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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~謎の黒い影~
123/182

122.ピンクの首輪とモモタロー

名前からモモさんのことを女の子だと思ってた方ー

実は男の人です。



「う……うぅ…ここは………どこだ!?」


 意識朦朧としているところを引きずりまわされたからでしょう。

 気付いたら意識も落ちちゃってたモモさん。

 そんなモモさんの目覚めの第一声は、在来りで平凡な感じに終わりました。

 うん、拉致られた人の反応に独創性ってないんでしょうか。

 もうちょっとこう、捻りが欲しかった。

 拉致られプロフェッショナルな勇者様なら、何か違うかなぁ?


「おはよう、モモさん今晩は。女難の館へようこそ――」

「リアンカ、人の離宮に変な名前を付けるのは止めてくれ…」

「えぇ!? でもこれだけぴったりな名前も他に思い浮かびませんよ?

第二候補なんて、『人生被害者の巣窟』だったんですから!」

「色々な意味で失礼だな!」

「ええ、その案は反対意見があって却下になりました。

概ね加害者になりうる人材も集っている、との反対意見で」

「合議制で決めたのか!?」


 議員は誰だ、議員はと追及する勇者様。

 その、勢いを前に。

 大概の人がそうであるように、きっと驚いたのでしょう。

 私や勇者様の遣り取りを初めて見たモモさんはポカンとしていました。

 わな…、と。

 震える指先が、勇者様を怯えたように。


「だ、第一王子、ライオット・ベルツ…?」


「はい、おおあたり~!」

 どんどんぱふぱふー!!

 きっちりはっきりと正解したモモさんに、盛大に鳴らします。

 私は太鼓を、ロロイはフーガを、リリフは笛を。

 そしてまぁちゃんはトライアングルで、せっちゃんはシンバルです。

 いきなり盛大なファンファーレ!

「お前らは、ちんどん屋かっ!」

 勇者様のツッコミと、モモさんの呆気に取られた顔がとても素敵です。


「な、なんなんだ此処………」


 勇者様(じょなん)離宮(やかた)です。


 お目覚めでも記憶ははっきりしているのでしょうか。

 前にどこかで見たことあるのかな?

 それともお仕事関連?

 何はともあれお目覚め直後に関わらず、頭は回っているようですね。

 遥か彼方の雲上人であるはずの勇者様を相手に見事ズバリ賞!

「そんな貴方には、はいこれ!」

「は!?」


 がしゃこんっ


 無骨な音を立てて、施錠される鍵。

「はあ!?」

 そして混乱するモモさん。

 そんな彼の首元には、素敵な首輪(プレゼント)が……


「なっ何だこれは…!」

「首環ですが」

「首環じゃなくて首輪だろう!! 嘘を吐いて何の意味がある!」

「あ、わかりましたか」

「くっ…こんなもの!」


 やはり忍者という職業上、順応力や状況察知に長けているのでしょう。

 首輪をかけられたとなるや、我に返ったように反発を見せるモモさん。

 条件反射のように、首輪を破壊して戒めから逃れようとしますが…


「くぅ………っ」

 うん、無駄ですね。


 絶対にブチ切れないよう、金属補強済みの革の首輪です。

 ちなみに鎧竜という防御力Lv.MAXなドラゴンの皮で作られています。

 補強に使った金属はヒヒイロカネです。わあ、超豪華♪

 …うん、、張り切って無駄に豪華素材を惜しみなく使いました。

 せっちゃんの趣味で、首輪の色は全体的にピンク。

 その愛らしさがいい具合に異様(ミスマッチ)です。

 ついでに魔王陛下(まぁちゃん)の呪詛がかかっています。

 補強と、服従と、装着者の能力(ステータス)低下。あと諸々。

 こういう嫌がらせめいた呪術は幼い頃の悪戯で散々やったから結構得意と、鼻歌交じりにお(まじな)いをかけてくれました。


「ぐ…取れない! 破壊もできないなんて、何この首輪!」

「鎧竜の革とヒヒイロカネの首輪ですが」

「こんなところで伝説の金属がっ!?」

「あ、やっぱり知ってましたか。モモさん忍者だし、大陸南部小国家群、東方の出身だと思ったんですよね。懐かしいかと思って、モモさんの生国の金属を使ってみました」

「懐かしいどころか、実物に接するのは生まれて初めてだっ!

