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終末

 価値観とは、人それぞれである。見る人間の立場によって、それが陳腐であるか、豪華であるかが分かれる。

 基本、元素達はこの地球へ寄せる思いは軽薄なものであった。全ては世に従うのみなのだから。それが『帰属意識』の成せる芸当である。

 しかし、『抵抗派』に帰属意識の発生はなかった。彼らの価値観は、人類という立場においての価値観を未だ保ち続けていた。原因は不明である。強いて言えば、これも世の考えなのかもしれない。

 そして、抵抗派の他にも、帰属意識の発生しない者が一人。

 アンノである。

 彼はどちらかというと、行動を起こさず、派にも定義されない者だった。全ては流されるままに。それがアンノのモチベーションだった。

 アンノは二人の戦いを、微笑みを浮かべて見ていた。

 ―どっちが勝つかなぁ、と。


 彼にして見れば、どうでも良かったのだ。世界の命運など。




 世界の命運が懸かった火と水の戦いは正に、『人類』と『世』の代理戦争であった。―親と子、師範と弟子、将軍と足軽。様々な呼び名に変換することができる。

 火は自らの親を守るため。

 水は自らを守るため。

 双方は世の創生に欠かせない重要な元素だった。どちらかが欠けただけで、今この世の宇宙の法則は存在することはないだろう。

 ―何度も言うようだが、そんな二大の元素が衝突したのは、あるイレギュラー因子が原因したためである。

 無力な生物達が繁栄する地球。その中の無力な生物の一つが、やがて世界を変えることになったのだ。

 今、人類は戦っている。

 偉大なる最強の存在と。










 ファカルティ



  最終章











 Ω










 半径十メートルを超えるであろう火球を、悠太は右手に水の盾を張って受け止めた。その衝撃に耐えきり、悠太は水の『刃』を政貴の胴体に向かわせた。

 火による防御。互いの攻撃は相殺され、大きな爆発を生み出す。

 悠太は完璧なる覚醒を遂げた。今や宇宙の法則を超えて、『創造と破壊』の化身である新海政貴と、対等に戦っているのだ。威力や身のこなしも格段に向上した。これも全て、人間という存在が成せる業だ。人間が、宇宙の法則を凌駕するのだ。

 悠太は爆発の中、再び水球で政貴を襲った。爆発の中で相手の姿が見えないが、大きな衝突音で、相手が防いだということが分かる。

 互いの視界が開けた。二人は再び身構え、互いの表情を認識した。

 政貴は多少の疲れの色は見せているものの、余裕の表情だった。代わって悠太は、ダメージと慣れない戦闘方法によってゲッソリと痩せこけていた。

 一瞬の認識合戦はすぐに戦闘へと移行した。

 二人は互いの元素を生み出し、ぶつけ合い、互いを傷つけあった。

 赤と青の閃光が空間を飛び回る。衝突音や破壊音は空気を伝わり、今や三キロという広範囲に渡ってその激戦の音は鳴り響いていた。

 悠太の右手が政貴の顔面に直撃し、政貴の左手が悠太の顔面に直撃した。

 二人は痛みに思わず声を上げ、互いに間合いをあけた。まるで地面が体を引きずり込むかのように、二人はバタンと倒れこむ。

 空は未だに青い。空の青は、空気と水のコンビネーションによって栄えているが―現実に、空気を司る者はもう存在しない。ならば水を司る悠太は、綺麗に澄んで見えているのだろうか。

