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13.扉ばーん!

 


 勇者様が帰って来ません。

 謁見っていうのがどれくらい時間がかかるものなのか…

 正直、わかる人がこの場にいない不思議。

 人間じゃないとはいえ王族のはずなのにどうした、まぁちゃん&せっちゃん。

「まぁちゃんもわからないの?」

「うちは質実剛健。文句をガタガタぬかす奴がいたら鉄拳でもって黙らせる方針だし。

…格式ばった人間の国とは違ぇだろ」

「あに様の謁見は、最短二分で終わりますのー」

「短っ! え、それで謁見する人は何を陳情するの…?」

「場合によりけりだろ。っつーか、陳情なんてなぁ、事前に書面で提出してんじゃねーの?

改めて何を口上する意味があんのか、すげぇ意味不明」

「陳情以外の謁見は?」

「やっぱ場合によりけりだろ」

 どうやらまぁちゃんの経験は、この場合は一切役に立たないようです。


 お陰で暇。


「………後で勇者様が泣くことになっても、離宮の外へ遊びに行こうか」

「それも悪くはねーな」

「大・冒・険☆ ですのー?」

 この離宮は勇者様の持ち物で、全部勇者様の物。

 本人不在で探検(荒ら)しても良いんですけど…。

 流石に泣きっ面に蜂過ぎて哀れみが溢れそうになったのでやめました。

 今日はもう色々あって、勇者様の精神(メンタル)ギリギリそうですし。

 お宅荒らしは、もっと勇者様の精神力が回復した頃にすることにしましょー!

 ちなみに「やらない」という選択肢はありません。


 引き留めるサディアスさんには全く構わず、さあいざいかん。

 そんな感じで勇者様のお帰りを待たず王宮に乗り出そうとした時です。

 私が出入り口の扉を開けようと、ノブに手をかけた時。

「まぁちゃん?」

「ん、ちょっと待て」

 何かに気付いたまぁちゃんが、私の脇に手をやって。

 ひょいっと扉の前からどけられてしまった瞬間でした。


 扉が勢いよく、ばーん!


「殿下がお帰りになられたって!?」

 息もつかせず、続いて青年が二人ばーん!!


 息を切らせてそこにいたのは、身なりの良い二人の青年。

 お城の中でちょいちょい見かけた服に似ています。

 制服か何か、でしょうか。

 文官風の賢そうな目をした青年と、甘い顔立ちの青年。

 ………だれ?


 私が思った感想は、そのまま相手が抱いた感想でもあります。

 息せき切って表れた二人は、扉を開けた目の前にいた私にすぐ気付きました。

 そりゃあ、本当に扉の目の前でしたから。

 すれすれ、開いた扉で指先をかすりそうになる位に前です。

 まぁちゃんが後ろに下げてくれなかったら、確実に顔面強打してましたね…。

 そんな目の前ですから、二人の青年にとっても第一に目に入ったのは私だったのでしょう。

 私の姿を目に留めて、一瞬驚きに目を見開き…

 それから、何故か嫌悪と蔑みの目で見られました。


 喧嘩売ってんのか、こら。


 今なら言い値の三倍で買いますよ、まぁちゃんが!

 こんな、目で喧嘩を売られたのは初めてです。むずむずします。

 私の米神の辺りが、ひくりと引き攣るのを感じました。


 しかし私の笑顔が強張っても、所詮私はただの女。

 青年二人は何とも思わないのか、口を開くと配慮のない言葉を口にし始めました。

「この離宮に、どうして女が…」

「何所から入り込んだんでしょう。油断ならない●×(ピー)女だね」

「おい、サディアス! 仕事しろよ。殿下の離宮に女性を立ち入らせないのもお前の仕事だろ」

「お、お二方………」

 わあ、更に出会いがしらに蔑まれてるー…。

 好き勝手出会いがしらに言いたい放題の二人。

 遠慮無用のその様子に、サディアスさんが気まずそうにおろおろ動揺しています。

 そりゃあ、今まで勇者様の離宮は女性立ち入り禁止だったそうですし?

 勇者様のことを思えば、女性の侵入はもっての他でしょう。

 だから、きっと二人の反応は平常時ならば、正しい。

 それが分かっているから、サディアスさんもおろおろするんでしょう。

 ええ、勿論、私も分かっていますよ。

 だから申し訳なさそうに私のことをチラチラ見なくても大丈夫ですよ、サディアスさん。

 ええ、ええ、これはサディアス青年のせいではありませんから。


 ………ええ、私に売られた喧嘩ですよね?


「うふふふふ………」

「お、お客様…っ」

 なんか、楽しくなってきました。

 相手の身分や立場を配慮せず、好き放題な口の利きよう。

 誰何せずに貶すあたり、きっとこの二人の身分は高いのでしょう。

 国内で知らぬ相手に罵り言葉を与えても、許されてしまうほど。

 もしくは、自分より身分高く丁重に扱うべき相手を網羅しているか。

 それに該当しなかった私達を自分より下の相手と判断した…とかでしょうかね。

 もしかしたら私達のラフな格好を見て、侮ったというのもあるのかもしれません。

 というか、じろじろ私のことばかり見ていますし。

 いや、私が正面どまん前にいるので仕方ありませんけれど。

 まぁちゃんとせっちゃんの美貌にまだ気づいていないので、その態度ですか?

 気づいたら、そんな態度でいられないでしょうに…!