なんでそんな貴重なものが、こんなところに…!?」

 ちなみにメイドイン魔境製。

 大陸南部から魔境に移住してきた、獣人の刀工集団が作ってくれたモノです。

 お得な割引してくれて、果実酒一樽と交換でした。


 意識が覚醒したばっかりだというのに、モモさんの目は混乱でぐるぐる。

 振り回すどころか吹っ飛ばす勢いで目まぐるしく次々降り注ぐ事態。

 その不慣れっぽい状況に、すっかりモモさん大混乱。

 うん、やっぱり初めは掴みが肝心。

 抵抗もできないくらい、こっちのペースに巻き込んでやれ…!


 やがてモモさんはぐったりしましたが。

 抵抗する力も手段も失くした彼に、私は慈愛を込めて微笑みました。

 びくっと、モモさんの肩が引き攣ります。失礼な。

「自己紹介がまだですね。私は魔境ハテノ村のリアンカ・アルディークです」

「魔ky……人類最前線!?」

 おおう、やっぱりその異名強いですね。

 モモさんも御存知ですか。

「そうです、その魔窟の出身です…」

「リアンカ、自分で魔窟とか言っちゃうのか…」

 憐れみの目…同類を見るような目を、モモさんに注ぐ勇者様。

 その声音の沁々(しみじみ)(痛切)とした感情。

 それに気付いたのか、モモさんが息を呑んでいます。

「さあ、モモさん。そんな異常地帯出身者が目の前にいますよ。

そして貴方はそんな私達に囚われています。さあ、どうしますか…?」

「………複数形で言われると、俺も混ざっているみたいだ」

「勇者様も、もう既に私達の立派な仲間ですよ。だってお友達だもん」

「くっ……嬉しい言葉が、この状況で言われると正直微妙過ぎる…!」

「嬉しいんですか、嬉しくないんですか、悲しいんですか」

「だから、微妙だと…」

「わかりました。勇者様が嬉しいと言えるよう、今日はサービスしちゃいます」

「は? な、何をする気だ…!?」

「…なんでそこで青褪めるかなぁ」

「絶対に碌なことにはならないと、察せられるからの他にあるか!?」

「大丈夫、大丈夫! 気持チイイヨ!」

「何をする気だ、本当に!?」

「新しい果実酒を作ったんですけど…ちょっと新しく魔境で発見したハーブを混ぜたら、酩酊感が物凄く強くなっちゃって」

「何を呑ませる気だ、一体!? 俺は絶対に呑まないから!」

「じゃあ、歓迎の意を表してモモさんに呑んでもらいましょう」


「え……!?」


 愕然とするモモさん。

 そんなモモさんを前に、怪しく笑う私。

 そして目をふいっと逸らして絶対にモモさんを見ようとしない、勇者様。

 わあ、モモさんの顔がみるみる引き攣っていく!

 頬に入った傷とか男の勲章ですね!

 なんだか思春期の男の子が夢見ちゃう英雄譚の登場人物っぽいけど!

「さあ、モモさん。美味しい、美味しいお酒が、貴方に呑んでもらいたいそうですよ…一気飲みして、真っ赤なお顔の酒呑童子になりましょう」

 えーと…確か酒呑童子ってアレですよね?

 お酒呑んだみたいに赤ら顔の鬼…だったよね?

