甘い現実
「ほら、早く来いよ」
この裏山は、小さく危険が少ないので子供の頃からの遊び場だった。
この山は、斜面は木々に覆われているのだが、頂上が平らで広場のようになっている。だから町の人は、広場山と呼んでいた。
広場山の脇に自転車を止め、真樹斗は山道を登りだした。
しかし、いくら馴染みの山とはいえ真夜中の山は、怖い。
私は、怖じけずいてしまった。しかし、真樹斗は平然としている。もう数メートル先を行っている。
(あ!夢だ!正夢じゃん、ど、どうしよう真樹斗に置いていかれたら…)
私は、数日前に真樹斗に置いていかれた夢を思い出し、また置いていかれるのではと怖くなった。
(ま、真樹斗…)
しかし、先に行ったと思った真樹斗は、すぐに引き返して戻ってきた。
そして、私の手を握った。
「大丈夫か?靴のサイズあってる?」
私は頷いた。
用意のいい真樹斗は、お母さんの靴を持って来ていた。あと、寒かったら雪香ちゃんのパーカーもあるらしい。
「あっちに階段があった。怖くないよ。ちゃんと着いてるから、離れるなよ」
真樹斗は、そう言って私の横を歩いてくれた。
(階段を探しにいってたのか)
真樹斗の手は温かい。不思議とさっきまであんなに怖かった夜の山は、月光に照らされた美しい世界に変わっていた。
(本当の真樹斗は、私のことを置いていったりしない)
真樹斗の優しさに胸が熱くなった。
二人は、山道を抜け、山の頂上までやって来た。満月の夜。誰もいない広場の芝生は夜露に濡れていた。
静寂の中、星ばかりがキラキラと賑やかに、ひんやりとした空を彩っていた。
真樹斗は、大きめのリュックをおろした。
そしてガサゴソと中から、大きな布を引っ張り出した。
「ねえ、真樹斗、何してるの?」
真樹斗は大きめの布を、地面に広げた。四隅に石を置いて固定した。
真樹斗が、よし!と言ってこちらをみた。
「さあ、ここに仰向けになって」
「えっ!」
私は、また顔が赤くなる。
(え、何で?私だけ?それとも真樹斗も…そ、それは…)
真樹斗をちらっとみた。今は真樹斗は、空を仰いでいる。
そして、真樹斗はとんでもないことを口にした。
「今からUFOを呼び出す」
真樹斗は、またにっと笑った。