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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~本戦開始~
141/182

140.かちかちかち

前回よりもっと直接的な手段に訴えます。

――Let’s 火だるま!


リアンカ

「今日も楽しい勇者様がはっじまっるよー!」

ロロイ

「わあい、今日はどんな勇者だろ。教えて、おねえさん(棒読み)」

「それはね?」

「うん?」


「……………さよなら、うさぎさん」


「何があったのさ…?」

「強いて言うなら、リアルかちかち山の逆パターン?」

「それってアレだっけ? 『婆汁食ったなぁ!?』」

「よりにもよってそこチョイス!?」




 思えば幼少の頃。

 私も一度、やったことがあります。

 虫眼鏡を使って、こう、蟻をじゅっとね?

 その規模を大きくしたものが、今私の目の前で再現されている訳ですが。


「くっ………葉緑素が疼きやがる…!」

「葉緑素!?」


 御先祖様、まだ余裕そうですね。

 何と言うか、焦った顔をしているくせにノリが良い。

 でも、やっぱり切羽詰った部分もあるんじゃないかな?


 果物の焼ける匂いがします。

 わー………無駄にフルーティ。


「やべっ 火が付いた!?」

「黒い服を着ているからだ…!」

「狙ってるのお前じゃん!」


 御先祖様は眩しさの余り目を開けられず、足止め状態。

 いや、目を瞑ったままでも動いていますね。

 どうも勇者様の所在地を把握しているようです。

 ………心眼?

 でも眩しさと、光の激しさに伴う熱によって痛みを感じているのでしょうか。

 うんうん、あの光は痛みを感じるレベルです。

 流石勇者様、普段あんまりにも空気の様な効果しか出ていないので忘れがちですが、陽光の神に加護を受けるだけあります。

 太陽神の加護をふんだんに盛り込んだサン☀ビーム(光るだけ)は効くでしょう。

 動けて、勇者様の場所が分かっていても、どうにも体が自由にならないようで。

 そして漂う香りからも、明らかに。

 御先祖様………焼けちょる。

 着ていた服が黒かったせいもあり、とうとう燃えだしました。

 何かの物語の熱血主人公の如き燃え方です。

 御先祖様は慌ててぱたぱたと体を叩き、火を消そうとしても焼け石に水。

 むしろ手の方に引火しかけて大慌てです。

 わあ☆火に弱いって本当だったんだ。

 このまま御先祖様の炎にまみれた死の舞踏を見守る羽目になるのでしょうか。

 ………って、既に御先祖様死んでましたね。

 生きてるように見えるから、わあうっかり☆


「こりゃ本格的にやべぇなー…もちっと遊びたかったんだけど」

「既に諦めモードか!? 潔いというか、諦め早いな…」

「まあ、元々俺がここに居んのもイレギュラーってやつ?

そもそもそこまで戦意もなかったし」

「それじゃあ、このまま大人しく…!」


「でも俺、まだ遊び足りねーんだよな」


「……………」

「子孫達のことも構いたいしー…折角だしな。あと町見物してー、その辺の偉そうな奴襲撃して遊び倒してー、チンピラをおちょくって遊びたいー…久々の下界だ。それにお前からもリアンカちゃんをどう思ってるのか詳しく聞き出したいし?」

