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23.生首

4/15 一部内容を改変しました。



 う、うー…

 ようやっと、口の中の灼熱が治まってきました。

 粘膜という粘膜が、炎症を起こしたかと思いましたよ!

 まぁちゃんと勇者様が大慌てで私を案じてくれたから、回復も早かったんだと思います。

 二人が薄荷水やら飴玉やら、辛味を抑えるような物を掻き集め、与えてくれたお陰かな。

「ふ、ふたりとも…ありがとー」

 まだちょっと、喋るのが辛い。

 無理するなと言われて、少しだけほっとしました。



 さて、現場の状況説明を私、リアンカ・アルディークがお送りいたします。

 私がのたうちまわっている内に、なんだか粗方片付いているようです。


 シズリス青年は、私よりも深刻に再起不能(笑)

 現在はサディアスさんに肩を貸されて、顔を洗いに行っているようです。

 失明しないと良いね!


 オーレリアス青年は、何故か気付いたらもふもふ団子になって倒れていました。

 より正確に言うのであれば、倒れた青年…

 ……に、彼が呼び出した大量の子猫子犬達が(たか)っています。大集合です。

「みぃー」

「にぃにぃ」

「きゅーん」

 やめて! そんな潤んだ瞳で見ないで!

 うっかり(ほだ)されそうになりつつ、対応していたリリフを見ると…

 オーレリアス青年とは逆に、彼女は頗る身軽になっていました。

 乗っかっていた(わん)(にゃん)、どーしたの。

 どこに行ったかと思いましたが、何のことはありません。

 現在、オーレリアス青年の上です。

「死なせちゃ駄目って言うから一匹一匹、地道に摘まんで下したよ」

 それはもう、怪我をさせないよう細心の注意を払って忍耐強く。

 加減に苦心しながら、慎重に開放していったそうです。


 最初から地面にいた犬猫は勿論のこと。

 解放された犬猫も、自由の身になるや一様にオーレリアス青年の方を目指したとのこと。

 てちてち、よちよち、と。

 まるでオーレリアス青年を母親とでも思っているかの如く。

 わんにゃー鳴きながら脇目も振らずまっしぐら。

 でも、その足が覚束(おぼつか)ない。

 だってまだ、赤ちゃんですもの。

 一斉に向かってくる幼い獣の皆々様に、オーレリアス青年はおたおたと慌てていたそうです。

 いえ、はらはらと表現すべきでしょうか。

 まるで心配性のお母さんみたいに。

 犬猫が心配で目を離せず、息を詰めて見守って。


 どっからどう見ても、全身ガラ空き隙だらけだったとか。


 一瞬、罠かと疑ったとはリリフの言。

 でもリリフも容赦ないですから。

 全身に乗っかっていた犬猫を開放し、己自身も解放されて。

 自由を取り戻した解放感から、一気に行ったそうです。

 地面の上には子犬子猫がいて、踏みそうだから。

 翼を風に乗せ、低空飛行でひとっ飛び。

 全身隙だらけのオーレリアス青年に、竜の加速を避けきれる筈もなく。


 そして放たれる、強烈な左フック。


「取り敢えず、内臓破裂しない程度に加減して一発入れてみました」

 それでも子供とはいえ、竜の一撃は言うまでもなく重い。

 

 結果、以上の経緯を持ってオーレリアス青年はダウンした。

 良く見たら、口から泡を吹いている。

「………これ、医者に見せた方がよくね?」

「オーレリアス、死ぬな!」

「お医者はどこですー!?」


 どう考えても再起不能に陥った青年。

 彼は小さな毛皮の塊に埋もれ、一種異様な光景を生み出していました。



 それから、一時間後。

 思った以上にタフな二人の青年は、何とか無事に復活していました。

 意識を取り戻したオーレリアス青年。

 顔面をタオルで押さえながらもはっきりした受け答えを見せるシズリス青年。

 シズリス青年の方が重傷に見えます。

 ところがどっこいオーレリアス青年の方がダメージを引きずってグロッキー状態です。

 本人の矜持からか、そんな様子を窺わせないよう、必死に取り繕っていますけれど。

 それでもリリフの一撃は、問答無用で重かったのでしょう。

 平気そうにしながらも、オーレリアス青年の目はうろうろ。

 ついでに額は脂汗。

 さっきまでぴんと延びていた背中は、今は若干猫背風味。

 さりげなく腹を庇う右腕が、何気なく哀愁を漂わせています。

 良・い・気・味、ですけどね!


