表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~謎の黒い影~
124/182

123.薬師さんたちに捕まりました。



「元の所に戻してくるんだ」

「ちゃんと世話しますから、置いて下さい!」

「いや、逆に怖いだろう。彼もそんなことは望んでないんじゃないか?」


 改めてモモさんの口からも事情を聴きだした勇者様。

 その第一声は、上記のようなものとなりました。

 もうちょっと融通利かせてくれてもいいと思います。

 頭痛を堪えるような顔の勇者様。

 彼は、擁護という形で完全にモモさん(サイド)にいました。

 勇者様って、こういうところありますよね。

 友達だからって無条件に味方はしてくれない人です。

 むしろ、正しくないと思ったら真っ向から止めてきます。

 逆に味方すべきと公平な目で判断したら最後まで味方になってくれる人です。


 即ち、今の場合で言うならモモさんの。


 勇者様、ちょっと頑固だからなぁ…

 こうなったら面倒は目に見えています。

 何とか勇者様を納得させる方法は、二つ。

 モモさんをこちら側に引き入れるか、勇者様が正しいと判じた根本を覆すか。

 どっちの方が楽でしょうか?

 考える間にも、モモさんに興味を持ったのでしょうか。

 

「君、まだ元の古巣に帰れると思ってるの? もう帰れないんだから、強い者に迎合した方が身の為だよ。もう帰れないんだから」

「うぐ…っ」

「むぅ殿、追い詰めるんじゃない!」

「でも状況的に、きっと彼、仲間達に逃亡したものと思われてるよ? 何も告げず、知らせずに失踪したようなものじゃないか。そんな状況で、今更のこのこ帰れるの? 忍者の癖に、素人に捕まっちゃったんだよ? そんな忍者が、今更どの面下げて帰れるのかな?」

「むぅ殿、真実は時に物凄く追い詰めるんだぞ…?」

「真実…は、はは、は、は、は………そうだ、真実…」

「見事なトドメだね、勇者さん」

「そんなつもりじゃ…っ!?」


 気付いたら、むぅちゃんがモモさんの懐柔策に出ていました。

 珍しい事態です。

 まあ、懐柔と見せかけて、心理的な追い詰めに行ってましたけど。

 そして庇護すると見せかけて、勇者様が抉っていますね。

 勇者様的には不本意でしょうが、見事な連係プレーです。

 まあ、どの道、帰れないのは確かなので、この際にはっきり自覚させておいた方が後々のためかもしれませんけれど。

「むぅちゃん、むぅちゃん」

「ん?」

「むぅちゃん、モモさんに興味があるの?」

「ないと思ってるの? あるよ」

 あれ? 断言された?

 首を傾げる私に、わからないの、とむぅちゃんが言います。

「だって、忍者だよ。忍者」

「そうですね、忍者ですね。にんにん」

「リアンカ、知らないの?」

 あれ、本気で不思議そうに聞かれているんですけど…?

 何か、私やむぅちゃんが興味を持つような要素があるんでしょうか。

 わからないでいる私に呆れた目を向けて、むぅちゃんが言いました。


「忍者は、門外不出の秘伝と呼ばれる忍道独特の薬物知識に長けてるんだよ…!? 他の誰も知らないような、秘薬の知識が目の前にあるんだ!」


 門外不出の、秘薬とな。


「絶対に確保しましょう」


 気付けば、私も頷いていて。

 興味本位交じりだったさっきまでよりも、遥かに強固な気持ちで。

 私はむぅちゃんと二人、熱い目をモモさんに向けました。


「や、やばい…」

「はっはっは、勇者どーする? ………リアンカが本気になったぞ」

「笑って傍観していないで、まぁ殿も何とか…っ」

「別に俺は賛成でも反対でもねーよ?」

「味方ゼロか…!」


 さあ、孤立無援も同然の勇者様?

 お覚悟!


 そうして、モモさんは。

 ハテノ村薬師の預かり(げぼく)となりました。

 むぅちゃんがかなりるんるんです。

 それを見た勇者様は無力感を噛締めながら、「不吉」と呟きました。




 一夜明けて、二回戦。

 ピンクの首輪をつけている限り脱走という道は自動的に潰れていますが。

 それでもモモさんを単独で外に出すのは早いんじゃないでしょうか。

 ということで、私達は予戦会場までついてきました。

 もしかしたら頑張って脱走を試みるかもしれませんしね。


 忍者廃業を余儀なくされ、味方の元に戻れないとなった時点でモモさんは試合の辞退を望んでいるようでしたが…サルファが試合続行の事実に気付き、積極的な参加を訴えました。


 今回から、試合は一回戦を勝ち残った選手のトーナメント形式です。

 勝ち進めば、もう一度サルファに当たるかもしれない。

 そうしたら全力で顔面を殴るのだと、モモさんが決意表明。


 別に殴りかかることくらい、いつでも誰も止めませんが。

 離宮にいる間は借りてきたにゃんこのように大人しい人で。

 どうやら仕事中、戦闘中、普段でon/offがしっかりしているようです。

 特に貴人の領域で職務抜きに暴れるような教育はされていないとのこと。

 忍者の教育、ちょっと興味ありますが…

 本人がやる気になっているのなら、水を差すのも悪いですよね。

 後でゆっくりじっくり、その機密っぽい情報を尋問(おはなし)してみようと思います。


「さてさて本戦出場の狭き門、手強い強敵の参戦ね。ざまーみろ」

「わ、リアンカちゃん露骨に悪意に塗れてんね☆」

「サルファ余裕ね…」

「だって俺としちゃ保険みたいなもんじゃん☆」

「保険?」


 にやぁっと笑うサルファ。

 いらっとしましたが、言葉の真意が気になったので我慢です。

「だってほら、もしかしたら俺と同じく予戦に参加してるはずのシフィ君と当たって、潰し合ってくれるかもじゃん」

「そんなうまくいくかしら? むしろアンタが潰されれば良いのに」

「それはそれで、手段あるしぃ?」

「は? ないでしょ」

「いやいやあるって☆ こうとなったら、俺にこんな個性抹消させるようなコスプレさせてくれたリアンカちゃんに大☆感謝かな♪」

「? ……………あ」


 私の目の前で、にんまり笑うサルファ。

 こ、此奴…っ

 いざとなったら、自分の代わりにモモさん勝ちあがらせて入れ替わる気だ!

