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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
御前試合 ~謎の黒い影~
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119.NINJYA終了のお知らせ




 三人のNINJYAが繰り出す連携に翻弄されながらも、全てを紙一重で避けるNINJYA。 

 頭巾狙いの一撃と、途中から本人も悟ったのでしょう。

 狙いが絞られたお陰か、致命的な一撃を喰らわずに済んでいます。


 でも、おかしいんです。


 猛攻撃を仕掛けられて、斬りかかられて、斬りかかられて、斬りかかられているのに。

 なのに。


 なのにあのNINJYA、全く反撃しようとしないんですけど。

 何故でしょうね?


 むしろ狼狽、困惑を混ぜ込みながら、折角の反撃の機会が運よく巡ってきたって…


「ちょ、話を…っ」


「待て、落ちつっ……くそっ」


「だから、俺はっ」


 機会が巡って来る度に、何故か襲い掛かってくるNINJYAを制止しようとしたり、言葉で何かを訴えかけようとしてみたり。

 まあ、その度に問答無用で斬りかかられて、苦労は功を成すことなく。

無駄になっている訳ですが。

 ああまで猛攻受けたら、反撃しちゃった方が楽でしょうに。

 今のところ、攻撃を受け止めることと牽制以外で手に持った武器を使うこともなく。

 一番の武器は、よく見たら鞘に納められたまま。

 やる気あるんでしょうか、あの人。

 それとも何か、事情でも?



 やがてその『事情』が知れた時。

 それは、彼のNINJYA生命の終焉とともに訪れました。


 そう、とうとうNINJYA(単体)の正体(カオ)が暴かれたのです…!


「「あ」」


 その、NINJYA(単)の相貌は………





 NINJYA(複)の攻撃は、やはり苛烈で。

 特に三人目のNINJYAが、キレのあるいい動きをします。

 メインとなって攻撃するαとβに対しても、素晴らしいナイスアシストぶりが見事で。

 三人目の名支援(サポート)を受け、αとβは自由自在の縦横無尽。

 実力よりも優れた力を、サポートの見事さによって引き出されているのでしょう。

 時々、特に勢いのある攻撃を見せた後、αとβは感嘆の溜息で三人目を褒め讃えるのです。

 NINJYAαの放った飛礫(つぶて)が、NINJYA(単)の動きを封じ。

 NINJYAβの真空飛び膝蹴りが、良い具合に炸裂して。

 目に見えてNINJYA(単)の体勢が崩れましたが…


「ちぃ…っ」


 引っかけだったようで、食い付きを見せることなく、NINJYA(複)が一歩引きます。

 油断なく対峙する、四人。

 何故か反撃しないNINJYA(単)も滲む緊張感と鋭い空気に、とうとう手が刃に伸び………

 その時でした。

 支援に徹して己を殺していた三人目のNINJYA(複)が、どこからともなく取り出したナイフを投げつけたのです。

 それは空気を切り裂く音すら鮮やかな、鋭すぎる一撃。

 投げられたナイフは、二つ。

 そのナイフとナイフの間に、鈍く光るモノ…

 あれは………鉄線(ワイヤー)です。

 金属の鋭利な切れ味を保った、糸が巡らせてあるのです。

 ナイフを避けても、二本のナイフの対角線上にいては鉄線によって輪切りの末路。

 細い糸なんて近いところでは視認も難しいでしょうに。

 気付いたNINJYA(単)は思わずとばかり、身を丸めて逃げを打ちます。

 前転の動きで、真っ直ぐに。


 そこに、NINJYAβの手が伸びました。

 至近距離からの、掴みかかる動き。

 かすめたと思った指は、しかし咄嗟の動きで頭巾に引っ掛けられて…


 そうして、呆気ないほど簡単な。

 ぱらりと、そんな易しさで。


 反撃を抑えて逃げ回っていたNINJYA(単)の頭部から、頭巾が奪われ地に落ちた。

 

