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月夜に白雪が光り 空気は実状を知る

川口と宏太の回だねこれは。うん。


光の速さで更新だぜい!

 一通りの説明が終了し、四人は次の日の計画を立てている所だった。

「朝食はどこにある?」

「外に出してある。天然の冷蔵庫代わりになるか分からないが・・・」

「充分だ。・・・さて、どうしたい?」

 テキパキとリーダーシップをとっているのは、直人だ。相変わらずのリーダーぶりに、三人は素直に従う。

「とりあえず、外の情報が欲しいな」

 悠太は素直に言った。それもそのはずだ。これだけのことが小規模であるが小さい町に起きているのだ。何もないはずがない。

 直人は腕を組んで唸った。

「・・・どうしようか。ここからじゃテレビは見れないし」

「そのメガネで見れないの?なんかカチカチッって」

「そんなすげぇのだったら今頃商品化だわ!」

 疲れているとはいえ、キレのあるツッコミである。

 真実を知らされた元一般人は、今まで以上に明るく振舞っていた。

「なぁ、町の外に出ればテレビ見れんじゃない?」

 義明は挙手をしながら言う。

「・・・確かにそうかもしれないな。じゃあ明日の朝、携帯電話を貸すから、テレビを見て来てくれ」

「あいよ。・・・で、誰の携帯?」

「もちろん・・・」

 直人は悠太を見た。義明もつられて、悠太を見る。

「え?・・・俺?おれぇ?持ってねぇよ」

「先生の携帯盗んで、ワンセグ試してたの知ってんだぞ」

 直人はピンポイントで突いた。さすがである。

「じゃあ、そのポケットの中身を見せてくれよ」

 義明は悠太に近づいた。

「キャア!エッチ!変態!」

 悠太は抵抗するが、直人と義明に押さえつけられてしまった。

「・・・じゃあ小田、頼むぞ」

 悠太から強奪した先生の携帯を義明は受け取った。オレンジ色のおもちゃのような携帯である。

「分かった。・・・じゃあ、寝ますかね」

 そのまま四人は教室へ戻り、眠りに就いた。

 長い長い一日が、やっと終わったのだった。


 山頂。三人は炎の前で火にあたっていた。十二月の山頂にはもう雪が薄く積もっている。

「いやぁ・・・暖かい。まっさんありがとう」

 宏太はかじかむ手を炎にあてながら呟いた。

「まぁ、今のところ俺の能力はこれぐらいしか・・・」

 政貴はパンにかじりついていた。スキアーが残していった、イチゴジャムパンである。体格の良い男がイチゴジャムパンなど、なんともアンバランスである。

「・・・まっさんは火の能力か」

「んで、俺の能力は『剛』。確か、元素って創世に関わったんだろ?剛ってなんだろうな。剛って」

「こまけぇこたぁいいんだよ!」

 政貴は手を振った。某掲示板の台詞である。

「でもさぁ・・・」

「いいじゃん。細かいことは。んなカッコいい日本刀あるんだし」

「そうだよなぁ!いいでしょコレ!」

 翔馬のテンションがいきなり急上昇した。

 翔馬は『白雪』と名付けた日本刀を抜き、ブンブン振り回した。

「確かにいいけど・・・危ないよそれ!早くしまいなさい!」

「うるせぇ!斬られろ!」

「なんか別人格だし!やめい!」

 宏太は翔馬の手首を掴み、動きを止めようともがいた。

「ううむ、中々やるなコイツ」

「いいからしまえって!うわ、あっぶね!」

 宏太が言った刹那、二人の頭上を大きな炎の塊が通過した。

「うるせぇ!黙れお前ら!」

 宏太と翔馬は動きを止め、政貴の方を恐る恐る見た。

 案の定、政貴の手の平には炎が宿っていた。今にも爆発しそうだ。

「・・・静かにしろ。こっちは色々と考えてる」

「だって川口が・・・」

「うるせぇ」

 政貴の声と共に放たれた炎は、宏太の腹に直撃した。ゴロゴロと地面を転がる宏太―。

「ハッハー!宏太ダセェ!」

「うるさい!・・・クソッ、髪の毛が燃えてチリチリになっちまった」

「いや元々だし!」

 翔馬がツッコミを入れたところで、政貴が翔馬の肩を掴んだ。

「・・・そんなに元気が有り余っているなら、どっかで力試ししてこい」

 翔馬は顔をパッと輝かせる。

「・・・ヘ?いいんすかまっさん?」

「宏太の『地』、川口の『剛』。試してみたらどうだ?近々、戦うかもしれないからな」

「何と?」

「知らんけど、何かと」

 政貴はそう言って、再びイチゴジャムパンにかじり付いた。

 翔馬はその瞬間、政貴が何かを企んでいる、もしくは何かを考えていることを悟った。―しかし、突っ込むところでもなさそうだ。全てはまっさんが握ってもいいはずだ。何せ、まっさんは、俺達のリーダーなのだから。