「…………………」


 御先祖様のつらつらと流れる独白。

 それを聞いて、一瞬勇者様が悟りを開いたような顔をしました。

 何と言うか、空虚。

 そして、カッと目を開いて。


「悪霊退散!!」


 勇者様の光が更に強くなりました。


 御先祖様も、子孫(わたし)達を構いたいって…何する気なんだろ。

 私達の平安の為に、勇者様が頑張っておいでです。

 燃やしつくそうと、ルーペを全力活用。

 まさか勇者様も、剣に内蔵されたルーペがこんなに大活躍するとはほんの何分か前まで思っていなかったでしょうに…。

 世の中、よくわからないものです。


「悪霊なんて失礼な奴ぅー」

「客観的に考えてどう見ても悪霊だろう!?」

「ちっ…上手く動けない借り物の身体じゃなかったら………」

「今までのそれで上手く動けてないのか!? 本来はどれだけなんだ!」

「しかもこの体、光にも熱にも炎にも弱ぇ…お前の相手をするにゃ、適正不足だ」

「………炎はともかく、光にも弱かったのか?」

「はは……………光に熟成促進されて、腐るのが早くなる」

「!?」

「思えば、悪臭を放つようになる前にきっちり燃やしつくしてもらった方が俺の精神的ダメージも少なく済むかもな…」


 それは子孫(わたし)の精神的ダメージの為にも、お早い退場をお願いします…。

 腐って悪臭(甘い系)を放つ御先祖様なんて嫌だ…。

 しかもゾンビ系の腐り方じゃなくて、腐り落ちる果物………。

 うわぁん…ぐろい。

 いや、ゾンビもかなりぐろいけどね!

 

「しかし王子サマ(笑)、俺を倒してそれで終わりと思うなよ?」

「な、なんだその意味深な前振りは…」

「元凶を葬らない限り、俺は何度でも蘇るぜ…そう、すぐ第二、第三の俺が!!」

「お前はどこの魔王だ!?」

「うん? 俺は魔王になんてなった覚えねぇぞ?」

「じゃあなんだ今の前振り!?」

「いやだって、マジでそうなりそうじゃん」


 そう言って、燃えながら御先祖様がぴょいっと指をさした先には。


「めがぁ…目がぁー…っ!」


 両目を押さえる、奇怪な着ぐるみ兎。


「……………」

「………」


 そう言えば、勇者様の正式な対戦相手あっちでしたね!

 空気の如く異様なあの存在感を、まるっと忘れていました。

 更によく見ると、その手元………ぐろてすく植物の、植木鉢。

 新たな苗が用意されようとしているように見えるのですが。

 うん、元凶ってアレですね。


「太陽神はどこの神属でも一級神だからな。力の差があり過ぎるんであの兎娘もほら、あの通りだ。今なら無駄な抵抗も皆無だろーよ」

「ニタニタと笑いながら…なんで、助言をくれるんだ」

「急にいきなり呼び出されてむかっ腹立ってたから」

「簡潔に分かりやすい理由をどうも!」


 叫ぶと同時、勇者様が動きだします。

 その、手に握っていたルーペ……じゃないないなかった、剣、剣。

 剣を大きく振りかぶり、どがっと!

 振りかぶった一瞬、御先祖様からビーム(光るだけ)が逸れたけれど。

 しかしそれもすぐに復活し、やはり御先祖様は動くこともままなりません。

 勇者様は鞘ごと石畳(隙間)に強引さ抜群無理やりに差し込み、剣を固定。

 ルーペの向きを微調整し、御先祖様へと焦点を当てます。

 更にもう一方。

 御先祖様の呪われた剣を、御先祖様と(ルーペ)を挟んだ対角線上に突き刺しました。

「後は…っ」


  ぶちぃ…っ


「まぁちゃん、まぁちゃん、勇者様ったら光を掴んだよ!?」

「おー…相変わらず人間離れしてんなぁ」

「いや、あんな燦々と輝いてる時点で人間辞めてない?」

「まだギリ人間だ。ギリ、な」


 私達は驚きました。

 だって、勇者様。

  光 を 掴 ん だ ( 物理 ) んだもん!


 勇者様の陽光の神からの加護の証。

 常にその周囲を取り巻き、キラキラと踊り散る光の粒(ライトエフェクト)

 今は勇者様自体が輝いていますが、あの光の粒(ライトエフェクト)が消えたわけではありません。

 むしろ勇者様の輝きに呼応し、光を増してぎらぎらと。

 そう、まるで小さな星のように輝いていたのですが…

 空気中に踊る、その光の一つを。

 勿論のこと、人間に光を物理的に掴む手段などないはずなのに。

 勇者様ったら、素手でむしり取る様に掴んじゃったんですよ!?

