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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~謎の黒い影~
122/182

121.『竜で空から行く』

9/6 誤字訂正。

 第一回の予選。

 一人か二人残るまで戦えという大雑把なそれ。


 最後に立っていたのは、サルファとモモさんでした。

 

 意地と執念で立ち続けたモモさん。

 そしてちゃっかり便乗する形で、要領よく生き残ったサルファ。

 今も飄々、平然と立っているサルファの余裕に暴力的な気持ちが湧き上がります。

 うん、後で殴ろう。酒瓶で。


 最後の方はモモさんが限界という様子で、今にも倒されそうな様子でした。

 それまで危険、危険と遠巻きにしていた生残り達が、俄かに活気づきましたよ。

 そう、勝機(チャンス)到来!と顔にでかでか書いてありました。

 それを見て、私は思った訳です。

 

 このまま放っておくのは惜しいな…と。


 そこで私はまずサルファの気を引くことにしました。

「――ロロイ」

「らじゃ」

 手を叩いて促すと、ロロイはちゃんと私の意を汲んでくれました。

 その手が動こうとして…

 それを、リリフが制します。

「「?」」

 何で止めるの?とリリフを見れば、彼女はふっと不敵な笑顔。

「ここは私が」

 そう言って、すっとリリフの両手が額に添えられて…


「 太 ☀ * !!」


 リリフが何事か唱えた 瞬 間 !

 カッ…と太陽の如き白光が、リリフから発せられました。

 うん、確かにこれなら注意が引けますね!

 でもね、ただ、物凄く眩しい!

 咄嗟に私達は懐から取り出したサングラス装備で何とか事なきを得ました。

 ですが、至近距離で直撃を食らった他の観客の皆さんはのたうち回っています。

 ご愁傷様です。

 前触れなくやられたら堪ったものじゃないですね!

「リリフ、今度からは前もって宣言してからやったらどうかなぁ」

 じゃないと、危うく私達まで巻き添えを食らうところです。

 今後も巻き添えを食らわない為に提案してみると、リリフはきょとんとした顔で。

「でも、リャン姉さん達は対応できましたよね?」

「そりゃあ、ね。リリフのこの技、初めてじゃないし」

 だけどもし、懐にこのサングラスがなかったら…

 事前準備が足りない時は、私達も直撃なんですよ?

