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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ!毒草園に行こう!?
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112.絶対内緒!



 私達を阻む障害(モノ)………それは、門番と呼ばれる人種で。

 どうしても毒草園を見学してみたい私とむぅちゃん。

 現在、私達は融通の利かない門番を前に立ち往生させられていました。

 ぶいぶい押し問答しているのに、通してもらえる気が一向にしません。

  

 ええ、そうです。

 私達の前には、素敵な素敵な期待爆発『毒草園』があるっていうのに。

 当然ながら、そこは薬草園全体より更に厳重な警備と管理により閉ざされていて。

 元より、出入りするにも狭き門。

 かなり限定される通行自由の証を、私達は当然ながら持っていません。

 申請しようにも許可される以前の問題だと、残念ながら私達も分かっていました。

 まず、私達はこの王城所属の薬師じゃないし。

 それどころか、この国の国民でもないし。

 勇者様の身元保証があっても、魔境出身だと言ってはばからない私達。

 それは、根本のところで不審者と変わりません。

 だって誰も、その身元を証立てするような根拠を持たないんですから。

 そもそも、身元の全部を正直に話している訳でもありませんし?

 ここに、この場に、この王城に。

 こうして自由度満点、かなり融通を利かせて好待遇で置いてもらっているのも、勇者様の後ろ盾と寛容な国王夫妻の許諾があればこそ。

 ………まあ、国王夫妻には国王夫妻で、何か目論見もあるかもしれませんが。

 そこはまあまあ、置いておいて。

 いわば権力者の好意で置いていただいている、私達。

 そうなるとこの毒草園への関門を突破しようと思ったら、そもそも滞在を許してもらっている根源…勇者様という、権力者への働きかけが必要となるでしょう。

 でも、勇者様ったら今は天岩戸状態(モード)だし。

 そもそもお強請(ねだ)りしたところで、行き着く先は『毒草園』。

 ……そうそう生半可なことでは、聞き届けてもらえる気がしません。

 お願いを聞いてもらう以前に、断固阻止と妨害されそうです。

 権力者(ゆうしゃ)様にお願いを叶えてもらおうと思ったら、正攻法で正当な許可を申請して通す以上の労力と細工が必要になると思います。

 そしてきっと、それは(あなが)ち間違いではないでしょう。

 …まあ、だから当然のこと。

 ………正攻法で門を突破できるなんて、最初っから思いもしませんけどね?

 

 とりあえずものは試しというやつで。

 最初は門番さんに直談判、やってみます。

 泣き落して通してもらえるなんて甘いことは考えていませんが。

 背後にてオーラを放つ勇者様の御威光とか、まぁちゃんの眼光とか。

 そこらへんの効果で怯んだりして、付け込む隙でも見つかれば万々歳。

 そのくらいの、本当にものは試しというやつで。

 私達は


「むぅぅ! どうして入れてくれないんですか!?」

「規則ですので」

「い、いじわる…!」

「許可証なき者の立ち入りは、許されておりません」

「何度も言うけどさ、僕たち、この国の王子様のお墨付きなんだけど。分かる?」

「何度来られても、何日にも跨いでご足労いただきましても、規則は規則です。どうしても立ち入りたいのでしたら、許可証を持ってきてください。持たざる方は、何があろうと絶対に通しません」

「ま、まぁちゃんー! このオジサンがいじめるぅ…!」

「おー、よしよし。形振り構わないのはわかったが、泣き真似は止めろ? 頻繁に涙を利用してたら、ここぞって時の利用価値が落ちるだろーが」

「チッ…」

「こらこらむぅ坊、んな『使えねぇ奴…』みてぇな顔で舌打ちすんな。不満が分かり易過ぎて、俺が吃驚すんだろーが」

「無言で圧力(プレッシャー)かけてるだけだよ、問題ナイ」

「いや、あんだろ。誰だ、誰に圧力(プレッシャー)かけてんだ? 俺か? 門番か? それともそこの怪しい薬師か。場合によっちゃお前の親に苦情申し立てんぞ」

「チッ……」

「だから、舌打ちすんじゃねーよ」

 不満を隠さないむぅちゃんに、苦笑いするまぁちゃん。

 なんだか、むぅちゃんが物凄く不満そう。

 そして苛々しているみたいです。

 どうしたんでしょう?