 しかも勇者様が引き寄せた瞬間、綱が切れるようなぶちって音がしました。

 ………あれ、どこかに繋がってたのかな?

 え? どこかから吊られてた?

 そんな謎めいた光を千切り取った勇者様。

 それどうするの、と見守る私達。


 勇者様は光を御先祖様の剣に叩きつけた!


 途端、それ自体が光りだす御先祖様の剣。

 まるで、勇者様の叩きつけた光を取り込んだように。

 いや、もしかして勇者様が中に入れた…?

 勇者様ほどではないものの、立派な発光体と化した呪われた剣。

 見た目も格好良い剣でしたが、ああして見るとますます呪われた剣には見えませんね。外見詐欺です。

 勇者様は更に同じ動作を繰り返し、剣に(ライトエフェクト)を十くらい閉じ込めました。

 あれは陽光の神の加護が可視化したもの。

 つまり、陽光の結晶の様なもの。

 それを幾つも幾つも取り込んだ剣は…

 勇者様と同じくらい、小太陽の如き輝きを放つようになっていて。

「よし…っ」

 勇者様は小さく叫ぶと、剣から手を離しました。

 勇者様の手元を離れても、輝きは消えません。

 ………勇者様、いつの間にあんな芸当を覚えたんですか。

 もしかして私達の知らない間に、強すぎる上に多すぎる加護の力を制御しようと努力していたんでしょうか。

 地道な努力の結果ですか、それ。

 魔力的なものを扱う訓練をあまり積んでいない上にちょっと鈍い勇者様が独力でそれをするのは、凄い苦労だったでしょうに…。

 勇者様の苦労を思うと、ちょっとほろりときそうです。

 というか陽光の神の加護なんてそこまで害のあるものじゃないのに。

 陽光(そっち)の制御法覚える前に、厄介な美と愛(カリスマ)の方どうにかしましょうよ…。


 過剰過ぎる勇者様の、魅了効果。

 それを増長させている、美の女神と愛の神の加護。

 それを制御する為に試行錯誤した結果、何故か陽光の神の加護の方が制御できるようになった…という勇者様の苦労を知らなかった私は、若干の呆れ混じりに勇者様のキラキラぶりを眺めておりました(マル)


 悲しい努力の末に本来の目的ではなく、光を操作できるようになった勇者様。

 彼はまるで己の変わり身を任せるように、剣を更に煌々と光らせます。

 その放たれた光がルーペを通し、まっすぐ御先祖様へと。

 軌道確認に目をやり、確かに御先祖様が動きを封じられているのを確認。

 それからでした。

 勇者様が、バニーさんに再び視線をやったのは。


 そして、勇者様が走る。

 真っ直ぐに、奇怪な着ぐるみうさバニーへと。


 その手に、何かを握って。


 ………?

 あれ、何だろ?

 勇者様は今、完全に剣を手放していて。

 ハリセンでもない。

 ハリセンみたいな大きなものじゃなくて、手に握って使うようなサイズ…

 ……勇者様の光を照り返す、金属の光沢。

 目に刺さるような照り返しで、形状が判別付かないんですが…。

 ………なんとなく、メリケンサックみたいに見えます。

 えっと……勇者様、中身は女の子なのに撲殺するつもり?

「リアンカ、殺害したら失格だろ」

「あ、そっか」

 それなら少なくとも、殺す気はない筈です。

 でも色々突き抜けた御先祖様と戦った後ですからね…

 判断基準とか、狂ってないといいのですが。


 果たして、勇者様の握る金属的な何かの正体はすぐに知れました。

 それは、拳に装着して使うもの。

 殺傷力がなくもないですが…その、真価は。


「てぇいっ」


  カカッ


 固い物の擦れ合う、甲高い音。

 そして、噴出し踊る…火。

 小さな小さな赤い灯火は、ちらちらと踊ってすぐに大きく…引火する。

 駆け抜けた勇者様と着ぐるみが交差した瞬間。

 赤い火は、ぱさぱさと乾いていた着ぐるみの着衣に襲い掛かりました。

 着ぐるみの毛に引火した途端、強く激しく燃え盛る。

 その、劇的な効果をもたらした道具、は。

 今もなお、勇者様の手に握られていて。


 あれは………あれは……………!!


