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14.危機一髪

「レオングリス様、殿下が連れ帰ったとは一体…?」


 レオングリス少年の言葉に疑問を持ったらしい、青年二人。

 サディアスさんが一所懸命に抑えても耳を貸さなかったのに。

 今になってようやく現実を認識し始めたようですね。

 疑問顔の二人に、レオングリス少年はなんてことない顔でけろりと言いました。

「もう城内で噂だというのに、知らないのですか」

「噂、ですか…」

 あ、やっぱり噂になってるんですね。

 したり顔で頷く私達を気にすることなく、少年の言葉に青年達が神妙な顔で考え込む。

「あっ」

 反芻して、何かを思い出したのでしょうか。

 甘い顔立ちの青年が、ぎょっと目を剥きます。

 それから慌てた様子で、私達に向きなおり…

「どうしたんだ、シズリス」

「オーレリアス、俺の言ったこと忘れた?」

「多分、とっくに」

「思い出す努力くらいしてほしい!」

 オーレリアスと呼ばれた文官風のお兄さんが、腕を組んで不機嫌そう。

 思い出せと言われたからか、素直に何かを考え込み…

「………噂?」

 何かに、思い至ったようです。

「そうだよ、俺が言ったよな。殿下が美少女を二人も連れ帰ったらしいって」

「デマだろ」

「目の前に証拠がいるのに!?」

「デマだ。殿下が女性と親しくなさる筈がないからね」

「現実を見ろ、現実を!」

 どうやらオーレリアス青年は固定観念に囚われているみたいですね。

 そのせいで簡単な事実から目隠しされている状態のようです。

「サディアス、彼女達は何者なんだ。殿下の信任厚いお前なら知っているだろう!」

 聞くのが遅いですよ、シズリス青年。

 もっと早く聞けよ、と。

 私は思いながらもポーチの中をごそごそ。

 一応、いつでも報復できるように準備は整えておきましょう。

 取り敢えずぶっかける用の薬剤が入った瓶を投擲できるよう、手に握ります。

 護身用というには危険物すぎて、殲滅用とラベルを張り替えた逸品ですが…

 ……まあ、死にはしないでしょう。


 二人の青年と、好奇心に微笑む少年に詰め寄られ。

 サディアス青年も困惑を表に出しながら言うことには。

「その、彼女達は殿下のご友人として、この離宮に招かれた方々で…」

「「殿下のご友人!!?」」

「え、なんだ…本当にただの友人?」

 拍子抜けしたとがっかり感を現わす少年。

 その隣で、今しがた見事なユニゾンを披露してくれた青年達が茫然としています。

「友人、殿下にご友人………女の。嘘だ、有り得ない」

「殿下に女友達が出来る日が来るなんて…私は信じない!!」

 そこまで断言しますか。

 虚ろな目で言い切る二人に、私はぴょこんと手を挙げる。

「ご紹介に預かりましたー。勇者様のお友達のリアンカでーす。

魔境で日々愉快に楽しくやってまーす。主に、勇者さまではなく私が」

 疑っているようなので、友達だと言い切ってみました。

 胡散臭いものを見たという顔で、オーレリアス青年が顔を顰めます。

 シズリス青年は現実逃避気味に、窓の外を見て「鳥は良いなぁ」とかほざいています。

 現実(こっち)を見ろ、お前ら。

 

 どうあっても私の存在を認めたくないらしい、お二人。

 この上は勇者様がお帰りになってからご説明いただくかと、私は匙を投げました。

 その代り、それまで存分にこの青年二人をおちょくろうと思います。

 ええ、それはもう徹底的に。

 先ほどの恨みと腹いせを込めて。

 考えてみれば売られた喧嘩をまだ買い取ってませんでしたね。

 あれもこれも、レオングリス少年の乱入でうやむやです。

 私は慈愛に満ちた頬笑みを浮かべて、現実逃避に走るシズリス青年の背後に忍び寄りました。

「喰らえ、膝かっくんー!」

 …と、叫びながら。

 私はシズリス青年の無防備な胴体に手を伸ばします。

 膝かっくんじゃねえという反論は聞きません。

 ただのフェイントです。

「ふおぅ!?」

 うっかり下半身の方に意識がいってしまったシズリス青年。

 その脇に手を差し入れ…全力で、脇腹を小突きました。


 余談ですが。

 この間、計測したら私の握力三十五くらいでした。


 シズリス青年、悶絶。

 崩れ落ちるほどじゃなくても、いきなりの一撃は効いたらしい。

「隙あり、です! 主様と姉さんを侮辱した男に、天罰てきめーん!」

 その間に、秘かに移動していたリリフが、シズリス青年に足払いをかけました。

 見た目は子供でも、リリフは立派な純血の真竜です。

 その足払いは青年の足を折らないように加減されていたけれど。

 それでもその威力も勢いも、人間に逆らえるものではありません。

 息もつかせぬ一連の出来事に、オーレリアス青年はぽかんと棒立ち。

 ふっ……待っていなさい。

 次は貴方の番ですから。

 でも今はオーレリアス青年よりも、シズリス青年をやってしまいましょう。

「ぐふ…っ」

 無念にも倒れ込んだシズリス青年。

 さて、とどめです。

 私は青年のマウントポジションを取ると、ニマリと物騒に笑います。

 懐から小さな硝子瓶を取り出し、その栓を抜いて…


「待ったーっっ!!」


 焦りに、跳ねるように。

 瓶を傾けようとした時、切羽詰った制止の声が響き渡りました。


 視線をやると、そこにいたのは………まあ、予測していましたが。


「り、リアンカ! ちょっと待て、頼むから待て!