 別にこのお酒を呑んだからって鬼にはなりません。

 ただ、そのくらい赤ら顔になっちゃえという意を込めて言ってみます。

 対する、モモさんの反応は。

「な、なんだその酒…角でも生えるのか!?」

 うん、良い感じに勘違いしてますね。よしよし。

「ふっふー…大丈夫、大丈夫、怖くない。怖くないよー。

ち ょ っ と 人 生 変 わ っ ち ゃ う 、 だ ・ け ☆」

「……………っ!!」

 見る見る青褪めていく、モモさん。

 まるで絵具で塗り替えていくよう…うん、どっかでよく見慣れた光景。

 勇者様が同情心を込めつつ、自分は蚊帳の外という感じで距離を取っています。

 ただ、他人事とは思えなかったらしく、勇者様の顔も引き攣っています。

 まあ、明日どころか常に我が身、みたいな扱いが多いですしね。

 概ね、その被害をもたらしているのは私なんですが。

「ささ、ぐぐっといっちゃいましょ?」

「い、いやだ…っ」

「い・や?」

「ああ、絶対に呑まない!」

「それでも、その首輪に命令しちゃえば…」

「…!?」

「………で、どうします?」

 ふふふと、笑う私に。

 モモさんは恐怖の眼差しで。

 後一押しで、モモさんの心が折れるのを感じました。


「名前」


「…え?」

「呑みたく、ないんですよね?」

 私の問いに、ぶんぶんと首を縦に振るモモさん。

 そんな彼に、私はにっこり慈愛の笑みで言ってあげました。

「それじゃあ、名前教えてください。あ、勿論本名ですよ?

それが言えたら、この酒呑童子は勘弁してあげます」

「…………………」


 モモさんは、忍者として生きてきた人でしょう。

 その生まれ育ちは知りませんが、さっきの試合を見るにきっと凄腕の。

 そして闇に潜み陰に生きてきた彼は、正体を隠すのが常でしょう。

 少なくとも、仲間以外に情報を開示することはないはず。

 もしかしたら、仲間にも言わない情報があるかもしれません。

 特に個人を特定できる情報は、その真実を簡単に語るとは思えませんが…


「本名、ですよ?」


 普通だったら、きっと。

 ええ、きっと。

 凄腕ですもの。

 どんな尋問拷問を受けたって、口が裂けても血を吐いても内臓が破裂しても、舌を裂かれたって、言わないでしょうけれど。


 私はただ、酒瓶一本を突き付けて。

 うりうりと、付き付けて。

 うっとりするような笑みを浮かべるだけです。


 実際、首輪にはまぁちゃんの呪いが掛かっています。

 服従の呪いも、勿論かけられています。

 しかも主人を特定する奴ではありませんよ?

 個人設定でつけられた特定の言葉(ワード)を唱えるだけの簡単仕様。

 私は呪文(キーワード)を唱えるだけ。

 それだけで、モモさんから本名を聞き出すのも容易いことですが…


 でも、それじゃ意味がありません。

 そう、無意味です。


 本人に、本人の口から。

 その意志で言わせる。


 それが、大事なことでしょう。

 その心をぽっきり真っ二つにへし折って、快く私達の軍門に下ってもらう為には。

 もう今の時点で大分振り回しましたし。

 混乱も局地でしょう。

 今日一日のアレコレのお陰で、程よく心も弱まっている頃合い。

 そんな時に、追い詰めて追い詰めて追い詰めて。

 そして、もう一度。

 モモさんが答えるまで、何度でも繰り返してあげます。


「モモさん、本名はなんて言うんですか?」


 酒瓶でうりうりやりながら。

 時に勇者様に諌められたり、ドン引きされたりしながらも。

 時にまぁちゃんや、せっちゃんの助太刀を受けながらも。

 何度も何度も繰り返す。


 やがて、積み重なった心労に、どんな屈強な人も耐えられなくなります。

 さりげなくまぁちゃんが、精神衰弱の魔眼を発動させてたし。

 畳みかけるように、精神攻撃。

 こういうのは、ちょっとだけど得意かも。



 そうして。

 とうとう、モモさんが膝を屈する時間がやってくる。

 それは、モモさんが目覚めてから四時間と二十三分後…


「モモさん、お名前なんて言うんですか♪」

「……………う、も、百地 葦速丸」


 それが、モモさんの本名。

 これが彼の、陥落の瞬間でした。





 流石に闇に生きてきた人を本名で呼ぶのは可哀想かと思ったので。

 あだ名をつけてあげることにしましたが…

 どうしてでしょう。

 一つしか浮かびません。

 なので、その名をつけてあげることにしました。


「それじゃあ、モモタローさんですね♪」

「はっ!?」

「決めました。貴方はモモタローさん、略してモモさんです」

「よろしくな、モモタロー」

「よろしくですのー!」

「よろしくー」

 

 口々に賛同して、呼び名を受け入れる周囲。

 置いて行かれるモモさん。


「な、なんなんだコイツらは…」


 がっくりと肩を落とすモモさんに、勇者様が同情の眼差しを注いでいました。




モモさん、陥落。

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