 やけにゆっくりとした時間の流れの中。

 その顔が、露になる。


 その顔は、精悍でした。

 後ろぐらい闇社会の住人とは思えないほど。

 健康的なくらいの、身に染み出す空気…

 若々しく、二十歳前後に見える、その顔は…


「だれ?」

 首を傾げる私。


「「あ」」

 そして異口同音、声を揃えるNINJYAα&β。


 うん、どうした。

 なにその呆気に取られた様子。


 微妙な空気を量産し始めたα、β。

 それまでの猛追も、いつの間にか止まっていて。

 体ごと、心停止したんじゃないかと思うほど静かに止まっていて。


 そして正体(カオ)を暴かれたNINJYA(単)が物悲しげな顔で、声で項垂れた。


「だから待つよう言ったのに………」


 悲壮感を背負う、NINJYA(単)。

 NINJYA生命を断たれてしまった彼は、どこからどう見ても知らない顔。

 だけど、α・βには違った様子。


「も、モモ………」

「何故、貴様が!?」


 狼狽し、露骨に取り乱し。

 そうして二人の顔は、一斉にその背後…

 それまで二人の背中を守り、一心に二人を支援していた最後のNINJYA……

 黒づくめの、


「ん? なになに☆どしたー?」


「「 誰 だ お 前 ぇ ぇ え え え っ!!?」」


 ――サルファに、向けられていました。



 それまで平然と、素知らぬ顔で。

 いいえ、何食わぬ顔で。

 しれっと混ざっていたらしい、茶目っ気のあり過ぎる軽業師サルファ(20)。

 誰かの入っていたポジションに横入りしたら、代わりに弾かれた誰かがいる訳で…

 うん、というか気付け。

 気付けよ、NINJYA共……

 仲間と敵が摩り替っていて、何故気付かなかったの。

 どうやら試合場に現れた最初から今までずっと。

 あの素晴らしい熟達の連携と、見事な支援を見せている間も、ずっと。

 うん、今まで、ずっと。

 

 サルファがマジもんNINJYAと、入れ替わっていたらしい。


 というか、あの凄まじい連携と支援を、何食わぬ顔で混ざって繰り広げていたサルファに戦慄します。

 ………いや、うん…凄いね。

 しかもサルファ、NINJYAの目を欺いちゃったのね…。

 これはサルファが凄いのか、NINJYAの目が節穴なのか。

 いや、普通に仲間のことくらい分かるでしょうに。


 可哀想なのはサルファに取って代わられちゃったNINJYAですよ。

 ここは多大な同情を寄せるところでしょうか。

 仲間から気付いてもらえず、謎の四人目にポジションを奪われ。

 挙句の果てにNINJYA生命を仲間の手で絶たれちゃった、NINJYA(単)…

 いいえ、どうやらモモさんというらしい、あの青年に。


 仲間だと思い込んでいた三人目の、予想外の正体(爆笑)

 それに気付いた二人は、全力で動揺のまま、明らかに狼狽しています。


「き、きき貴様!?」

「誰だお前!」

 

 誰何の声も白々しく聞こえますが……仕方ないですよね。

 動揺するNINJYAα・βを前に、気負わないサルファは今日もいつだって軽過ぎる口調で。


「やっほー☆ 俺はしがない軽業師だぜ☆ ヨロシク♪」

「舐めてるのか、貴様ぁあっ!?」


 ぐっと親指を立てる、呑気すぎるその姿。

 不審極まりない黒づくめ謎覆面の、NINJYA姿に見事にそぐわない。

 しかしそんなことには一切頓着を見せることなく。

 サルファは、いつだってサルファでした。

 うん、ていうか本当に気付けよNINJYA…。


 

 相対する相手を間違えていたことに気付いたNINJYA一号・二号。

 自分の失態をなかったことにでもしようというのか、彼らは無理やり崩壊しくさった緊迫感を高めるような無理やりさで。

 改めてサルファへと二人がかりで向きなおり、何と言うやらtake 2。


「き、貴様どこの手の者だ…!」

「我らが使命、阻むのであれば容赦はせん!」


 すっかりなかったことと言わんばかりの様子で、問い詰めなおす様子は真剣なのにどこか滑稽に見えて仕方ありません。

 犠牲になったモモさん?が一人。

 ひたすらに目を逸らされ、彼らの後方で俯いています。

 …その肩が震えているように見えるのは、錯覚でしょうか。

 うっかり仲間を敵と思いこんで猛攻仕掛けた挙句、社会的な死に追い詰めちゃったNINJYA達は頑ななまでにそちらを見ようとしません。

 気まずいんですか? 罪悪感ですか?

