融合する物語
どうぞ^^
二つの衝突する球体は悲鳴のような甲高い音を立てた。落下する真っ赤な球体に抵抗する、濱田悠太の青の球体は、徐々に押されていた。
「は・・・はまだぁ!」
義明は叫ぶと、悠太の元へ駆け寄ろうと一歩踏み出した。
しかしその肩を、直人がガッシリと掴む。
「なんだよ!」
「もう間に合わない!恐らく濱田は大丈夫だから、生存者や自衛隊を守れ!」
どうやって!と義明が怒声混じりで聞く前に、直人はサッさと行動を始めていた。
直人は電撃でバリアを作ったのだ。生存者のトラックや、自衛隊の装甲車、そして足元に転がっている自衛隊隊員を、直人の電撃のバリアが覆った。
「二重にするぞ!早く!」
直人の指示通り、義明は空気のバリアを張った。電撃の上に空気の力が覆われ、幻想的な色合いを発する。
「・・・濱田ぁ!」
義明は瞬時に悠太へ目線を向けた。冬なのにも関わらず、義明の髪の毛から汗の玉が弾け飛ぶ。頭上に小太陽があるせいで、温度が急上昇しているのだ。
悠太は歯を喰いしばって球体を抑えていた。恐らくすさまじい圧力なのだろう、姿勢を前かがみにして、まるで重いものを持つかのように抑えている。
義明は悠太に向かって一歩踏み出した。
するとその瞬間、悠太の顔がこちらに向けられた。必死そうな表情で、義明の目をジッっと睨む。
「・・・もう駄目だ!逃げ―」
―その瞬間だった。
二つの衝突する球体が、うなりを上げて大爆発した。赤と青の色が一挙に混ざり合い、不潔感の漂う紫色が発生する。
紫色の衝撃波は学校の敷地内全域を襲った。―余りの衝撃波に、直人と義明の二重のバリアも吹き飛ばされ、校舎の窓ガラスはほとんど割られた。直人や義明自身も吹き飛ばされる。
そして爆発の中心地で衝撃波を浴びた悠太は、校庭の地面にめり込んでいた。―土に埋もれて。
―そしてはるか上空では、満足げな笑みを浮かべる存在があった。
Ω
砂ぼこりが舞い上がる中、直人と義明は互いを支えあって立ち上がった。体中に激痛がはしる。二人の体の所々が、擦り切れていた。
「お・・・おい、ハマ!」
直人を支えていたのも忘れて、義明は悠太に駆け寄る。衝撃波が直撃した悠太の体は、義明どころの傷ではすまされなかった。
悠太の腕は真っ赤に染まっていた―そう、血である。球体を支えていた腕は傷だらけで、ヤケドのような跡もあった。
「・・・手当てだ!新海!」
「分かってる!え~と、野中!」
直人は高亮の名を呼んだが、返事が返ってくることはなかった。
「アイツ・・・なんで居なくなってんだよ」
「そんな奴ってこった。・・・いい。救急セットは、俺が取ってくる」
直人はそう言い、立ち上がった。立ち上がった途端、硝煙の臭いが鼻を突く。
「・・・大丈夫か、濱田」
聞きなれた声が、頭上からした。悠太の周りの二人は、瞬時に頭上を見上げた。
二人の目線の先には―見慣れた存在であり、頼れる男の姿があった。その姿は、かつての柔らかい風貌ではなく、確固たる信念を持った男の、固くて強い風貌であった。
「ま・・・まっさん!」
新海政貴が、頭上に浮かんでいた。足から、炎を噴出させながら。
「よぉ、小田。そして新海」
政貴は地面に降り立った。足からあれほどの炎を噴出しているのにも関わらず、何故接近に気付かなかったのだろうか。―考えられるのは、校舎からジャンプした、ということだ。
「ま・・・まっさん、なんでこんなところに」
政貴はいつもの笑みを浮かべた。しかし、そのいつもの笑みが、今になっては恐怖に感じる。
「・・・へぇ、お前らが能力者だったのか」
「・・・どういうことだ?」
「いやぁ、意外ってこったよ。まさかお前らがな」
政貴は温和な笑い声を上げ、歩み寄ってきた。
直人と義明は思わず身構えた。謎の恐怖が、政貴の体の周りを渦巻いていた。
「ハハハ・・・そんなに怖がるなよ」
直人は満身創痍の悠太の前に立ちはだかった。その手は、震えている。
「何なんだ・・・まっさん、アンタは本当に・・・新海政貴なのか?」
「何言ってんだ・・・正真正銘の本人だ」
義明も立ち上がり、政貴を睨んだ。
「あの襲撃の中で、何で生き残った?校舎の中にも・・・いなかったのに」
「色々あってな、とにかく俺は生き残った。・・・あぁ、俺達、というべきだろうな」
義明の表情が険しくなった。直人も同時に。
「・・・俺達?」
『達』という言葉は、複数のものがその場にあることを指す。―つまり、
「まっさん以外にも生存者が?・・・それで、そいつらも・・・能力者?」
政貴は笑みを浮かべた。
「そうだ。その通りだ」
そう言い放ち、そのままこちらへ近づいてくる。その足取りはとても力強かった。
「・・・来るな!」
「なぜだ?そこに倒れる、同志を心配してるんだぞ」