 自分も相手も黒づくめ、なんちゃってと本物の違いはあるけれど。

 でもどっちも忍者装束で中身は不明瞭という共通点。

 その状況を利用して、顔バレしてないのをいいことに入れ替わる気だ!

 ………登録に当たって運営側も中身確認してると思いますけどね?

 でも予戦はあまりに多く人が参加するので、本戦前は確認も曖昧なんですって。

 逆に本戦登録の時は、厳しく確認されるみたいだけど。

 ただでさえ似たような格好で、取り違えそうなものなのに。 

 敢えて本戦参加時に取り違えさせるかして、成り替わる気だ…!

 ………。

 ……………サルファ、汚いな。

 うん、勇者様とは絶対に相容れない手段の選ばなさです。

 清廉潔白な騎士様なんて、どう頑張ってもなれそうにありませんね?

「そうでもないよ。戦時は手段なんて選んでいられないから、騎士でも卑劣な方法を使ってでも自軍を有利に導こうとする。まあ、あまりに酷い場合は非難を受けるが…自国を勝利に導けば、それだけで何をやっていても英雄になれるから」

「…勇者様、また私の心を読みましたね?」

「別に読んだ訳じゃないさ。ただ、推測してみただけで」

「………ピタリ賞ですよ。景品、何か欲しいですか?」

「それじゃあ、平穏と心の健康を一つもらえるか?」

「無理です。実現可能なものにしてください」

「俺には無縁だって、今はっきり言われた!?」

「あー…勇者様、心は健やかですよね。心は」

 逆に今までの、あの災難歴を見るとそっちの方が異常に思えてきますが。

 うん、むしろ心が健やかなそっちの方が化物っぽい。

 わあ、勇者様の人間やめてる疑惑が心にまで及んじゃいましたよ!

「……………別に、俺は人間やめた覚えはないからな?」

「勇者様のその察しの良さというか、心の読みっぷりも人外っぽいですよね」

「俺が鋭すぎる訳じゃなくて、リアンカが読めやすいだけなんだがなぁ」

「むー…余計なお世話です」


 そうして、試合会場にて。

 せっちゃんが可愛い可愛いと、モモさんの首輪に鈴をつけている頃。

 そんな頃合にトーナメントの組合わせが発表されて。

 モモさんにも、勿論サルファにも、対戦表が配られました。

 本来なら八つに分かれているブロック。

 でも、出場枠が一つ潰れてしまったので、今回は七ブロック。


 そして、関係者は全員見事にブロックが分かれました。


 誰かさんの作為を感じます。

「ね、勇者様(だれかさん)

 声をかける相手は、憮然とした顔の勇者様。

 不満そうにしながらも、否定はしません。

「仕方ないだろう…業腹だし、癪で仕方ないが。約束は約束だ」

「そう言えばトーナメント組合せの操作も約束してましたっけ」

「ああ。本意ではないが、仕方ない…」

 そう言ったきり、重い溜息とともに肩をがっくり落とされます。

 でも勇者様。

 必要だったのは、サルファとフィーお兄さんを分けることですよね?

 でもトーナメント表では、モモさんも別のブロックで。

 それからついでに、昨夜からしつこいくらいに私達がもうプッシュしたアドレナリンゴンザレフまで、別ブロックで。

 その二人に関しては、誰かが別にしろって言った訳じゃありませんよね?

 どうせ操作するなら、一人も二人も四人も一緒だと。

 そう口に出して言われることはありませんが。

 私達のことを思って、やってくれたのだと分かります。

 

 いや、別に潰し合いになってもそれはそれで楽しめた自信がありますが。


 勇者様なりに、知り合いが予戦なんかでぶつかって、私達ががっかりしないようにと配慮してくれたのでしょう。

 言われなくても、そうやって手を出してしまう。

 不正なんて嫌いそうな、勇者様がですよ?

 そんな勇者様が、ついでに操作してくれたんですよ?

 多分、操作する予定がなければ、こんなことはしなかったでしょうけれど。

 ついでにこれもと手を出すくらいには、私達は大目に見てもらっている。

 それが言外に分かるので、私は思わず。


 にやにやと笑いながら、勇者様をからかい倒しました。



 そうして予戦の日々は、過ぎていき。

 (たま)に予戦を見物したり、賭けてみたり、儲けてみたり。

 【鋭き角の一角獣屋】に乗り込んでみたり、お祭り見物してみたり、買い食い行脚に冷やかしにと大忙しに時を過ごして。


 気付いてみれば、予戦も終わり。

 明日からは式典の日程も本祭に入ります。

 そして、当然ですが。

 トーナメントを勝ち上がり、本戦に参加する面子が出揃いました。


 前年、大いに活躍した騎士の実弟ということで注目株だったフィーお兄さん。

 予選一回戦からぶっ飛ばして観客の注目を攫った、黒づくめ約二名。


 七つという少なく限られた枠に、彼らはいずれも名を連ねていて。

 関係者全員の、本戦出場が決定しました。


 あ、ついでにアドレナリンゴンザレフも…ね。




評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