9.おふろタイム3
ロロイの犠牲は無駄にはしません…!
今日はお待ちかね(誰も待っていないかな?)女の子三人の入浴タイムです!
といっても、大したことはしませんが!!
別に裸の解説はしないよ! しないからね!?
ロロイの尊い犠牲のお陰でお風呂の入り方が分かりました。
自分達でできる限りのことはやって、外せない部分だけ手伝ってもらうことにしました。
入浴後の手入れとか、裸じゃなくてもできる部分は使用人さんに手伝ってもらうことにして。
後は、実践です。
私達がわやわや騒いでいる間に、勇者様は何やら予定が迫っているようで。
勇者様のお部屋のお風呂には勇者様が入ります。
持ち主だし、優先優先。
その間、他のお風呂…大浴場に案内しますよ、と。
サディアスさんが、そんな提案。
「お風呂って、そんなにすぐ簡単に入れるんですか?」
私の疑問に、慌ただしくしながら勇者様が答えてくれました。
「うちの城…というか王都は、近くの山から温泉を引いているから」
「温泉!」
うわ、さりげなく豪華だ…。
「川の水と温泉を、両方パイプで通していて、年中水もお湯もすぐに使えるようになっている」
「それは凄いですね…。どなたが、それを?」
「八代前の王、だったかな…何百年か前のことになる。
でも、今でも十分に使えるし便利だ。記録によるとそれで民の生活も随分と向上したらしい」
「勇者様にはご立派な先祖がいるんですねぇ…」
「………君のとこには負ける。例の檜の人とか」
ああ、檜武人。
確かに檜の棒一本で魔王に突撃とか(笑)
うちの御先祖の偉業の方が、確かに凄い(笑)
いよいよ時間がなくなってきても、勇者様は私達への気遣いを忘れません。
「着替えは、サディアスが用意する。城には客人用の衣装があるから気にしないでくれ。
多分、サイズは汎用的なものになってしまうので着心地は今一かもしれないけど…」
「あ、一応着替え持ってきてますよ? 普段着じゃ場違いかと思ったので、無難に訪問着と正装と。
数は、そんなにありませんけど…」
私はただの村娘。
でも父は村長です。つまり、地元(魔境)の名士。
それに、従兄が魔王陛下ですから。
そんじょそこらの娘さんに比べると、意外に衣装持ちです。
母が張り切るんですよね…娘を着せ替え人形にしたいらしくて。
毎年、誕生日と祝祭日に何故かドレスを新調させられます。
そんなプレゼントより、もっと違う何かが欲しい…。
でも毎年、両親からの誕生祝いは何故かドレス。
一体、いつどこで着れと…?
まあ、普段は全く使う機会がないのでクローゼットに封じられていたような衣装ですが。
幸いにして、虫食いはなかったのでいけると思います。
良かった、特製の防虫剤(桃の香り)を仕込んでおいて。
去年のドレスは辛うじてサイズが合いましたけど、一昨年以前のドレスは着られませんでした。
残念なことに、体が成長して入らなくなっていたんです…。
………特に、胸が、きつきつで。
着る機会が全然無かったままに、ドレスは親戚の女の子へ譲ることにしました。
…だから、衣装のプレゼントは嫌なんですよ。
しかし、絶対に着る機会などないと思っていたのに。
思いがけず、ここで着る機会が来てしまいました。
母さん、大はしゃぎ。
気付いた時には、まだ着られるドレス三着と、訪問着をすべて荷物にまとめられていました。
小道具も合わせてあれもこれもと持たされて、ちょっとした一財産持ち歩いている気分です。
あの石も、あの結晶も、あの金属も。
魔境でも奥地の奥地に行ったって、滅多に手に入らないのになぁ…。
人知れず、私の荷物は凄いことになっていました。
盗難防止対策を、私が真剣に悩むくらいには。
…といったことをお伝えすると、一瞬だけ勇者様が瞳の色を虚ろにさせました。
「リアンカ…荷物の管理は、しっかりな」
「嫉妬した勇者様の信奉者に隠されないよう、万全の体勢で迎え撃つ用意は整えましたけど」
「それ、俺の離宮が吹っ飛ぶようなものじゃないだろうな…!?」
「……………」
「……リアンカ、悪い事は言わない。荷物はまぁ殿に預かってもらえ。それがきっと一番安全だ」
