Hallelujah!!
僕の名は濱田悠太。―今やその名前も、僕の脳内から薄れつつある。僕は元々元素だ。濱田悠太という名は、人間界で互いを区別するための、ただの文字に過ぎない。名前が本質というわけでは、ないのだ。
僕は今、『無』という世界の中にいる。何もない。目の前には広がるのは、漆黒の世界であって、光輝の世界でもある。時間という概念も、空間という概念も存在しない。物質という概念もだ。じゃあ、僕はなんだろうって考える。でも、それさえも『無』は教えてくれない。
僕は光だった。でも、この世界のルールじゃ、『光』ではない。とにかく、僕の薄れつつある記憶の中で考えられるのは、『光』という呼称だった。
光は僕の他に、二つあった。
僕の目の前だ。でも、これは僕の背後かもしれないし、僕の右側かもしれない。
僕の薄れつつ記憶の中でも、この二人の光には、名前があった。
『新海政貴』
『アンノ』
という名だ。可笑しな名前だ。僕の名もそうだが、人間というのは意味の不明な名前を付けたがる生き物だ。『濱田悠太』『新海政貴』『アンノ』。法則も何も見出せない、ただの文字の羅列。でもそれが、人間にとっては意味を持つ。
僕は政貴とアンノに、過去を教えてもらった。この過去も、一秒前の過去かもしれないし、数億年と前の過去かもしれない。
―かつてこの無という世界は、存在していなかったらしい。『世』というものが存在していたらしい。どこか懐かしい感じだ。
政貴は僕に、いろんなことを教えてくれた。政貴自身も、記憶を段々失っていくというのにも関わらず。
その『世』は、僕と政貴の衝突によって消滅したらしい。
僕の力と、政貴の力。その二つに共鳴した『種』が、反応を起こして、瞬間的に爆発的で膨大な途方もない力を発生させたらしい。
それが、『世』を消滅させた。
―聞いた話だが、僕は『世』の終末を止めようと政貴と戦ったらしい。おかしな話だ。同じ元素同士で殺しあうなど。
殺すことは、『存在を消す』ことだそうだ。この世界には、『存在』という概念もないから、それもよく分からない。じゃあぼくは何なのだろう、って考えても、実は考えていないし、頭が痛くなるようで、痛くならない。
そんなカオスな世界で僕は突然、あるビジョンを見た。
―小田義明。
―新海直人。
―中込宏太。
―川口翔馬。
―高崎明。
―鬼塚陽。
―野中高亮。
この文字達は、僕が戦った『仲間』だと気付いた。そして、僕はある衝動に駆られた。
『世界を創生しないか』
元来、元素に欲は存在しない。しかし、人間という存在が僕の元素に、ある欲を刻み付けたのだと思う。そうでないと、僕はこんな行動を起こすはずもない。
政貴とアンノは最初は驚いていたが、やがて行動を起こす気になった。彼らの元素にも、何かが刻み付けられていたのだろう。
そして僕は、刻み付けられた『欲』に従い、計画を立てた。
『幸せ』というものに、みんなをさせるらしい。僕と共に戦った『仲間達』を、幸せにさせるらしい。みんなが『笑い』というものを常に持ち続ける世界にするらしい。『人間』という存在らしく生涯を生き抜かせるらしい。
『幸せ』という定義は難しいものがあった。でも、僕はその『欲』に従うことで、なんとか『幸せ』にする計画が立ったと思う。その『幸せ』でも、不充分なのかもしれない。
―そして最後に一つ、ある『ルール』を付け足した。これは、『欲』によるものではない。アンノの願望だ。アンノは何故か、最後の最後まで記憶を保っていた。
―そして完全に、僕は記憶を失った。いや、これから失うのだろう。他の『光』もだ。
三つの光が結合した。三つの光は多大なる力を発生させ、瞬間的に高密度の大爆発を引き起こした。
―こうして、世界に『空間』と『時間』、そして『火』と『水』が誕生した。
―世は、創生された。