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ここは人類最前線6 ~光を受けし人の国~  作者: 小林晴幸
そうだ!毒草園に行こう!?
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111.許可証無き者、立ち入りを禁ずる…なんてお堅いこと言わないで?

勇者様がお篭り開始につき、今回は不在です。

 その後、勇者様は寝室(へや)から出てきませんでした。

 どうやら引籠りモードに突入してしまったようです。


「今回は何日くらいで出てくっかな」

「前の時はまぁちゃんの正体を知った時でも数日籠ってたし…

………魔王とトラウマなら、心理的ダメージ、どっちの方が上かなぁ」

「さあ?」

「でもまぁちゃんのダメージでも、数日で済んだし…勇者様、立ち直りは早いしね?」

「取り敢えず、僕は三日に賭けるよ」

「それじゃ私は五日に」

「おいおーい…勇者の兄さんが出てこない内に御前試合始まっちまったりしないよねー」

「さあ?」

「出てきて!? 出てきて、勇者の兄さん!」

「無理だろ」

「無理でしょ」


 最終的に、私達の意見は「そっとしておいてやろう」ということで落ち着きました。

 サルファは何かぶちぶち言っていましたけれど、

「いい加減にしないと、そのお口もぶちっっ…と、しちゃうぞ☆」

 そう言ったら黙りました。

 うん、物分かりのいい奴は嫌いじゃありません。

 好きでもないけど。

 

 触らぬ神に、祟りなし。

 勇者様は放置の方向で決まりましたし。

 私達は各々興味の赴くままに遊んで過ごすことにしました。←駄目発言。

 だけどサルファだけは、その将来がかかっています。

 それに勇者様の未来もかかっていますしね。

 巻き込まれて勇者様が酷い目に遭ったら、可哀想といえば可哀想です。

 今は精神的に弱っていますしね。

 踏んだり蹴ったりは、流石にちょっと…

 …という訳で、サルファだけ監視付きで戦闘訓練のスケジュールが組まれました。

 しかし相手は脱走の常習犯。

 それも凄腕騎士から逃げ続けたという経歴持ちです。

「ならば、ここは私が」

 そう言って進み出たのは、勇者様を追い詰める原因の一人。

 オーレリアスさんです。

 正直、貴方に何ができるの?という感じもしますけど………

「舐めないでもらおう。凄腕の騎士も逃げられるならば、人間以外を使う私が適任だ」

 そう言って順次召喚されたのは、猟犬と猟犬と牧羊犬と猟犬と…

 とにかく、犬でした。

 それからサルファの俊敏性対策に猿やら何やら呼び始めて…

 それらを巧みに組み合わせ、絶対に逃がさないと意気込んでおられます。

 なんとも、微妙ではありましたが。

「それでは」

 ということで、ここはお任せすることにしました。

 それでも逃げられるなら、その時は新たに人員を配備して包囲網を固めれば良い。

 とりあえず一日目(きょう)はオーレリアスさん一人にお任せしてみて、後は様子見です。

 

 しかし、私達はいわば食客の身分。

 これといって、やるべきことも義務もない。

 まあ、何が言いたいかと言いますと。

「暇だ………」

 その一言に尽きました。


 もう良いから、遊びに行っちゃおうかなぁ…?

 この王宮を、でっかいジャングルジムに見立てちゃってさ。

 でもいざそれを勇者様の目がない時にやったら、後で勇者様が発狂しないかな…

 ………うん、なんとなく気が引けます。

 大変珍しいことですが、自重していますよ。

 こ の わ た し が !!

 自分で自分に吃驚です。

 弱っている人を労わるだけの良心が、どうやら私にもあった模様。

 これで勇者様が平常通りで、特に何の心的苦痛も負っていないのなら。

 完全完璧に心身ともに健康体そのままだったら。

 このおっきいジャングルジムで、追いかけっこも(やぶさ)かじゃないんですけどね。

 楽しそうだし。物凄く、楽しそうだし。

 でも勇者様、今余計な心労をかけたら、それこそ死んじゃいそうだしなー…

 長く元気に楽しみ、遊ぶためには時にいたわったり労ったりするのも必要。

 適度な休息や回復を与えないと、勇者様も摩耗するばっかりです。

 だから、私も珍しく自重している訳で。


 はっきり言って、私の方が神経疲労過多(ストレス)です。


 ああ、何か楽しいことないかなー…

 気晴らしになるような、面白いことってないのかなー…


 うだうだ、ごろごろ。

 ソファに行儀悪く寝っ転がって、もだもだしていました。

 そうしたら、声をかけてくれる人がいたんです。

 それは、外出準備を万端に整えたむぅちゃんで、


「リアンカ、君も一緒に薬草園行く?」

「行くー!!」


 私には、それが天の声に聞こえました。


 そうだ、そうだ!

 薬草園(そこ)があった!

 この前に行った時は予定が詰まっていて時間が押していたし。

 何より、変な騒動に巻き込まれちゃったし。

 そのお陰で、全然見学できなかった。

 心いくまで、こちらの薬草を堪能できなかった!

 いざ、今こそ。

 そのリベンジに、向かうべき時です…!


 私は熱意に燃えて、がばっと起きあがりました。

 それから驚異的な短時間で、すっかり身支度整えて。

 我ながら新記録のタイムを叩き出し、薬草園へと向かったのです。

 

 肩をひょいっと竦めて、付いてくるのはまぁちゃん。

 色々と考えて、色々なモノを警戒しているのでしょう。

 私を一人ふらふらと出す訳にはいかないって、付いて来てくれました。

 その代り子竜達はせっちゃんとお留守番です。

 せっちゃんの今日の予定は、勇者様の庭で花冠を作ることだそうで。

 私とせっちゃんをそれぞれ付き添いなしに放置はできない。

 まぁちゃんはそう言って、ロロイにせっちゃんの側を命令(おねがい)したのです。

 ロロイは私に付いて来るって言ったんですけどね?