「どーしたの、むぅちゃん」

「………僕、ここまで来るの七回目なんだよね」


 …聞いてみれば、成程という感じですが。

 なんでもむぅちゃんも、『毒草園(ここ)』の存在を知ってからずっと、地道に通って門番と押し問答しているそうです。

 この門番が、本当に職務に厳しくて融通が利かなくて。

 だからむぅちゃんは、いつも門を突破できずに不服この上ない限り。

 苛々頭に血が上って、門番さんに鉄の靴を履かせた上で、足元の地面を爆炎魔法で燃え盛らせてやろうかと思ったことも一度や二度じゃないんだって。

「メルヘンだね」

「そこか? 一番重要な感想はそこなのか?」

 呆れた顔で見てくる、まぁちゃん。

 その肩の向こう、堂々と物騒な話をする私達には視線もくれず。

 まるで鉄面皮みたいに、何でもない顔で平然と警戒を続ける門番さん。

 …だけどよく見れば、その頬を一筋、冷汗が伝い落ちていきました。

 表情に動揺が現れないあたり、プロですね。

 そんな方が強固に守る、この難関。

 むぅちゃんも強行突破を考えてみたことがあるそうですが、それで危険人物認定を受けて今の待遇まで失う賭けに出る気にはなれず。

 ここを突破する為の同志として、私にも協力をということです。

 成程、そうだったんですね。

 だから薬草園に来るなり、真っ直ぐ一直線にこちらまで…

 腑に落ちたと頷く私の横で。

 まぁちゃんが頭を抱えて、重々しく溜息をついていました。


 さて、当座の目標が決まれば、後は実行計画を練るのみです。

 この艱難の先にある、麗しの『毒草園』……。

 人間国家の盟主国、その王城ともなれば、きっと人間の国々に自生するモノの中で選りすぐりかつ、厄介なモノが数多くそろえられているはずです。

 何しろ毒草園(ここ)の役割は、暗殺防止の特効薬研究や、毒草の薬効研究にあるそうですから。

 だったら暗殺に用いられた場合を警戒して、本当に希少な毒草まで研究しているんじゃないかと期待が膨らみます。

 そんな場所に、どうやって入ったものでしょうか…。


 ちなみに、暴れて入るという選択肢はナシです。

 それで貴重な薬草なり毒草なりが台無しになってしまったら目も当てられません。

 だから、精々植物に影響のない範囲で。

 その範囲で、やれることを考えてみましょう。

 積極的に手は貸さないと、予め宣言されてはまぁちゃんに頼ることもできませんし。

 私とむぅちゃんは、かなり本気で頭を悩ませました。


 そんな私が、ふと目をやったモノ。

 何故か無言で所在なさげに突っ立っている、スピノザさん。

 彼と、ばちっと音がしそうな感じに目が合いました。

「…!!」

 途端に、何故かスピノザさんは目を逸らしてしまって……


 何故か、本当に何故か大人しくなっていたので、その存在を忘れていましたが…

 そう言えば、彼がいましたね?

 にやり、口端が自然と吊り上がるのが、自分で分かりました。

「リアンカ…?」

「むぅちゃん、スピノザさんって確か新薬研究開発の主任さん…なんだよね?」

「……ああ、そういえば」

 あれだけ付き纏われていて、今の今まで興味関心がなかったんでしょうね。

 言われて思い出したという顔で。

 今までになく強く、むぅちゃんがスピノザさんに目をやります。

 その口元には、私と同種の意味ありげな笑み。

 スピノザさんの口元が、ひくりと引き攣りました。


 私の頭の中で、一つの図式が存在を主張します。

 主任=そこそこ偉い人。

 そして新薬開発ということは、新たな薬効を追い求める作業に従事しているはず!

 …ならば、持っていても可笑しくありませんよね?

 私は自分の予想に半ば確信を持ったまま、にっこり笑顔で言いました。


「スピノザさん、許可証」

「こっ ここここここ…っ」

「アンタは鶏か」

「こ、ここ、これだけは渡す訳にはいかない…!」

「しかも散々引っ張っておいて、拒否ですか」

「当然だ!」

「うわ、この人が当然とか言っちゃったよ。十分な見返りは用意するつもりですよ?」

「何を提示されても、これを渡した段階で私は研究に適した環境と待遇を失ってしまう…! それが分かっていて、何と引き換えると言うのか!」

 いや、まあ。うん。

 そこもちゃんと、予想は出来ていましたが。

 立派かどうかは知らないけれど、ちゃんとした職についていますし。

 研究を任せてもらっている分、上からの信頼の重要度も分かっているのでしょう。

 それを自覚している人なら、ほいほい重要な許可証を貸したりはしない。

 分かっているけど、一瞬期待したんですよねー…

 彼の、むぅちゃん…むぅちゃんの持つ知識と技術に対する執着に。

 あれだけ付き纏っているんだから、餌でもチラつかせれば食いつかないかなぁ…って。

 どうやら、その期待は残念なことに外れちゃったみたいですけどね。

 もうちょっと非常識な人だと思っていたのにナ!

 とんだ期待外れです。

 使えません。

 本当に使えないことに、スピノザさんまでこんな時に限って向こう(てき)(サイド)

 ちょっとスピノザさん!

 貴方、そんな常識を守っちゃうような人柄じゃなかったでしょう!?