「私もそんな気がしてきました…」
その後、荷物を預かったまぁちゃんは、荷物に呪いをかけてくれました。
不当な者が無断で持ち出そうとしたら、髪がいきなり三m伸びて首や手足を絞めてくる呪いを…。
「ちょっとした怪談ですね?」
「俺の離宮が『呪われた離宮』とか噂される危機に…!」
「誰も盗もうとしなければ大丈夫だろ、誰も盗もうとしなけりゃな」
「盛大に不安だ…」
勇者様、治安維持にもっと力を注いだ方がいいよ。
私の持ち込んだ衣装は、どれもこれも勿論ながら魔境風。
こちらの王国の様式や流行りとはかなり違っていて、とても独特だそうです。
現物を見た勇者様も、感心しながら言いました。
「十分にこっちでも使えると思う。でも異国っぽくて目立つな」
「何か直した方がいいですか?」
「いや、話題になりそうって意味で悪くない。魔境から来たと訴えかける説得力があるよ」
「悪い意味じゃないならいいんですけど…目立ちますか」
「取っておきの時に着た方が良いな。ここぞという時に着るべきだ」
「勇者様がそう言うんなら、当面はしまっておきましょうか」
「………そうだな。その方がいい」
後でいつ着るのか打ち合わせしようと、そう言い置いて。
勇者様はとうとう私に構う余裕を完全に失い。
大いに焦った顔で浴室に消えていきました。
「同じ衣装を着まわしちゃいけないなんて、お城って面倒ですねー…」
「権威主義ってやつかねぇ。質実剛健な魔境じゃ、あまり意味のねえもんだな」
肩を竦めるまぁちゃんは、私達の頭をちょっと撫でて苦笑していました。
さて、ようやっとお風呂です。
着替えはばっちり用意してもらいました。
王子様のお客さんってことで、そこそこに良い衣装を貸してもらえたらしいのですが…
正直に言うと、裾が長そうで面倒。
でもせっちゃんとリリフを飾る楽しみがあります。
リリフは翼が堂々と露出しているので、背中の出ているワンピースを用意してもらいました。
本来はその上から更にいろいろ着込むので、下着寸前みたいな衣装だそうです。
サディアスさんが苦い顔をしていましたが、仕方のないことでしょう。
大急ぎでリリフに合わせた衣装を手配しますと言い置いて、きびきびどこかに去っていきました。
今日はこれで我慢してほしいそうです。
明日からリリフは専用の衣装をもらえるのかな…?
「良かったね?」
「私一人の為に、申し訳ありませんわ…私よりも主様を優先していただきたいのに」
「リリちゃんは背中に翼があるから仕方なーいの~」
気にする子竜に笑いながら、私達はするすると旅の汚れに草臥れた衣装を脱いで…
十代の少女二人と、十代に辛うじて見える少女一人。
身に何も纏わない姿で、大浴場に足を踏み入れました。
「三人でお風呂、とってもお久しぶり、ですの!」
うふふ、と嬉しそうにせっちゃんが笑います。
その髪の毛は下ろされ、さらりと背中から足首までを覆い隠して…
「……まずは、せっちゃんの髪をまとめよう」
「そうですね、必要ですね」
私とリリフは頷きを交わし、せっちゃんの髪の毛を緩く三つ編にしました。
後で髪の毛を洗ってあげるまで、このままにしておきましょう。
のんびりうっとり、お湯に浸かって極楽極楽。
素肌に滑るお湯は、私達の肌をしっとりすべすべにしてくれるようです。
「温泉、好きー」
「私も好きですのー」
「うー…気持ち良い」
ふにゃあと、溶けてしまいそう。
三人で身をもたせ合い、泳げそうな大浴場でまったりです。
「せっちゃんすべすべつるつるー。しっとりしてて吸い付くようよね」
「主様のお肌は真っ白で、雪肌ってやつですね」
「リリちゃんはふわふわぷにぷにですの!」
「ありふれた子供肌ですわよ、ただの」
「それが気持ちいいんじゃないの」
「リャン姉様はふかふかしていますの」
「ふかふか………微妙。微妙ね。なんだか太ってるって言われてるみたい…」
「ぷにぷによりはマシじゃないかな…?」
「せっちゃんはリャン姉様の体大好きですの。柔らかくってとっても気持ちいいんですもの!」
「って、せっちゃん埋まってる埋まってる!」
そりゃあそこは確かに柔らかかろうよ!