「……そうですね。今後は気を付けます」

 そう言って、しゅんとしてしまったリリフ。

 可愛いので取り敢えず頭を撫でてあげました。

 せっちゃんも可愛いと思ったのか、二人で撫で撫で。

 そうしていると、ロロイが私の袖をくいっと引きます。

「リャン姉」

「ん? ロロイも撫でてほしいの?」

「否定はしない。けどそうじゃなくて…」

「んー?」

 促されてロロイの指す方を見れば、そこにはサルファの姿。

 あ、サルファの存在、忘れてた。

 咄嗟にリリフの光被害は免れたようですが、何事かと此方を注視しています。

 そんな奴に、私は仕草で指令を伝えました。

 目的とするものを、顎でくいっと指示をして、目の色だけで御挨拶。


『何とかしなさい』

『えー…なにを?』

『モモさんよ、モモさん。ここで潰すのはあまりに惜しい人材でしょ』

『その興味、ちょっとでいいから俺にちょーだい☆』

『末路にはちょっと興味を持ってあげてもいいわよ? 主に 死 因 とか?』

『――真面目にがんばりまっす☆』


 危機感を覚えて(それ)からの奴の働きは、迅速の一言でした。

 しゅぴしゅぱしゅぱぱっと。

 そんな効果音をつけたくなるほどの、俊敏さです。

 リリフの発光はハプニング扱いとなりました。

 お陰で選手の視力が戻るまで一時中断状態になったのですが…

 試合再開の判断を審判が下してから、サルファは間を置かずに動きました。

 次々と背後から忍び寄り、残っていた他の選手を昏倒させていきます。

 手際は鮮やか。

 手段はいずれも背後からナイフの柄で殴り倒していくというもの。

 うん、卑劣。


 最後の一人はサルファの所業に反応して、反撃かまそうとしましたが…

 すっかりサルファに気を取られて、他の参加者が狼狽えている内に。

 僅かながらも体力を微妙に回復させたらしき、モモさん。

 彼が、最後の一人の足に鎖鎌の鎖を絡みつかせて…

 モモさんが鎖をぐいっと引っ張り、最後の一人転倒。

 その後頭部に、容赦なくサルファが近くに落ちていた棍棒を振りおろしました。


 ぐしゃっ


 そんな効果音を思わず想像しましたが、実際にはパカンッて感じの音でした。

 そのまま最後の一人も目を回し…


 次の試合に進む二人が、サルファとモモさんに決定した瞬間でした。


 次の試合からは、様式にも変化が見られます。

 一回戦を残った人達をランダムに組み合わせてのトーナメントとなるそうです。

 記念参加含む、大量の参加者を一度に振い落した、この後。

 それぞれある程度の実力を保障された参加者達。

 彼らが、血で血を洗う肉薄した試合を見せてくれる……という訳ですね?

「あ、リアンカ? この大会、あんま流血は記録にねぇってよ?」

「え、そうなの?」

「実力者ぞろいの試合になっから、それぞれが弁えるんだとさ」

「奉納試合でもあるしね」

「奉納なら、血を忌避するのも仕方ないんじゃない?」

「なんだかその口ぶり、私が血を見たいみたいじゃないですか…

そんな血に飢えるような異常性は持ち合わせてないよ?」

「そうだっけ?」

「……むぅちゃん、後で倉庫裏に来てくれる?」

「ごめんごめんって。だから麻酔薬嗅がせようとするのは止めてくれる?」

「もう、私そこまで血が得意でもないのに…」

「治療の時は平然としてるじゃない」

「治療は治療、意識の切り替えができるから平気なの!」

「ふぅん?」

 ………いまいち、信用されていませんね。

 私に対する皆の認識って、どうなっているんでしょうか…。


 サルファ達が試合会場から消えて、再び次の『一回戦』が始まって。

「さて、今日はもうここに用もありませんね!」

 賭け金の戻りを徴収して、私は笑顔で言いました。

 ちなみにアドレナリンゴンザレフはサルファの前の前の試合で勝ち残った誰かだったらしく、それなりのリターンがありました。やったね!

 顔も覚えていない誰かのお陰で懐はぬくぬくです。

 ロロイ、よくやった。

 皆でそう言って、褒めて遣わしました。


「ちょっとちょっと、リアンカちゃ~ん?」

 

 遠くから、声。

 何だか聞き覚えがありますね…

 軽薄な、物凄く軽い口調で。

 何だか聞いていると、意味もなく殴りたくなるような…

「あれ、サルファ?」

「置いてくのは酷いって! リアンカちゃんの喜びそうなお土産確保したのに」

「…土産?」

 にんまりと笑うサルファが自信満々に言う、お土産…

 それは…


「サルファ、よくやった」


 試合会場の倉庫裏にて、再び集結する私達。

 ずりずりと引きずりながらサルファが運んできたのは、素巻きの蓑虫…

 ……じゃない、人ですね。人。

 それは何だか見覚えが…具体的に言うと、さっき見た顔ですね。

「あ、モモさんだ」

 蓑虫の正体は、先ほど社会的に忍者生命を絶たれたモモさんでした。

 こうして間近で見ると、結構若いですね。

 ただでさえ極度の疲労状態にあったのに、この仕打ち。

 モモさんは全身に力が入らないらしく、ぐったりしていて。

 辛うじて意識はある様子でしたが、朦朧としているのでしょう。

 酷くぼやけた眼差しで、虚ろにどこともしれない方角に目をやっていました。

 …うん、廃人寸前じゃないかな?

