第三章~ターゲット・御堂綴~
1月5日。
御堂綴抹殺の期限まであと二日だった。
なぜ今日まで何も動きがなかったのか、それは簡単な話だった。
(御堂の居場所なんてしらねぇから、結局学校始まっちまったじゃねぇか・・・)
高校までは、沖田の家から歩いて20分ほどだった。
沖田は学校へ向かいながら、御堂をどう殺すか考えていた。
(やるなら放課後・・・あいつが帰るころを見計らってどこか人気のないところに連れて行って殺す!!)
沖田もただ無駄にこの数日間を過ごしていたわけではなかった。
他人の声をきく力は、沖田の意志でオン・オフが可能であることが分かった。
不思議なホーミングも沖田の意志で動くことが分かった。
つまりあの時、‘スーツの男を確実に殺したい’という意志が働いた結果、心臓にきれいに刺さったのだった。
他にわかったことといえば、基本的な身体能力が異常レベルまで上がっていること、
そして、怪我の治りがはやい、いわゆる超回復という体になっているということだった。
沖田が御堂抹殺の計画を立て終えるか終えないかのところで、学校についた。
沖田は学校が嫌いだった。
そもそもなぜ大晦日のあの日、自殺しようとしたのだろうか。
今から約9ヶ月前、高校入学式の日のことだった。
「行ってきます!!」
その日沖田は元気いっぱいに家を飛び出した。
待ちに待った高校生活が始まろうとしていたこの日、沖田は朝早くに家を飛び出した。
高校につくと、さすがにまだ誰もいなかった。
サッカー部の朝練のために登校してきた教師に軽く挨拶すると、
沖田は構内を見てまわっていた。
その時であったのが御堂綴だった。
「おやおや、君は・・・」
「今日からお世話になります、沖田周です!」
「あぁ、新入生ですか。
私は、御堂綴。物理教師をしています。
君たちの学年も持つことになっているから、どうぞよろしく。」
沖田は御堂の差し出してきた手をとって、握手をした。
「ところで・・・こんな朝早くからどうしたんですか?」
「あ・・実は、待ちきれなくて早く来てしまったので構内を見ておこうかと。」
「感心ですねぇ!素晴らしい!沖田くんでしたっけ?覚えておきましょう。
こんな素晴らしい子に勉強を教えられるなんて、こんなにうれしいことはありませんよ。」
「どうも・・」
沖田は照れながら御堂にこたえた。
「では、、私は仕事があるのでこれで失礼するよ。」
「はい!どうも、貴重なお時間を失礼いたしました!!」
「いやいや気にすることはないよ。ではまた、授業の時に会いましょう。」
御堂は物理準備室と書かれた部屋へと消えていった。
それからほどなくして、沖田も新入生の待機場所へと集合した。
そこには、中学でも親しかった面々が何人かいた。
「よう沖田!俺達また一緒のクラスだな!」
「まじか、高崎!」
沖田と、高崎と呼ばれた沖田の一番の親友は喜びの握手を交わした。
「お前らマジ仲いいよな。」
残りの面々も沖田を輪の中心として集まっていた。
「そうだ!みんな聞いてくれよ!」
沖田は唐突にみなに言った。
「さっき御堂っていう先生にあってさ、めちゃくちゃいい人そうな先生だったんだ!
俺あの先生なら、どんなに困ったことがあっても助けてくれそうな気がするよ!」
沖田は興奮していた。
その熱に押されつつも高崎はにっこりと笑って言った。
「そうか、お前が言うんじゃよっぽどだな!」
そんなバカ笑いをしながら、無事入学式が終わった。
そしていよいよ担任紹介。教室のドアがガラリとあいた。
「みなさん、今日から一年間このクラスの担任をします、御堂です。」
「御堂先生!」
沖田は思わず声をあげてしまった。
「おや・・?沖田くんじゃありませんか!そうですか、君はこのクラスなんですね。
・・・おっと失礼。みなさんとはまだ初めましてでしたね。
私は物理を担当します。みなさん、どうかよろしく。」
拍手が鳴り響いた。
沖田もひときわ大きな拍手を送る。
「どうもどうも。」
こうして高校生活の一日目が終わった。
次の日から早速授業がはじまった。
「さて、では物理の授業をはじめましょうか。」
今は物理の時間。御堂はまず簡単な小テストを行った。
この時から、明るい沖田は徐々に失われていった。
やめ、の一言で答案が回収されていく。
沖田は一番後ろの席だったので、回収する側だった。
「さて・・では今から一人ずつ〇をつけて返しますよ。
100点満点で50点以下の人は、戒めのために名前を呼ばせてもらいます。」
(えっ・・・?)