 その心情を推測することは出来ても、これと確信することはできません。

 しかし計り知れない心情よりも、やっぱり気になるのは目立った動向を見せる方で。

 現役NINNJYAのお二人は、先程まで見方に向けていた刀をチャキッと鳴らして。

 油断ならないものに対する、隙のない目つき。

 サルファを睨みすえ、詰問の口調はますます棘を増していく。


「貴様が何のつもりかは、知らん」

「だが我らの甘く見られ、そのままにしておくほど手緩くはない…

……そのこと、身をもって知るが良い…!」


「いやーん☆許して? 気付くかなぁって思ったけど気付かねーからさあ。ほんの出来心?」


「き・さ・ま! 我らを愚弄するのも大概に…っ」

「待て、落ち着け! 乗せられてどうする」

「はっ…」

「そうだ、このような時にこそ、冷静に…っ」


「わーお☆ 俺と見方を間違えちゃって、冷静歌っちゃう?」


「きぃぃぃぃいいさぁぁぁぁああああまぁあああああああっ!」


 ――あ、βが噴火した。


 さっきからむしろ激昂しそうになるαの諌め役に回っていた、β。

 でもなんかそいつのほうがキレちゃいましたよ(笑)


 さあ、こいこい。

 やってこい、面白展開!


 わくわくと待ち望む私。

 今この時だけは、サルファに言ってあげても良いかもしれません。


 いい仕事しやがって、と。


 だけど。

 完全に私の意識から、もう動かないものと除外されかけていた人がいます。


 味方にサルファと間違えて襲われた、モモさん何某。


 ずっと暗い顔でうつむいて、肩を震わせながらぶつぶつ何か言っていたんですけどね?

 その様相が怖かったのか、あんまりな展開から目を逸らしてか、腫れ物扱いだった人。

 だけど、この人が。


 βのぶちキレ展開に、呼応するように。


「馬鹿にしているのはどっちだぁぁああああああああああっ!!」


 キレました。


 いや、うん、まあね?

 無理もないと思いますよ、うん。

 うん………うん、怒るのもやむなしだと思う。

 正直な話、怒っても仕方ないでしょう?


 一番悪いのは、サルファだとも思いますけど。

 でもやっぱり無情なのは気付かなかったお仲間さん達でしょうし。

 そして間違えた当人達も、その負い目があるからでしょう。


「もっ……モモ!?」

「待て、落ち着け…っ 話をっ」

 

 流石に自分達の非をわかっているからか、無体なこともできなくって。

 それまでサルファのイラッする態度に怒髪天だったけど。

 自分達がキレられる立場に至って、本当に大慌て。

 穏便にことを済まさせようとしてか、自分達の怒りを抑えて、怒れるモモさんを落ち着かせようとするけれど。


「聞かなかったのはどっちだぁぁああああっ」


 モモさん、聞く耳なし。

 いや…確かに、先に聞かなかったのはα、βの方だし。

 モモさんの怒りは正当だと思います。


 ここ一番の大噴火。

 それを目の当たりにして取り乱すαとβ。

 そんな彼らを強く見据え、睨む勢いで。


 試合が始まってから、はじめて。


 害意を持って、モモさんとやらが刀を抜いた。


 仲間であったはずの二人。

 二人へと、敵意に塗れた刃より先に、視線で刺そうかという強い眼差し。

 彼の睨む目も、刀という武器も。

 まるで当然のような自然さでもって、まっすぐα、βへと向けられていた。


 今、社会的にNINNJYA生命を絶たれた青年の報復が始まろうとしている。






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