21.マジ狩る4 ~珍しい勇者様~
前回の「次回予告」部分まで行きませんでしたー…
前回の後書きが偽りありになってしまいました。すみません…。
A: 吹っ飛びました。
より詳しく言うと、吹っ飛んで吹っ飛んで吹っ飛んでから陥没しました。
イメージするのなら、あれです。
川原の水切り。
あの平べったくて丸い石みたいに、見事に跳弾しました(笑)
最後は土の上をずざざざざって!
勇者様のお庭の花壇を一部破滅に追い込み、地面にめり込みました。
大地にめり込み、土を舐める青年二人。
だけどまだまだ(笑)
まだいきますよ!
だってまだ、青年達の意識は残ってる。
それに結構丈夫みたいで。
まだ、戦意を喪失していないのが、分かるから。
これも流石勇者様のお友達と言うべきでしょうか…
勿論、リリフも建物や庭を壊さないよう、死なないように加減しています。
それでも吹っ飛ばされて戦意を喪失しないのは、物凄い胆力で。
相手が竜だという明確な証拠を示され、それでも尚立ち向かおうというのでしょうか。
………もしかしたら、ですけど。
リリフの外見が女の子そのものなので、竜だと実感が湧いていないだけかもしれませんが。
戦意はあっても未だ身動きできない青年達に、逃げ場はありません。
身の程知らずには分を弁えさせるべし。
そして無礼の報いを受けさせるべし。
静かに闘気を滾らせるリリフ。
そんな彼女に指示を下す私。
「さあ、第二弾いってみよっかー?」
「Yes! いってみましょー!」
やっぱり私達が育てただけあって、ノリの良い子です。
びしっと指さす私に従い、リリフの翼が強い輝きを放ちます。
淡く解き放たれた燐光が、金色の輝きを空いっぱいに撒き散らし………
あれ、これは…?
この光景は、どこかで見たような…
瞬間、脳裏に蘇る過去の記憶。
あれは、私達が竜の子を育て始めて一年くらいした頃。
まぁちゃんとりっちゃんが喧嘩した時。
まぁちゃんがマジ殴りやらかして、あわや死ぬという目に遭わせたことがありました。
まぁちゃんも子供で、加減がよく分かっていない部分があって。
今まで本気の喧嘩ばっかりで、身内を殴ったことはあまりなくって。
そんな目に遭わせるつもりなんて、まぁちゃんにもなくって。
血塗れの挽肉寸前で息も絶え絶えのりっちゃん。
そんなりっちゃんに、まぁちゃんは大慌てに動揺しまくり、碌な対処も取れなくて。
せっちゃんがわんわん泣いて、私も顔を青くして。
せっちゃんと二人、隅っこに縮まってカタカタ震えて…
……いた、その時。
私達が縋るように抱きしめていた、ぬいぐるみのような生き物。
まだ赤ちゃんの子竜が、二頭。
泣いて縋る姉代わり二人の姿に、赤ちゃん竜がブチキレました。
自慢ですけど、私もせっちゃんも普段からにこにこで、滅多に泣かない子だったから。
赤ちゃん竜達には、多分きっと混乱するくらいの衝撃だったんだと思う。
あの時は、本気で混沌でした…
怒り狂い、暴れ狂う怪獣(赤ちゃん)。
その攻撃を防ぎながら、お目付け役の応急処置に追われる魔王子。
そして虫の息の、物言わぬお目付け役。
親しい少年が死ぬかもと、めそめそする私達。
そんな私達の涙に、ますます暴走加速していく幼竜。
……………………………………………………………以下、エンドレス。
それは、先代の魔王様が青い顔で「なにこれっ!?」と叫んで介入してくるまで続き……
ちょっとした怪獣大戦争と化したと、それだけ言っておきます。
まあ、今思い起こせば魔境では偶にある修羅場の一つでした。
りっちゃん、あの時死ななくて本当に良かったね…。
瀕死の状態で六時間ばかり延命に成功したりっちゃん。
その予想外のしぶとさと頑丈さに、本気でありがとうと言いたくなります。
しかしロロイやリリフが暴れなければ、もっと早くりっちゃんの治療ができたのでは……
赤ちゃんに、理屈は通用しない! だから仕方ないよね!
