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175.炎の変貌




 ツッコミという己の本領を思い出した勇者様。

 その手には長年の相棒の如くしっくりと手に馴染んだハリセンが…

 勇者様はどうにも異常な言動の目立つ悪魔と魔王と魔王妹を前に叫びました。

「そもそもどうしてこんなことになったんだ…!!」

 それは紛れもなく、勇者様の魂の叫びでした。

 彼は場の混迷を加速させた原因は何かと考え…キッと睨み据えました。


 タナカさんを。


「そもタナカさん! なんで貴方がこんなところにいるんだ!? いや、いるのは良い…良いんだが、なんで人間に化けず本性(ドラゴン)のまま来ちゃったんだ…!!」

「『んむー…トロピカルランチ卵とじで一丁ー』」

「くそ…っ話が通じない! 何言っているのかわからない!」

「そりゃ勇者様、古語はさっぱりみたいですからねー…」

「ちなみに碌なことを言っていない気がするんだが、タナカさんはなんて?」

「トロピカルランチが食べたいそうですよ」

「こんな時に食事の相談かっ!!」

「タナカさんは欲望に忠実だから、基本食べ物の話か睡眠の話しかしませんよ! フラン・アルディークの話題を除いて!」

「どれだけ好きなんだよフラン・アルディークのこと!?」

「『むぅ…好きな訳ではないぞ。ただの羊を巡った宿敵であるのみだ』」

 絶対にその枠超えてるよね、既に。

 タナカさんの言葉はわからないはずなのに、空気を察したのか勇者様はツッコミたそうにうずうずしていて。

 …勘だけでツッコミどころを察知しているんでしょうか?


 首を傾げる私。

 そんな私の思考を止めたのは、次の様な一言でした。


「――ちょっと待て!」


 声を上げたのは、悪魔ヤマダさん。

 だけど面識のあまりない相手に待てと言われて、誰が待つでしょう。

 私だったら、礼儀のない相手の引き留めは無視して驀進するところ。

 だけど今回は、勇者様が応じました。

 なんだ、と。

 応じる勇者様に、悪魔の戸惑いの声が掛かりました。


「ずっと聞きたかったんだが…田中は、一体どこにいるんだ」


 その言葉に顔を見合わせたのは、まぁちゃんも勇者様も同時で。

 二人は故意にそうした訳でもないでしょうが、揃ってぴっと指差しました。


 巨体なドラゴン、タナカさんを。


 二人の指先を視線で辿ったヤマダさんは、何故だか硬直。

 もしもしヤマダさーん?

 貴方がお探しだった、タナカさんですよー?

 だけどヤマダさんは、何故かわなわなと肩を震わせて。


「田中って…あのバカでかいトカゲが田中だっていうのか…?」


 はい、その通りです。

 タナカさんはヤマダの凝視なんか気にもしないで、空に向かって大欠伸(あくび)

 わあ☆ 象も丸のみできそう。

 ヤマダさん、貴方がさっきまで入っていた場所ですよー。

「ふ…っ」

 …ん?

 あれ、ヤマダさんから何やら邪悪な怒りのオーラが…


「ふざけるなぁぁああああああっ!!」


 あ、噴火した。

 どっかーんと、爆炎が現実に噴き出してますよ。ヤマダさんの周囲から。

 アレって無意識なのかな、意識的な暴走なのかな。

 せっちゃんも爆発と同時に放り出されて…

「きゃー♪」

 ………楽しそうだね。

 我を忘れた悪魔に放り出されたせっちゃんは、お空を飛んだ!

 これが普通の女の子だったら、べしゃっと地面に投げ出されて顔面強打→顔に怪我が残るくらいはしそうな勢い。

 せっちゃんはお空で放物線を描いて下降し始めると、そのまま三回転捻り!

 綺麗な着地ですたっと降り立ち、そのままぴょんと跳んでまぁちゃんに突撃!

「あに様ぁ!」

「おかえり、せっちゃん…!」

 わー………せっちゃんの頭突きがもろにまぁちゃんの鼻面に命中☆。

 でも流石に魔王様は丈夫で長持ち、頑丈です。

 頭突きなど少しも堪えた様子もなく、せっちゃんを肩の上に抱きあげました。

「あに様ー、とっても楽しかったですのー」

「そうか?」

「はいですの! 今度、あに様にもせっちゃんをぽーいってしてほしいのー」

「ははは、このお転婆さんめ☆ 兄様がやったらさっきのアレの比じゃないぜ?」

「せっちゃん大喜びですのー!」

 おっと、せっちゃんったら緊張感クラッシャー☆

 あっという間にまぁちゃんが和んじゃったよ。

 そして私も和みます。

「ま、まぁ殿…? その、ヤマダのことは?」

 恐る恐ると問いかける勇者様に、無情にもまぁちゃんは目すら向けません。

「あ? せっちゃんが帰ってきたら何かもうどうでも良い」

「あに様ぁ、ただいまですのー」

「おお、お帰りせっちゃん」

「煽るだけ煽っておいてここで放置か!? 被害拡大の一端を担っているのに!」

「そうは言うけどなー…俺が本気出したら、吹っ飛ぶぞ?」

「……………」

「軽く大陸の五分の一が」

「って、国レベルじゃなくて大陸規模!? もう俺の国だけに留まらない気か!」

 まぁちゃんは、真顔でした。

 勇者様は蒼白でした。

 そしてヤマダさんは真っ赤でした。


「俺を無視するんじゃなぁぁぁああああああっいいぃぃ!!」


 どっかーん!

