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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~本戦開始~
128/182

127.強敵☆アドレナリンゴンザレフの精神攻撃(爆)

 出来心でやりました。

 むしろやりすぎました。

 でも後悔はしていません。


 変態大公に耐性がある為でしょうか。

 私を正気に返らせたのは、客観的に見て一番冷静なサルファの一言でした。


「ところでリアンカちゃん、勇者のにーさんの試合はいいの?」

「はっ…!」


 しまった…すっかり変態さんの気持ち悪さで忘れてましたよ!

 こ、この変態さん、私の頭を真っ白にするなんて破壊力ありますね。


「そういう訳でサルファ、後は任せたわ!」

「え?」

「サルファ、今だけ応援してやんぜ。頑張れよ」

「え、え??」

「じゃ、後はよろしく」

「え、え、え…!?」

 

 私達は有無を言わせる隙も与えず。

 後は任せたとばかり、サルファに変態大公を押し付けて急遽離脱。

 後ろを振り返ることもなく、息もぴったり全力疾走!

 後ろを追わせないとばかりの勢いで、駆け去りました。


 ………が。


「なんで、あんたまで此処に居んのよ…」

「えー? だって俺も勇者の兄さんの試合見たいもん☆

それに大公殿下も行きたいって言うからさぁ」

「うむ。案内御苦労である!」


 サルファ、変態連れてきちゃったよ…。


 げんなりした私達の目の前。

 そこには踏ん反り返るようなポーズの、偉そうな大公殿下。

 そしてひっそりとその背を支えるお爺さん…

 ………お爺さん、大丈夫だったんですか。背骨強いですね。

 

 場所は所変わって、勇者様の試合会場。

 まだ第三試合が長引いているので、勇者様の出番はまだですが。

 ここは陣中見舞いと称して、関係者以外立ち入り禁止な勇者様の控室に逃げ込むべきでしょうか…。

 何でも勇者様に気のある女性の乱入を防ぐため、勇者様の控室はいついかなる時も勇者様直筆の許可証がなければ入れないそうですし。

 そして勿論、私達はちゃんと許可証をいただいています。

 うん、強請ったらくれました。

 あ、強請(ねだ)ったんですよ? 強請(ゆす)ったんじゃありませんからね?

「という訳で、私達は今から試合を控えたお友達のところに行きます。

完全内輪です。なので貴方はここでサヨウナラ」

「なんと! 俺は仲間外れなのか…!?」

「そもそも仲間じゃありません」

「なんという…これも、我が守護天使のもたらす試練というものなのか…!

そうか、天使よ! 俺にこの試練に打ち勝てというのだな!?」

「もう何でもいいので、いっそ一生の別れを交わしたいんですが」

「ああ、待っているがいい天使よ! 俺はより一層大きな男となって戻ってくる。そう、それはきっと直ぐだ! 寂しかろうが待っているがいい、我が天使まい・すうぃーとえんじぇる!」

「むぅちゃん、このお兄さん一瞬で炭にできるくらいの魔法って使える?」

「影だけ残して消し去る位の魔法なら…」

「わあ☆ 殿下逃げて。大公殿下、めっちゃ逃げてー」

「俺は卑小なる身なれど、祖国ペルアシェールの国王陛下(あにぎみ)より全権を預かった大使である。逃げも隠れも致さぬが」

 得意げに言っていますが、逃げなきゃ死にますよ?

 もう本当にむぅちゃんにGOサインを出してしまおうか。

 そんな私の逡巡を察知したサルファは、眉を情けなく下げた顔。

「殿下ぁ、リアンカちゃんって本当容赦ないんすよ?

堪忍袋の許容量、もーちょっと見極めたほーが良いって」

「うぬぅ…我が天使は手厳しい方なのか? だがそのようなところも、魂の気高く、誇り高き様をまざまざと表し、そう、言うなれば不死鳥のような…」

「サルファ、アンタのお父さんには悪いけど…」

「待って! 最後通牒はちょい待って! これうちの王族!

ついでに言うと親父殿の護衛対象だから! 親父殿はここにいないけどね!」

 慌てるサルファを振り切って、私はびしっと変態大公に最後の勧告を行おうと…

「む? いかん、じいじ。時間だ!」

「おやおや、若ぁお急ぎなされぇ」

「ふむん。我が天使よ! 名残惜しいが時間になってしまった!

されど案じるではない…我等は再び相見えよう! ではさらば!」

「……………あ」

 いきなりそんなことを言って。

 めちゃくちゃ清々しい快走を見せ、宝石のちりばめられた外套を翻して。


 私が何を言うよりも早く、いきなり走り去る変態大公。

 

「え………」


 な、なんにもする暇がなかった…。

 呆気ないし、お別れは嬉しいんだけど。

 此方が何かしようとした途端に走り去られると、か…。

 なんというか、物凄く呆気に取られちゃうんですね。

 なまじ何かしようとした時だっただけに、逃げられた感が満載で物凄く癪です。

「な、なにあのひと…」

 ぽかんと見送る私の声に、サルファの虚しい返事はポツリ。

「………うちの大公殿下、気紛れだから」

「よもや、それで済ませる気?」

「いや、俺に責任求められても取れないよ」

 私達の空気を思いっきり引っ掻き回した大公さん。

 あの人は一体、何がしたかったんでしょう…。


 その答えは、すぐに出ました。

 本当に、心の底から残念なことですが。

 衝撃的な光景に、私は見た途端叫びましたよ?