 世界は今、空の青さより、血の真紅に包まれている。

 先に立ち上がったのは政貴だった。体をフラフラとさせながら、倒れる悠太を見下ろす。

「ふ・・・フハハ、無様だな」

 政貴は悠太の襟首を掴み、空中に打ち上げた。思わず悠太は絶叫する。

 瞬間、政貴は地面を蹴って飛び上がった。政貴の体は砂埃よりも早く空中へと投げ出される。

 悠太はとっさに水の球体を出現させ、腹部に当てられる火球を防御した。しかし、火球の威力は凄まじく、盾越しでもその威力は絶大だった。

 悠太はさらに上空へと打ち上げられた。

 ―まずい。

 悠太は瞬時に全神経を振り絞り、体中で水の力を集めた。

 案の定、政貴が悠太の遥か上空まで飛び上がっていた。―大きな火球付きで。

「これで終わりだぁぁぁぁぁ!」

 政貴が絶叫し、同時に半径二百メートルはあろう巨大な火球が振り下ろされた。

 ―悠太は叫び、落下しながら両手を前に突き出した。


 太陽と月が衝突した。


 二つの相反する物質は互いに引き寄せあった。衝突点は化学反応と破壊が展開され、双方が消しあおうと攻防を続ける。

 ―しかし、ダメージを負った悠太は、やはり政貴の力には勝てなかった。

 遥か上空から、急激に悠太は地面へと叩き落された。

 太陽が大地に衝突し、大陸全土を揺るがすような轟音と爆発を発生させる。

 ―あまりの衝撃に、悠太は一瞬意識を失った。




目を覚ますと、そこは破壊の世界だった。

 焼け野原。という言葉がふさわしいと感じられるほど、その場所には何もなかった。

 ―校舎も、森も、町並みも、全て。地面は真っ赤に変色し、辺り一面死の臭いが漂っていた。そこに『生』は存在しない。あるのは、『死』と『破壊』のみだ。

 悠太は自分の周りを百八十度見渡し、唖然とした。

 ―本当に、何も無くなっていたのだ。

 ―『アナザーの種』を残して。

「本当に種は頑丈だなぁ。一瞬心配してしまったよ」

 政貴の声だ。今となっては、死神の囁きのように聞こえる。

 悠太は背後を振り向き、死神の顔を見た。死神の顔は、自信に満ち溢れている。

 思わずため息が漏れた。―コイツは、人間じゃない。死神だ。


 焼け野原を見渡して、悠太は唇を噛んだ。

 ―これが、雷の望んだことだろうか。

 破壊の無い死の世界に、雷は必要がなくなる。雷鳴が落ちる場所もない。照らし出す闇もない。

 ―これが、空気が望んだことなのだろうか。

 焼け焦げ、死の臭いを蔓延させる空気。こんな空気になることを、誰が所望したというのだ。生を保たせる生命体もいなければ、風化させる残骸もない。

 ―これが、俺の望んだ結末なのか。

 こんな死の世界じゃ、俺が生み出す『生』も『文明』もない。

 ―これは、雷鳴の覇者が望んだことじゃない。

 ―これは、大気の守護者が望んだことじゃない。

 ―これは、水の継承者が望んだことじゃない。


 ましてや


 ―これは、地上の代行者が望んだことじゃない。

 ―これは、剛力の伝道者が望んだことじゃない。


 そして


 ―火の継承者も、望んでいないはずだ。


 



  Ω




 

 悠太は拳を握り締めた。自然と力が沸く。しかしこの力が、悲しみからなのか怒りからなのか、全く分からなかった。

 ただ、目の前の者を、排除するのみ。

 不意に視界の中へ、アンノの姿が映った。あれほどの破壊を簡単に防いだのだろう。アンノは無傷に近かった。

 もう、人類の存亡や、世への反逆など、どうでも良かった。少なくとも、ここには悠太の望んだ世界はない。

「お前を殺す」

 心の声が破調となって出現した。

 政貴は笑みを浮かべた。ただ、それだけだった。

「無理だ。これを見て、そう思わないのか?」

「思わない」

 政貴は元素そのものだ。覚醒し、元素の究極の姿だ。人間という装甲を完全に超越している。

 ―しかし悠太は、あくまでも人間だった。彼は覚醒し、元素の究極体になり、そして人間という装甲と上手く手を結んでいた。

 つまり悠太にはまだ、可能性があるということだ。人間というちっぽけな容器が持つ、莫大な可能性を。

「・・・これで最後にしよう。全身全霊の力をもって、お前を倒す」

「いいだろう・・・本気でかかってやるよ」

 政貴は拳を鳴らし、ゆっくりと目を閉じた。

 悠太はそんな政貴を一瞥し、空を見上げた。

 ―小田、新海。

 そう心の中で呟き、悠太は目を閉じる。

 この青い空を守る。みんなのために。

 もうこの世に、悠太を支えてきた存在は無い。しかし、世界には未だ、互いを支え合って生きている者達が、大勢いる。

 それを、守らねばならない。

 不思議と力が沸いた。恐らく使命感によるものではなく、―愛なのだろう。


悠太は全力で力を溜め込んだ。

 ―勝つ。救う。

 悠太の頭の中は、それでいっぱいだった。

大地が震えだした。当然だ。二大の元素が全ての力を振り絞っているのだから。

 ―これで最後だ。

 

 悠太は雄叫びを上げた。

 政貴は雄叫びを上げた。


 悠太を『青』が覆った。

 政貴を『赤』が覆った。


「これで終わりだ」

「あたりまえだ・・・これで・・・」

 俺は勝つ。


 二人は全速力で走り出した。互いの体が帯びた力を、互いに衝突させるためだ。


 水は叫んだ。


 ―次の瞬間、


 


 火と水が、衝突した。




 一ヶ月に及ぶ『世』と『人類』の代理戦争は、これで終わるのだ。十五歳の幼い少年達が傷つけあい、互いの思想や理念を守ろうと必死に戦ったこの戦争が、終わるのだ。

 彼らは人類の命運を背負わされた、異能の者達だ。

 ―ファカルティ

 彼らの総称に相応しかった。




 
















 

そして、終末を迎えた。

















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