 方向音痴(リリフ)一人に任せる気か、と。

 まぁちゃんにそう聞かれて、むっつりと黙り込んでしまいました。


 この間の騒動から、薬草園の人達を警戒しているのでしょう。

 まぁちゃんは薬草園への付き添いは自分がするとのことです。

 竜だとばれたら、薬の材料にと迫られかねないので留守番してろと、そう言う訳で。

 相方(リリフ)の欠点を、挙げ連ねられて。

 ロロイは渋々、留守番を了承していました。

「ごめんね、ロロイ。お土産になんか素敵な食肉植物探してくるから」

「いや、食肉植物は良いから…」

「そう? マン●ーターとか探してくるよ?」

「いや、良いから」

「ってか、いるのか? こっちに」

「探せば…いないかな?」

「………探すなよ?」

 なんだか変な念押しされちゃいました。

 でもそんなことも気にならないくらい、浮き浮きわくわく。

 薬草園が楽しみで、楽しみで。

 今の私は、細かいことが気にならなくなっていました。


「………まぁ兄、頑張れ」

「おー…」


 ぺそぺそぺそと柵に沿って歩きます。

 薬草園から飛散した種が、敷地からはみ出して芽吹いていないかなぁと、変な期待。

「リアンカ、それもう僕がやった」

「おぉ…むぅちゃんに先越されちゃってたかー」

 てへへ、失敗失敗、と。

 照れ笑いを浮かべる私に、むぅちゃんが得意げにニヤリと笑う。

「それで成果は?」

「ふふ……後で僕の部屋に来なよ」

「あ、何かあったの!」

「後でね、後で」

「じゃ、楽しみにしてる」

 にこーっと笑う私と、ふふふと笑うむぅちゃん。

 笑い合う私達の後ろで、まぁちゃんが寒気でも感じたような顔をしていました。


 そうして辿り着いた薬草園では、前回と同じ人の熱烈な歓迎を受ける羽目に…

「よくぞ来られたムー殿、お待ちしていた!」

 あの、白衣男。

 スピノザさんです。


 知的探究心をこじらせて、人間として何か大切なものを見失ったスピノザさん。

 うわぉ、この人のことすっかり忘れてましたよ。

 今日も今日とて、自分にとって未知の技術を持つむぅちゃんに興味津々です。

 うん、うざい。

 鬱陶しさも全開の纏わりつきっぷりに、顔が引き攣りそうです。

 しかしながらむぅちゃんは、もう慣れているのか気にしていないのか。

 ただただ、涼しげに平然とした顔で。

 かなり自然に、空気の如く無視している。

 ………むぅちゃんも大概、肝が太いよね…。


 スピノザさんの存在など目もくれず。

 むぅちゃんはさっさかさっさか歩きます。

 以前に一回来たっきり。

 しかも変な騒動のせいで、じっくりと見て回る猶予もなかった。

 そんな私には、むぅちゃんが何処を目指しているのかも、分からなくて。

 だけどむぅちゃんは自分の思うところ、望みに真っ直ぐ一直線だから。

 私に特に説明することもなく、すたすたと歩いています。

 その後につき従うスピノザさん。

 私はまだここの何処に何があるのかも知らないし。

 良く当てもないので、むぅちゃんについていきます。

 正直に言って、興味がありました。


 このむぅちゃんが、脇目も振らずに目指すほど。

 そんなにむぅちゃんの注意を引く、彼の目的は何なのか…と。


 だから私は、むぅちゃんについて歩きます。

 引き離され、はぐれることのないように。

 そしてそこかしこに植えられた、薬草への誘惑に魅入られることのないように。

 ………何度か、ふらふらと道を逸れそうになりましたけどね。

 一度でも注意を引っ張ってくれた薬草に関しては、ばっちり心のメモに記載しました。

 …後で時間を見つけて、もう一度足を運んでみようと思います。

 そう、心の中は決意をぐっと固めながら。

 私はそれでも、むぅちゃんの目的を見定めるためについて歩きました。

 そんな私を、時折むぅちゃんがちらっと眺めて。

 いい度胸だとでも言うように、ちらりと目の端に満足そうな笑みを刻んでいました。



 そうしてやがて、むぅちゃんの先導で私達が辿り着いたのは………


 ………目にしたなら、私達との組み合わせと見比べて、勇者様が泣きそうなものでした。

 それは、薬草園の端。

 更に一角の方向に、奥深く。

 元々薬草園全体が、柵で囲われていますが。

 そんな敷地内にあって、更に厳重に頑丈な柵で区切り取るように囲われた場所。

 それほど広くはなさそうでしたが、そこが薬師にとって如何に大切か分かります。

 ええ、看板が掲げてあったので、一目で分かりました。


 周囲に罠でも張り巡らせていても、不思議じゃないくらいの囲みの中。

 その柵の内外を繋ぐ唯一の出入り口だという、小さな門。

 そこには達筆な力強い文字で、書いてあったのです。

 誰からどう見ても確かなくらいに、分かりやすく。

 それはそれは、はっきりと。宣言するように。

 そうして、宣言の内容を示すように、記された名前。

 そう、そこにはこう書かれていたのです。


 ――………『毒草飼育畑管理出入り口 許可証無き者の立ち入りを禁ず』…と。


 それ、要はつまり『毒草園』ですよね?


 何ということでしょう。

 私達の目の前に、何とも私達の期待を煽って仕方のない場所。

 それが硬く扉を閉ざしたまま、悠々と立ち塞がっていたのです。






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