 旅のお供!

 生活必需品!

 一家に一つ、定番の!



 まさかの火打石&火打金…!!



 わーお、まさかとうとう人力発火。

 一人旅で鍛えた地道な着火作業が、今この時、活きたんですね…。

 荷を小さく纏める為、身につけられる物は身につけているって言っていましたものね………試合中の今も現在進行形で身につけているとは思いませんでした。

 ああ、いつ誰に追いかけまわされて、どこかに身を隠して一夜を明かす…なんてことになっても良いように必需品は持ち歩いているって言っていましたっけ。

 ………そんな用心をしなくちゃいけない、どんな苦行を経験したことがあるのかは知りませんが。

 火打金と火打石を持ち歩いている大国の王子なんて、勇者様くらいじゃ………

 駄目だ、深く考えるのは止めよう。切なくなる。

 私は勇者様の悲惨な背景から目を逸らし、試合を再び見守ることにしました。


 勇者様の起こした火は、どうやら若干のオイルで艶だしがされていたらしい着ぐるみを燃え焦がしました。


「わひゃーっ! 毛皮がもーえーるーーーっ」


 ………燃えてるのに余裕ですね、あの兎。

 勇者様もバニーのことは得体が知れなくて危険と判断したのでしょう。

 あの紳士の勇者様が、わざわざ攻撃するくらいなんですから。

 しかもこれで終わらせる訳でも、なく。

 勇者様は更に走りました。

 毛皮をばたばたとさせている兎の、まだ燃えていない部分。

 その腕を掴んで。


 ぐるっと。

 ぐるぐるっと。


 わあ、遠心力☆

 勇者様はご自分の軸足に力を込めると、しっかりと地を踏みしめて。

 そこを支点に体を回転させて、兎をぶん回します。

 こうなると、展開がとても読みやすいですね。

 ええ、とっても分かりやすい攻撃です。

 そう、遠心力。

 三回、四回と十分な回転と勢いをつけて。

 勇者様はハンマー投げの要領で、兎を掴んでいたその手を離しました。


「あっひゃぁぁああああっ?」


 そして。

 兎、失格リングアウト!


 勇者様は兎が放物線を描いて飛んで行くのを見ながら、肩の力を抜いて。

 瞳を閉じて、深呼吸。

 ゆっくりと目を開くと、それに合わせたように会場中を包みこんでいた凄まじい光…勇者様の発光と、剣の光は治まっていきました。

 完全に目を開いた勇者様の青い瞳。

 それがはっきりと見えるくらいに。

 世界は再び、正常な色を取り戻したのです。

 ………サングラス越しでも光が強くて、白っぽくしか見えませんでしたからね。

 勇者様の落ち着いた瞳を見て、私もつられて落ち着く思いでした。


 強い光が消え、それまで光にやられていた人達がおいおい視力を取り戻して。

 最初に反応したのは、柱の陰に避難していた試合の審判。

 彼は試合場の様子を見て…

 泰然と立つ勇者様と、リングアウトした兎と、燃えている御先祖様を見て。

 勇者様の腕をおもむろに掴むと、それを天に高々掲げ宣言したのです。


「――勝者、ライオット・ベルツ…!!」


 ちなみにその後、目の痛みを訴えて医務室に駆け込む人が殺到しました。

 後先考えずの行動に心が痛くなったのでしょう。

 勝者の筈なのに、勇者様は随分と肩身が狭そうな態度でした。

 あんまり可哀想だったので、医務室には魔境の薬師特製の点眼薬を大量に差し入れておきましたよ、うん!

 良い仕事をした…!

 そう言って微笑む私は、何故か後で勇者様に盛大に泣きつかれたのでした。

 あれ? 私、何か悪いことしたっけ…?




今日の勇者様

 武器:火打石


リアンカ

「狸じゃなくて、兎が燃えたよ!」

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