沖田は一瞬言葉の意味がわからなかった。
それは、先生がそんな事をするはずがない、という思い込みからだった。
「安藤くん。」
「はい」
それから、次々に名前が呼ばれていく。
「沖田くん。」
「はい」
「素晴らしい、満点です。みなさんも見習ってくださいね!」
沖田は疑問を忘れて一瞬照れてしまっていた。
それ以降しばらくは点数を読まれるものはいなかったが、その均衡がやぶられたのは
沖田の中学からの同級生に差し掛かったときだった。
「曽田くん。」
「はい」
「何を学んできたんです?まったく・・・35点。」
「高崎くん。」
「はい」
「君は小学校からやり直すべきですね。10点です。
・・・バカ崎くんというあだ名にしましょうか。みなさん、それでいいですか?」
「・・・」
「どうですか!?」
御堂に気圧されてパラパラと拍手が起きる。
そうして、その日の授業は終わった。
帰りのHRが終わると御堂が高崎に何か話しかけていた。
御堂が去っていくと、沖田は高崎に走り寄った。
「・・なに・・言われたんだ?」
「バカ崎くん、あとで物理室に来なさいって・・・。
なぁ沖田・・・あいつのどこがいいやつなんだよ・・・この、うそつき・・・。」
「ぇ・・ぁ・・・」
沖田は何も言えなかった。
それは、沖田自身も現場を見てしまっていたから。
そしてその後も御堂の公開処刑は続いた。
沖田の友人たちも、次々とひどいあだ名をつけられていった。
そして一ヶ月後の朝。高崎達数人が来ていなかった。
「おはようございます。えー、まことに残念ですが、曽田くんがおうちの都合で転校してしまいまし た。はい、では一時間目の授業の準備をしてください。」
(あいつが転校・・・?)
沖田は疑問に思った。
だが、思うだけでほかに答えが出るわけではなかった。
そしてその日、帰りのHRのときだった。
「では、以上です。今日はこれで・・・」
その時、ガラリと扉が開いた。
「た・・かさ・・き?」
沖田は確かめるように言った。
そこには、制服に、ナイフを片手に握った高崎がいた。
「おやおやバカ崎くん。今頃登校とは、本当にバカなんですね。」
御堂は落ち着いていた。気持ち悪いほどに。
「曽田達の分もだ!!死ね、御堂!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
グサリと御堂の腹にナイフが突き刺さった。
教室からは悲鳴が上がった。
「・・騒がないで・・ください。」
御堂の声がきこえた、が、それで静かになるわけもなかった。
「騒ぐな!!!!!!」
こんどは血反吐を吐きながら叫んだ。
あたりがしんと静まり返る。
「みなさん・・このことは誰にも言わず、速やかに帰りなさい。さぁ。」
すると、クラスメイト達は次々に帰って行った。
残ったのは御堂と高崎、そして沖田だった。
「おや・・私の言うことがきこえませんでしたか?はやくかえっ」
「黙れ!」
高崎が怒鳴る。沖田はただ呆然と見ていることしかできなかった。
「・・うるさいですね。バカ崎くん!!」
御堂は後ろ脚を使って器用に高崎を吹き飛ばした。
そしてゆらりと立ち上がる。
「自殺なんかしてくれると助かるんですけどね、高崎くん。」
御堂が初めて高崎と呼んだ。
すると、高崎はゆっくりとナイフを自分の胸につきたてると
グジュリッ!
