136.バニーの本領
いきなり、戦闘が始まって更に激化しました。
原因は言うまでもありません。
あの、兎です。
何者かは、知りません。
なんで御先祖様と知り合いなのかも、知りません。
が、あの兎のせいで御先祖様の戦意は鰻登りです。
………残念なことに切欠は、私…でした。
あのバニーは、勇者様を置いてきぼり状態で子孫達に手を振る御先祖様に、余計なことを吹き込んだのです。
そう、それはもうぼそっと。
「ところでそこな勇者、おたくの御子孫…あの紅髪の可愛らしいお嬢さんを奪おうとする不埒者の一人になる可能性大らしーですよ?」
「!?」
バニーの言葉に、ぎょっと目を剥く勇者様。
勇者様も既に御先祖様=魔境の奇人変人伝説の頂点『檜武人』だと認識していたのでしょう。
それまで頭を抱えて逃避していたようですが、バニーがいきなりとんでもないことを言い出したのでガバッと身を起して抗議しようと口を開きました………が、
「へえ?」
………反応は、御先祖様の方が先でした。
その顔が私達から、ぐりっと勇者様の方に向けられて…
値踏みするように、じろじろと見ています。
全身をじろじろじろじ~ろみた後、顔に目を留め数秒。
むっつりとした顔ながら、その時までは大人しかったのですが。
バニーが、更なる余計なことを。
「ところで小耳に挟んだのですが、そこな勇者はこれといった約束もないのにリアンカ嬢の乳を揉んで膝枕を強要したって噂ですが」
「!!?」
「は? てめ、うちの子孫に何してくれちゃってるわけ?」
「え、冤罪だぁああっ!!」
「でもリアンカ嬢のおっぱい、触ったんですよね?」
「うぐっ………ぐ、偶然、当たったことがない…とは、言えない……」
「は? 今何て言った?」
ああ、勇者様ったら何たることでしょう。
そこで勇者様が正直にお答えしちゃったものだから、大変なことに。
正直さは美徳ですが、穏便に嘘で誤魔化す術も覚えた方がいいですよー…?!
「おい、どうするよ…御先祖、こっち真偽を問う目でガン見してんだけど」
「う、うぅ…私はまぁちゃんの背中に隠れるよ」
「いや、隠れられても困んだけどなー?」
困り果てた私達。
そして、爆弾を投下するせっちゃん。
「御先祖さま~、リャン姉様と勇者さんはとっても仲良しですのー。
仲の良いお友達ですの。心配ご無用ですのよー」
「しがねぇ友達の分際で、嫁入り前の娘の乳揉みやがったのか!?
逆に凄いな! 殴って良いよな、先祖として!」
「だから冤罪だ! そんなことはしていない!!」
「でも触ったんですよねー?」
「そこの兎は話をややこしくして遊んでないか!? ちょっと黙ってくれ…!」
「ふっふふ~ん♪ これが吾の性分なんですよぅ。あと他にも知ってますよーぅ? 一緒に眠ったことも何回もありますよねー。毎度毎度大した密着ぶりで!」
「雑魚寝のゴロ寝だ! 雑魚寝のゴロ寝だからな!? だ、だから落ち着け…!!」
「………ふぅん? あくまで、自分は無実だと?」
「無実というか……意図せぬ事故だ!」
「ふぅぅぅん? ほほぉぉう?」
「そ、その目…信じられてない!」
「俺としちゃ何代目かも数えんの面倒な子孫だけどな? あの子は俺の直系な訳。子孫の恋愛に俺が口出すこっちゃねーけど、弄ぶとなったら雷落とすからな?」
「だから! 疚しいことは何もないと…!」
「本当にー?」
「兎は口を挟まず黙ってろ!」
勇者様、必死です。
超絶、必死です。
でも余計な合いの手を入れて場を引っ掻き回そうとする兎に苦戦しています。
あの兎がこれまた、場を引っ掻き回すのにやけに手馴れていて…
孤立無援、孤軍奮闘。
誰も助けない中、勇者様の立場がみるみる可哀想なことに!
兎が、これまた絶妙なタイミングで余計な情報を投下します。
というか、私に二次被害がきそうなんですけど…!
周りの女性&ご両親の熱意が、私に被害をもたらしそうなんですけど…!!