勢い抱きついてきたせっちゃんは、現在私の胸に顔を埋めておいでです…。
た、谷間にすりすりするのは止めてほしいかなー………。
大浴場は、本当に広い浴室でした。
お湯は源泉かけ流しって奴でしょうか。
終始流れるに任せて溢れっ放しです。
大きめの注ぎ口から、小さな滝のように丁度いい湯加減のお湯が注ぎ続けています。
ふわっと匂い立つ花が湯船に浮かべられ、お湯の流れにそってくるくると踊り続けていました。
床や壁は、一面のタイル。
宝飾品にはならない宝石を使っているみたいで、タイルは光を弾いてキラキラしています。
磨かれたタイルがモザイク画を作り出していて、目にも楽しく見事です。
「姉様、あの絵はなんですの?」
「どれー?」
「天井の、あれですの」
「ん~…」
「ヨシュアンみたいなのがいっぱいいますのー」
「せっちゃん、あれは天使じゃないかなぁ…」
「天使って、ヨシュアンの仲間ですの?」
「いや、あんな卑猥な画伯の仲間にしちゃ天使が発狂するよ」
「ひわい?」
「ああ、いや、なんでもないよ…」
無垢なせっちゃんの目が、眩しい。
何しろエロ本を新手の栄養ドリンクか何かだと思うような子です。
きっと画伯の副業に関しては何も知らないんだろうなぁ…。
あんなに、あからさまなのに。
「リャン姉さん、あれはなんでしょう」
「あれ、今度はリリ? 何が気になるの」
「あの天窓の…」
「ステンドグラス?」
「なんだか、勇者さんに似ています…」
「………あれ、女神だと思うよ」
「でも、似ています」
「そうだねぇ…キラキラ具合と、金髪碧眼が似てるかな」
「です」
肯定すると、満足そうに頷いていて。
リリフの中で、ステンドグラスの女神=勇者様になりつつあるような。
この国は『選定の女神』を信奉しているそうなので、多分それだと思うんですけど…。
でもリリフがそれで納得しているみたいなので、放っておきました。
→勇者様=女神説が人知れず浮上した!
カリスマが4上がった!
しかし、肌を滑るお湯の肌触りは癖になりそう…。
勇者様ったらいい暮らししてますねー…王子様だから、当然か。
幼気なせっちゃんの全身を磨きあげ、リリフの翼を揉む様に洗って。
「…二人とも凹凸が少ないから洗いやすいね」
「これからに期待です!」
「凹凸? せっちゃんの身体はボールじゃありませんのよ?」
「せっちゃん…貴女はきっと意味を取り違えている」
「???」
凹凸がない=球体という凄まじい誤解が発生しましたが。
せっちゃん本人が深く気にしていません。
そんなものかなぁ…。
柔らかいのにまだまだお子ちゃまな体は、大変洗いやすかったです。
それからせっちゃんの洗う手間を考えると鬼のような髪の毛をリリフと二人がかりで洗い。
泡塗れになった全身をお湯で濯ぎ。
香油を使ったマッサージは意外にリリフが丁寧にしっかり上手で。
全身を揉み上げ、つるつる卵肌にされた…。
もう逆上せるんじゃないかというくらいに。
この素敵な大浴場を余すとこなく堪能して、気持ち良い時間は終了しました。
お風呂を出たところで、私達は一先ず入浴用の衣を着衣。
後の手入れや何やらを使用人さん達に手伝ってもらって。
それからやっと、本格的にお着替えです。
いつもとは、ちょっと気分も変わる。
普段とは一風変わった装いが、私達を待っていました。
ちなみに勇者様のお国は、夏と冬の冷暖房にも温泉と水が流れるパイプを利用しています。
パイプの切りかえレバーがあって、季節でお湯と水の流れるパイプを切りかえているのです。冬は温泉熱、夏は冷水の冷却効果でお部屋快適♪
※ただし、自在に切りかえられるのは金持ちの家に限る。