 本当に、使えません。

 …もう、強行突破しちゃおうかな。


 私の頭が、ぐぐっと危険思想に近づいて。

 それを悟った訳でもないでしょうに、スピノザさんの顔が若干青くなります。

「この奥は、それこそ機密事項なのだよ。我が国の薬師で、更に王城勤務でもない者に、お見せする訳にはいかない」

「そこまで言われちゃうと、余計に期待が高まっちゃうんですけど」

「これは何が何でも、この目で確かめないと…だね」

 私とむぅちゃんは、二人でひっそり笑い合います。

 うん、我ながら黒い笑顔です。悪巧みが超あからさまです。


「はあ……ホント、此奴等は。仕方ねぇな」

 

 そんな私達を見て、まぁちゃんが脱力しきったような溜息。

 呆れた顔で、がしがしと後ろ頭を掻きながら…

「おい、変人薬師」

「誰のこと?」

 まぁちゃんったら、私達に喧嘩売ってるのかしら?

 この場で「変人薬師」と言われたら、選択肢は一、二、三つ!

 一、私! ←自覚あり(笑)

 二、むぅちゃん!

 三、スピノザさん!

 さあ誰だ!?

「場合によっては返答次第に一服盛るよ!」

「リアンカとムルグセストのことじゃねーよ! そっちの白衣だ、そっちの!」

「ああ、スピノザさんか…」

 なら、いいや。

 私のことを言った訳ではないようなので、私はお口を閉じました。

 一歩引き下った私に苦笑を浮かべながら、まぁちゃんはずいっとスピノザさんに大接近。

 吃驚するほど至近距離から、迫力たっぷりにスピノザさんの顔を見下ろして…

 うん、めっちゃ威圧してますね。

「よう」

「な、なんだね…一体」

 ただでさえ迫力のある美貌に、圧力をかけられてスピノザさんはたじたじで。

 狼狽え、後ろに二、三歩下がるけど。

 まぁちゃんは、逃がさないとばかりにすかさず空いた歩を詰める。

 そうして瞬きすら許さぬ眼差しで言ったのです。


「なあ? 毒草園を開示するに足る見返りを、薬草園の従事者全員が満場一致で認めるような、そんな代償を此方が提示した場合…そんな時は、どう判断する?」


 口調は穏やかそのものなのに。

 何故でしょう?

 何も含むところなどなさそうな台詞が、何故か脅しに聞こえてきました。

 それをスピノザさんも感じ取ったのか、微かに口が震えています。

 それでも、縺れそうになっているだろう舌を総動員して、彼は口を開きました。

「何を言っているのか、わからないが…仮にナニかを提示されたとして」

「うんうん?」

 促すまぁちゃんの口元に、悪魔のような妖艶な笑み。

 …元々妖艶な美貌のまぁちゃんがやると、滅茶苦茶板についています。

 そんな笑みを真っ向から受けて、硬直しそうになりながら。

 それでもスピノザさんは、何かの意地を発揮してくれました。


「例え何を提示されたとしても、私一人の判断でそれを受容することはできないのだよ」


 おおう、正直スピノザさんがこんなに頑張るとは思いませんでした。

 やんわりとだけど、まぁちゃんの言に含まれる要求を突っぱねましたよ!

 流石に、ただの研究馬鹿じゃないんですね…。

 

 さて、まぁちゃんの要求は真正面から突っぱねられた訳ですが。

 ひょいっと肩を竦めて、まぁちゃんはスピノザさんから離れました。

 その顔は、特に怒っている訳でもなさそうで。

 むしろ飄々とした顔は、何も気にしていなさそうに。

 ただ、何でもないような口調でにやりと続けてくれました。

「んじゃ、お前一人じゃなきゃ判断出来んだな?」

 その口の端にのぼる、悪戯な笑み。

 そうしてまぁちゃんは、スピノザさんの精神に爆弾を落としたのです。


「此奴等…リアンカと、ムルグセスト。この二人、エリクサー持ってんだけど?」


 死者をも復活させると歌われる、妖精の万能薬(エリクサー)

 高位妖精(エルフ)にしか作れないとされるソレ。

 人間にはどう足掻いても類稀な幸運にでも恵まれなければ入手できない代物で。

 人間の世界には、絶対に出回っていないだろうと断言できる、伝説の代物で。

 世界最高峰の、霊薬。

 それを私達が持っているという、事実。

 まぁちゃんは今、この時。

 私達が本当に望むのなら、その為に惜しむなとばかりに景気良く。

 私達の持つ、最強の手札の一つを開示した訳ですが。


 その瞬間。

 スピノザさんの顔面に浮かんだ表情は、大変興味深いものでした。


 そしてその顔を見た瞬間、私とむぅちゃんは互いに頷き合いました。

 そう、得た感想も、下した判断も同じだと認め合うように。


 持っているどころか、実はむぅちゃんが妖精の万能薬(エリクサー)作れちゃうという事実。

 そんな事実は魔境に帰るまで絶対に秘密にして、何が何でも隠し通そうと。

 今後の保身の為、二人でそう決心したのです。

 …だって露呈したら、むぅちゃんが監禁されそうな予感がしたんだもん。

 そう思っても無理ないような顔を、スピノザさんがしてたから。

 だから多分その予感は、気のせいじゃないと思います。




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