政貴の大きな体は義明と直人の間に割り込んだ。直人と義明は思わず身を引いた。―なんだろうか、この奇妙な感じは。まるで、新海政貴ではないような。目の前では、新海政貴であって、新海政貴ではないものが居るという矛盾が渦巻いていた。
政貴はしゃがみ込むと、仰向けに倒れる悠太の顔を直視した。―そして、笑みを浮かべる。
「おい、濱田悠太」
そう言い放ち、悠太の目の前で炎を揺らがせる。
「起きろ」
そう言って、悠太の額に手の平を押し付けた。
そしてそのまま、数秒。
「あ・・・あっちぃ!」
悠太は跳ね起きた。満身創痍だというのにも関わらずに、その痛々しい体を持ち上げる。
悠太と政貴は、必然的に顔を見合わせた。
―そして、数秒の間を空ける。
「まっさん・・・何でこんなところに?」
「あぁ~繰り返しか。え~っと、俺は色々あって生き残ったんだ。そして、俺は正真正銘の新海政貴だ」
政貴がそう言った瞬間、悠太は身を翻して政貴から離れた。
「さっきの火の玉は・・・」
その表情は、恐々としていた。
政貴はためらわずに、その口を開く。
「あぁ。俺が、お前を目指して放ったものだ。―スマンな。何分、力加減がまだよく分からないものでな」
「・・・なんで、そんなのを俺に・・・」
悠太が聞くと、政貴の表情が急に真顔へと変貌した。その奇異と呼べるほどの変貌に、悠太は更に身を引く。
「お前を試すためだ。お前が本当に、俺と同格なのかを知るために」
「・・・はぁ?同格?・・・何のことだ」
「・・・聞かされてないようだな」
政貴は立ち上がり、悠太を見下ろした。
「・・・だから、何のことだよ!」
「・・・世界が終末へと向かうことは知っているか」
「・・・あぁ。知ってる」
「なら話は早い」
政貴が笑みを浮かべ、白い歯を見せた。―イチゴジャムが気になるところだが。
「その世界を、一緒に見届けようじゃないか」
そう言って、手を差し伸べる。傷だらけの、大きな手を。
悠太は顔をしかめ、政貴の顔を見た。
「・・・いみわかんねぇよ。なんでいきなりそんなこと・・・」
「分からなくてもいい。じきに知ることになる」
そして、悠太の手を無理やり引っ掴み、力ずくで立たせた。
「お前は、四大元素の一つなんだからな」
悠太は首を傾げた。四大元素の話は聞かされたが、そんなことを聞かされたのは初めてだ。
「四大・・・元素の・・・一つ・・・?」
まさか、俺が?悠太はそう思った。聞かされていたものの、驚きを隠せない。
「そうだ。この世を誕生させた四つの元素は、時間・空間・火・水の四つだ。この四つから派生して、様々な元素が生み出された。―例えば、そこに居る小田―いや、『空気』の元素は、俺とお前の派生系の融合体だ」
悠太はうつむいた。様々な思考が、頭の中を行き交う。
―悠太は確実に、政貴の言っている全体像を理解した。
悠太は更に飛びのいた。間合いは、三メートルほどまでに伸びる。
「もう一度言おう。俺と一緒に、終末を見届けないか?」
悠太は首を振った。
「・・・嫌だ」
「何故だ?四大元素ならば―」
「だから!嫌だっつってんだよ!俺は、どちらかと言えば、抵抗をする人間なんだよ!」
悠太は叫び、政貴の腕を振り払った。
「・・・その通りだ、まっさん。俺達は、ただ見届けるのは嫌だ」
直人の低い声が、脇の方から響く。
「まっさんが何者になったのかはよく分からない。でも、分かるんだ―まっさんに着いて行くのは、ちょっと抵抗あるって」
義明は直人の意見に賛同した。
政貴は両手を上げてため息をついた。
「・・・そうか。悲しいものだな。とりあえず、俺の能力を教えておこう。―俺は」
―四大元素の一つ、『火』の能力を持つ者だ。
悠太は声を詰まらせた。
―もし悠太が四大元素の一つ、『水』の元素だとしたら。
この場所には、頂点に立つ元素が二つも存在していることになる。
悠太はとっさに水の力を政貴にぶつけた。
「・・・濱田!」
義明が思わず大声を上げる。
政貴は水の当たった右頬をさすり、その右頬から流れ出る血を確認した。
「まいったな。そうくるか」
政貴は全く堪えていないようだ。その表情はすましている。
悠太は危機感を感じていた。
―もし、政貴の意見に同調したのだとしたら、頂点に立つ元素が二つ合わさることになる。―そうなったとしたのならば。
―確実に世界は崩壊する。
悠太はそう、危機感を感じていたのだ。それに、悠太は世界を終末へ向かわせたくなかった。
そして、政貴へのこの攻撃こそが、
―『火』への意思表示だった。
「ならば、俺は然るべき処置をしなければならない。―癌は取り除く。肥大化する前にな。それに、元素なら尚更だ」
政貴はそう呟き、手の平から炎を出現させた。
「・・・スマンが、実力行使ということだ」
政貴は脅迫している。しかし、悠太の表情は不動だった。
「・・・いいよ、来いよ!」
火と水が、ぶつかり合う。
次回・・・激突!