 更なる怒りで、灼熱の雨が降り注ぎます。

 すかさずロロイが水の膜(バリヤー)で周囲を覆ってくれたので、被害皆無ですけど。

「おーおー…怒っとる怒っとる。怒りのマグマが嵐を呼ぶゼ☆」

「まぁ殿、それは今言うべきことか…?」

「何が見当違いだったのか知らねーが、傍迷惑な奴だ」

「まぁ殿、それを君が言うのか…?」

他人(ひと)のことは何とでも言えらぁな」

「ま、まぁ殿…言葉の使い時まで何か違わないか」

「細けぇことは気にすんな」

「細かいのか? なあ、細かいのか…!?」

 せっちゃんを肩に乗せて、すっかり普段のペースを取り戻したまぁちゃん。

 多分、悪魔ヤマダの相手が面倒臭くなってきたんだろうなー…

 もうすっかり、勇者様に丸投げする気のようで。

「それじゃ、俺はこれで☆」

 しゅぴっと敬礼した後、気付いたら私の隣にいました。

 その間、退避にかかった時間はわずか0.002秒!

 勇者様は一瞬で見失ったまぁちゃんの行方がわからず、きょろきょろ。

 やがて私の隣にまぁちゃんを見つけたのでしょう。

 外野席と化したこちらに引き攣った顔を向けているのがわかります。

「散々好き放題しておいて、最後は丸投げかーっ!!」

 あは、勇者様ったら☆

 今更これしきのことで動揺するなんてまだまだ。

 こんなこと、魔境じゃ結構頻繁にあったじゃないですか☆

 翻弄される勇者様は、いつになったら悟りの境地に辿り着くのでしょうか?


「く、くそ…っこうなったら、やってやる!」


 そう言って、勇者様がその手に構えるのはサンダー✮ハリセン(笑)

 わあ、様にならない!

 だけどもう武器に構っていられる段階は過ぎてしまったのでしょう。

 勇者様はカッと目を開き、駆け出しました。

 未だ炎の荒れ狂う(W悪魔のせい)灼熱の戦場へと。

 手に、ハリセンを持って(爆笑)

「どうか、御武運(笑)を…!」

「頑張れ(笑)よ、勇者(爆)!」

「勇者さぁん、がんばってですのー♪」

「っ気が抜けるから、妙な応援はやめろ…!!」

 怒られちゃった☆


 度重なる悲運。

 連続して蔑ろにされる状況。

 悪魔として、それは珍しい事態だったのでしょうか。

 

 それともタナカさんにぱっくりやられちゃったことが堪えたのか。

 むしろお探しの『タナカ』がタナカさんだったことに憤っているのか。

 彼の存在を無視してのほほんとボケツッコミの応酬をしたのが悪かったのか。

 あるいはそれ以外の要因でしょうか?

 もしくはその全部が原因なのでしょうか。

 荒れ狂う悪魔は、自分の殻に閉じこもっています。

 物理的に。


 怒りの炎を吹き出した直後でした。

 炎熱がヤマダの体を這うように多い、文様じみた形で質感を変異させていく。

 炎の色はいっそう鮮やかに赤く光り、硬質な赤い金属へと変貌していく。

 熱風が一際熱く周囲を煽った後、ヤマダの体は流線的なフォルムの赤い鎧で覆われていました。だけどめらりと炎のように揺らめく姿は、炎そのもの。人間に扱い得る金属などではなく、物質の枷にも縛られていない。まさに、悪魔の業。

 メキメキ、メキメキ。

 耳をふさぎたくなるようなおぞましい音を伴い、肉体が変容する。

 赤い皮膜が背の内側から突き破るように生え広がり、三枚の翼へと形を変える。表面を踊る黒い模様はまるで文字のようでもあり、絡みつく鎖のようでもあり。神を貶め、悪行を讃える文言を作るように模様は絶えず動き続ける。

 翼の下から太く、まるで毒虫のような光沢を放つ尾が生える。それは蠍の尾によく似ている。それが、二本。先端からは紫の液体が滴っていた。

 肘の先からは更に腕が生え、肩の辺りから得体の知れない肉の塊が瘤上に膨らみ大きさを増す。

 異形という他に、あの姿をなんと表現すべきなのだろうか。

 

 人間の視覚に突き刺さるおぞましさ、心の臓を掻き回すような忌まわしさ。

 人の許容量を越す異形の姿に、勇者様の顔が引き締まる。

 魔境で散々積んだ(積まされた)経験により、彼は知っているのだ。

 あの手の化け物が、決して油断できないということを。


「わー…絵に描いたような悪魔だねぇ」

「おー、そうだなぁ」

「お茶が美味しいですのー」

「あ、主様。お茶菓子どうですか」

「もらいますの♪」

「リリフ、それ僕にもちょうだい」

「リャン姉もどう? 美味いよ、このサブレ」

「あ、食べる食べる」

「リアンカ、こっちのフルーツタルトも秀逸だぜ? 何しろ俺の手作りだからな」


「………っ お前たち、こんな時にティータイムかぁぁああああっ」


「勇者様、まだこっちを気にする余裕があるんだね」

「時々思うけど、あいつ凄ぇよな」

「魔王のまぁちゃんに言わせるなんて余程だよね☆」

「まあ、褒めてるのとはまた違うけどな」



 今回も当然のように孤立無援!

 さあ、人知を超えた異形の悪魔を相手に勇者様はどう奮闘するのか!?

 魔境で散々相手にした魔物や魔族と悪魔はまた違いますよ!

 だけど彼は止まらない、怯まない!

 何故なら彼を置いて他に、人類の救世主はいないのだから!

 今日も人類その他諸々を(色々なモノから)守るため!

 さあ行け、勇者様!

 頑張れ、勇者様!

 君の未来は輝いている!(光の精霊が常に特殊効果(ライトエフェクト)状態だから)

 





 次回、被害者vs.被害者

 チーム加害者は高みの見物だ!

 果たして軍配は、どちらの被害者に上がるのか…?!


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