そのまま自分に刺した。
「・・み・・ど・・う・・。・・・。」
そして高崎がその場に力なく崩れ落ちた。
「まったく・・手間をかけさせやがって・・・。」
その時、沖田の中で何かがプツリとキレた。と同時に他の教師達が声をききつけてやってきた。
「どうされたんですか!御堂先生!」
教師たちが教室に入ってきたとき
「御堂ぉぉぉ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」
沖田の拳が御堂の顔面にめり込んだ。
それからのことは、沖田はよく覚えていなかった。
教師たちに取り押さえられ、警察がきて、そのまま連れて行かれた。
だが、親に連絡がいくことはなかった。
御堂は沖田の通う高校の支援をしている会社の人間だったらしく、わかりやすくいってしまえば
すべてもみ消された。
高崎の死さえも。
沖田は少年院にこそ連れて行かれなかったものの、二ヶ月の謹慎をくらった。
沖田の親は何をしたのかと問うことはなかった、というよりは問えなかった。
それから、沖田という人間は変わってしまった。
学校をさぼることも多くなり、不良生徒のレッテルをはられた。
高崎も死に、旧友たちも音もなく次々と不可解な転校をしていった。
沖田は人生が馬鹿らしくなり、節目となる大晦日のあの日、死ぬことを決心したのだった。
そして今に至る。
沖田が登校してきたことは、他の生徒たちには驚きのことだった。
(なんでだ・・なんでみんな、高崎達のことをあのあと誰も口にしない!)
沖田はすでに居心地が悪くなっていた。
そこに、御堂がちょうど通りかかった。
「おやおや沖田くん・・・めずらしいですね。」
御堂がにたりと笑う。
(やめだ・・・今殺す!!)
沖田が御堂に飛びかかろうとしたときだった。
一人の女子生徒が沖田の肩をつかんだ。
「あぁ!?」
沖田は振り返る。すると、隣のクラスの日比谷 美恵がいた。
「先生、おはようございます。」
「あぁ、おはよう日比谷くん。
・・沖田くんとは知り合いだったかね?」
「はい!ちょっと用事があって・・」
「そうですか。では、私はこれで。・・・沖田くん、またあとで。」
御堂が去っていく。
(クソッ!クソッ!)
「何なんだよてめぇ!」
「沖田くん、落ち着いて。」
『馬鹿か貴様。何の策もなしに御堂を殺せると本気で思っているのか!』
「!?」
(今、俺はオフにしてるはずだぞ!?なんなんだ?)
「あなたが学校にくるなんてどういう風の吹きまわし?」
『私の側から強制介入したのだ。・・・まったく、貴様が本当に桐谷さんの後釜なのか?』
「別に・・・。」
(くそったれ・・・てめぇは何もんだ?なぜ桐谷のことをしっていやがる?)
「そっ!最近はどお?」
『貴様と同じ、執行人よ。桐谷さんは私たちの部隊のリーダーだった。』
「俺にうれしいことがあったと思うか?」
(部隊?何だそいつは?)
「あってもいいと思うわよ?」
『貴様、本当に何も知らんのだな・・・。仕方があるまい。今日の放課後、正門にこい。
貴様の疑問すべてにこたえてやろう。』
「はっ!俺はもういくぞ。」
(・・・てめぇには今いろいろとききてぇことはあるが・・・・わかった。後にしてやるよ。
御堂をいつやるかは俺の勝手だがな・・・。)
「えぇ、またね。」
『わからずやめ。ならば一度やってみるといい。後悔するぞ?』
「・・・・・」
(その言葉遣い、直した方がいいぞ。)
沖田は馬鹿にしたような笑いを浮かべ、教室へと向かっていった。
当然教室に向かったところで授業を受けるわけでもなく、沖田は御堂を殺すタイミングをうかがっていた。
ところが、御堂を追っているとことごとく御堂に気づかれ、
「おや、沖田くん。どうしました?」
の一言をききつけてか、周りの生徒たちが沖田を囲んでいく。
不自然なほどに。
物理の授業終わり、沖田は授業には出席せずに待ち伏せしていた。
そこに御堂が通りかかる。
「やっと一人だな、御堂。」
「・・・君もしつこいですね。いいでしょう、なんですか?」
「いいや、ちょっとな。」
(死ね!!)