 は・はーん!と鼻で嘲笑う私を見て、勇者様がゆっくりと首を傾げました。

 ん? 何が疑問ですか?

 まだ少し喋るのが辛いので、身ぶり手ぶりで聞いてみました。

 勇者様はすぐに此方の言いたいことを察してくれたらしく、少し考え考え口を開きます。

「いや、いつものリアンカなら、相手が報いを受けたら大体許すのに珍しいな、と……

その様子を見るに、まだ腹に据え兼ねているんだろう?」

 勇者様、私の考えってそんなに貴方に筒抜けなんですか…?

 うぅんと考え呻きながら、勇者様がちらり青年達の方を見ます。

 あ、その顔は何か思い至りましたね?


「なあ、オーレリアス、シズリス」

「………なんでしょうか、殿下」

「なんですかー…」

「戻ってきたらリアンカが洒落にならない薬を投与しようとしているし、紹介したらしたで乱闘に縺れ込み、ドタバタしていたな………」

「そうですね」

「え、殿下は何を聞きたいんですか…?」

 

 勇者様の、確認するようなゆっくりとした口調。

 それを前に、グロッキーな青年達は怪訝そうなお顔です。

 勇者様の意図が掴めず、私達も揃って首を傾げました。

 でもそのお考えは、次の言葉で知れたのです。


「あまりにバタバタしていたので、確認しそびれていたけど…

………その、お前達? 最初に暴挙もしくは暴論に至ったのはお前達だと仮定して聞くが……

 ――――ちゃんと、リアンカ達に謝ったんだよな…? 」


 勇者様の躊躇いがちなお声には、本気で何かを案じるような…

 そうであってくれ、その筈だと願うような…

 それでいて何かを確信し、青年達を憐れむような声音が含まれていて。

 困ったような勇者様の言葉を受けて、青年二人の口がぱかりと開きました。

 そして、同時に聞こえてきた声

 

「「あ」」


 たった一音。

 たったの一音なんですけれど。

 それでも同時に揃ったその声には、言葉にせずともわかる様々な意味が感じられて。

 そう、直訳するなら…『あ、忘れてた』みたいな意味が感じられて。

 一瞬、絶望に勇者様のお顔が表情をなくし…


 それから、力尽きたように勇者様は床へと突っ伏してしまいました。


 勇者様、日に日に絶望のリアクションが磨かれているような気がします。

 そんな勇者様の分かりやすい失意を前に。

 青年二人の顔は真っ青に血の気を失い、今にも倒れそうな顔をしていました。



 そんな訳で腰を直角90°に深々折っての謝罪をいただきましたが、今更です。

 ええ、今更それだけで許してやるものですか。

 自主的ですらない謝罪。

 反省は深くしていても、それだけで済ませてあげる程、私の心は安くありません。

 なので、

 特に反対も、なかったし。


 青年達にはより深く悔い改めて貰う為、罰則(ペナルティ)をひとつ。 

 これを償いとして、終わったらちゃんと水に流してあげようじゃありませんか。


 折よく、季節は過ごしやすいくらいに温暖で。

 というかむしろ、暑いくらいで。

 この季候なら、問題ないでしょう。

 少なくとも一晩野外で過ごしたくらいで、風邪は引かない筈。

 ううん、引いても責任もって治してあげる(笑)

 