「まぁいいや。じゃあ、派手にやってくるぜ!」

「あんまし無理すんなよ。次の日に響く」

「ok!」

 翔馬はそう言いながら、うずくまる宏太に駆け寄った。

 宏太は痛そうに腹をさすっている。制服が焦げているのを見ると、ちょっとキツいお仕置きだったことが分かる。

「宏太、ちょっと俺とやらねぇ?」

「・・・何を?」

「能力で、戦おうぜ。やっと俺は理想通りになったからな」

 翔馬は誇らしげに、二本の二本刀・・・もとい、日本刀を取り出した。

「この老体にはキツい・・・」

「何言ってんだ!戦うぞ!ほら!」

 翔馬は宏太の手を引っ張り、無理やり宏太を立たせた。

「・・・分かったよ、やろうか。さっきまで俺も、腕試ししたいと思ってたところだ」

「よし、じゃあ、やるか。ここを下った、あそこで」

「いいぜ」

 宏太は腕まくりした。自然と力が湧いてくるのは、大地の能力を持つからであろうか。


 二人は対峙した。間隔は三メートルほど。夜であるが、月明かりのために互いの顔は綺麗に見える。

「満月の夜が・・・俺のホームグラウンドだ」

「あれ?川口、そんなことスキアーに説明されたっけ?」

「うるせぇ!補正だ補正!その方がカッコいいだろう?」

 はいはい、と宏太は呟きながら、指の骨を鳴らした。宏太の体質は変わっていて、無限に指を鳴らすことが出来る。音は痛々しいのだが、本人は全く痛そうにしない。

 宏太は片手を差し出し、指先を曲げた。

「来い」

「うっしゃ、やるか」

 翔馬は二本の日本刀を引き抜いた。

「日本刀の紹介をしよう~。こっちの黒いのが『黒点白牙』。こっちの白いのが『白雪』。以後、覚えておくように!」

「長くて覚えられんわ!」

「あぁ、君はバカだからな」

「うるせぇ!サッさとその大黒天だかを構えろ!」

「大黒天じゃねぇ!黒点白牙だ!」

「なんでもいいよ!」

 そうは言いながらも、翔馬は二本の刀を構えた。月夜に照らされ、刃が艶しく光る。

 宏太は両手を突き出すと、そのままファイティングポーズをとった。

「・・・来いよ」

 宏太の挑発のポーズ。中々さまになっていない。

 翔馬は二本刀を振り上げた。

「うらぁ!」

 『剛』の能力が発動され、翔馬は瞬く間に三メートルほどジャンプした。

 剛の能力は、体の中のエネルギーを体外に数倍もの力で放出できる。直人や義明などの、空間発生系ではないものの、強力な能力だ。

「させるか!」

 宏太は片手を振り上げ、足元の地面から、『地』の能力を使って地柱(土で出来た柱のような物体)を発生させた。

 これまた三メートルほどの地柱だ。地柱は川口を目指して突進していく。

 地の能力は、地面を操って自由自在にコントロールすることができる。直人や義明と同じ、空間発生系だ。

 翔馬は空中で体を反転させ、地柱を避けた。その瞬間、翔馬の顔の横を、地柱が横切る。