さて、そんな遠き懐かしい怪獣大戦争を思い出したのは、他でもありません。
淡く翼から解き放たれる燐光。
空を覆う光の粒。
降り注ぐ、金色の光。
この光景を見たのが他でもない、その時だからです。
ああ、うん、思い出しました。
それまできゅうきゅう鳴く大人しい赤ちゃんだった、子竜達。
いや、活発でやんちゃでもありましたけど。
そんな彼らの種族固有の攻撃技能…
その諸々が発露し、習得されたのがあの六時間での出来事で。
ドラゴンブレスを始めて披露してくれたのもその時なら……
………これから放とうとしている攻撃を見たのも、その時で。
確かこれは、瀕死のりっちゃんが吹っ飛ぶ羽目になった、洒落にならない必殺技。
あの時の子竜達は、まだまだ赤ちゃんで。
ドラゴンブレスだって、その威力はたかが知れていました。
いえ、赤ちゃんでも竜なので、その頑健さと体力と鋭さは大したものでしたが。
でも、そんな中。
ドラゴンブレスでさえ、まぁちゃんにかかれば指先一本でちょちょいだったのに。
いま目の前のこの攻撃は…大地を抉り、城郭を破壊する威力を見せてくれて。
今、リリフ達は成長して、こんなに大きい。
まだ子供だけど、それでも十分に。
爪だって牙だって、武器として十分通用する。
ドラゴンブレスだって、誰かを吹っ飛ばすのはお手の物。
…それつまり、あの時でも大した威力だった攻撃は、更にヤバいってことですよね。
ええ、ドラゴンブレスなんて目じゃない、洒落のならなさで。
………え。
ドラゴンブレスなんて目じゃない必殺技を、ここで?
ちょっと、いえかなり心配になりました。
その攻撃って、威力調整できるのか……な?
勇者様の離宮、大丈夫かなー…?
この技を使ったら、確実に半壊…いえ、全壊は固いですね。
離宮どころか、お城そのものに大打撃を与えそうです。
とりあえず、勇者様の寝床は消滅しますね。
この綺麗なお庭ともさようならです。
それは、流石に丹精込めた庭師さんが可哀想かも……
でも、リリフは超やる気。
これに水を差すのも、空気が読めない感じ?
どうしよっかなーと、ちょっと悩んでしまいます。
ちなみに、二人の青年の安否は脳裏にございません。
ああ、でも。
目の前で死んじゃったら、勇者様がものすっごく落ち込みそう…
お友達の勇者様にそこまで酷いことをするのも、胸が痛むというか鬼ですよね…? 流石に。
いえ、それ以前にお友達をそんな目に遭わせるのは友達のする事じゃない………ですよね?
……やっぱり、リリフを止めようかな。
こんな土壇場で、なけなしの良心が囁いてきます。
人のおうちを壊すのは、悪いことですよ、と。
お友達を本気で悲しませちゃ、いけませんよと。
何より、私に本気で殺人やらかす気はありません。
笑えなくとも、ぎりぎりで許容される範囲。
最終的に洒落で済まされる範囲が私の理想です。
何より、殺すよりも笑える目に遭わせる方が、私の好みです。
悪気はあっても悪意はない。
それが、私というものだと思うので。
だから。
「リリフ…!」
呼び止め、抑止しようとしたその時。
………カカッ!!
「あー………」
残念、手遅れ!
勇者様のマジ怒り&説教が確定…いえ、嫌われるかな?
やっぱり心の恐ろしく広く深い勇者様でも、許される範囲を超えていますよねー…?
気まずい思いをしながらも、私はこの時。
間に合わないと見るや否や、即座に諦めました。
それはもう、菩薩のような悟りきった顔で。
でも、そんな最中。
藻掻く様に、足掻く様に。
諦めなかった方が、一人だけいました。
勇者様です。
ええ、そうです。
あの方だけが、いつだって最悪の道の中でも諦めない。
それこそが勇者の資質と、そう言わんばかりに。
正直に言うと、諦めた方が楽になると思うんですけどねー…
そんな、堕落を誘う悪魔のようなことを思いながら。
やっぱりそれも、止める手段すらなく。
私は見ているだけ。
おそらく、場の状況から雰囲気を察したのでしょう。
渦巻く膨大な魔力に、洒落にならないと悟ったのかもしれません。
もしくは、最近なんだか私の思考が駄々漏れのようですから。
もしかしたら、私やまぁちゃんの顔色から何か感じ取ったのかも。
とにかく、勇者様は。
あの攻撃が、放たれてはいけないものだと察したようで。
咄嗟に。
ええ、きっと咄嗟のことでしょう。
勇者様が、介入しました。
それは電光石火。
まさにその属性そのまま、光の如き速さで。
勇者様が、カンちゃんを投げつけました。
「ええぇぇぇぇえええええええっ!!?」
流石に驚いて叫びましたよ、この私が。
勇者様…彼は、時として私の思いもよらぬ行動を取られる方です。
侮れませんと、心の中でそっと呟きました。
さて、皆さん。
ここでおさらいです。
覚えていない方は「ここは人類最前線3」を思い出してください。
あの、とっても素敵で殺伐として、勇者様が死に物狂いになった観光旅行です。
あの時、勇者様の光属性の強さをお話ししたと思います。
思い出してください。
勇者様が光属性の竜や龍と相対した、その時を。
皆さん、覚えていますか?
