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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~本戦開始~
139/182

138.意外な抵抗

まだ風邪の影響残り、本調子ではありませんが…とりあえず、ここまで。

 うん、燃やそう。

 御先祖様を燃やそう。

 高らかと空に届け☆不吉なキャンプファイヤー!

 ………うん、私ったら悪い子孫ですね(笑)


 なんとか笑ってすまそうと思いつつ、私の決意は揺るぎません。

 本人も、ここに現れたのは本意じゃないっぽかったし。

 ここは潔くお帰りを願いましょう!

 正直、偉大すぎる御先祖様にご登場されても対処に困るし!

 どんな態度取っていいのか、微妙に分かんないし!

 魔境に帰ったら檜武人の廟にお供えでもするので、それで許していただきたい。


「という訳で、燃やそうと思います」

「おいおい、部外者の俺らが手を出したら勇者失格だぞ?」

「いやいやそこは私達も助言だけで。基本は勇者様本人に頑張ってもらいますよ」

「御先祖相手に? あの、御先祖相手に? 俺でもちょっと厳しいぞ」

「Oh…まぁちゃんで厳しかったら、勇者様大変」

「勇者さん、残念ですのねー…」

「せっちゃん…ちょっと手を合わせるのは早すぎるかなー?」

 

 わあ、せっちゃんったら気が早いんだから!

 …うん、手を合わせて「なむなむ…」って言い始めるのは早いと思うな。

 勇者様、まだ辛うじてお元気ですよ。風前の灯火だけど。

 というか、誰が仕込んだ芸だっけ、これ…。


 私達がわあ!と不吉なプランを話し合っている間にも、ほら。

 勇者様ったら凄く窮地。


「今からカウント5でお前にはイケメン☆人生からコースアウトしてもらいまーす。具体的に言うと、いつまでも逃げ回ってばっかなら一生落ちないインクで顔面愉快なことにすんぞ、おら」

「ちょっと待てこんちくしょーっ!!」

「ちなみに俺の絵心はちょっと常人に理解されない方向にひた走っとる。率直にいえば印象派に真っ向から喧嘩を売ってる感じだ。そこんとこよろしく!」

「俺の顔をどうするつもりだ、おい!?」

「5――、4―――、3――――」

「無視か、無視なのかおいこらー!?」


 勇者様の顔面が面白いことになるまで、あと三秒。

 その間にも、御先祖様は檜スティックでがすがすと殴りかかっています。

 それを危ういところで辛うじて、剣で受け止め弾くことに勇者様は必死で。

 それに専念していないと、今にも頭蓋骨殴打で昇天しそうな勢い。

 武器も薄っぺらいハリセンでは受け止めきれないからでしょう。

 いつの間にか武器は持ち変えられ、ここ最近出番のなかったトリオン爺さんの剣をご使用のようです。

 しかしあんな鉄の塊でもがきんがきんと斬り砕くトリオン爺の剣を相手に一向に消耗しない…どころか心なしか勇者様の剣の方を刃毀れさせそうな勢いですよ。

 檜武人のひのきのぼう…本当に、洒落にならない武器です。

 見た目はあんなに、棒ダイレクトなのに。

 いえ…むしろ鉄の武器をあんなに平然と弾き返すひのきのぼう……

 …なんか、滅茶苦茶格好良く見えてきました。

 生まれた時から見慣れた、ネタ武器としか思えないアレなのに。

 これは…魔境で流行る筈ですね。

 あんな頼りない武器を魔剣レベルまで引き上げた御先祖様が眩しすぎます。

「すげぇ………御先祖、やるな。俺ちょっとひのき舐めてたわ」

「私だって同感だよ、まぁちゃん。自分がやりたいとは微塵も思わないけどね!」

「右に同じく」

 うん、御先祖様……貴方本当に人間(元)ですか?