「クソッ!身軽だアイツ!」

 宏太はそう叫びながら、再び地面から地柱を発生させた。今度は三本同時発生である。

 さすがに三本の地柱を止めることは、今の翔馬には不可能だった。

「うぇ!めんどくせ!」

 翔馬はそう叫びながら、三本の地柱を二本の刀で受け止めた。

 鈍い衝突音が鳴り響き、翔馬は更に上へと叩き上げられた。やはり地柱三本では、さすがの翔馬も防ぎきれない。

 成す術なく落下していく翔馬に、宏太は再び三本の地柱を襲撃させた。

「とどめだぁ!」

 宏太の雄叫びと、翔馬の悲鳴が重なった瞬間だった。

 ―翔馬の右足が、地面に触れた。

「・・・だと思うなよ?」

 翔馬は静かに笑みを浮かべた。

 迫る地柱を目で捉えながら、翔馬は地面に触れた右足から能力を発生させた。

 翔馬の右足から、波動が現れる。周りの砂は巻き上げられ―そして、

「甘いな、宏太!」

 再びジャンプした翔馬は、地柱を軽々と避けた。

 ―そして翔馬の体は、真っ直ぐ宏太へと向かっていった。

「死ね!宏太!」

「ぬわぁに?」

 宏太は声を上げ、体勢を崩しながらも、右手を振り上げた。

 一瞬だった。

 宏太の地柱と、翔馬の二本刀がぶつかり合ったのは。宏太と翔馬の距離、わずか三十センチほど。一歩遅ければ、宏太の負けであった。


「クソッ!なんかうやむやで終わっちまったよ!」

「いいよ、キリがよかったし」

「俺はよくねぇし!」

 翔馬は『白雪』と『黒点白牙』をさやに戻し、ため息をついた。

「・・・それにしても、いいよなぁ。俺、こんな能力が使えるなんて嬉しいよ」

「だよな」

 翔馬は座り込んだ。せっかくの制服も、汚れてしまった。茶色に。

「・・・だから、俺は彼女を助けに行く」

 翔馬は宏太を見た。その瞳には、炎が宿っている。

「頑張れ。多分、能力なんか使わなくてもいいと思うけど」

「いや、恐らく使うはずだぁ!」

「うるせぇよお前!」

 『地』の笑い声、『剛』の呆れ声が、山中に響いた。



  Ω



 早朝、悠太が起きると、隣に寝ていたはずの義明がいなかった。

「・・・あぁ、アイツ・・・テレビを・・・」

 空を飛べるのは、羨ましいものである。無いものねだりのように感じるが、やはり羨ましい。

 悠太は目線を直人に移した。

 直人の目の下が、真っ赤に腫れている。泣き腫らしたようだった。

「・・・新海」

 夜、泣いたのだろう。ずっと、絶望を胸にしまい続けていたのだ。表向きは頼れるリーダーでも、やはりただの純粋な十五歳である。メガネでも。

「そんなに人の顔が面白いか?」

 背後から声がして、悠太は振り返った。

 野中高亮のなかたかあきである。昨日のあの光の時から、やはり高亮は何かが違う。ここまで存在感がない人間なはずがないのだ。やはり、『影』としての役割を果たそうとしているのか。