ついでになんだか物騒な気配のする瓶を傾けるのはナシの方向で!」


 そこには、これ以上はないというほど顔を引き攣らせた勇者様がいました。


 流石、弱者を助ける『勇者様』。

 計ったように素晴らしいタイミングです。

 勇者様は慌てて私の傍まで全力疾走!

 有無を言わさず硝子瓶を手からもぎ取り、封をしてサディアス青年に投げ渡しました。

 いきなり投げ渡されても、サディアスさんだって困惑するでしょうに。

 しかし勇者様の様子からただならぬ出来事と思ったのか、覚悟を決めたような、思い詰めたような顔で、サディアス青年がぎゅっと硝子瓶を握り込みます。

 まるで、命を賭しても誰にも渡さないというように。

 それを確認するよりも先に、勇者様は動きを止めず私へと手を伸ばします。

 勇者様は私がこれ以上行動を起こさないようにと思ったのでしょう。

 私の背中の方から羽交い絞めにするように手を差し込むと、勢いよく抱き上げて…

 そのまま、物理的にシズリス青年から引き離しました。

 最近背の伸びた(笑)勇者様に抱きあげられると、足が余裕で地につきません。

 足をぷらぷらさせながら見上げると、勇者様がようやっとの安堵顔。

 それでもまだ私を野放しにはできないと感じたのでしょうか。

 勇者様は私を抱き上げたまま、降ろしてくれません。

「これで…これで、何もできないだろう」

「それはそうですけど…何も、抱えなくても」

「リアンカは、油断ならないから。物理的に捕まえておかないと不安だ」

「それはそれは」

「まったく、不安を感じて急いで帰ってみれば………なんだ、この状況。何が起きた」

「詳しく聞きたいですか?」

「いや、あまり…? 経緯がどうあれ、手遅れになる前に間に合ってよかった」

 一仕事やりきったー!という達成感に満ちた顔。

 嘆息をついて、勇者様は私をより高い位置に抱え直します。

 そんな勇者様を、居合わせた人間さん達がもれなく全員唖然と見つめていました。

 その状況を一切気にすることなく。

 勇者様は平然と、常と変らぬ様子で言ったのです。


「久しいな、シズリス。それで一体何でまたリアンカに倒されていたんだ。何をした?」

「で、殿下……」

 

 シズリス青年はシズリス青年で、こちらもいきなりのことに動揺しているようでした。

 しかしその目はしつこく忙しなく、勇者様のお顔と私を抱える手の間を往復しています。

 彼にとっては、一番驚くポイントがそこなのでしょう。

 信じられない、顔にそう書いてあります。

「で、殿下が女性を抱えあげるなんて………に、にせもの?」

 そこまで信じられませんか。

 あまりの物の言い様に勇者様も苦笑です。

 倒れ込んだままのシズリス青年の脇に、オーレリアス青年が駆け寄りました。

「馬鹿が、よく見てみろ! 殿下のご尊顔を!」

「み、見てるけど…!」

「見たならわかるでしょう、偽物など有り得ないって! あんな眉目麗しく輝きに満ちた方の、偽物など用意できるはずがないでしょう!! そんな奇跡、どこから連れてくるんですか!」

「…はっ」

 え、その理屈で納得しちゃうの?

「そ、そうだよな…唯一無二のご尊顔を、複製できるはずがない!

そっくりさんなんて以ての外だ、有り得ない!」

 ………どうやら、その理屈で納得できちゃうようです。

 勇者様の苦笑が、微妙に引き攣りました。




 このままでは、埒が明かないと。

 場所を移して粗茶一服。

 いや、粗茶なんて言うのもおこがましいほど良いお茶が出てきましたけどね。

 一息ついて、ようやく落ち着いてきたようです。

 …勇者様の、お友達が。

 神妙な顔でお茶をすする勇者様のお友達は、まだ納得のいかないような顔ですが。

 わめき慌て暴れるのをやめたあたり、現実は認識できるようになったみたいで。

 勇者様と、そば近くにいる私の動向を訝しそうに見ていますけれど。


 落ち着きを取り戻した彼らは、拝聴する姿勢をとって勇者様へと目を向けるのでした。



次回、レオングリスと学友二人の紹介になります。

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