 うん、だから。


「うん、大丈夫、大丈夫」

「見た目には、全然大丈夫には思えないけど」

「大・丈・夫、ですよ!」


 ええ、断言して押し切りました。

 青年達の、罰則を。

 

「…うわ」

 レオングリス少年が死体を目撃した!みたいな顔で勇者様の背後に隠れます。

 その勇者様のお顔も、引き攣ってはいますが。

 背後の従弟君の肩をぽんぽん叩きながら、勇者様がお言葉一つ。

「………ああはならないようにな」

「肝に銘じます」

 はっきりとした声で、レオングリス少年は従順に頷きます。

 その目はしっかりと、見せしめを受ける反面教師をとらえています。

 ただ単に目を逸らせないだけかもしれませんけれど。


「…………………うぅ」

「仕方がないだろう。シズリス、甘んじて罰を受けましょう」

「なんでこんな時に限って、お前ってそんな潔いの!? もちっと徹底抗戦しようぜ!?」

「徹底にもう少し、とは矛盾な言い回しだな。

私はもう、自分の運命を受け入れる以外にどうしたらいいのかわからない」

「だからってこれはない!」


 喚く、青年。

 たった一つだけ、今の彼にとって自由となる口。

 それを盛んに使うのは、声なき抵抗か自由を奪われる恐怖故か…。


「ああ、でも」

 運命を享受していたオーレリアス青年が、思い出したように言い添える。

「このまま目の前に食物を置き、限界まで飢えさせて首を刎ねる…とかは止めてくださいね」

 達観した遠い目で、それだけを言うとオーレリアス青年はむっつりと口元を食いしめる。

「お、勇者の友達も博識じゃねーか。文化圏ちげぇのに、よく犬神の作り方なんて知ってんなー」

 呑気なまぁちゃんの声が、彼らの状況を言い表しています。

「以前、知人の呪術師が犬神を作るから犬を何匹か寄越せと言ってきたことがあるので。

まあ、勿論、その時は迷う余地もなく門前払いにして追い払ってやったね」

 うちの愛犬を惨い目に遭わせて殺させる為に譲るなんて真っ平ごめんです、と。

 きっぱりそう告げるオーレリアス青年の目は、愛犬家の目でした。


 そう、犬神の作り方。

 …という訳ではありませんけれど、近しい感じで。

 現在、二人の青年は勇者様の離宮の中庭…の、地面に首だけ出して埋まっています。

 生き埋め。

 そして見た目で言うなら生首です。

 それから更に………


「えいっ」


「「!?」」


 トドメ、という訳じゃありませんけれど。

 仕上げに二人の頭上から、そっとポット一杯の砂糖水(酒割七種の果物入)を垂らしました。

 これで完成です!


「な、な、なんという………」

「え、待って! これで放置!?」

「………蟻の猛攻が厳しそうですね…」

「だからシズリス、諦め早すぎるだろ!?」


 青年達が、何か言っています。

 しかし私は、うむうむと満足。

 この状態で、一晩。

 きっと今夜は寝られませんね。

 蟻やカブトムシの攻撃に耐えながら、此処で過ごしてもらいましょう!


「………鬼がいます」

「しっ 本人に聞こえたらどうなさるんです!」


 いえ、聞こえてますよ(笑)

 聞こえてましたけど…今は、私も達成感で一杯で。

 機嫌が良かったので、レオングリス少年とサディアスさんは見逃すことにしたのでした。




前回でご意見を求めた、せっちゃんのペット。

 今のところ、サーベルタイガーが優勢です。

 時点が猫ちゃん。

 一応、今夜でご意見を締め切ろうと思っています。

 一番多かった意見を採用するつもりなので、希望を言うなら今のうちです。




 ※ちなみに サーベルタイガー だった、場合。

   

   リアンカちゃんとかぶります。


 それでもOK! 大丈夫! という方は良いですけど。

 ネタかぶりとか駄目でしょう! という方が反旗を翻すなら今ですよ!

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