沖田は手の中から針をはじき出す。
それは沖田の意志に従って御堂の心臓に突き刺さった。
「!?」
『な・・・に?』
御堂が崩れ落ちる。
「高崎達の痛みを思い知れ。そして死ね。」
「ンフフフフッ」
「何がおかしい!!」
「・・・・騒ぐなよ。
フフフ・・・所詮桐谷の選んだ男といえどこの程度。
これがおかしくないわけがないでしょう?」
「!!!!!!!!!!!????????????」
(なんでこいつまで桐谷のこと!?)
「そんなに驚くなよ。しってるさ、桐谷武幸なら。」
「!?」
(こいつも心を読めるのか!?)
「読めるさ!
・・・まぁいいか・・・とりあえず、私からも一発お返ししましょうか!!!!」
「ぐがぁぁぁぁ!!!」
御堂の蹴りが沖田のみぞおちにもろに入る。
すると、人間の脚力ではあり得ない距離吹き飛ばされ、壁に激突した。
沖田が床に崩れ落ちると、すでに目の前には御堂がいた。
「この程度では死なないでしょう?私はこれで・・・。」
「・・・・・」
(何で誰もこの騒ぎをききつけてやってこねぇ?)
御堂が背を向けて歩きはじめた。
「君では私は殺せませんよ。一応私も、幹部でしたから・・・」
「・・・・・?」
御堂の姿が見えなくなると、周りにちらほらと人が出てきはじめていた。
まるで今までは、何かに阻害されていたかのように、壊れた壁にも気付かずに。
そのあと沖田は、正門傍で日比谷を待った。
六限終わりのチャイムの少しあとになって、日比谷がこちらへと走ってきた。
「待った?」
『見たぞ、貴様のみじめな負けっぷり。』
「ああ、だいぶな。」
(どこにいやがった?)
「じゃぁいこっか。」
『それは秘密だ。』
「行くってどこにだ?」
(はっ!どうせてめぇもビビってでてこれなかったんだろ?)
「私の家!」
『いや、出て行ったら貴様のプライドを・・まァあるのかは知らんが、傷つけてしまうと思ってな。』
「家!?」
(なっ!てめぇ・・・)
「さぁ、行きましょ!」
『詳しいことはついてから話そう。内の会話だけでは不便なこともある。』
「・・・・ッチ。」
「ここよ。」
日比谷が玄関をあけると、日比谷の母が出迎えた。
「お帰り。」
『美恵、その子は?』
「ただいま、お母さん。」
『例の、桐谷さんの後釜・沖田周です。』
「あらあら、美恵が男の子を連れてくるなんて。」
『あなたが例の・・・・』
「・・・・ど、うも。」
(おいおい、てめぇも執行人なのか?)
「沖田くん、入って。」
『馬鹿もの!この人は幹部のお一人、末原 咲様だぞ!』
「ああ・・・」
(幹部・・・?またかちくしょう・・・。)
「いらっしゃい。」
『美恵、まあいいわよ。とにかく、中で話しましょう。』
扉が閉まる。すると、都会の喧騒がパタリとやんだ。
「なんだ?静かになったな・・・・」
「当然だ!こちらとあちら、扉を境界にして、世界は別のものになっている。」
「改めまして、幹部の末原咲といいます。
美恵とは、家族のフリをして日常に溶け込んでいます。」
「私は日比谷美恵。さっきも言ったが、桐谷さんが指揮していた部隊に所属していた。」
「俺の自己紹介なんてしねぇぞ?
・・・で、その部隊とか幹部っつーのは何なんだ?」
「わたくしからご説明いたしますね?」
「ですが・・・」
「いいのです。」
「わかりました・・・。」
「では・・・。まず、部隊というものは、現在はありません。
そもそも、部隊というものはターゲットを抹殺するために組まれたものでした。
ですが、一年前に変革が起きたのです。
数名の幹部、数名の部隊長が、
われわれの組織、通称・‘HARMEL’の壊滅を目論んだのです。
そして、半数はなんとか逃げおおせたのですが、残りは死亡。
幹部も15人いたのですが、現在は5名。
変革側にも5名います。
そして、残った我々で、新たに組織を編成し、裏切り者どもの抹殺をしているのですが・・
数は未だ不明。そして、大晦日のあの日、桐谷が幹部の一人を討ちました。
ですが、当然無傷では済まず、核をやられ死期を感じた桐谷は以前より目をつけていた
あなたのところにやってきたのです。
そして、今に至ります。」
「・・・わけがわからんことをぺラペラと・・。
だがあの日、桐谷の野郎は怪我をしているようには見えなかったぞ?