 ちょっと勇者様レベルでなく、人間やめてたとしか思えません。

 その身のこなしは生前からのものか、死後獲得したものか…。

 ………生前からっぽく思えるのは何故かなぁ。


「ああ、そうこうするうちに勇者様がアイアンクロー喰らってます」

「御先祖、いい握力してんなぁ…」

「…今のうちに、頭蓋骨が割れた時用に何か調薬しとこうか」

「頭蓋骨の軋む音が、ここまで聞こえますのー…」

「しっ…主様、聞いちゃ駄目です!」

「グロ注意! グロ注意だよ、リャン姉」

「大丈夫、ロロイ。あんなギシギシって音くらい…魔境だと時々耳にするし」

「最近はリーヴィルがヨシュアン絞めてる時に、なんでか聞こえるんだよなー…」

「………まぁちゃん、あの二人引き離さないといつか死ぬよ? 画伯が」

「引き離しても、地獄の果てまで追い詰めて血祭に上げそうだよな(笑)」


 最早、私達も笑いながら見守るしかない気がしてきました。

 手遅れになる前に救出なり何なりした方がいいのでしょうが…

 御先祖様の圧倒ぶりに、こう…危機感がふわっと。

 こうして見ているだけなのに、冷や汗流れちゃうよ。

「…リアンカ、これ一刻も早く助言してやった方がよくないか?

何かしら希望がないと人間すぐ死ぬぞ」

「それ希望与えるだけ与えて、救いない無明の闇に突き落とせって聞こえるよ?」

「そこまで言ってねーよ!」

「でも確かに、勇者様に反撃を狙って足掻く救済策くらい授けないと!

…このままじゃ、無駄に痛めつけられるだけだし」

「んじゃ、さっさと教えてやれよ」

「……………まぁちゃん」

「ん?」


 私も、勇者様にお伝えしようとして、ふと思い至ったんですけど。

 ねえ、まぁちゃん。


「勇者様って、火炎魔法使えたっけ…?」

「……………確か、適正はあったろ」


 そう、確か適正はあったはずです。

 光属性に滅茶苦茶偏ってはいましたが。

 それでも魔法の素質自体は高く、魔力も人間とは思えないほど高かった。

 ……筈。

 火の属性そのものも、日に通ずる属性として、太陽神に加護を受ける勇者様なら覚えさえすれば楽勝!………なのでしょうが。

 でも、でもね…?


「………勇者様って、魔法の修行してたっけ…?」

「……………少なくとも、俺はそんな光景見てねぇな」

「…………………」

「………終わったな」

「いやいや、こんなところで勇者様が終わっちゃ駄目でしょ!」


 一瞬、勇者様の墓碑には何て刻もうかと考えちゃいましたよ!

 でも考えてみましょう。


 勇者様=この国の誰にも愛される超絶☆王子様(プリンス)

 その勇者様の殺害犯(予定)=私の御先祖様(見るからに血縁)。


 ……………考えるだけで、碌なことにならない気しかしません!

 最悪、御先祖様の悪行の皺寄せが(こっち)に来ちゃう!?

 そんなこと……そんなこと、絶対にさせられません!

 少なくともこんな大観衆の目前で!

 私と血縁の疑いが見た目からして濃厚な御先祖様に!

 勇者様が取り返しのつかない目に遭わされたら…!


 ………その時は、責任取らされるんでしょうか?


 御先祖様の性格がわからないので、どんな結果になるのやら読めませんが。

 出来ますれば、子孫の友達を惨殺☆撲殺しちゃう方じゃありませんように!

 そこまでお茶目な人じゃありませんように!

 …私、こんなに真剣に祈ったりするの初めてかも。

 でもそのくらい、勇者様の危機回避が私にとって急務です。


 だから、ここはひとつ。

 勇者様に賭けてみましょう。

 なんとも無謀な賭けでは、ありますけれど…

 それでも挑戦しないよりは、きっとマシですから。


 だから私は叫びました。

 今にも御先祖様に、顔面に素敵☆落書きをされかけつつある、勇者様に。

 ……観衆が「人類の宝の喪失だから止めろ」と煩くて、勇者様に声が届くか若干不安になりましたが。

 それでも私は叫びます。


「勇者様…!!」


 その瞬間。

 必死に御先祖様の腕を掴んで落書きを阻止しようと抵抗し続ける、勇者様が。

 僅かに此方へ視線を向けたような、そんな気がしました。

 そのことに力を得て、私はお腹に力を入れて叫びます。


「御先祖様の素材は、果実―――っ!」


 だから。


「燃えちゃうんだから、燃やしちゃえぇぇぇぇええっ!!」


 叫んだ、瞬間。

 御先祖様がこちらに軽く視線を寄こして。

 咎めるでもなく、悲しむでもなく。

 ちょっと苦笑気味に、仕方ないなぁって顔で私を見ました。

 ひょいっと肩を竦めて、否定も肯定も交えずに。

 ただ、私のことを、猫を可愛がるお爺さんみたいな目で見ていました。

 僅か、胸に刺す罪悪感。

 責める目でも、怒る目でもなく。

 慈愛に満ちた目で見られたことに、少し胸が痛んだ、けど。

 

 どうせ御先祖様、既に死んでる人だし。

 いま生きてる私には、関係ないない。


 さっくり割り切って、私は勇者様の後押しになる応援の言葉を探しました。

 そう、何の罪悪感もなく蓑踊り祭を開催できるような一言ってありませんかね?