 まあ、実際に私はただの村娘。

 身分なんてものとは関わりございませんが。

 それにしても、どれだけ偉いのか知りませんけど…


 どちらにしても、まぁちゃんの前で私を貶した時点で、彼らは死刑確定?

 ふと思い至って背後のまぁちゃんを見上げると、

「……………ん?」

 にっこり優しく、妖艶に微笑まれました。

 わーお。当たりだ、これ。

「まぁちゃん?」

 何をするつもりなのかわからないけれど、まぁちゃんがさりげない仕草で懐に手を伸ばし…

 ……かけた手を、私はそっと両手で押さえた。

「どうした、リアンカ」

「ふふふ…?」

 いつもなら、まぁちゃんに庇ってもらうのも良いんですけど。

 いえ、その前に私にやらせて下さい。落し前。

 何しろあんな蔑みを真っ向から受けたのは初めてです。

 魔境にそんな命知らずはいませんでしたが…この際、記念と思いましょう。

 私は自分で自分の欝憤くらい、晴らせるできた女ですよ、まぁちゃん。


「サディアス、殿下はどちらに?」

「この女共に怯えて引っ込んでいるんじゃ…」

「いえ、殿下は只今、帰還報告に謁見の間へいかれています」

「それじゃ、殿下がお戻りになる前に」

「ああ、この女共を追っ払わないと」

 

 二人の青年は、我が身に迫る悲劇の足音が聞こえないようです。

 サディアスさんでさえ、何かを察したのか顔を微妙に青くしているのに。

 勘の鈍い生きものは、大自然(まきょう)で生きていけませんよ?

 私は腰に吊るしたポーチに手を伸ばし…


「あにうえーっっ!!」


 ………た、ところで邪魔が入りました。

 再度の扉ばーん! です。

 またか。


 何となくどこかで見たような展開ですが。

 新たな闖入者の登場です。


 声高らかに扉を開け放ち、飛び込んできた小柄な影。

 せっちゃんと同じか、少し年下くらいでしょうか。

 すんなりと伸びた手足を、真っ白で高貴な衣装に身を包んだ子。

 それは、輝く金髪の眩しい少年。

 …どこかで見たような髪色ですね。

 決して有触れた色じゃない、珍しい部類の輝き強い金髪のはずですが。

 どこで見たかな、と思い出すまでもなく、答えを知っています。

 勇者様です。

 目の前の少年は、勇者様とよく似た金髪で。

 顔立ちもどことなく似ている、結構な美少年。

 ああ、これは勇者様の血縁だなと。

 一目でわかる少年が、私達の前…そこに、いました。


「サディアス、あにうえは何処(いずこ)!? お帰りになられたのでしょう!」

「れ、レオングリス様…」


 どうやらレオングリスという名前らしい、新登場の彼。

 なんだかレモングラスとニトログリセリンを混ぜたみたいな名前ですね。

 勇者様の弟でしょうか?

 今までそんな話は聞いたことがありませんが、でもいてもおかしくないよね?

 瞳の色は勇者様のロイヤルブルーとは違う色合いの青。

 何色って言うんだっけ、あれ。

 オリエンタルブルー?

 すっかり意表を突かれて、毒気を抜かれてしまいました。

 私は新しくやって来た少年を興味深く見つめます。

 やっぱり勇者様に似てるなぁ。

 でもパッと見似てるってだけで、勇者様ほどの美貌ではないですねー。

「まぁちゃん、何点付ける?」

「ん、六十二点かね。せっちゃんは?」

「んー………七十点を差し上げますの」

「せっちゃんは採点が甘いね。私は六十点だと思う」

 ぼんやり眺めながら、私達は小柄な少年を品評中。

 ちなみに採点基準は勇者様(百点満点)です。

 何故なら、暇だったから。

 先ほど私に喧嘩を売ってくれた野郎二人は、新たな闖入者に大慌て。

 慌ただしく立ち居振る舞いを改めたあたり、凄く畏まってます。

 あの少年は二人にとって「上位者」か何かなのでしょう。

 まあ、本当に勇者様の血縁だったら、その時点で間違いなく敬われてしかるべき立場だし。

 確実にこの二人よりも身分の高い子供なんでしょうけれど。

 放置され、放っておかれて暇です。

 これはもう、反応の面白そうな青年二人にちょっかいを掛けるべきでしょうか。

 喧嘩を売り返しましょーかねー…いえ、この場合売り返す? 転売?

 どうしたものかと思案していると、視線を感じました。

「ん?」

 見てみると、レオングリス少年が興味津々と言った顔で私達を見ているんですけど…。

 私と視線がぱちっと合うと、レオングリス少年はにっこり笑いました。

 それから優雅にお辞儀をひとつ。

 さっきの奴らとは違うというか、さっきの奴らに見習わせたい丁重ぶり。

 レオングリス少年はまっすぐに私達へ近づいてくると、陰りない笑顔で言ったのです。

「貴女方が、あにうえの連れて帰られたという方々ですか?

もう噂になっていますが…噂の通りにお美しいですね」

 あらやだ、この子。

 勇者様とは違って口が上手い気配がします。

 勇者様と結構似てるのに、勇者様とは随分と違うのでしょう。

 愛想良く微笑む顔は、女性相手でも遺憾なく発揮されているようでした。

 本当にこの子は勇者様の身内かと、疑う気持ちも湧き上がるのでした。




ニトログリセリン

 魔境の錬金術師が作った面白兵器。

 取り敢えず触ると爆発する。なので誰も運べず放置されている。



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