つーか核ってなんだ?」
「それは、桐谷がパーソナルスキルの幻覚を使ったからでしょう・・。
核といいますのは、我々の生命源。
これを壊されれば、どんなに無傷でも、500年を全うしていずとも死にます。
ただ、人によって核の場所は違います。」
「だが桐谷は、俺に、この力には恨みを持っていると言っていたぞ?
そしてターゲットを殺せば、時代が動くともな。」
「それは私が説明しよう。」
「桐谷さんは、貴様に嘘を言ったのだ。
どの段階までがうそかといえば、恨みを持っているということだな。
そもそも、この執行人には選ばれた者しかなることはできん。
時代が動く、というのは本当だ。
確かに的確にターゲットは指定されていた。
が、未だにそれがどこから来ていたものなのか、幹部の方々にすらわかっていない。
まあ今は、変革派の抹殺が主だがな。」
「じゃぁ、いま一番の疑問だ。御堂の野郎は何もんなんだ?」
「彼は、わたくしと同じ、幹部でございます。ただし、先ほどお話しした変革派の。」
「じゃああいつもパーソナルスキルとやらをもっているのか?」
「えぇ、パーソナルスキル・洗脳の声ですね。
彼が認識した対象を声を使って操ることができるのです。
部隊長の数名は、これに操られているために変革派にいるようですし・・・・。
あなたは、この攻撃を受けているんですよ?すでに」
「な・・・に?」
「おかしいと思いませんでした?
高崎くん、彼がナイフを持って入ってきたあと、御堂の一声で騒ぎがやんで帰って行ったこと、
そしてそもそも高崎くんが人を殺すような人間かどうか・・・
それはあなたが一番よく知っているでしょう?」
「何が言いたい・・・」
「すべて、御堂の仕業ですよ。
彼は、あなたのような人間から、親友達と呼ばれるものを奪い去りたかった、
消し去りたかった、それだけなんです。」
「じゃあ・・なんで俺は洗脳されていない?」
「受けていますよ、少しは。
ただ、先程申し上げたように、桐谷が目をつけていたので、
あなたに危険が及ばないように多少幻覚をかけていたのですよ。
御堂に気づかれない程度に・・・ね。」
「なんで・・・何で野郎はとっとと御堂を殺さなかった!?
なんで、クラス中の人間に幻覚を施してやらなかった!!」
沖田は末原の胸ぐらをつかんだ。
が、すぐに横から一蹴された。
「馬鹿ものが!
桐谷さんもそうしてやりたかったのは山々だったのだ!」
「じゃあなぜやらなかった!!!!!」
「貴様を守るためだ!!」
「!?」
「複数人に幻覚を施すと、御堂に感づかれてしまうんですよ。
そして幹部の彼を、桐谷といえどやすやすとは殺せなかったのです。」
末原が言葉を補った。
「すべては、後継者であるあなたのために・・・。」
「・・・んだよ。だったら・・・俺なんか・・・俺なんか守るんじゃねぇよ!!なあ、桐谷ぁぁ!!」
沖田は泣き崩れた。
そこには、友を信じてやれなかった悔しさもまじっていた。
「だが、いくら幻覚といえど、その守りは弱い。
貴様にとっては、御堂が高崎の名を呼んだことが引き金になったのだろう。
そこで幻覚が弱まった。
御堂のお前への認識が確かなものに変ってしまったのだ。
そして、やつの思惑通り自分を殴らせ、他の教師たちにそれを見せつけつつも
不問にすることで、快楽を得た。変な快楽主義者なのだ、やつは。」
「じゃあお前はそれを見ていたんだよな・・・?
