22.マジ狩る5 ~わんにゃん地獄~
前々回の予告分、ようやっと登場です…!
情けをかけた訳じゃありませんけれど。
一身上の都合により、早めに切り上げる必要性が生じました。
ええ、勇者様の説教が待っています。
勇者様にマジ説教食らった記憶がないので、不安で心臓が爆破しそうです。
怖いので、神妙に受け入れようと思うくらいには反省しています。
でもその前に、私達を怒らせた人達にも猛省してもらわないと!
今一時だけは怖いのを忘れて、私達は誤魔化すように青年達を睨みつけます。
一連の諸々の間に辛うじて回復したようです。
さっきまで地べたと仲良くしていた二人。
青年達は、今は二本の足でしっかりと大地を踏みしめ、立っていました。
弱い者いじめは、駄目でしょう。
だから立ってくれて助かりました。
私はか弱い村娘なので、戦闘不能状態でなければ攻撃の言い訳が立ちます。
さて、でも今後は加減せねば…と。
リリフが、私に窺うような目を向けてきます。
その赤い目が、言っていました。
どうしよう?って。
その一瞬の隙を、見逃すことなく活用した人がいました。
やっぱり、相手は場数を踏んで修羅場に慣れているのでしょう。
絶対的強者を前に、その隙をつけるくらいに。
渾身の力を振り絞り、飛びだしたのはシズリス青年。
反射的に反応し、リリフが足を踏み出そうと。
そうするけれど。
でも、その対策を準備し終えていたのでしょう。
動こうとした瞬間の不安定さに、付け込んだのオーレリアス青年。
彼の召喚技術が、冴え渡りました。
「くっ…気は進みませんが、仕方ありません。最後の手段です。
出でよ、小さきモノども…!」
小さきモノと聞いて、また鼠でも呼び出すつもりかと。
そう思ったんですが…。
違いました。
「にゃー」
「みぃみぃ」
「きゅーん」
き、きゃああああああああっ!!
は、発狂するかと思いました。
その、あまりの可愛らしさに…!!
リリフが急激に動こうとした、瞬間。
オーレリアス青年が呼び出したのは、大量の…
「あに様、あに様! わんわんですの! にゃんにゃんですのー!」
「おー…わんわんとにゃんにゃんだなー。それももっさりどっさりと……」
可愛いですのー、と。
せっちゃんが黄色い悲鳴を上げています。
ぴょんこぴょんこと飛び跳ねて、興奮のままにまぁちゃんの腕を引っ張っています。
そう、わんわんにゃんにゃん。
オーレリアス青年が呼び出したのは、大量の子犬と子猫。
どれもこれも皆、ふるふる震えて儚いまでのか弱さです。
小さい小さいふわふわもこもこが、あんなに大量に…!
召喚された子犬と子猫は、リリフを取り囲むように。
いえ、それどころかリリフの全身に乗っかる様に召喚されて。
頭の上にも腕の上にも、翼にだって子犬や子猫がしがみ付いています。
か、かわいい…っ
リリフの戸惑う瞳が、問いかけてきます。
即ち、動いて良い…?と。
断固、拒否です。
「リリフ! 動いちゃ駄目! 絶対に駄目よ!?」
「で、でもリャン姉さん……」
「絶・対・に! 駄目!!」
「う、うー…」
絶対駄目だと言われて、忠実なリリフは動くに動けません。
でも、それで良い。
竜とは強大にして巨大な生き物。
例え小さな人の身に擬態しても、本質は変わらない。
つまり、リリフが少しでもいつもの調子で動いたら。
あのちっさい毛皮の塊は、かかる圧力に耐えられず…ピンクの挽肉(山)と化します。
そんな未来、絶対に認めてなるものですか…!!
「そうだ、絶対に動かないで…!」
オーレリアス青年も、自分で呼び出しておいて青い顔。
自分で呼び出した癖に。
不安定な姿勢のリリフがよた…とする度に、あわあわ。
心の底から子犬子猫を心配そうに凝視しています。
自分で呼び出した癖に…!
どうにも動けないと悟り、生ける彫像と化したリリフ。
その、横を。
口惜しそうな顔の、リリフの横を。
勢いよく走り抜けた人。
シズリス青年。
………気のせいじゃなければ、何やら私に向かって来ているような。
気のせいじゃありませんでした。
「か、確保ー!」
冷や汗たらたら、顔は不安そう。
だけど私を捕まえたら終わると、そう信じきったお顔。
その予想は、見当違いではありません。
むしろ大当たりです。
この場で私が確保されたら、あの二人の勝ちになってしまう。
それが、わかっているのに。
わかっていても、私の身体は咄嗟に動きません。
反応速度が、向かってくる青年に追いつけない。
運動神経が良くても、体力があっても。
それでも私は所詮、村娘。
異論は認めません。
そして私は本来、戦闘力皆無の非戦闘員。
戦場に混じり込んでいようと、苛々する相手をお仕置きしようとしていようとも。
所詮、戦士ではありません。
攻撃する術も、咄嗟に反撃する術も。
こんな土壇場で真っ白になってしまった頭には、浮かばない。
ああ、捕まる。
…と、思ったんですけどねぇ?