 ちょっと思いつかなかったの、欲求のままに叫びましょう。


「勇者様! 勇者様が負けたら私大損なんですからねー!? その場合、腹いせに何しちゃうか分かりませんけど、精々覚悟して心を強く持ってくださーい!!」


「それがやる側の言葉か!? 犯行予告か!! むしろ意欲落ちるぞ、それー!!」


 あ、勇者様が復活した。


 今にも御先祖様に、顔面を素敵なことにされつつあった勇者様。

 御先祖様の腕を掴み、渾身の力比べで今にも根負けしつつあった勇者様。

 その、彼が。


  ぱぁん…っと。


 私の言葉に思わずと言った体で、御先祖様の腕を振り解き。

 …いや、弾き飛ばし?

 その両足でしっかりと立ち上がり、此方へと真っ直ぐに指をさして大抗議です。

 凄いや、勇者様。

 今の今まで御先祖様にひっくり返されて、圧し掛かられている状態だったのに。

 我慢ならない事態には、奇跡だって起こせるんだね…!

 

 勇者様ご自身も、叫び終えた後で気付いたのでしょう。

 はっとして、咄嗟に大きく飛び退ります。

 丁度、そこに。

 御先祖様がひのきのぼうを叩きこんだのは、まさに紙一重のことで。

 勇者様の髪が幾筋か、風圧に煽られ千切れ、風に舞いました。

 

「やれやれ、楽しいねえ…?」


 むず痒そうな顔で、御先祖様が呟きます。

 彼にとっても、勇者様の離脱は意外だったのでしょうか。

 その表情の中には、新鮮な驚きが満ちていました。


 試しと、ばかり。

 その奇跡を再び見せろと、いわんばかりに。

 御先祖様の手が再び勇者様へと伸びていきます。

 今度もまた、見えているはずなのに認識の追いつかない動きで。

 

 その手が勇者様の腕を掴もうとした、刹那。


 私の隣でまぁちゃんが動きました。

 御先祖様の手が勇者様に触れる瞬間を狙ってやったのか、はたまた偶然か。

 どちらとも付かないけれど、それは絶妙の間合いのこと。

 まぁちゃんはすぅっと深く息を吸い込むと、顔の横に手を添えて叫んだのです。


「きゃーあーっ! 勇者がおーそーわーれーる~(笑)」


 何とも気の抜ける、面白がっている気配全開の叫びでした。

 そう、それはまるで、芸者遊びで戯れに叫ぶ芸者さんみたいな叫びです。


「その物言い完全に面白がっているだろう、まぁ殿! 変な言い方は止めろ!!」


 まぁちゃんの叫びが音速の波となり、勇者様の鼓膜を震わせた瞬間でした。

 勇者様の腕が大きな動きを、無意識にか取っていて。

 その手が苛立ちを表すようにばたばたと動き、まぁちゃんに指差して。


 そして。


  ばしっと。


 勇者様の手が、咄嗟に御先祖様の手を振り払ったのです。


「……………」

「……………」


 結果を信じられないような顔の勇者様と、微妙な顔の御先祖様。

 二人とも、振り払った手と振り払われた手を互いに見つめています。

 そのまま、動きを忘れたかのように。


 それを見て、まぁちゃんがこくりと頷きました。

 横合いで、ロロイがぐっと親指を立てています。

 信じられないような顔で勇者様がまぁちゃんを見ても、結果は変わりません。

 頷いてみせるまぁちゃんに、勇者様ががくっと膝を付いて頭を抱えました。


「流石、ツッコミ勇者…そのツッコミ力は神にすら抗うか………」


「なんか格好良く纏め様としても、俺は納得してないからな…!?

あと、誰がツッコミ勇者だ! 漫才コンビの片割れみたくいわないでくれ!」


「この場合、コンビの片割れは御先祖か俺かリアンカか…」

「大穴でせっちゃん! 立候補ですのー!」

「こらこら、せっちゃんはツッコミスルーで殺しちまうだろ?