てめぇ・・なんで助けに来なかった?なんで高崎を助けに来なかった?」
「その時私が出て行っていれば、確実に全員殺されていたぞ?
今朝も言っただろう、策もなしに幹部をやすやすと殺せるわけがないのだ。」
「それで、あなたが受けた洗脳は、性格の異常なまでの屈折ですね。
本来なら、あなたはここまでになるはずはないんです。
ですが、御堂の力の影響で、通常の何十倍もの影響を受けてしまっているんです。」
「治るのか?」
「御堂を殺せば、これ以上の進行は止めることができますが、改善は難しいでしょう。」
「そうか・・だったらとっとと御堂を殺すぞ。
・・・そうだ、ペナルティっつーのはなんなんだ?」
「そのことなのですが、今回の御堂抹殺は我々の決定ではなく、
先ほど申し上げた、どこかからの指定なのでございます。
つまり、彼を殺すことで何かしら変化が起きる。」
「ペナルティというものは、執行人各々が一番いやだと思うものに対してのようだ。
そして、以前はなかったものだが、部隊がなくなってからできたものだ。
ターゲット抹殺者に認定されたものは複数名いる。
全員失敗なら全員に、誰かが殺したならそいつ以外全員にかされるものらしい。」
「どんなものがある?」
「以前、死ぬことを極端にこわがっていたものがいたが、そいつは徐々に寿命を削られていき、
最終的には3年とたたずに死んだな。」
「どうしたらわかる?」
「私も一度やられたことがあるからな・・・
ペナルティが何か、は、初回にスーツの男が教えてくれる。」
「あいつか!あの、俺であって俺でないとかいう・・・。」
「そうだ。あれは、パーソナリティスキルの具象化したものらしいがな。
まぁあとは経験して覚えていけ。」
「ではそろそろ御堂抹殺の作戦を立てましょうか・・・。」
「まず、彼に姿を認識されてはいけません」
「洗脳の声ってやつを使われちまうからか?」
「それもありますが、幹部の肉体的な強化レベルは、あなたたちの比ではありませんから」
「ひとつ聞きたかったんだけどよ」
「なんでしょう?」
「だったら、同じ幹部のてめぇがやりゃあいいんじゃねぇのか?」
「それはできないのですよ」
「なぜだ?」
「抹殺依頼をされた者以外の執行人が手を出した場合、その場で消し済みになるんだよ」
日比谷が割って入ってきた。
「また、どこからかはわからない干渉とかいうやつか?」
「そうだ」
「チッ…めんどくせぇな」
「続けますよ?
とにかくまずは、彼に先制攻撃を、目に与えなければ勝機は見えません」
「あんたらは協力してくれんのか?」
「私も末原さんも、今回は依頼されていない。できるのはサポートだけだ」
「沖田さん、これを」
末原が沖田に手を差し出した
「なんだ…閃光玉?」
「はい、これでまず動きを封じたうえで、目をやってください。」
「んなうまくいくもんなのか?」
「計15発あります。一回くらいは被弾してくれると思いますが?」
「作戦会議ッつった割には、適当すぎやしねぇか?」
「仕方があるまい」
「あ…?」
「下手に動けば、変革派に消されるのは我々だ。これで精いっぱいなのだ、特に幹部クラスとなるとな」
「すみませんね、沖田さん」
「…まぁいいけどよ! んで?決行はいつだ?」
「あら、まだ他の作戦説明をしていませんが・・・?」
「まどろっこしいのは嫌いなんだ。どうせしなねぇし、いいよ」
「末原さん、このバカはいいです。ほっておきましょう」
「でもですねぇ・・・」
「決行は、深夜2時ジャストだ。場所は、ここだ」
「ここは…高級マンション街じゃねぇか」
「あぁ、そこに御堂は住んでいる」
「…。んじゃぁ、またあとでな」
「あぁ、ビビるなよ?」
「たりめぇだよ、バーカ!」
沖田は、一度日比谷たちのもとを後にした。
申し訳ありませんが、作者の都合により一年間更新をストップさせていただきます。