勇者様は必死。
私も気が回らない。
そんな状況下で、私は気付いていませんでした。
御先祖様の口元が、面白がるようにニヤリと笑みを刻んだことに。
その笑顔は、私が全力で誰かをおちょくる時にとてもそっくりでした。
………と、後にロロイが言っていました。
血は争えないと言い添えたのは、リリフでしたか…
そんなことないとは、とても言えない事態がこの後待っていました。
「王子サマ(笑)さぁ…うちの子孫に何してくれちゃってんの?」
「だ、だから冤罪だから! 事実無根だからな!?」
「そう言い張る、王子サマ(笑)に質問しよう!」
「は!? な、なんだ…!」
「リアンカちゃんは可愛いですかー?」
「!?」
「さあ、十秒以内に答えろ? リアンカは可愛いか否か!」
「…!!」
………御先祖様、それさ、状況的に答え一つしかない気が…。
勇者様の性格的に、可愛くないとは絶対に答えられない気がするのですが。
そして勇者様の性格上、可愛いとも恥ずかしがって言える気がしません。
あーぁ…勇者様の顔が、みるみる赤く…。
恥ずかしいんですね、照れているんですね。
見ただけで分かりますが、私はどう反応したものでしょう。
1.笑う
2.爆笑する
3.失笑する
4.生温い目で見守る
5.鼻で笑う
6.心配する
…あれ? ほとんどの選択肢が「笑う」だ。
うん、ここは笑っとこうかな。
「あ………か、かわ……ぃ…」
「はい、時間切れー!! 答えきれなかった人には罰ゲームが入ります!」
「!?」
「うん、取り敢えず女装して踊ってみようか」
「なんでそんな結論に達した!?」
「似合いそうだから? ちょっと可憐な町娘に化けて、十人くらいに「わたし、可愛い?」って上目遣いで聞いて回ってみな? 面白いことになると思うからさぁ」
「鬼か貴様…!?」
「失礼だなー。そんなこと言う口は塞ぐぞ、物理的に」
「…! そ、その手に持った木の枝はなんだ…!?」
「漆って知ってる?」
「やっぱり鬼か…!」
隣でまぁちゃんが、ぼそっと呟きました。
「うん、あれリアンカの先祖だわ…」
うん、私もそう思った。
「さて、遊ぶのはこれくらいにして」
「頼むから、俺で遊ばないでくれ…!」
「まあ、別の遊びに切り替えよーか」
「は?」
「ははは……人の子孫で良い思いしといて、約束の一つもないとか馬鹿じゃね?」
「やっぱりこの人、全然納得してない…!!」
「する訳ねーじゃん。あんな言い訳みたいなこと並べられてもさ」
「言い訳じゃなくて事実だから! 事実だから…!」
「別に何でも良いけど。俺もさぁ、責任取るってんなら何も言わねぇけど、うだうだ弁明されると「はあ? 俺の子孫とはそんなに結婚したくない訳!?」って苛立ち全開になっちゃうさ。子孫の可愛さを理解しない野郎はちょっと強引に未知の扉開いて叩きこみたくなっちゃわないか?」
「そこで同意を求められても、全力で困るんだが…!!
というか待て! 未知の扉ってなんだ、未知の扉って!?」
「さあ! 新たな人生を歩んでみよう!」
「駄目だ、この人! 俺の人生踏み外させる気だ!」
「取り敢えず耐えられる限界くらいの力で百八発くらい殴って、生存本能の危機感に訴えつつ、感性の摩り替えを誘導。痛いのが気持ちいい新人類的な人種に進化させるつもりだけどOK?」
「全然OKじゃない…っ!」
「うん、お前の都合は聞いてない」
わあ、勇者様がかつてない危機に陥ろうとしています…。
勇者様の顔面、蒼白。
きっと、御先祖様の武勇伝をいくつかお耳に入れたことがあるからですね。
勇者様、がんば…。
私には、何もできないけれど。
否定くらいしてあげようかと思いはしたのですが…微妙にバニーの告げた情報、どこで見てたの?ってくらいに思い当たる節があります。
流石に胸を揉まれた覚えはありませんが。
でも雑魚寝している内に、勇者様のお腹を枕にとかしたことありますからねー…そういう時に、偶然接触した事実がないとも言えません。
流石に揉まれはしていないと思いますけれど。
否定しても、似たようなことをした覚えがあったら、多分否定の真実味が薄れてしまいます。そうなったら、きっとあの人は騙せない。
なんだか、そんな気がするのです。
子孫の勘、でしょうか?
………随分と、鋭そうな印象がありますし。
そうして、勇者様に。
あの世だか天界だかから召喚された、御先祖様がビシッと指を指しました。
「取り敢えず、千と八十発殴る!」
「打撃数が十倍になってるー!?」
勇者様………ご冥福を祈りましょう。
まだ、死んではいないけど。
フラン・アルディーク
ハテノ村を作った初代村長にして伝説の羊飼い。
魔境で最も崇拝される武人の一人。
メイン武器:ひのきのぼう
恐らく一族で最もリアンカちゃんと近い魂を持つ。
性格はリアンカちゃん+まぁちゃん÷2?