強い属性は、同じ属性の攻撃を無力化し、弾いてしまう…そのことを。
そして、カンちゃんはヤタガラス。
太陽神に仕える、日輪を象徴する神獣。
その属性は光と炎。
咄嗟にしても、盾とするのにこれ以上適したモノは勇者様くらいです。
加えて、その食い意地。
光に満ちた勇者様の魔力を、カンちゃんは喰らって「美味しい」と言いました。
つまり、どうなったかと言いますと。
リリフの洒落にならない攻撃は、無効化されました。
攻撃の一切通じないカンちゃんによって、丸呑みされるという方法で。
…普通よりちょっと大きいくらいのサイズの、烏なのに。
あのとんでもない攻撃を、一呑みですか。
リリフの放った、攻撃。
その光の奔流。
私サイズの人間は、跡形もなく消滅させそうな大きな光の塊でしたが。
烏に丸呑みされてしまうなんて。
『満腹ー! 美味しかったー!』
カンちゃんは満足そうに一鳴きして、勇者様の元へとパタパタ。
元通り、何事もなかったようにその肩に止まります。
痛いほどの、何とも言い難い静寂。
おそる、おそると。
どうやら攻撃した後で冷静になったらしいリリフ。
彼女が、顔を引き攣らせながら勇者様の方へと振り返り…
明らかに怒り笑顔の勇者様に、びくっと飛び跳ねました。
「リアンカ、リリフ」
「は、はい…」
「はい…」
「………やりすぎ、だな?」
勇者様が怒るとか。
ましてや、笑いながら怒る、とか。
珍しい光景すぎて、体が固まり硬直します。
う、ううぅ…勇者様のツッコミは、よくもらうけれど。
いつだってツッコミつつも、最終的に流されて許容されてくれるから。
本気じゃなくても怒ることは、あまりないから。
いま、本気で怒られている現実を前に、悟りました。
あ、私、勇者様に怒られるの苦手だわ…
普段怒らない人が怒ると、本気で気まずく恐ろしい。
それを、身に染みて悟った瞬間です。
むしろ普段の許容量とか度量とか、勇者様は心の広い方ですから。
その心の広い勇者様を怒らせたという事実。
そこまでのことをやっちゃったという現実に。
う、ううー……………どうしよう、胸が痛い。
やった。やっちゃった。やらかしちゃった!
ぐるぐる、気持ち悪いくらいの罪悪感です。
流石にやりすぎだって、自覚していたからこそ殊更に。
素直にごめんなさい、した方がいいかな…?
何だか気弱になっちゃうのは、やっぱり物珍しさ故でしょうか。
「ご、ごめ………」
咄嗟にごめんなさい、しようとするけれど。
「リアンカ」
勇者様は、それすら許してくれない。
「このままじゃ、オーレリアス達もけじめをつけられないだろう?
ここでちゃんと待つから、さっさと終わらせなさい」
それは、有無を言わさぬ命令のようなものでした。
口調は、決してそんな感じじゃないのに。
怒りを隠さない目が、早く一段落つけろと言っています。
それが終われば、私達の 説 教 だとも。
こ、こわ……っ
今後、勇者様を怒らせる事はするまいと。
うっかり、そう心に誓ってしまいました。
勇者様
「壷から引きずり出す余力と時間があれば、ナシェレットを投げつけたんだけどな…」
壷の中にいたので、咄嗟にナシェレットを投げることができなかったようです。