「取り敢えず、拉致って来た☆」

「その前に明らかに休養と栄養補給が必要でしょう、これ」

 困惑の眼差しで、首を傾げる子竜たち。

 リリフが「おーい」とモモさんの顔の前、手を振るけれど完全無反応。

「まぁちゃん、お願い」

「…ま、しゃあねーな」

 そしてまぁちゃんによる鉄槌が、サルファの脳天に直撃しました。

 ふふ……すっきりした!

 

 これはNINJYAの出没する国出身の友人に聞いた話ですけど。

 NINJYA…忍者は、原則として足抜けが許されない職業だそうです。

 使い物にならなくなっても、どうにもならなくなっても。

 最後の最後まで、ご主人様に酷使される宿命だとか。

 そのお陰で、大多数は結構な短命だとか。

 人間盟主国の、こんな目立って仕方のない大会にわざわざ出場。

 …そこに、どんな使命があったのかは知りませんし、私には関係のない話ですが。

 でも、こんな仕事が回ってくるなんて結構な使い手さんだったのでしょう。

 忍者の国から、単純に距離だけでもものすっごい遠いですしね、ここ。

 そんな場所で、顔バレしちゃった忍者(モモ)さん。

 普通に考えて忍者生命終了しちゃってます。

 だって人間の国各国のお偉いさんが一堂に会しちゃってるんですよ?

 興味のある人は予選から試合を見て、掘り出し物…

 …じゃない、有能な人材を発見スカウトしようと人材発掘に余念がないそうですし。

 そんなところで顔バレしちゃったら、今後は仕事のしようもないですよね。

 黒づくめ、NINJYAってだけで目立ってたんですから。 

 そこで顔を曝したら一発で有名人ですよ。

 そんなモモさん。

 …お国に帰って、命があるのかな?

 首を傾げてしまいますが、有能なら何らかの使い道が見出されることでしょう。

 でも誰かに見つかったら、それだけで忍者関連の仕事に従事しているだろうモモさんの正体もろバレ………うん、使い勝手悪そう。

 これはもう、口封じに殺されちゃうんじゃないかな…?



 ………と、思ったので。


「連れ帰ってきちゃいました」

「拾った場所に捨ててきてください…!」

「そうだ、なんでそんな厄介そうな奴拾ってくるんだよ!」


 抵抗できないのをいいことに強制連行…じゃない、離宮(おうち)にこっそりつれこんだら、勇者様の側近達に猛反発食らっちゃいました。

 もう、オーレリアスさんもシズリスさんも…

「そんなに強制的に黙らされたいんですか?」

「「……………」」

「お望みなら、ここに口が貝になる薬がありますけど…ちなみに、二枚貝です」

「「………っ!?」」

 ずざざざざっと後退さる、大の男二人。

 うんうん、日頃の成果ですね。

「もう、苦労して連れ込んだんですから邪険にしないでくださいよ」

「連れ込む前に、苦労するって分かっていて連れてこないでくれ…!」

「というか、警備どうなってるんだ?」

 大国の王城ですからね、勿論警備は万全ですよ?

 使用人用の通用口ですら、常に検問状態。

 空飛ぶ翼でもない限り、犬の子一匹通さぬ構え!


「面倒だったので、ロロイに乗せて城壁を飛び越えてもらったんですけど?」


 …でも残念ながら、私達には空飛ぶ翼があったんですよねー。

 絶対反則技、『竜で空から行く』の発動です!

 それを告げれば、警備責任に関わりのあるシズリスさんががっくりと膝をつき…

 頭を抱えて、呻き声をあげるのでした。


 そして、この夜。

 ご公務から帰って来て事情を知った勇者様も、また。

 扱いに苦労する客分…拉致被害者?の増加。

 それを知り、肩を震わせて頭を抱え、苦悩するのでした☆

 厄介ごとの到来ですね、勇者様がんばれ(笑)





モモさんのあたらしい飼い主、誰がいいかな~w

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