ツッコミはそれをを生かすことの出来る相手が一番重要…」


「人を芸人の道に引きずりこむなーっ!!!」


 そうこうする間にも、勇者様が叫びをあげる度、その都度その都度。

 絶妙のタイミングで伸ばされた御先祖様の手が、振り払われていて。


「…………………」

「…………………」


 何故か顔を見合わせる、やった側とやられた側。

 勇者様と、御先祖様。

 その沈黙の中にも、勇者様のツッコミのもたらした効果は明らかでした。


 その効果にはたと気付いた瞬間。


 追い詰められた勇者様は、他の手段はないと悟らざるを得ませんでした。

 勇者様が御先祖様に対抗する、他に全うな手段はないのだと。

 今はこれだけが、有効なのだと。


 悟って、追い詰められて。

 そうして勇者様は…身も蓋もない話ですが。

 絶妙の機を狙ってツッコミを誘導するまぁちゃんに、膝を屈したのです。

 

 なにとぞ、とはいいませんでした。

 でも。

 地面に膝を付いて頭は垂れてました。

 最早外聞を取り繕ったり、自尊心にこだわる段階は過ぎていたのでしょう。


「……………………………………お願いします」


 搾り出したようなその声は、とっても苦渋に満ちていました(笑)

 そんな勇者様の切羽詰った様子に、お腹を抱えて笑っている人がいます。


 御先祖様、フラン・アルディークです。 

 なんかもう、涙が滲むくらい笑っています。

 いやもうホント、すっごい笑ってますよ。

 でも気持ちは分かります。


「こいつ面白ぇーっ!!」

「そんな涙混じりにいうことか…っ!」

「いやいやだって! 本当! 年甲斐もなく全力で遊びたくなっちまう!」

「…今なんだか猛烈に不吉な予感が背筋を襲ったんだが気のせいじゃないよな」

「くくく…っ 俺のせいだろ」

「自分で言ったよ、この檜男…!!」

「だって本当さー………遠ーい可愛い子孫(まご)娘が「お願い…!」っなーんて可愛く手加減を望んでるみたいだから、気ぃつけてたけど…ちょっと手加減抜きに『私刑(かごめかごめ)』したくなんね」

「手加減云々はともかく、一人でリンチ(かごめかごめ)は無理だろう!」

「……気にすんの、そこ?」

「一番引っかかったの、そこだったんだ…」

「まあ、いーや。さてさてどーするの、王子サマ(笑)?」

「まだ俺の呼称は(笑)なのか…!?」

「うわ、食いつかれた…いやいや、もっと重要なことあんだろ?

ほら、俺の弱点発覚! フラン大ピーンチ☆みてーなさぁ…」

「…火に弱い、ってことか」

「そうそれ! 折角弱点が分かったのに、なんでそんなドライな顔してんの?」


「弱点が分かったところで、意味など…魔法など、使えないからだ!!」


 あっちゃー…

 馬鹿正直に自己申告しちゃいましたよ、あの人…


 勇者様が盛大に宣言すると、試合場周辺では盛大に沈黙が猛威をふるいました。

 やっぱりだよ。やっぱりだよ、勇者様…。

 でもなんでそんなに堂々と宣言しちゃうんでしょう?

 ここは魔法の一つも使えると思いこませて、警戒を誘うところでしょうに。

 え、そんな駆け引きも無意味なの…?

 勇者様のあまりに堂々とした、魔法下手宣言。

 それにやっぱりかと頭を抱えつつ。

 それでも私とまぁちゃんは、何だか勇者様らしいと全身の力を失っていました。

 





寝込んですごした週末……ぼんやりと想像していたのは勇者様のこと。

自分が苦しい時、こう思いました。


 こうやって苦しんでいるのが勇者様なら、とってもおいしいのに…!!


あと本当に辛い時、思いました。


 ハテノ村薬師のハイリスクハイリターンの薬で構わないから、一発で風邪が治る薬がほしい…!!


………ハテノ村薬師はきっちり病状を治してくれますが、自分から縋るのは人生捨てる一歩前?


そんな感じで、勇者様のお風邪エピソード予想して週末を過ごしました。

看病の代打頼まれて村長宅に来るとき、ヨシュアンに「これ!」と押し付けられてお医者さんコスするまぁちゃんと、白衣の天使に扮するせっちゃんだとか。

ハテノ村薬師三人衆で手分けして薬を作って、そのフルコースを前に「どの薬からいく!?」と迫られる勇者様とか。

 大変たのしゅうございました。

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