「なんですとぉぉおおおおおおっ!?」


 それは、勇者様の試合が始まってすぐ。

 私の心待ちにしていた、アドレナリンゴンザレフ入場の瞬間。

 私の絶叫に、きっと会場の全員の心の声が重なったことと思います。

 だって、あまりに酷い光景で。


 きゅるるるんっ☆

 きらららんっ☆


 それは、そんな効果音が聞こえてきそうな光景でした。

 頭に星の飾りと、リボンをつけて。

 首に巻かれたキラキラチョーカー。

 ふわっと膨らんだピンクの短い袖は、腕の細さ白さを強調しています。

 胸には大きなリボン、その中央には黄金の輝きの星。

 中央のそれは、ルビーですか?

 細い胴を絞め上げる、黄色い編み上げリボンがアクセントになっています。

 細い腰にふわりと広がるのは、大きな赤いリボン。

 リボンの先についた黄色いお星様の装飾が、揺れる度に儚い音を立てています。

 ショッキングピンクのひらひらスカートは、きっと翻る為にあるのね。

 そう納得してしまいそうな軽やかで、チラチラ、ふわふわ。

 真っ白なレースの短いペチコートがスカートをこれでもかと膨らませています。

 見えそうで、見えなきゃおかしいと言わんばかりに見えそうで。

 なのに見えない、あのスカート。

 一体全体、どんな作りをしているのでしょうか…。

 その丈は太腿を三分の二も露出させるほどに短く。

 伸びきった足の細さを際立たせ、華奢という印象を強めます。

 足? 生足じゃありませんよ。

 白地にピンクの薔薇と蝶の絵柄がついたニーハイソックスに包まれています。

 全体的に明るく軽快なピンクと白で統一された衣装は、可愛らしいの一言。

 はっきり言うと十歳以下のお嬢さんが着たら可愛いと絶賛したくなる衣装です。

 でも対象年齢的に、年齢の大きいお嬢さんが着たら…痛いな。

 そしてトドメはこれでしょう。


 手に、キラキラぴかぴか光る星とハートとリボンモチーフのきゅらきゅらした短い杖(ロッド)を握っています。

 ………実用性、なさそうですよね。


 ピンクできゅらきゅらで目にも眩しく痛い恰好。

 そんな、格好をした……… お じ い さ ん 。



 じ、じ、じいやさぁぁぁぁぁぁあああああああああああんっ

 あんた、一体何やってんですかぁぁぁあああああああああああっ



 あまりに吃驚し過ぎて、もう声も出ません。

 なにこの衝撃。

 あんまりにも衝撃的でしょう。

 隣でサルファが、頬やら腹やらを引き攣らせて蹲っています。

 肩がびくびく震えていますけど………

 ………サルファ、実は笑ってますね?

 


 そう、そこにいた方。

 アドレナリンゴンザレフ。

 そんな登録名で選手として参加している、はずの………戦士?


 それは、どう見ても。

 

 さっき変態大公に急かされてお別れした、はずの。


 さっき、変態大公にぶぎゅるぶぎゅると、踏みつけにされていた。


 ………夏バテで死にかけていた、大公殿下のじいやさんその人、でした。


 あと、よく見たらセコンド席に変態大公がいました。


 え、あれがアドレナリンゴンザレフ?

 めちゃめちゃノリノリで、ピンクのミニスカドレス着ちゃってるお爺さんが?

 キラキラロッド掲げてポージングに余念のない、あのお爺さんが?

 私は今、未知の領域かのイキモノを目にしている…。

 ごくりと唾を呑みこみ、そう悟ってしまったこの瞬間。

 その姿は私の高まっていた予想の、遥か斜め上でした。


 殴ったら死にそうな、枯れ木のようなお爺さん。

 そのきゅらきゅらした格好は、一種の威嚇なのでしょうか。

 やがて反対コーナーから現れた勇者様は…


「ふう゛ぇ…っ☆▽◆◆★△●っ!!?」


 → マジカル☆じじい の 精神攻撃!

  勇者様は精神(こころ)に3000のダメージを受けた!

  勇者様は からだ が すべって うごけない!


 対戦相手の姿を見るなり盛大に足を滑らせ素っ転びましたよ、勇者様!