私の予想、大外れ!
走り駆ける青年の手が、私を捕まえようとする。
――刹那。
ちゅぃんっ
なんか、そんな感じの音がしました。
私と、青年の間を遮るように。
一瞬で通り過ぎた、何か。
斜め上空から、目視も難しい速度で。
それでも何かが、確かに通り過ぎました。
それを、証立てする様に。
私の目前で硬直した青年の、その手の先を。
たらり一筋の、赤いものが伝う。
通り過ぎた何かが、上手いこと青年の手の甲を掠った為です。
きっとそれは、狙って成されたことなのでしょう。
威嚇か、牽制か。
その両方か。
通り過ぎた何かが、どこから来てどこへ行ったのか。
私の視線はまず、斜め下の大地に。
通り過ぎた何かが、向かった先に。
………地面に、穴が開いていました。
指の太さと同じくらいの、丸く何かが貫通した穴。
その穴と、硬直する青年の手と。
線で結んで対極を探し……
視線がいきついた先は、勇者様の寝室に繋がるバルコニー。
そこではたはたと翻る、真っ白な横断幕………
『 ロロイ君傷心中。 …でも、リャン姉に手を出す奴は攻撃も辞さない。 』
くりっと顔を、まぁちゃんの方へ向けます。
私の疑問いっぱい問いかける目に、まぁちゃんはお答えしてくれました。
「ありゃ、水竜のドラゴンブレスだな」
「ってことは、ロロイの?」
でも、なんか鋭くて細かったよ?
「拡散しがちなブレスを細く収束させて、貫通力を増したんだろ」
「なんと!」
ロロイのドラゴンブレスは、結構危険みたいですね。
誰かをふっ飛ばしたりずぶ濡れにさせたりとか、そういう場面ばかりを見てきました。
こんな芸当もできるなんて驚きです。
でも、気になって見ているくらいなら。
それで私の危機にそっと助太刀するくらいなら。
最初っから、私と一緒にいれば良いのに。
そう思ってしまったけれど、そうできないくらいに傷心中?
思春期は複雑ですねー… ←他人事。
さてさて、それでは。
ロロイが牽制してくれている内に。
より詳しく言うのなら、目の前の青年が硬直している内に。
我に返って、動きだすより前に。
取り敢えず無力化しとこっと。
そんなこんなの取り敢えず、で。
私はごそごそと腰のポーチを漁ります。
何か適当な………ああ、あったあった。
目の前でシズリス青年が硬直しているのをいいことに、くいっと一息。
握った小瓶の中身…橙色の液体を口に含んで………
「×△×■×●●▽●………ッッ!!?」
毒霧攻撃、かましてみました。
「目がっ 目がぁ……っ!!」
顔面直撃、エライこと。
さて、一体何の薬を噴霧しちゃったんだっけ?
手に握った小瓶。
確か悪漢撃退毒霧用だった筈だけど…
いつ貼ったかよく覚えていない、古ぼけたラベル。
『 世界の三大唐辛子×魔境産ブートジョロキア 』
……………。
………ああ、成程。
通りで、口の中がヒリヒリすると…。
思いつきで行動するにも、まずは最低限の慎重さを心掛けるべきでした。
後悔、先に立たず。
気分的に表現するなら、私ったらお馬鹿さーん☆ って、感じでしょうか…。
なんとも無様、なんとも間抜け。
私の、愚か者…!
あまりの辛さに、声も出せない。
粘膜が、辛い。
うくうくと、喉が引きつる。
ええ、本当に。
なんとも無様なことですが。
私、自爆してしまいました…!!
わんわん、にゃんにゃん
→オーレリアスん家の今年生まれたペット達。
踏み潰されないか、オーレリアス青年はらはら。
自分で呼び出しておいて!
ちなみに一匹一匹にオーレリアスと奥方が名前をつけています。
※ 次回、もしくは次々回にて。
珍しく、勇者様ではなくリアンカちゃんとせっちゃんの配下が増える予定です。
→配下の哺乳類。
リアンカちゃんはもう何となく決まっています。
でもせっちゃんのペットを何にするか迷っているわけで。
もしよろしければ、感想などでご意見いただけると参考になって助かります。
現在の候補
・犬
・猫
・サーベルタイガー
・オポッサム