「別に。そんなんじゃねぇよ」

「お前はお気楽だな。まぁ、それが水っぽいんだろうがな」

「なんだよ、その水っぽい性格って」

「サッとしてんだよ。切り替えが早くて、心を水平に保とうとする。水って、どんな入れ物に入れても水平になるだろう?」

「説教っぽいな」

「説教だもん」

 悠太は思わず笑ってしまった。

 やはり、高亮は昔の野中高亮のなかたかあきの部分を持っているのだろう。


 生存者全員への食料を配り終えたところで、義明が帰ってきた。

「お~い、開けてくれよぉ」

 義明が窓ガラスをバンバン叩いた。

「何でベランダからなんだよ」

 悠太はダルそうに窓際に歩み寄った。

「近いじゃん!」

「目立ちたいからだろ?」

 直人が再びウィークポイントを突くと、義明はうめいた。

「はい、そうです。すいません」

「よろしい」

 窓は開けられた。


 再び四人は職員室へ召集された。

 教室で話してもいいが、精神が不安定な生存者達は、いつヒステリーを起こすか分からない。よって、四人は職員室で話し合うことになった。これは、高亮の案である。

「はい、携帯」

 義明は悠太に携帯を渡すと、回転イスに座った。

「で?どうだった?」

 義明は指先でokサインを見せた。

「もう完璧。最高の解像度だったね。町からちょっと離れただけで、普通に映ったもん」

「そうか・・・なんで・・・」

 直人が再び考え出したが、悠太はそれを遮った。

「もういいよ。それより、報告してくれねぇか?」

 もちろん、と義明は言うと、腕を組んだ。

「信じられないかもしれないけど、今日の夜十時に、自衛隊が救出に向かってくる」

「マジで?なんで自衛隊?」

 悠太が身を乗り出したが、義明はその悠太の頭を抑えた。

「焦るな、今話すから。色々と政治のアレとかがゴチャゴチャしてんだけどさ・・・」

「大丈夫だ。俺と新海は理解する」

 高亮は足を組んでいる。完全に聴講体制だ。

「えぇ?俺は?」

 某人気家庭アニメの夫役の真似をした悠太を、直人は「黙れ」で黙らせた。

 義明はフフッと小さく笑うと、口を開いた。

「町の壊滅はもう、その日のうちに警察に知れ渡ってた。で、警察は色々調べたかったらしいんだけど、凶悪で大規模な事件の可能性があるって、本庁に電話したんだとさ。そしたら、本庁は慌てちゃってさ。『これは国家間に渡る問題の可能性がある』って勝手に決めて、自衛隊に全てを委託しちゃったわけ」

 義明が半笑いなのは、警察の対応にだろう。

「へぇ、じゃあ警察が来なかったのも・・・」

「そういう理由。まぁ、よく壊滅状態って分かったよな」

「おい、続けろ」

 高亮は未だに聴講体勢だ。しかも、かなり上から目線の。

「んでそこに、昨日のテレビ局のニュースだよ。国も世間も大慌て。まぁ、当たり前だよな。未確認生物の襲撃に、すぐに壊滅した町に、中学生の責任者だぜ?」

「テレビで『カッコよすぎる美男中学生被害者』とかで紹介されてた?」

「あぁ、それはない」

 悠太の言葉を義明は一蹴し、更に続けた。

「そしたら防衛省がそのニュース映像を見て、『国際的テロの可能性がある』とか言っちゃってさ。もう大慌て。速報流れっぱなし。ニュースのコメンテーターも『隣国の襲撃かも』とかいい加減な発言しちゃうし。もう駄目だね、アレ」

 直人は声を静めて言った。

「・・・それじゃあ、救出という名の連行だな」

「あぁ、そういうことになる」

 その通り。まさに連行である。テロに加担したかもしれない生存者達を、簡単に救出し、解放するのは無謀というものである。

「えぇ?そんなことしたら、人権が・・・」

「濱田いちいちうるさいよ。人権なんてねぇよ、『近隣住民の人権を守るため』とか何だとかくくっちゃえば、それで収まっちゃうんだから」

 義明は呆れたように言い放った。

「そう、それが日本語のいけないトコであり、便利なところだよな」

「そうそう。小説書いてて思うもん。『日本語めんどくせぇ』って」

「お前がそれ言うたらアカンやろ!」

「スマン!ぶっちゃけてもうた!」

 とっさに悠太は直人と義明の間に割って入った。

「なんでアンタら関西の言葉つこうてるねん!」

「いやお前も!」

 二人の言葉が綺麗にハーモニーした。これほど綺麗なツッコミもないだろう。

 

 その間にも、この襲撃は『小淵沢襲撃事件』と名付けられ、全国を沸かせていた。

 某掲示板は祭り状態。世論は『早く助けろ』の一点張り。政府は『テロの可能性が・・・』と繰り返し言い、日本中が混乱の渦に巻き込まれていた。


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