 しかもそのまま後頭部から地面に打ち付けて悶絶。

 蹲りながらも、

「…~~~~~~~~~っ!!」

 ええ、何かを言おうとしているのでしょう。

 しかし声にならない様子で、頭を抱えているのとは逆の指でマジカル☆じいやさんを指差しつつ、ぶんぶんと手を振っています。

 うん、うん、わかるよ勇者様…

 いま、私達…勇者様と私と、他の全観客の間に言葉はいりません。

 きっと、感じていることも言いたいことも一つでしょう。

 そう、今私達は…あの爺さん以外の、ここに居合わせた全員は一つです。

 隣で悶絶しながら吹き出し、笑い転げるのを堪えているサルファとか。

 隠すまでもなくフェンスに懐いて押し殺した笑い声を止め処なく漏らしている、まぁちゃんとか。

 そんな彼らだって漏れなく一つですよ、一つ!

「げふ、げふっ げふっ…!」

 まぁちゃん、笑い過ぎて咳き込んでるよ…。



 きゅらりーん☆

 

 杖を頭上に掲げ、ポーズを取るお爺さん。

 戦いたいのに地面に懐いたまま、膝が笑って立ち上がれない勇者様。

 あら大変! このままじゃ勇者様が負けちゃう! 

 ………うん、何かの発作で剣もまともに握れていませんね。

 え、と…これ、あのお爺さんの作戦?

 

『お、おい…アドレナリンゴンザレフってあんな奴だったか?』

『いや、もっとこう、ごつかった…よな?』

『いやいや、なんか可愛かっただろ? だよな?』

『どっちにしろ、あんな如何わしい恰好してなかったろ…?』


 ざわざわと、観客席からも声が上がります。

 むむ? ちょっと聞き捨てなりません。

 ごついって…あのお爺さんはどう見ても枯れ木の親戚ですが。

 え、替え玉?

 ねえ、替え玉参加ですか?

 そんな私の疑問も、この後、氷解してしまう訳ですが。

 そう、氷解したのです。


 じいさんが、叫んだ!


「エロイムエッサイムエロイムエッサイム…われはもとめうったえたり……」


 → マジカル☆じじい は じゅもん をとなえた!

  あしもと から なぞのスモーク がたちこめる!

  勇者様は あしがすくんで うごけない!


「ごんごんごりりんごりごりりん☆ ごんごんごりりんごんざれふ☆」

 

 → マジカル☆じじい は さらに じゅもん をとなえた!

  あしもと に なぞのまほうじん がひろがった!

  勇者様は ひざがわらって うごけない!


「ちょ、待て! それ呪文か、おいーっ!!」


 勇者様が、地面に拳を打ちつけながら叫びました。

 その声に、呼応するように。

 爺さんの全身が、光に包まれた。


 しゃららららら……ん☆


 なんかキラキラした効果音とともに、爺さんのシルエットが…

 ……うん、なんか、色んな意味で目に毒ですね。

「しっ 見ちゃいけません…!」

「いや、見ないよ。見ないから」

 まぁちゃんが私とせっちゃんの目を、大急ぎで塞いできます。

 リリフの目も万事抜かりなく、どうやらロロイが塞いだようですね。

 私の隣で悶絶していたサルファの発作は、ますます高まっているようです。

 もう、笑いも隠せないのでしょうか。

 咳き込むほど、サルファも笑っていました。


 私は目を塞がれていたので、知りませんが。

 私達の見ていないところで、魅惑の変身シーン(爆)が展開されたそうです。

 それは何とも……何とも、目に毒だったそうで。


 そしてようやっと私がまぁちゃんに目を解放された時。

 もう良いだろうと、目隠しを取っ払われた時。

 

 そこには。


「まじ狩る☆仙女アドレナリン☠ゴンザレフ推・参!」


 おお、なんということでしょう…!

 いや、うん、表現に困る。


 そこに、じいやさんはいませんでした。

 

 代わりに おんなのこ がいました。

 ………熊の毛皮を頭から被り、手に棍棒を携えた。

 見るからに蛮族! という格好をした、十五歳くらいの美少女が……

 

 え、なにあれ。


 今こそ、ツッコミ!

 勇者様(ツッコミやく)は何をやっているんですか…!?


 見ると、拳をガンガンと地面に打ち付けながら悶えていました。

 なんだか、今にも泣きそうです。


「なんなんだ! なんなんだ!? ここは魔境じゃなかったんじゃないのか…っ! まともな人間はどこに行ったんだ!!」


 勇者様、さり気無く失礼ですね。

 全ての未知の領域を、全部が全部魔境特有の物だと思ってませんか。

 いや、うん…私も度肝抜かれましたけど。

 こんな体験するなら、魔境の方が納得はできますけど。

 というか、人間の国ってこんな不思議なことも起きるんですか…?


「ねえ、まぁちゃん…」

「………なんだ」

「あれ、にんげん?」

「いや……妖怪じゃねぇかな」


 とりあえず、あまりのことに言葉が出ませんでした。





爺さん謎の大進化。

おかしい…登場させた時点ではこんな進化は予定していなかったのですが。

この話を書き始めて、ふとこうしたらどうなるかなー?と…

魔がさしたんだ…!


次回、アドレナリンゴンザレフを相手に、勇者様はどう戦う!?

アドレナリンゴンザレフ

 装備 熊の毛皮

     流木

勇者様

「くっ…地味にトラウマを付いてくる!?」

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