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16.ご学友

 気を取り直すという言葉がありますね。

 勇者様はその言葉そのままに、都合の悪い話題から逃げることにしたようです。

 そうして新たな話題転換のネタとして選ばれたのは、紹介待ち状態にある勇者様のご学友。

 えーと、名前なんでしたっけ…?


「リアンカ、まぁ殿、皆。彼らは先にも言ったが、俺の学友だ」

 そう言って、勇者様がまず指し示したのは暴言を吐き捨てて下さった文官風の青年。

 嫌々そうな顔、瞳の奥には驚愕と苦々しさ。

 先程の己の言動を、どうやら忘れたわけではないようです。

「勇者様、学校行ってたんですか?」

「その言い方はまるで就学拒否していたように聞こえるんだが」

「学がないとは言いませんけど、王子様が学校行って良いんですか?」

「リアンカ、一度俺とゆっくり人権について話し合おうな…」

「いや、だって。王子様が通学とか、警備護衛その他が凄い騒動になりません?」

「………まともな思考に裏打ちされた発言だったのか」

「それこそ、勇者様は私を何だと思っているんですか」

「リアンカ」

「わ、凄い簡潔に一言でまとめられた! でも裏に何か含んでそうなのは気のせい?」

 勇者様が、ふいっと顔をそらしてしまいました。

 最近、都合が悪くなったら顔をそらせば良いと思ってませんか、勇者様。

 じとっと物問いたげに見つめていたら、気まずそうな咳払いが返されました。

「…確かに、俺は一般的な『学校』には行ったことがないよ。

王子だから騒動になるってこともあったけど…他にも、な」

「ああ、男子校がなかったとか」

「濁しただけで根底に何を言いたいのか悟らないでくれ。話が早いと礼を言うべきなのか」

「あ、やっぱり女性のストーカー化現象が問題に?」

「それだけじゃないけど、理由の一端ではある。

まあ、そもそも我が国では直系王族の未成年に就学を認めてはいないけれど」

「人権を無視してるのは勇者様のお国のほうじゃないですか」

「うちの国は大国過ぎて、迂闊に王子王女を外に出せないんだよ」

 近年、俺のせいでその傾向が更に強まったけどと。

 そう溢す勇者様の口調は大分お疲れでした。


「まあ、そんな訳で王子の成長・教育は王城の中だけで行われるんだ。

俺も例に漏れることなく、外から学者を呼んで教育してもらった」

「勇者様が(たま)に妙に博識なのは、学者さんに勉強を見てもらったからですか?」

「それだけじゃないけど…そういうことはあるかもしれない」

「ふうん?」

 勇者様って、時々妙なことを知っているんですよねー。

 魔境では見かけるけど、人間の国では然程知られていないようなことばっかり。

 でも学者さんなら、知識の偏った変人も多そうだし。

 そんなこともあるかもって、私こそが感心してしまいます。

「だけど城の中にずっといたら、同年代との人間関係を築き難いだろう?

王族は人間関係の構築も大事な能力だ。ただでさえ、俺はそこに制限があるのに」

「勇者様って、つくづく一方的な女性関係で損してますよね。お可哀想に」

「心の篭ってない同情にも、礼は言うべきなんだろうか…」

「心の篭ってないお礼の言葉を返せば平等ですね☆」

 いいこと思いついた! みたいな顔でそう言ったら、勇者様が呆れた様な溜息。

 ぽむぽむと私の頭を軽く撫で叩くと、困ったような苦笑をくれました。

「リアンカはリアンカだなぁ…」

 ちょっとそれ、どういう意味かちょいと小一時間ほど語ってくれません?


 話をまとめると、学友とはこういうことでしょうか。

 お城の中で隔離されて育つことを余儀なくされた勇者様の為、遊び相手兼勉強友達として招聘された子供達の中で特に仲良くなったのが、目の前の青年二人。

 そのまま友好を深め、現在に至ると。

 年齢が上がるにつれて関係性は変化していき、今では勇者様の腹心。

 つまりは勇者様の配下ですね。わかります。

 それってあれでしょう?


駄竜(ナシェレットさん)やカンちゃんと同じくくりってことですね!」

「すっごい晴れやかな笑顔で言ってるけど、違うからな? 同じくくりに分類しないでくれ」


 勇者様が、断固抗議。

 友人から発展した部下と、魔境で得た自由すぎる下僕を同列に扱われたくないようです。

「いや、当然だろう…?」

「アディオンさんなんかも、そのご学友一派の一員なんですか?」

「話をそらされた!?」

 アディオンさんも、やっぱり元々はご学友の一人だったそうです。

 あてがわれた人間関係の中から選び取り、手にいれたお友達。

 勇者様のお友達って、そんなのばっかりですか?

