍しい事態です。

 勇者様とまぁちゃんが出会ってから、初めてのことかもしれません。

 まあ、この二人はなんだかんだ結構仲がいいので、勇者様にまぁちゃんが譲歩するという光景は意外に珍しくありませんが。

 それでも、まぁちゃんが言い負かされて黙り込むような形での譲歩は珍しい。物凄く珍しい。

 これが、立地的アドバンテージの差でしょうか…!?

 ここが人間の国であり、私やせっちゃんという弱点が傍にいてこその敗北です。

 勇者様はまぁちゃんの弱みを的確につきました。

 これでまぁちゃんが単品での入国だったら、無理な展開です。

 そして私とせっちゃんが先に魔境に帰ったら無と帰す展開です。

 それでも。

 私やせっちゃんという、知れ渡った弱みを突いてでも。

 そのことで、まぁちゃんに根に持たれるとしても。

 それでも構わないと思うほど、どうやら勇者様は必死の様子。

 これが愛国心かと、私は勇者様の故郷を大事に思う気持ちに感じ入りました。

 こんな命知らずな真似に踏み込むほどお国が大事で。

 そして後で報復される覚悟も持てるくらい。

 それと同時に、酷い報復はされないと自覚しているのかもしれません。

 大目に見てもらえるくらい、私達に受け入れられているのだと。

 勇者様の(したた)かなところ。

 魔境では、見たことのなかったところ。

 この人間の国でこそ、ならではの強さ。

 こうして自分の存在を賭けられるくらいに、彼は強かったのでしょう。

 うん、初めて知った。


 やはり勇者様は『王子様』なのだなぁと。

 こんなことで実感しました。

 まるで初めて認識したように。

 ほんの些細なことでも、お国の為に命を賭けられるんですね。

 そうまでしてお国を守ろうとする姿勢を、骨身に叩きこんでいるんですね。

 そんな勇者様にとっては当たり前だろう事実に、驚いてしまいます。

 

 今までただの情報として知っていたこと。

 勇者様が『王子様』であること。

 私は初めてそれを、しっくりと勇者様に馴染ませて認識することができたのでした。



 そんな、昼餐会。

 それはまだまだ続きます。





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