「自力で手に入れた友達もいるかなら? センチェスとか、何より(リアンカ)とかそうだろう」

「大丈夫、勇者様…私はわかってますからね☆」

「意味ありげなことを言っているけれど、絶対にわかってないだろう!?」

 勇者様の嘆きは、今日も面白いくらいに様になっていました。


 そんな一連のやり取りを、お貴族様達がなんとも言えない顔で見守っているとも知らずに。

 いや、さっきから物凄く物言いたげな顔しているんですよ。

 何度か介入しよう、口を挟もうとしているみたいですけど…

 ぽんぽんと進む会話のノリとテンポに、口を差し挟む隙を見出せず。

 あー…うー…と唸りながら、困ったように糸口を探しているみたいです。

 私は笑顔で勇者様の腕をタップし、そんな彼らを指し示してみました。


 勇者様が、気まずそうに固まった。


 それから、ぎこちなく貼り付けたような笑顔を浮かべます。

 まるで何事もないような口調で、こう言いました。

「彼はオーレリアス。忠誠心から(たま)に暴走もするが、俺の学友の中でも信頼している一人だ」

「どうも、はじめまして…」

 紹介を受けて会釈をしてくるけれど、どことなく拗ねた様な顔つきです。

 さてさて、彼には先程、強烈な一言を頂きましたが…

「……柔らかな口調に反して、オーレリアスは言葉がきついんだ」

 ぼそっと、困ったような勇者様の言葉。

「察するに、何か言われたんじゃないか…?」

「なんで殿下が、そんな恐る恐ると窺う目で見るんですか」

 勇者様が私へと問いかけてきたこと。

 その時の態度が気に食わなかったのか、それとも記憶に食い違いが出たのか。

 オーレリアス青年が、軽く怒りを滲ませて睨み付けてきます。

 ほほう、命知らずな…まぁちゃんをけしかけますよ?

 私の瞳に剣呑な何かを見つけたのでしょう。

 勇者様が大慌てです。

「こら、オーレリアス! お前は彼女達のことを知らないから、そんなことを言う」

「知っていたら、言えない筈だとでも?」

「…いや、本当に知っていたら言えないだろう」

 微妙な顔で勇者様が視線をそらします。

 なんだか、葛藤しているようですね。

「勇者様、どうしたの?」

「いや……言葉で言い尽くしても、きっとわかってはもらえない。じゃあ、どうしようかと」

「行動で示します? それとも身をもって体験させます?」

「オーレリアスが死ぬ…! 彼は俺と違って、そこまで頑健じゃないんだぞ!?」

「大抵の一般人…いえ、大抵の人間はそうですよ。勇者様と一緒にしてはいけません」

「じゃあ、加減するのか?」

「勇者様、先人がとても良いことをを言いました」

「………なんて?」

「獅子は兎を狩るにも、全力を尽くす………と」

「過剰な全力は実害ばかりをもたらすから!! あと、誰が獅子で誰が兎だ!?」

「そんなこと、勇者様なら言わずとも察してくれるでしょう?」

「くそ…外見は自分こそが兎みたいな顔してるくせに!」

「ちなみにまぁちゃんのことです」

「任せとけ。可愛い実妹と妹分を侮辱されたんだ。存分に嬲ってやらぁ」

まぁ殿(そっち)かよ!! …って、どっちにしろ危険どころか余計に危ないだろう!」

 危険、超危険。

 本人ばかりは知りませんが、生命の危機がひたひたと迫っていますよ(笑)

 それを知る勇者様のお顔は真っ青。

 だけど先程からの私との一連の会話で、表面ばかりはとても元気に見えます。

 その元気なツッコミと、それに併発される口に悪さ。

 そして大味なツッコミの仕草は慌しい。

 それがますますお国許にいた頃の勇者様とはイメージを異にするのでしょうね。

 周囲の皆々様が大いに戸惑いを浮かべているのに、勇者様一人が気づかない。

 頭を抱えて苦悩してみても、その味を誰も共感してくれない。

 わ、勇者様孤独ー!


 勇者様は次いで、私達にもう一人の青年も紹介してくれました。

「隣の…さっきリアンカに、取り返しのつかない何かをされそうになっていたのがシズリス」

「え、なにその随分な紹介」

 不服と顔に示し、シズリス青年は見捨てられた野良犬のような顔を浮かべます。

 私が言うのもなんですが、あんまりな紹介文ですね(笑)

 とてもいいと思います(笑)

 特に、言われたシズリス青年がなんとも言えない情けない顔をしているのが素敵です。

 友人であり、部下。

 そんな関係性が勇者様から遠慮を排除するのでしょう。

 あんまりな紹介を受けたシズリス青年の反応を流して、勇者様は続けます。

「それぞれ伯爵位と侯爵家子息の位にある高位貴族だが……まあ、リアンカ達にとってはどうでもいいことだろう。あまり気にしないと思うけど、人前ではそれなりに丁寧に扱ってやってくれ」

「ちょっ…!?」

 勇者様のあまりの適当な紹介に、吹き出しそうになりました(笑)

 泡を食って抗議を示す青年達などお構いなし。

 どうやら勇者様自身、先程の揉め様を見て何かをあきらめたようですね(笑)

 目が、死んだ魚のようになっていました。

 だめだよ、勇者様。

 目線で諦めろって伝えても、きっと真意は伝わらないから(笑)




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